秘密の交渉



 暖かな午後の日差しが降り注ぐ、オプテュスのアジト。
 太陽の光が差し込む窓際で座っているのは、肌も髪も驚くほどに白い青年と、その傍らで彼の腕に薬を塗る少年であった。
 青年は普段身につけている派手な防具は取り外し、上半身裸の出で立ちで、頬には青いアザ、腕には擦り傷と、満身創痍の状態で苛立ちながら椅子に腰掛けている。
「あのはぐれ野郎っ!また手加減なしにやりやがって……いでででッ!!」
「バノッサさんだって充分手加減なしに襲い掛かってたんですから、仕方ないでしょう」
 溜め息混じりにカノンは彼の腕に薬を塗り続ける。同時に引き裂くような痛みが傷口から走り出し、その勢いはまもなく電流のようにバノッサの全身を駆け巡った。年甲斐もなく目に涙を浮かべるバノッサに、少年は苦笑しながらハンカチを差し出した。
 ――事の始まりは今日の昼食時。
 オプテュスのメンバーは歓楽街を徘徊していた。それはいつものようにこれといって意味のない行為だ。時折遊ぶ金欲しさに、通りかかった者を脅しては金目の物を奪い取り、道端で他人と視線が合えば絡もうとする。
 そして今日もまた、彼らが敵とみなす人物たちが早々に目の前へと現れた。
 フラットの連中だ。
「先に絡んでいったのはこっち側なんですから……」
 争いを好まないカノンは、オプテュスではバノッサの次に実力を誇る。彼があの時の喧騒に加われば勝負はこちらに傾いていたかもしれない。
 だが、結局争いが始まるや否や、カノンは周囲に集まってくる観衆に溶け込み、その一部始終を黙って静観していたのだ。
「あのアマぁ……、いつも余裕かました面しやがって!今日なんざアイツ、何て言ったか覚えてるか!?『無理しないでくださいバノッサさん。ホントは弱いんですから』だぞ!?」
「あ、それは僕が言ったセリフです」
「ってお前かよ!!」
 バノッサは鼻息も荒々しげにテーブルを叩くと、脱力したかのように目を伏せ、椅子の背もたれに背中を預けた。
 ……薄く目蓋を開き、顔を天井に向け、視界にぼんやりと思い浮かぶのはあの憎きはぐれの笑顔。
(何でこんな気分わりぃ時に、はぐれ野郎のツラなんかが見えてきやがるんだ)
 笑顔でさらりと痛い所をついてくる彼女の口。それは知ってか知らずかバノッサの心をえぐり、時に夢の中でまでそのセリフがリピートされる。
 しかし今瞳に浮かぶその映像は、想像にしてはあまりにも鮮明すぎる。
 ……いや、想像しただけの人物の呼吸が、自分の頬にかかる事などありえない。
「こんにちは、バノッサさん?」
「――――ッ!?」
 それは実際に彼の顔を背後から覗き込む彼女――アヤ本人の姿だった。
 驚きのあまりバノッサの体は椅子ごと後ろへ反り返り、一歩軽く身を引いたアヤの立っていた場所に無様にひっくり返る。ぶつけた後頭部の痛みにうずくまる彼を見下ろすアヤの口からは、思わず吹きだすような息が漏れた。
「ふふふっ……、カッコ悪いですね、バノッサさん。そんな事してると傷に響きますよ?」
「そう思うならテメェが俺様を支えるなりなんなりしろ!避けてんじゃねぇ!!」
 その言葉に「嫌です」と即座に答えるアヤは、やはりいつも通りの彼女だ。
 一見しただけではとても剣と召喚術を使いこなし、幾多もの敵を叩き伏せているとは思えない彼女の容貌。その華奢な体にそれだけの力を携えている事が、バノッサにとっては疎ましいものであった。
「勝手に上がってしまってすみません。でも呼びかけても返事がなかったので」
「いいですよ。今日は手下たちはここにいませんし。ところでお姉さん、今日はまたどうしてこんな所に?」
 仰向けに倒れるバノッサを起こしながら、彼の代わりに尋ねるカノン。当のバノッサはカノンに肩を借りながら、八重歯を剥き出し噛み付くような勢いで睨みつけている。
 尋ねられたアヤはバノッサが起こした椅子に我が物顔で腰を下ろすと、ぽんと両の手の平を合わせ、満面の笑みを浮かべてみせた。
「今日はバノッサさんと、休戦協定を――と思いまして」
「……休戦、だとォ?」


 カノンが淹れてくれた紅茶を一口すすり、アヤは眉をひそめるバノッサを相手に部屋の中、二人きりで向かい合っていた。
 このような飲み物はオプテュスでもカノンしか口にしないらしい。どうりで葉の保存状態がいいと思ったのだ。他の連中ならば葉の入った容器を開けっ放しにして湿らせているか、もしくは葉に白い点を大量発生させていたかもしれない。もしそうなら鼻で笑って水道の水でも飲むつもりだったが、そこはやはりカノン。お茶の淹れ方ひとつにも気を配るのか、とても美味しい。
「私達って出会うたびに喧嘩ばかりしてるじゃないですか?今日だって例外じゃありませんでした。おまけに今回はガゼルさんが……」
 ガゼル……あのデコの広い野郎か。バノッサの脳裏に、いつもアヤ達と一緒にいる騒々しい少年の姿が思い浮かんだ。
 今回の騒ぎでは、ガゼルはバノッサの手下との戦いで深手を負う事になってしまった。大人しく療養してはいるが、傷が完全に治るまではしばらく大人しくしてもらわなければならないだろう。
「言っておきますけど、ガゼルさんが怪我を負ったおかげで夕食前におかずが消える事はしばらくなくなりそうですし、ウロウロ落ち着きなく歩き回られて周囲にホコリを立てられる事も当分はないでしょうから彼にとって今回の出来事はいい薬だ、なんて事は一切思っていませんよ。本当に」
「…………」
 アヤはそう言うと突然伏し目がちに顔をうつむき、力なく息を吐いた。
「……やっぱり、大切な人達が傷ついて苦しんでいたりするような光景はあんまり見たくないんですよね。皆さんにはいつも元気な姿でいてもらいたいんです。その為にはバノッサさんにも協力して頂いて、フラットの人達と仲良く……とまではいかなくても、お仲間さん達が喧嘩をふっかけてくるのをどうにかしてもらえないかな、と」
 そして紅茶をまた一口。カップを静かに皿に置くと、アヤは小首を傾げるような仕草で艶のある黒髪をさらりと肩から流した。
 優雅なその姿は彼女の家庭の慣わしか。いちいち鼻につく女だと腕組みしながらバノッサが眺めていると、アヤは微笑みながら言葉を続けた。
「――それに、最後に勝つのは い つ も 私達のほうですし」
「テメ……ッ!!!」
 ぶちぶち、とバノッサの脳内で何かの切れる音が響いた。きっと頭の中では血が広がっている事だろう。
 この女はいつもこうだ。天然なのか確信しての事なのかは分からないが、その言葉は普段キレやすいバノッサをおよそ五倍速で怒りの頂点に達させる力を持っている。その笑顔と口調は、見ているバノッサにしてみれば彼女の余裕をあらわす態度としか思えなかった。
 こちらが何を言ってもそれを弾くように言い返し、時には場違いのようなのほほんとした笑顔で切り返す。
 一度でもこいつが何も言い返せることなく、悔しげな表情を浮かべている所を目にしてみたいものだ。バノッサはそう思いながら彼女の言葉に怒り任せに立ち上がろうとした時、彼の中にふと、ある提案が思い浮かんだ。
「…………」
 しばらく無言のまま彼女を見つめると、バノッサは浮かばせていた腰を椅子に下ろし、口元に不敵な笑みを浮かべた。
 ――こういうのはどうだ、はぐれ野郎。
 バノッサは顎に手を当てると、考えるような仕草で目を伏せたのち、ニッと笑ってアヤを上目遣いに見つめる。
「……まあ、それもそうだな。これ以上仲間に怪我人が順調に増えてきちまうのも、こっちとしちゃあ辛いモンだ。考えてやってもいい」
「じゃあ……!」
 アヤの表情が喜びに輝く。普段は大人びた雰囲気だが、笑うとその顔に歳相応のあどけさなが甦る。
 所詮はまだ小娘じゃねえか。バノッサは内心鼻で笑うと、彼女の目の前に人差し指を突きつけた。
「その代わり、交換条件だ」
「条件……ですか?……ここでしばらく炊事洗濯しろだとか、金を持ってこいだとか、そういうのはよしてくださいよ」
「そんなメンドくせぇ事じゃねぇよ。心配すんな。ごくごく簡単なことだ」
 怪訝な面持ちのアヤを目に、バノッサはゆっくりと椅子から立ち上がる。
 そしてそのまま伸ばした手は、アヤの前に伸び――。
「……バノッサ、さん?」
 彼の白い手がアヤの黒髪をすくう。突然の事に驚いたように目を丸くするアヤ。髪の束をバノッサは指先に絡ませて弄んだあと、彼女の頬を撫でた。
 肌の色からしてみれば意外と思えるような彼の熱い手。その指がアヤの唇を伝い、彼女の肩はぴくりと動いた。
 眼前に身を乗り出したバノッサの唇が、静かに動く。
「それじゃあ――今からそこのベッドで、俺様に抱かれな」

「……え?」
 一瞬彼の言葉の意味が理解できずにいた。
 抱かれる?ベッド?
 しばらく頭の中で彼の言葉を繰り返した後、それがどういう意味なのかをようやく理解し、アヤはガタンと椅子を引き、一気に頬を紅潮させた。
「バ、バノッサさんっ、それって」
「最近テメェらとやりあう事ばっかでよ、ここしばらく女を抱いてねぇんだよな。イライラしてた分、無意識にフラットの連中に絡んじまってたのかもしれねぇし。ここで一発抜いてみりゃ気分も変わるかもしれねぇだろ?」
 どうだ、とばかりにアヤを見下ろすバノッサ。
 普段は堂々とした態度の彼女も、このような難題を条件として突きつけられてはさすがに顔を赤らめている。一見育ちの良さそうな娘が、こんな荒くれた男にいきなり抱かれようなどとはまず思わないだろう。
 この顔が見たかったのだ。バノッサはそんなアヤを前に、一人勝ち誇った笑みを浮かべていた。
 このあと彼女は敗北の文字を背に、交渉決裂という手土産を持ってフラットへと戻る事になるのだろう。
「さあ、どうするよ?はぐれ野郎」
「う……」
 まあ考えるだけ無駄だろうが、と内心思いながらも尋ねる。彼の言葉にアヤは、顔を赤らめながら困ったようにうつむいている。しばらく黙り込んだあと、アヤは椅子からゆっくりと立ち上がり、バノッサに背を向けた。
(なんだ、さんざん悩んどいて結局帰るんじゃねぇか)
 予想通りの結果にバノッサは含み笑いを漏らす。
 だがアヤはその場に立ち止まったまま、突然胸の前まで両手をあげると何やらもぞもぞと手を動かし始めた。
「……それしか方法がないんだったら、仕方ないですね。分かりました」
「あ?」
 彼女の言葉と同時に、黄色いリボンが細い指に絡み、するりとほどかれる。そのまま襟元に手をかけると、肩から抜け落ちた服の中から、彼女の白い背中が露わとなった。
「……おい、ちょっと待て」
 あ然とするバノッサをよそに、アヤの腕は背中へと回る。その手がブラジャーのホックを外すと、彼女は体を棒立ち状態のバノッサに向けて振り返らせた。
「どうぞ、バノッサさん……」
 胸のところで押さえるように抱えていたブラジャーを取り払う。そこには、彼女の細身にしては豊かな乳房がふたつ、弾力を帯びて揺れていた。頬は相変わらず赤く染まってはいるが、彼女の行動はいつも通りに躊躇がなく、至って堂々としている。
 ……正気か、こいつ。バノッサは目の前の彼女の姿をぼんやりと眺めながら、突然ハッと我に返った。
「テメェ……とことんこの俺様を馬鹿にしてやがるな!?」
「えっ?何のことです?」
 アヤが疑問に思うのも無理はない。バノッサが勝手に脳内で目前の勝利の余韻に浸っていた最中、その期待をいともた易く打ち砕かれてしまった事に対する怒りなど、彼女は知る由もないのだから。
 わけも分からずキレ始めた彼にアヤが眉をひそめていると、バノッサは額に青筋を浮かべながら歩み寄る。そして彼女の腕を掴むと強引に体を引き寄せ、ベッドへと放り投げた。
「いたっ!ちょ、バノッサさん!」
 ぶつけた頭をさすりながら起き上がろうとするアヤの肩に、手の重みが感じられる。上に乗りかかっていたバノッサが彼女の肩を掴んで押し倒すと、その手を彼女の乳房へと滑らせていった。
「っ……」
 胸を這う手の平の感触に、アヤの体がわずかに動く。バノッサは彼女の乱れた服を片手で脱がしながら、耳元に唇を寄せた。
「テメェがそういうつもりなら、俺様もたっぷり楽しんでやるからな。――今さら泣き言なんざ言うんじゃねぇぞ」
「いいませんよ、そんな事……」
 口の減らねぇ野郎だ、バノッサはそう言って舌打ちすると、彼女の下半身を覆う下着を乱暴に引きずり下ろした。


「んっ……」
 バノッサの愛撫はやはり彼らしい、一方的な触れ方だ。乳房をまさぐる手つきは揉むというよりも掴むといった感じである。荒い息遣いがアヤの首筋に近づき、バノッサの唇は彼女の細い首に強く吸い付く。しばらく首を隠さなきゃいけないかも、とアヤは心の中でつぶやきながら、彼の背中に腕をまわした。
「余裕だな、はぐれ野郎。その強がりがいつまで持つか……」
 そう言いながらも心に余裕がないのは、どちらかといえばバノッサのほうだ。年頃の少女らしく、もう少し自分の行為に恥じらいを見せるかと思えばこの様子。清楚な顔をして、意外と男性経験が豊富なのだろうか。
 もしそうなら……。
(今まで寝てきた男共と俺様を比べては、また嫌味な事をぬかすつもりじゃねぇだろうな)
 そう考えると、ふいに目の前のアヤが皮肉を混ぜた笑みを浮かべているような錯覚に陥る。気のせいだという事は分かっているが、無意識に湧き上がった怒りは抑えきれない。バノッサは掴んでいたアヤの乳房を握り、口付けていた首筋に歯を立てた。
「いたっ!ちょっと、バノッサさん、なに噛みついてるんですか」
「うるせえな……」
「もっと優しくしてくれませんか?でないと私だって気持ちよくないですよ」
 噛みつかれた首を押さえながら、アヤは覆い被さるバノッサを睨むように見上げる。
 だがバノッサはフンと鼻を鳴らして悪態をつくと、片手をアヤの下腹部へ向けて滑らせていった。
「っ……」
 アヤの視線も、それにつられて下を向く。
「……テメェ、自分の立場を分かって言ってんのか?俺様は交換条件って形でコレをやってんだ。その俺様がどんな風にテメェ抱こうが勝手だろうがよ」
 バノッサの手が彼女の足の間へと入り、その指先が閉ざされた花弁の中へと潜り込んでいく。
 ――ぐり、とねじ込むように挿入されていくのは、二本の指だ。
「ちょ、いきなりっ……!」
 まだほとんど濡らされていない膣壁を擦り上げるそれは、苦痛を生み出す以外の何ものでもなく、アヤは思わず眉を歪める。
「いてぇか?はぐれ野郎」
「あ、当たり前です」
「だろうな。わざと痛くしてるんだからよ」
 そう言ってバノッサは意地悪く笑うと、揃えた指で膣内を乱暴にかき回しては苦痛に耐えるアヤを見下ろし、優越感に浸る。
 ――そう、これだった。自分が求めていたのはこの感覚だったのだ。バノッサは喜びをあらわに口元を緩ませると、肩を小刻みに震わせる。
 今まで幾度となく敗北し続けていたが、今日この日、バノッサは初めて絶対的に優勢な立場となったのだ。あられもない場所を弄ばれ、それにも抵抗できないアヤ。痛みと恥辱で伏せられた目は彼の劣情を煽り、その下半身に欲望の火を灯す。
「ククッ……どんな気分だ?今のテメェは」
 バノッサの楽しげな声にアヤはうっすらと目蓋を開くと、しばらく悩むような面持ちで唇を噛み、彼に視線を向けた。
「あの……これって、わざと痛くしているというよりは……バノッサさんが気持ちよくするコツを知らないだけじゃないんですか?」
「――――!!」
 その時、膣内をかき回す彼の指が動きを止めた。
 ……この世には『禁句』というものがある。それは時に世の中の常識を揺るがし、その言葉を発した一人の人間によって多数の人間が困惑し、恐怖におののかせる可能性すら秘めている。
 ある意味『呪いの言葉』とも言えるそれは、たった今、一人の青年のはち切れんばかりに膨れ上がった自信に小さな穴を開けてしまった。
「……な……」
 ひとたび穴が開けば、それが例えどんなに小さなものであっても、いずれそのすき間によって大きな膨らみをしぼませていく。彼の心もまた、それと同じ運命をたどるのか。
 ――いや、彼は違った。
「なワケねえぇッ!!」
 せっかく膨らみ始めた自信とナニを、早々にしぼませるわけにはいかない。
 バノッサは絶叫すると、まっすぐに伸びるアヤの足を掴み上げ、そのまま大きく足を開かせた。
「きゃあッ!?」
「馬鹿にするんじゃねぇぞ、はぐれ野郎……。この俺様が、女を喜ばせるコツを知らねぇだと?そう思うなら……声出さずに踏ん張ってみろよッ!!」
 そう言うや否や、バノッサは彼女の足を掴んだまま、顔をかがめていった。
 アヤの秘部に、彼の吐息がかかる。
 もしや、とアヤが身を強張らせるのと同時に、彼女のその部分に何かが触れた。湿った柔らかいものが彼女の陰唇の谷間を割り、ゆっくりと前後になぞり始める。
「んぅッ……!」
 さすがにこの感覚には体も反応せざるを得ず、アヤの背中はびくりと反る。彼女の反応を見たバノッサは笑みを浮かべると、意識したように舌音を立てながら愛撫を続けた。
「い、いきなり何して、バノッサさ……」
 ピンク色の小陰唇を指で押し開き、膣口の周囲を舌先でしばらく舐めてやると、それだけで奥からは男を誘う匂いの蜜を滲ませる。突然我が身を襲った快楽にアヤはうろたえつつも、まともに声を出す事ができないようだ。
「随分反応が早ぇな。ちょっと舌で可愛がってやっただけで、もうこんなになっちまってるぜ」
「嫌です、そんな所に……汚い……」
「……よく言うぜ」
 彼女の股の小さな包皮をめくると、そこには充血し始めたクリトリスが顔を覗かせている。それをニ、三度舌で撫でたあと、バノッサは膨らんだその突起を甘噛みした。
「やっ……、あぁっ!」
 頬を紅潮しながらアヤは甘い声を漏らす。しかしその首はいまだ拒むように振り続けている。
「嫌じゃねぇだろうがよ?」
「い、嫌です」
 アヤは顔を横に振ると、唇の震えを抑えながら大きく口を開いた。
「だって、女の人のここって凄くデリケートな部分なんですよ?それに比べて人間の口って言ったら、バイ菌の巣窟じゃないですか。バノッサさんなんて一週間に一度くらいしか歯を磨かなそうだし、そんな汚い口であんなトコを舐めて私がヘンな病気にでもかかっちゃったらどうするつもりなんですか?訴えますよ、慰謝料貰いますよ、召喚獣に言いふらして外の世界にまで広めますからね」
「…………」
 ――汚いって、お前の股の事じゃなくて俺様の口かよ……――。
 バノッサはしばらくぽかんと口を半開きにしていたが、すぐにこめかみに浮かび上がった青筋と共に口の端を引きつらせると、無防備に足を開いたままの彼女の上にもう一度覆い被さった。
 同時にアヤの秘部に、熱いものがあてがわれる。だがそれは、先ほどの舌の感触とは明らかに違うもの。
 その正体は――。
「……そんなに汚ねぇと思うなら消毒してやるよ。俺様の熱くたぎった肉棒で、綺麗さっぱり熱消毒してやらァッ!!」
「ば、バノッサさん!?いきなりすぎま……」
 もはやバノッサが何をしようとも、アヤの天然の毒舌は常に彼のプライドを哀れなほどに切り刻んでいく。もう彼はアヤに対して、じわじわと前戯で攻める気力もなければ言葉攻めでその心を崩していく余裕もない。
 ――ならば残された行為はただひとつ。
「早いトコ楽しませてもらうぜ、はぐれ野郎!!」
「ま、ままままっ、こ、心の準備がっ」
 アヤの言葉を無視し、バノッサは熱を帯びた自身を彼女の膣内へと押し込んでいく。
「ひぁッ!」
 途端にアヤは高い声をあげ、大きく目を見開いた。
 バノッサを包む膣壁は予想以上に彼を締めつけ、それはまるで外部からの侵入を拒むかのような狭さを持つ。少しは中に入ったが、それ以上はアヤ本人が力を入れすぎているせいか、思うように挿入する事ができない。バノッサは苛立たしげに舌打ちすると、自分の下で仰向けに横たわるアヤを睨みつけた。
「力入れんじゃねえ、俺様が突っ込めねぇだろうが」
「仕方ないでしょう。……こんな事、初めてなんですから」
 ――その言葉に、部屋は一瞬静まり返る。
 初めて、と言ったのだろうか。耳を疑うようにバノッサがアヤの顔を覗き込むと、やはり彼女は困ったような顔で頬を赤らめ、視線を逸らしている。
「……ウソじゃねぇのか、それ」
 彼のつぶやきに、アヤはふるふると首を振って否定をあらわす。そのわりには最初のほうは随分と余裕だった気がするのだが。
「相手は私が毎回負かしているバノッサさんでしたから、あんまりベッドでも危機感が沸いてこなかったんですけど……やっぱりいざ本番になると、例え貴方が相手でも緊張してきちゃって」
 微妙に鼻につくセリフはこの際聞き流す事にしたバノッサ。実際今の彼女の表情を見てみれば、初体験を前に緊張している事がウソだとはまず思えない。
 バノッサは少しのあいだ驚いたようにじっとアヤを見つめていたが、やがて口の端をつり上げ、もう一度彼女の腰を引き寄せた。
「だったら、俺様はテメェの穴ン中を一番に堪能できる男って事か。なら充分に楽しませてもらうぜ?テメェの処女を……な」
 そう言うとバノッサは陰唇を押し広げ、途中までうずめていた性器を再び押し込んでいく。アヤは同時に小さくうなると、シーツを握り締めた。
「……ぅ、……んっ……!」
 痛みにアヤが歯を食いしばると、同じくバノッサを咥え込む膣も収縮していく。
 バノッサは女を抱く時はいつも遊びであったため、今までに処女を抱いた経験もなければ、その機会もなかった。少し入れただけでこれ程の締まり具合かと感心しながら、自身の腰を更に前へと押していく。
「――お」
 中ほどまで挿入したところで、膣内に抵抗感が。アヤを見ると、彼女は伏し目がちに頬を赤らめ、額に苦痛の汗を浮かべながらもバノッサに身を任せるつもりでいる。
 彼女自身はすでに行為に妥協しているようだが、男を知らない体のほうは、膣に咥え込まれた性器を異物とみなして押し返そうとしている。その膣の動きはバノッサの加虐心を煽るには充分すぎるほどのものであった。
「……じゃ、遠慮なく頂くぜ」
 バノッサは腰を抱きかかえるとその手に力を込め、自分の方へと引き寄せていく。アヤは下半身を彼の腰に引き寄せられる事で、痛みに慣らされる暇もないまま、自ら屹立した彼の性器を膣内にずぶずぶと飲み込んでいく事となった。
 一人の女の純潔を音もなく引き裂いていく快感。膣肉をえぐるように突き進む彼の性器はアヤの内側に膨大な圧迫感による苦痛と熱さを与え、まるで松明を押し込まれてでもいるかのような感覚にすら陥れる。
「……あ……ッ!」
 アヤの体がビクンと跳ね上がる。バノッサの強引な挿入による破瓜に、アヤは痛みのあまり声を出す事すらできない。代わりに目を大きく見開き、口からは力のない吐息が漏れる。彼に掴まれている足は、その苦痛から小刻みに痙攣していた。
 直後、互いの繋がる部分の隙間から、赤いものがじわりと滲み出る。
 バノッサはアヤの足を前に倒し、そこを覗き込んでみた。
「ほお、これが破瓜ってやつか。初めて見たぜ」
 楽しげに言うと、そこに指を滑らせて滲み出るそれを拭い取る。血に濡れた指先をアヤの眼前に突きつけると、彼女は痛みと羞恥に耐えながらも、思わずその赤い色に視線が釘付けとなった。
「私の……血、なんですよね。処女膜……の」
「俺様のでブチ抜いてやった、ある意味残骸だな」
 そう言って笑った彼は舌を出すと、赤い指先をぺろりと舐めとってみせた。口の中に鉄の味が広がっていく。
「……ただの血だな、こいつは」
「あ、当たり前じゃないですかっ。そんなもの舐めないでください、変態みたいに」
 とっさに赤面する彼女にもう一度笑ってみせると、バノッサは膣内にうずめていた性器をずるりと乱暴に引き抜いた。その感覚にアヤは声にならない声をあげ、肌は不快とも快感ともいえぬ粟立ちを起こす。
「さぁて、処女膜もめでたく開通してやったワケだし、これからが俺様にとっての本当のお楽しみの時間だな」
 そういうなりバノッサは再び熱を帯び続ける自身をアヤの秘部にあてがうと、血がこぼれて間もないそこに強引にねじ込んでいく。破瓜の血で濡れた花弁は、彼の性器の侵入とともに押し分けられ、赤い花を咲かせるように広げられていく。
「うぁッ……!……く、ぅ……!」
 女を気遣う事のない彼のセックスは、処女を失ったばかりのアヤにとってはあまりにも辛いものだ。バノッサはベッドを軋ませながら、欲望のままアヤの未開発の膣肉を楽しみ、腰を前後に動かしながら幾度も犯していく。
 カノンがどこかの部屋にいる手前、アヤは悲鳴じみた声を出すわけにもいかない。彼女は擦り上げられる膣内の痛みを耐えようと必死にバノッサの体にしがみつき、震えの混じった呼吸を繰り返していた。
「しかし――こうやってみると、テメェみたいな奴でも可愛い女に見えてくるから不思議なモンだよなぁ」
「……え……?……あッ、んふぅッ……!」
 無防備に股を開き、男の欲望の昂ぶりに膣を貫かれながらすがりつく光景。赤らむ顔と体は汗でいつも以上に艶を帯び、しっとりと濡れている。
 バノッサは激しく腰を動かしながらも、アヤの乱れた黒髪を優しく撫でる。
「いつもはブッ殺してぇくらいムカつく野郎だが、こうやって黙って俺様にされるがままのテメェは……随分としおらしく見えるぜ」
 そう言い、彼の指がアヤの顎にかかる。わずかに顔を持ち上げられると同時に、アヤの唇にバノッサの熱い吐息がかかった。
 ――だが彼がアヤの唇を奪う寸前、彼女の手が覆い被さろうとしたバノッサの唇をそっけなく押さえ込んだ。
「んぐッ……!」
「キスはっ……条件外、ですよ」
「……やっぱり可愛くねぇ女だな。テメェはよ」
 そう言って笑うと、バノッサはアヤの頬を舌で舐め、そこに音を立てて軽く口付けていた。


「――で、約束の休戦の事ですが」
「ん?」
 ようやく事を終え、アヤは膣内の痛みに少々耐えつつも、隣りでのんびりと煙草をふかすバノッサに身を乗り出して先刻の話題を再開した。
「フラットと争うのは、もうやめて頂けるんですよね?」
「…………」
 その言葉に、バノッサは煙を吐きながら無言で天井を見上げる。しばらく目を伏せてうなると、彼は咥えていた煙草を口から取り、汚れた灰皿の上で先端をつぶした。
「あぁ、あれな。……さすがに無理だろ。今さら見ず知らずの関係にはなれねぇな、俺様達としては」
「!?」
 平然と答える彼に、アヤの片方の眉毛がぴくりと吊り上がる。
「ちょ、ちょっと、約束が違いますよバノッサさん!私とその、エ……エッチしたら、考えてくれるって言ったじゃないですか!」
「十秒」
「え?」
 バノッサは二本目の煙草を取り出し、マッチで火をつけながら続ける。
「約束通り、俺様は『考えてやった』じゃねぇか今。十秒間」

「…………」

 ……完璧にふざけている。
「――せこッ!!せこすぎますよバノッサさん!何それ!?一休さんだってそこまで舐めた屁理屈こねたりしませんよ!!そんなオチのために私はロストバージンしちゃったんですか!?」
「俺様の結論に納得いかねぇで屁理屈こねてんのは、テメェのほうだろ?俺様は約束を守ったじゃねぇかよ」
「どこがッ!!」
 怒り任せに、手にしたクッションでバノッサの頭を叩きながら怒鳴るアヤ。
 その時ドアをノックする音が聞こえ、二人はそちらに振り返る。
「お二人とも何の騒ぎですか?喧嘩でも――ってうわぁ!!」
 部屋に入るなり、カノンの視界に飛び込んできたのは下着姿でベッドに座るバノッサとアヤの姿。カノンは頬を真っ赤に染めながら身動きがとれずにいた。
「カノンさん、バノッサさんたらヒドイんですよ!馬鹿丸出しの屁理屈を主張して、私との約束を守ろうとしてくれないんです。条件まで出しておいて……」
「はぁ……」
 約束というものが何かは分からないが、その『条件』が何だったかはこの状況を見れば容易に想像がつく。カノンは困ったように溜め息をつくと、疲労感漂う苦笑を浮かべてみせた。
「まあ、屁理屈でバノッサさんに敵う人なんてこの世にいませんしね……。今回はひとつ、北スラムで狂犬病持ちのノラ犬100匹に全身を余すところなく噛まれたとでも思えば少しは気が楽になるかと――」
「って俺様は狂犬病持ちのノラ犬100匹よりタチのわりぃ存在なのかよ!」
 バノッサの突っ込みに、「ご自分で気づいてませんでした?」と微笑むカノン。バノッサはくしゃくしゃと髪の毛を掻くと、その手でアヤの頭をぽんぽんと叩いた。
「……まあアレだ。俺様みてぇな男の口車に乗せられて、好きでもねぇ野郎とやっちまったテメェの尻軽さにも問題はあると思うぜ?」
「――なっ」
 その言葉に、アヤは頬を赤らめる。眉をひそめながら視線を横に逸らすと、彼女は指先で艶のある黒髪を弄びながら口を開いた。
「……好きでもない男の人と、こんな事しませんよ」
「何言ってんだ。ついさっきまで俺様とやってたじゃねぇかよ」
「ええ。好きじゃない人と、するつもりはないだけですから」
「――あ?」
 驚いたように口を開けて、バノッサはアヤの顔を見る。その視線に気づいたアヤは、ぐいっと身を乗り出し、彼の顔を覗き込んだ。
 バノッサの三白眼に、アヤの顔が映り込む。あまり意識した事のなかった彼女の容貌だが、よくよく見てみればその目は大きく、睫毛は瞬きするたびにその長さを強調させている。艶やかな白い肌と黒い髪の毛は、彼女を美少女として形容するには申し分ないほどの代物だった。
 どちらかといえば明らかに面食いの部類に入るバノッサは、アヤの顔を思わず食い入るように見つめる。だがアヤはそんな彼の視線から顔を逸らすと、ベッドから下りて床に散らばった服を拾い始めた。
「おい。もう帰んのかよ、はぐれ野郎」
「もうすぐ夕食の時間ですし。早く帰らないと皆さんに先に食べられてしまいます」
 そう言いながら服を着る彼女の背中を、バノッサは眺める。まっすぐなラインの背筋に、シンプルな下着に包まれた小ぶりなお尻は男にとってはまさに壮観だ。太ももの内側の付け根に薄っすらと残る赤い跡は、おそらく破瓜の血がついたものだろう。
「…………」
 カノンまでが紅潮しながらその姿に見とれている。
「なあ、はぐれ野郎」
「バノッサさん。そのはぐれ野郎っていう言い方、何とかしてもらえませんか?私にだって名前はあります」
「……テメェの名前なんざ、いちいち覚えちゃいねぇ」
「お、覚えてくれてなかったんですか!?」
 呆れたように目を丸くし、アヤは溜め息をつく。バノッサは頭をぐしゃぐしゃとかきながらうつむくが、その顔はどことなく彼女に対して湧き上がった熱を抑えているようにも見て取れた。
「……名前教えろよ。そんなに俺様に名前を呼んで欲しけりゃ呼んでやる。……だが、なんつうか……そ、その前に、テメェの中の『好きな男』ってのは――」
「今から名前を言いますからね。忘れないでくださいよ?バノッサさん」
「!!」
 恥ずかしさを必死で堪えながらようやく言いかけた言葉を途中で遮られ、バノッサはもともと白かった顔を絶望の蒼白に塗り替えていた――。


 あれからしばらくの日が過ぎ、オプテュスは不思議な事にその活動範囲を明らかに狭めていた。道端で目が合っても絡みに来る事はなくなり、しばらくフラットの仲間達は平和な日常に心を安らいでいる。
「あの日のアヤの『交渉』が効いたみたいだな。一体バノッサにどんな事を言ったんだよ?」
 朝食のパンをかじりながら、ガゼルが興味津々に尋ねてくる。
「ふふふ、それは……ちょっと言えません……」
 あの時交渉は失敗したと思っていたのだが、結果的にはバノッサは彼女の期待に答えてくれたようだ。しかしどうせしばらくすれば、彼はそれに飽きて再び騒ぎを起こす事も予想している。
(ま、バノッサさんが悪さを完全にやめてくれる事なんて、最初から期待してはいませんし)
 心の中でつぶやきながらミルクを一口含んだ時、玄関のドアを何者かが激しく叩く音が響いた。
 ガゼルはその音にうざったそうに顔をしかめる。
「なんだぁ?朝っぱらからうるせぇな」


「……久し振りだなバノッサ。どうした?」
 玄関のドアを開けたエドスは、目の前の客人に驚いたように声のテンポを上げる。バノッサの後ろからひょこりと姿を現したカノンにも笑顔を向けると、むっつりとした表情のバノッサに苦笑しながら視線を戻した。
「俺様が朝の挨拶しにきちゃ悪いのか」
「あ、朝の挨拶!?お前がか!?」
 これは一体どういう風の吹き回しなのだろうか。この男が『挨拶』といえばまず殴り込みだと考えてしまうが、今の彼からはそのような雰囲気はまったく感じ取る事ができない。
 ……むしろバノッサはどこか落ち着きのない様子で視線を泳がせ、つま先で床をコツコツと叩いている。
「ほら、バノッサさん。勇気を出して言いましょう」
 カノンにひじで小突かれたバノッサは自信なさげに頷くと、うつむいて大きく深呼吸し、再び顔をエドスに向けた。
「……アイツを呼んでくれ」
「アイツ?」
 エドスが首をかしげると、バノッサは白い顔を桃色に染めながら視線を横に逸らす。しばらく唇を噛みしめたのち、伏し目がちに彼は口を開いた。
「ヤボな事聞くんじゃねぇよ。…… ロ ー カ ス の事だ」
「んぶふッ……!!」
 途端にカノンは口を押さえて吹き出すが、バノッサは緊張の為かその事を気にも留めていない。エドスにしても、肩を震わせながらうつむいている少年の行動は、今の状況においてそれほど肝心と思える事ではなかった。
 それよりも、一番重要なのは――。
「……ローカス、だと……?」
 エドスの額を、一筋の汗が伝う。
 一体、彼の頭のどこからそんな中途半端な名前が出てきたのだろう。彼ら二人に面識はあったか?……覚えていない。仮にあったとしても、それはほんの一時の事だろう。しかもバノッサは何故そこで頬を染めているのか。まさかこいつ、そういう趣味に目覚めて――。
「……あ、ああ。分かった。呼んでこよう」
 そう言ってエドスはカノンに同情の眼差しを向けると、ローカスを呼ぼうと振り返る。
 ――その時。
「俺がどうした?」
 廊下から、派手な見た目のわりにはこれといった特徴のない、中途半端な容貌の青年が姿を現した。片手に斧を持っているが、例によって蒔き割りをしていたのだろう。
 ローカスはバノッサの前まで歩み寄る。
 ――向かい合った二人の間を、不気味な沈黙が包み込んだ。
「…………」
 長きに渡る静寂。それをようやく破ったのはバノッサであった。
「――――こんな奴、いたか?」


「ウソつくんじゃねぇ、テメェがローカスなワケねぇだろうがよ!!」
「ふざけるな、ローカスは俺だ!!」
 食後のデザートの果物を頬張っている最中、突然二人の男の大声がフラット内に響き渡った。
 全員が顔を上げ、ガゼルに至っては驚きのあまり口から果物を噴き出している。
「プッ……!」
 その騒ぎを耳にした中で、アヤだけが肩を震わせて含み笑いを続けていた。
 バノッサの意味不明な発言――その原因が彼女にある事は、一目瞭然である。
「アヤ……お前、またアイツをからかっただろ……」
「ふふふっ……。だってバノッサさんって、本当にからかい甲斐があるんですもの」
「根っからのバカだからな、アイツは」
 苦笑しながら肩をすくめるガゼル。しかしその言葉にアヤは首を横に振った。
「それだけじゃありませんよ。バカな上に、無駄に態度がでかくて身の程知らずで性欲全開で井の中の蛙でいい年して定職にも就かずに不良グループなんかを仕切ってるロクでなしです」
「…………」
 でも、そんな所も私はなぜか好きなんですけどね、と一人つぶやき微笑むアヤ。だが最後の言葉は他の者の耳には届いていなかったようだ。
 ……ただ一人、口元でカップを止め、中のコーヒーをだらだらと膝に垂らして続けているソルを除けば。


「ローカス、ローカス出てきやがれ!!俺との事は遊びだったのかぁッ!?」
「色んな所に突っ込み所が多すぎて困るが、とりあえず俺の名前で妙な事を口走るのはやめろ!!」
「……バノッサさん。僕そろそろ飽きてきたんで帰りますね」
 バノッサとローカスの喧騒を背に、カノンはあくびをしながら爽やかな朝の日差しに溶け込んでいった。
 ――サイジェントの平和な日常が、今日も賑やかに幕を開ける――。


おわり

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