夏美ちゃんの初体験〜最終融合承認〜前編



少女は自分の鼓動が高鳴るのを感じずにはいられなかった。
肺にたまった空気が頻繁に出入りを繰り返す。動悸が激しくなる。
伸縮を繰り返す心臓の音。荒くなった息づかいの音。それらが耳を離れない。
深呼吸をして落ち着かせようとするがそれでも止まらない。
(どうしよう…あたし…心臓バクバクいってる…。)
どうにも抑えられぬ鼓動とともに身体の芯から熱まで滲み出てくる。
熱い。病気にかかったときのように身体が熱い。
まだ季節は少々肌寒いはずだ。背中からシーツのひんやりとした感触が伝わる。
それなのにこんなにも熱くてしょうがない。
(ふぇ〜ん!やっぱ恥ずかしいよぉ…。)
ふと自分の今の姿に気付く。ほとんど生まれたままといっていい姿。
小柄な体格。申し訳程度に僅かに膨らんだ胸。女性的な魅力という点では自信があまり伴わぬ身体。
それが眼前の相手の前に晒されている。相手もまた自分同様裸体を晒していた。
ふと、彼と視線が合う。顔が真っ赤に染まるのが自分でも分かる。
優しげな視線。自分を包み込んでくれるようなそんな眼差し。
恥かしくて逸らしたいという気持ちとこのまま見詰め合っていたいと言う気持ち。
相反した感情が混ざり合って、心の中にもやがすっかりかかっていた。
そんな彼女が悶々としている内に彼の目線はどんどん近づいてくる。顔同士が重なり合うほどに。
そして……。
「ん…むぐ…ふむぅ…はむ…」
互いの唇が重なり合う。ただ触れ合っただけではない。舌先が甘く絡み合う。
相手の舌が自分の舌の性感帯を刺激していく。唾液と唾液が混じりあう。
口の中に先ほど食べた昼食の味が広がっていた。少し魚臭い。
ねっとりと絡み合った舌は二人に至福と繋がりを感じさせた。
愛し合う者とともにいられる喜び。決して何人も断ち切ることなどできぬ絆を。
「ん…ぷ…ぷはっ!!」
息を吐き出して唇を離す。糸を引いた涎に照れくさくなりながらも営みを続けようとする。
「じゃあ…いいかい?」
「……うん。」
紅潮した顔を震わせながらも了承する。また心臓が高鳴る。もう止めようがない。
これからする事。今までの人生で初めてする事に期待と不安が広がる。
(これが…あたしの…はじめて…なんだ…。)
初めての経験。話には聞いてはいたが自分で実際する身になってみるとやはり勝手が違う。
好きな相手と、本当に好きになって互いに愛し合っている相手とするそれ。
おそらくは年頃の娘なら一度は夢に見るであろうそれ。
それを行なう事に躊躇いがないわけではない。だが待ち望んでいた事でもある。
(大丈夫…だよね…多分。)
彼女は彼に身を任せる。全身の力を抜く。天井を見やる。
そう言えば天井の染み云々といった話を聞いたことが等と思い浮かべる内に大事な部分に生暖かい何かが触れる感触がする。
(えっ…いきなり…!?)
多少面食らわずにはいられなかった。確か…その…ナニを…前にやるものとか。
瞬間痛みが走ると刹那。
「痛い!痛い!痛いぃぃ!!」
あまりの痛みに暴れる。硬い何かが自分の中に入ってくる時に感じる痛み。
身体を引き裂かれるんじゃないかと思うような痛みに耐えかねて。
しばらく、足をジタバタさせる。手の方も出ていたようだ。
気付くと痛みの原因はそれ以上侵入してはこなかった。
「うっ…いきなりなんて…酷いよ…あたし初めてなのに…ってアレ?キール?キ…。」
目にたまった涙を堪えて相手を睨もうとしたが姿を消失していた。いやすぐに気付く。
いつの間にやら壁にめり込んでいる痩せ型の青年の姿に…。
「痛いのは…僕の…方だ…よ…ナツ…ミ…。」
めり込んだままキールはガックリと力尽きたように頭を垂れた。


その日、フラットはまるで示し合わせたかのように二人以外は留守にしていた。
(っていうか半分はそうなんだけどね。)
こめかみを抑えながら夏美は昨日の晩のことを思い出す。
昨日ゼラムのマーン家本宅にいるミニスからフラット宛に旅券が届いた。
よろしければフラットのみんなで遊びに来てくださいという内容だった。
ミニスとは特に仲の良かったフィズなどはおおはしゃぎしていた。
夏美も行くつもりだったのだが何故かキール共々留守番を言いつけられた。
「せっかく二人っきりにしてやるんだから上手くやれよ。」
などというガゼルの言葉でまあ大体の事情は飲み込めた。とかく人目が絶えないフラット。
いつチビッコや野次馬の目があるともしれぬ状況でちっとも進展しない夏美とキールの二人を見かねて二人きりにする体のいい口実をみんなしてつくったという訳だ。
アカネからシオン経由でゼラムのギブソンたち、そこからトリス経由でミニスへと。
そんな裏の事情を出発前にこっそりとリプレから聞かされた。
よくもまあこんな手間のかかることをと思いつつもみんなの心遣いに夏美は感謝する。
あの無色の派閥の乱から1年ほど。つい最近はメルギトスだかなんだかの騒動があった。
その間、夏美と彼女のパートナーであるキールとの仲はそれほどの進展はなかった。
(まあ…そういう状況じゃあんましなかったし…)
夏美自身も含め食客の増えたフラット。年端のいかぬお子ちゃまの目も絶えぬ。
そんな仲でそうそうラブラブいちゃつけるものではない。
しかしそれでもほんの少しぐらいの進展は期待していたのだがそれもあまりない。
何しろ肝心のキールがこの手の事にはとことん奥手である。
どこぞの妹弟子にご主人様発言をしてのけた眼鏡の爪の垢でも飲ませたくなる。
(まっ、他人のこといえないけどね。)
恋愛関係に奥手なのは夏美自身もそうだった。なんというか気軽な友だちづきあい以上の関係に踏み込むのには勇気がいる。元の世界にいた時から男子とそう恋愛対象として付き合った経験はないし、せいぜいが部活動の部長会とかで顔を合わせる剣道部やらバスケ部やらの部長と世間話でもたまにする程度だったと思う。
でもそろそろ先へと踏み出してもいい頃ではないかとも思う。もう年も18になる。
向こうの世界ではなんというかアレな内容の本だって買えちゃう年齢。
少女から大人へと移り変わる年齢。未だに発育不足気味な胸に不満があるけれども。

(ウルサイってば!)
と自分で考えていて突っ込みをいれてしまう。何考えているのだろうとアホらしくなる。
それでも思わずにはいられなかった。彼との関係の進展を。
まあすでに互いに好きあってはいるわけでキスとかもたまに、本当にあんまし人目のないときにたまにする程度だけどなんどか経験はしている。
ちゃっかり屋根裏で覗いてたアカネにばらされまくってガゼルやらジンガやらに冷やかされてプッツンして暴れだして、リプレに夕飯抜きを喰らったりもするがそれはもういい。
それ以上の進展というとやはりアレしかないわけである。
映画の特殊効果と一文字違いな三文字のアレだ。
(でも…そんなの…やっぱ怖いし…その…なんと言うか…)
途端モジモジしだす。恐ろしく恥知らずな事を想像しているのではないかとも思う。
が、それ以上にそういう経験に対する憧れともいうものもあった。
元の世界でも早い人はもう夏休みあけとかにそういう経験をこっそりと誇らしげに語るものもいた。そういうのを赤面しながらちょっと羨ましく思った事もある。
そして今日こそは自分も…と思わないでもないがしかしである。
(でも…でも…)
そこまでいきつくには切り出さねばならない。例えば…
『S〇Xしようか。』と…。

「言えるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
気付くと叫んでいた。つまりは単純なことである。キールとの関係を進展させたい。
その場合行き着くとこはアレである。でも自分からそれを切り出せるわけがない。
いい年の娘が自分からアレをしようなどと言い出せるわけがない。少なくとも夏美はそうだ。
自分から切り出すなんて恥かしくて出来ない。でもしてみたいという気持ちもあるわけで…。
「ああんっ!もうっ!!キールの馬鹿。キールの馬鹿。キールの馬鹿ぁっ!!」
終いにはギザギザマントのパートナーにあたり出す。そもそもあの意気地なしが悪いのだと自分の中で勝手に決め付ける。ほんの少し、本当に少しでいいから彼のほうからアクションを示してくれればと思う。そうしてくれればこんな悶々としたままでいることもないのにと。
まるで自分が発情期の犬にでもなったかのように思えて情けなくなる。
そうなったのもあのかいしょ無しのせいだと本当に勝手に決め付けて…。
「馬鹿…。」
そうポツリと呟いて夏美は黙り込む。少し冷静になって自分の我がままに気付く。
彼がその気にならない限りはどうしようもない事ではないかと思う。
でもやりきれなさもあった。
『あたしってそんなに女の子として魅力がないの?』 とか
『本当にあたしのこと好きなの?』とか考えてしまう。
彼が自分のことを第一に考えてくれている。自分を愛してくれているのは分かりきった事だ。
でもそれを確かに感じさせてくれる何かも欲しくなるのが人の常というもので…。

「あ…そのナツミ…。」
数瞬の間の後、自分を呼ぶキールの声に夏美は気付く。
「あ…キール…その…あの…ちょっと…なんかいきなし…叫びたくなちゃってさあ…」
(何言ってんのよ!あたしのアホ!!)
彼がいるのを知ってる筈なのに大声で叫んだ事に気付いてあわてて言い訳する夏美。
「そうかい…それならよかったんだ。」
(どこをどう見てもいいわけないでしょうがこの鈍感!)
少し青ざめたような表情で言う彼に思わず怒鳴りたくもなるがそこは堪える。
「何もないんならいんだ。はは。何事かと思ったよ。」
「あはは…ゴメンね…なんか無性にムシャクシャしてさ…ほらあるじゃん。
なんか大声あげたくなるときって?」
(いつまでも態度の煮え切らない彼氏にいらいらしてるときとかさあ。)
と胸中で付け加える。が、すぐに思い至る。
自分1人で勝手に騒いでいるだけなんだと。相手の気持ちも考えずに自分1人で…。
とはいうものの、行き場のない思いがコメカミの辺りをヒクヒク言わせてはいた。
「あ…それで…よかったらなんだけど…」
「ん!なあに?」
何とか顔が引きつるのを抑えて聞きかえす。
「僕の部屋にこないかい?」
「……………へ?」
かなりの間の後そんな気の抜けた返事が返ってきた。


見慣れた部屋では会った。いつも彼が持ち込んだ蔵書とともに引きこもっている部屋。
釣りやら花見やらに連れ出すのに苦戦させられる部屋。それが今日に限っては違ったものに感じられる。
「ナツミ?」
「ひゃぁ!あ…キール。」
思わず悲鳴を上げてから返事をする。なんというかキールと目を合わせるのが恥かしかった。
つい先ほどまでアレだのソレだの考えていた矢先だ意識せずにはいられない。
(ひぇ〜ん、顔あわせられないよぉ…。)
と思い顔を伏せる。少し前の自分がとてつもなく恥知らずに思える。
まるで痴女ではないか、若い乙女がそんなアレだとか…。
「二人きりだね…。」
「うん…そうだね。」
適当に相槌を打つ。キールに視線を向けると彼もまたなにやらモジモジした様子ではあった。
だがそれ以上に二人きりという言葉に意識がいってしまう。
二人きり…キールと…。
(馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、あたしまだこんなこと…馬鹿ぁ。)
いやらしい想像をついしてしまう自分にほとほと愛想が尽きる。
(あたし…こんなHな娘だったんだ…。)
情けない。アホらしい。なんか手の平に人の字を書いて飲み込んでるキールの姿も見えるがそれに構わずに自己嫌悪に陥る夏美。今日は諦めよう。そう思おうとした。
せっかく気を使ってくれたみんなには悪い気もするがそう焦ってもしょうがないと
無理に自分を納得させようとする。少し悔しいけれども。
だがそんな夏美を見てキールはようやく何かを決意したかのか唐突に切り出した。
「そ…その…ナツミ!!」
「は…はいっ!」
いきなり声を大きくして呼びかけるキールに夏美は反射的に答える。互いに表情に硬いものがある。
堰を切ったら溢れ出そうな思いを堪える様が読み取れる。しばし沈黙が続く。
キールの真剣な眼差し。自分に何かを伝えようと。はっきりとした意志がそこにあった。
(ひょっとして…)
かすかな期待が生まれる。そして彼の言葉を待つ。
「僕は君のことが好きだ。」
「…知ってるよ。」
素っ気無く返す、でもなんとなく予感を感じていた。今日は何かが違うと。
「それで…その…せっかく二人きりなんだしさ…」
彼の言葉その続きを期待する。
「僕たち…知り合ってからもう一年以上経つし…」
(早く言ってよ…早く…)
「君さえ良ければなんだけど…」
(だからもう早く!!)
なかなか煮え切らない彼にヤキモキしながら夏美の胸はときめいた。
気が付いたときには苛立っている内に肩をつかまれていた。そして…
「君のことがもっと知りたい。全部、なにもかも。」
 待ち望んだ言葉が
「だから僕に任せてくれないかな…」
 彼の口から
「その…なんか月並みなセリフだけど…」
 こぼれ出し
「君が欲しい。」
夏美の胸のいっぱいに広がっていった。
ポタリと熱い雫が垂れる。ポロポロと。洪水を起こしたように。
「うっ…ひっ…うっ…」 
もう止められない。涙が込み上げるのが止められない。溢れ出した気持ちが止められない。
「うっ…あっ…ひっく…あっ…」
嗚咽を繰り返す夏美その様子を見てついギョッっとなったキール。泣くほど嫌なのかと思い落ち込みそうになるがそれを読み取ってか夏美は言う。
「違う…の…。あた…し…あたし!…嬉しかったから…キールからそんなこと言ってくれるなんて思ってなかったから…から…。」
なんとかすすり泣くのを抑え夏美は答える。
そして彼の胸をポカポカ握り拳で軽くたたく。
「あたし…待ってたんだよ…ずっと…。言ってくれるの・・。」
「…ごめん…。」
そう呟いて夏美の頭を優しく撫でる。髪の毛撫でまわすキールの手の感触に夏美は暖かさを感じた。
そして少し恥かしげなそれでも満面に嬉しさを浮かべた表情で照れくさそうに答える。
「いいよ。あたしの…その…大切なモノ、キールにあげるよ。」
そう答える夏美の笑顔がキールには凄く眩しいものに思えた。


続く

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