アティ×アズリア+α



最初のキスは浅く、確かめ合うように。
相手も自分も引かないと分かったら、今度は深く。
息継ぎもそこそこに舌をからめる。ざらりとぬめる感触と、紅茶の味。
先程まで一緒に夜の茶会を楽しんでいた相手と今はこんなことをしている。
羞恥と息苦しさに、アズリアはのしかかる相手の剥き出しの肩を軽く押した。
離れる唇から唾液がぬるく零れる。
「……ごめんなさい、苦しかったですか?」
「いや。それよりちゃんと脱いだ方が良いだろ、皺になる」
素直に脱ぎだすのを見てから、アズリアも襟の止め具を外す。
現れた身体は、殆ど手入れをしないぼさぼさの髪とあいまって女としての魅力に欠けていた。
それに比べて。
視線を向ける。淡い照明に浮かび上がる裸身は柔らかな線を描く。
振り向いて微笑みかけられると、見慣れてるはずなのに心臓が大きく波打つ。
理由は分かっていた。
艶やかな赤い髪。日に晒されてもなお白い肌。そして、
「アズリア」
呼びかけは優しい。
アズリアは一度だけ固く目蓋を閉じてから、彼女に応える。
「……アティ」
三度目のキスは長く。
離れないよう互いの首に腕を廻し捕える。
けれど、アズリアの閉じた視界の中にいたのは、学生時代からの親友で信頼できる部下でもある女性ではなく、

彼女によく似た笑顔の、彼女の、兄だった。

ベッドの上、向き合う形で横になる。
腋の下からなぞると、ひゃう、とやたらと愛らしい声が上がった。
「アズリア可愛いー」
「ふ…ふざける……ってひあっ……」
鎖骨に沿って舌が這う。落ちかかる髪の毛をかき上げる度に毛先が肌をくすぐる。
脚の間に膝を割り込ませゆっくりと上下させると、日に焼けた頬が限界まで上気した。
「ほら、やっぱり可愛い」
「……いつまでも、そう、余裕でいられると思うなっ」
豊かな乳房に掌が置かれる。と、
「……ふああっ?!」
ぴんとたった乳首を二本の指が挟み摘み上げる。
咄嗟に身をよじらせたが、いつの間にか肩へと廻されたもう片腕が逃走を封じる。
余った指は乳房を器用に揉みしだく。痛いくらいの力だが、時折つっと爪で撫でる仕草はいっそ優しい。
反撃に成功して余裕が出来たのか、アズリアは得意そうに耳元で囁いた。
「お前も随分と『可愛い』ぞ」
アティの耳が真っ赤なのは悔しさからだけではない。
だが残念なことに、
「じゃあ今度はこっち……っ?!」
余裕の色を根こそぎすっとばしてアズリアは背中を仰け反らした。
熱い液体を滴らせる部位にうごめくのはアティのしなやかな指。
中指だけを差込みじらすようにかき回す。
残念ながらこうなっては勝敗は決したも同然だ。

湿った水音と切羽詰った喘ぎ声、そのどちらもアズリアが発する音。
後者が微妙に変化したのにアティは気づいて問い掛ける。
「足りませんか?」
アズリアは身を強張らせ―――真っ赤になって頷いた。
与えられる刺激に翻弄されていたはずが、もう物足りなくなっている。あまつさえ自分から腰を寄せていく始末だ。
指が引き抜かれる。
無意識に放すまいと締めつけてしまうのに、更に恥ずかしさが増した。
「アズリア」
潤みを帯びた呼びかけ。
「私も……」
囁きと共に本数を増やし侵入してくる感触。
そして、その上から自分のものではない愛液が滲む。
寄せられたアティのそこは、アズリアと同じくらいに溢れていた。
かき回されて、すり寄せられて、限界が近くなる。思考能力や理性といったものが押しやられて、
「……レッ…ク」
―――洩らした名が誰のものか知り、身体中の血が引くような気がした。
しかし。
「構いませんよ」
「……っ」
アティが笑う。いつも通り、優しく。
「名前……。気にしませんから」
アズリアの潤んだ瞳に逡巡の色がよぎる。けれどそれも束の間。
「……レックス……あ…レックス……!」
今までなすがままだったのが一転貪るように腰を絡める。
つられてアティの咽喉からも高い悲鳴が洩れた。
一番敏感な場所が剥き出しにされ擦られる。べちゃべちゃと濡らす愛液が痛みを蕩かしてゆく。
汗で纏わりつく髪をひきはがす、そんな行為からですら貪欲に快楽を引き出し。
どちらからともなくぴったりと身を寄せ、嬌声を篭めたまま唇を重ねる。
舌を。腕を。脚をその先を隙間なく絡ませて、
どうあがいても埋めきれない部分を突き上げるように、
白光。ばちりと頭の奥で何かが弾ける音にアズリアの思考が一瞬だけ戻る。
自分はずっと好きだった男と同じ色の髪に、同じ色の肌に―――同じ笑顔に、溺れている。
アティだって大切な存在なのに、そんな彼女を踏みにじり、別の者の面影を探し、あまつさえそいつの名を呼んで。
意識を手放す瞬間、アズリアは呟いていた。
「……すまない……」
アズリアは気づかない。アティが刹那、哀れみにも似た表情をしたことに。


「ただいま」
アパートの台所ではレックスがテーブルにつっぷして寝ていた。
テーブルの上にはすっかり冷めてしまった夕飯が二人分。
「……先に食べちゃっても良かったんですけど」
苦笑交じりに呟いて、起こそうと肩に手を置き、指先にレックスの髪が落ちる。
癖の強い、夕日色の、鮮やかな、自分と同質の。
笑顔が消える。どこか呆けた面持ちで幾度も梳いた。
アズリアがレックスを愛しているのは学生の頃から知っていた。
同時に、実はレックスもアズリアのことを愛していると気づいていた。
アティは二人が好きだ。かたや親友、かたやたった一人の家族。彼らが幸せであればいい、と思っているのに。
「……ねえ、レックス」
ひどく寒々しいそれは、彼女自身が発する声。
「さっきまで私、アズリアと一緒にいたんです」
レックスは目を覚まさない。アティは手櫛で梳くのをやめない。
「貴方が好きな人を、私は……」
怯えたように言葉を切り、手を離す。

―――どうしてだろう。
何故、双子だったのだろうか。一人の人間として生まれてこれなかったのか。
一人ならこんな苦しさを味あわなくて済んだだろうに。
もしくは全くの他人であればよかった。
愛情もしがらみも何ひとつなければ、こんな想いは。

起こす気は失せていた。アティはレックスに掛ける毛布を探すため、静かに寝室へと向かう。
せっかく夕食を作ってくれた彼には悪いが、今夜は顔を合わせられそうもない。
(ごめんなさい、明日はちゃんとできるから)
明日になれば、またいつもの笑顔でいられるはずだから。
だから今夜は。
「―――おやすみなさい、レックス」


End

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