約束のリボン 前編



「…でね、お母さまったら私の事、ウンディーネさんに魅了されたイモムシさんみたいだって言ったの。幾らなんでもその例えは酷いと思わない? 私、言い返したわ。年頃の娘に対してイモムシって何よ、って………。………トリス。……ねぇ、トリス!」

気づけば、テーブルを挟んで向かい合わせに座る彼女…ミニスがあたしのことを睨んでる。
気まずさに、思わずあたしは目を逸らし頭を掻いて、言った。

「怒っちゃダメよ、ミニス♪可愛い顔が台無しよ?それに、随分大人っぽくなって〜…」

「ごまかさないでっ!トリス、私のことなんか全然見てくれてないこと、解ってるもん!
 折角、遊びに来たのに…私、楽しみにしてたのに!
 久しぶりに…2年ぶりにトリスに会えるんだ、って!」

…長くて辛かった、大悪魔メルギトスとの戦い。
それがあの結末を迎えてから、早くも季節が2つ巡ってる。
全ての事が済んだ後、あたしはアメルと一緒に、彼の側で暮らしている。
今は優しく、あたし達を見守る彼が寂しくないように。
でもそれは、遠い昔から続いてきた忌まわしい呪縛の輪から解き放たれた今、人知れず穏やかに暮らすことを心のどこかで望んだからなのかもしれない。
あたしはそんなことを、所構わず、ぼうっと考えるようになっていた。
アメルと二人だけで暮らす生活の中、物思いにふけることは容易い。
…今も、それで失敗したんだけど。

「うんうん、あたしも楽しみだったよ〜。
 ミニス、随分大人になったんだろうな〜、ひょっとしたらあのケルマよりおっぱい大きくなってるかも知れないなぁ、あたし負けてるかも…なん…て……」

「………。」

取り敢えず場を取り繕うと、適当に思い浮かぶ言葉を並べてたあたしは、目の前のミニスの顔を見て後悔した。

「…ミニス?あの、ごめんね?
 えと、あたし、いい加減なところは全然直らなくてね、いつもアメルに…」

「…ぐす、ひっく。う、うぇぇ…」

あああ、泣いちゃった。
あたしは心の中で頭を抱えた。
でも何でこんな事で泣くのよ、いつものミニスからは考えられない事だよ〜…、なんて呟きながら向かいがわでしゃくりあげるミニスに近づいて背中を優しくさすってあげた。

「あの、ミニスの話無視しちゃったのは悪いと思うけど、まさかそんな事で泣くなんて全然思っても居なかったから、あはは…。」

「…違う、の。そうじゃないっ。
 私…、トリスのそばに居ても、ネスティの事思い出させちゃうくらい、トリスにとってどうでも良い人になっちゃったの?」

背中をさするうちに落ちついたのかミニスはだんだんと泣き止んで、あたしの方に振り返って言った。

「トリスが何考えてるかなんて、たった2年離れた位で解らなくなるほど、私はトリスの事中途半端に好きになったわけじゃないもん!
 あのとき…、戦争の前の夜、メルギトスと戦う前の夜の事…トリスはもう忘れちゃったの?」

あたしの瞳を真っ直ぐ見詰める、ミニスの綺麗な二つの金色の瞳…だんだん潤んで、また涙があふれてくる。
ぎゅっ、と胸を抑えつけられるような切なさと愛しさが胸一杯にこみあげてきて、あたしは思わずミニスを抱きしめていた。

「あたし……ごめん、ね?…ミニス…。」

違う、そんな事ない!すぐに否定して、安心させてあげたかったけど。
上手に言葉が出てこなくて、それだけしか言えなくて。
あたしはミニスの涙を優しく拭うと、そのまま口づけた。

「あ…トリス…♪」

涙とは違う潤いを瞳に浮かべて、ミニスも素直にキスに応じてくれる。
唇を重ねるだけの、子供っぽいキス。それでも、離れていた時間と距離が、お互いの気持ちに距離を置いていないって事を伝えてくれた。
そしてあたしは、2年前のあの夜−大悪魔メルギトスとの決戦の前日、ミニスと一緒に過ごした夜のことを思い返していた。


つづく

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