ルヴァイオ



コンコン。
控え目なノックでも、灯りがほとんど落とされた夜半過ぎの屋敷には充分な大きさで響く。
「失礼します」

「入れ」と簡潔な返答を確認すると、イオスは出来るだけ音を立てないように扉を開け部屋に入る。
そこには未処理の書類の整理をしていたのだろうか、こんな時間でも机に向かっているルヴァイドの姿があった。
「来い」
ルヴァイドはイオスの方を振り返る事すらせず、またも簡潔な命令を下す。
無言で近寄って来たイオスが、後、数歩で辿り付くといった距離になり、ようやくルヴァイドは書類から目を離し、イオスの方に向き直る。
卓上のランプの灯りだけを頼りに浮かび上がるその姿は昼間とは異なっていた。
いつもの漆黒の軍服に小さな双丘がふたつ。
こんな夜更けに呼ばれる理由を熟知していたイオスは、日中はきつく巻き付けているサラシを着けていなかった。
標準に比べて随分控え目な大きさの胸ではあるが、それでも細身の身体に合わせて作られた軍服が少しきつそうに見える。
ルヴァイドは腕を伸ばし、イオスの細い腰を掴み引き寄せると、そのゆるやかな双丘の谷間に頬を寄せる。
身体の中心に向けて吐かれるルヴァイドの熱い息を受け止めたイオスの身体が、一度大きくビクンと震えた。



ルヴァイドは大きな任務が終わると大概、イオスの身体を求めて来た。
戦闘で荒ぶれた精神を沈めるかの様に激しく執拗なまでに。
最初は己の全てを奪った相手に、一矢報いる隙を伺う為に身体を許していた。
それを相手も承諾の上での関係だった。
だが、イオスの読みはいつも相手には熟読されていて、その寝首を掻きに行く度に手酷くも甘いしっぺ返しを喰わされた。
そしていつしか気がつくと、その手中に身も心も捕らわれていた。
だが、その事を認めてしまうと、己が敵軍で槍を振るい続ける理由が消えてしまいそうで、独り寝に身体が火照る夜もイオスの方から求める様な真似はしなかった。
そんなイオスの葛藤を知ってか知らずか、肌を重ねる回数を増す毎に、深夜の呼び出しが多くなった。
直属の上司の命令に逆らえる筈も無く、イオスは葛藤に苦しむ心と期待にときめくふたつの矛盾した気持ちを抱えて、今夜もその身を委ねにルヴァイドの自室に足を運んだ。


ルヴァイドはイオスの胸元に顔を埋詰め、腰を抱えた方とは反対の手で軍服の上から円を描く様に淡い膨らみを撫でる。
まるで羽根に触れるかの様に焦らすその刺激に、イオスはルヴァイドの座る椅子のわずかな隙間に片膝を付き、目の前にある頭を両腕で抱えて堪える。
頭を強く抱え込まれても、ルヴァイドは一向に気にした素振りを見せずに、その無骨な指には似つかわしい繊細な刺激を与え続けるのをやめない。
そんな優しい刺激に、逐一過剰に反応する自分の方が誘ってるみたいで、イオスは居たたまれなくなる。
既に身体の重心を預けている片膝が震え出している。
「……お願…です…ら、ベッドで……」
いつもは見上げてくる紫水晶の瞳は潤み、真っ直ぐルヴァイドを見下ろしている。
切望する声も、いつもの男声を真似て低く作った声でなく、高く澄んだ、そして甘さを含んだそれに代わっていた。
ルヴァイドは縋る様にしがみつくイオスの膝裏に腕を廻すと、軽々と抱き上げる。
自分の身体がさらに不安定な状態にある事を察したイオスは、ルヴァイドの頭を締め上げていた腕を解き、今度はその首に巻き付ける。
が、それが本来、上官に対して取る礼ではない事に気づいて、一瞬躊躇する。
と、その時、ベッドの柔らかいスプリングの上に横たえられる。
イオスはその優しい感触に触れ、「抱きついておけば良かった」と後悔の念が沸き上がる自分の浅ましさを疎ましく思った。

されるがままに手足を寝台に放り投げている部下を抱き込む様に、ルヴァイドはイオスの上に覆い被さる。
焦点も甘い視線に至近距離で射抜かれて、何かに憑かれたかの様にしっとりと潤んだ唇を貪る。
何度も角度や強弱を変えて唇を奪う内に、新鮮な空気を求めて僅かに上下に開かれたその隙を突いて、口内に舌を侵入させる。
「……ふ……っん……!?」
突然の侵入者に驚いて本能的に逃げの動きを見せるイオスの舌を強引に捕らえ、きつく絡ませ、強く吸い上げていると、投げ出されていた筈のイオスの両腕がルヴァイドの背中に廻され、その軍服をぎゅっと握り締めている。
そんな様子がルヴァイドの瞳にはひどく愛らしく映り、もっと縋らせたいと、相手に聞こえる様にわざとぴちゃぴちゃと水音を響かせて口腔を犯し続けた。
イオスはその間、瞳を固く閉じてその舌技に耐えていたが、目を閉じているから一層、自分の口の中で行われている交わりが直接的に伝わってきて、より官能が刺激される。
ようやくその唇を堪能し尽くす事で満足したルヴァイドが身体を引き起こした時には、既にイオスは上気した身体を薄桃色に染め、息も絶え絶えといった態で固く瞳を閉ざしている。
別にこれが初めての交わりでもないというのに、いつまでもうぶな反応を見せる相手に情欲を感じながらも、ルヴァイドは気遣いの言葉をかける。
「……イオス、大丈夫か?」
少し意識が遠のきかけていたが、上官の深く静かな声が
自分の名を呼んでいる事に気づくとうっすらと瞼を持ち上げる。
大きな瞳は潤みきっていて今にも大粒の涙が零れ落ちそうだった。
「……ルヴァ…ド…さま……」
イオスは相手の背中に廻した両腕の力を強めて応える。
力を込めすぎて強ばったイオスの身体をほぐす様に、その頬にひとつ口づけを落とすとくすぐったそうに相好を崩す。
笑うとより幼く見える相手の様子を伺いながら、ルヴァイドは行為を続ける。
もう一度軽く唇と頬に口づけを落とすと次はその首筋から耳許にかけて舐め上げる。
「……やぁっ……!」
先程の濃厚な口づけですっかり官能を高められていたイオスは僅かな刺激にも面白い程過敏に反応を返す。
ルヴァイドはその反応を愉しみながら今度はすっかり朱く染まった耳朶を口に含む。
部屋には隠し切れずに漏れるイオスの啼き声とその身に纏った軍服の留め具を外すパチンパチンという音が響いていた。
軍服からはだけたその肌は軍服の黒とは対照的に真っ白だった。
日焼けにはおよそ縁遠い、デグレアの雪の様な肌をもっと見たくて手忙しく脱がしにかかる。
イオスは抵抗する事もなく大人しくされるがままになっていたが、ルヴァイドの熱い視線から逃れる様に顔を背向ける。
だが、そんな事で行為が止められる訳がなく、次第にイオスの生のままの姿が外気に晒されていく。
さらしが巻かれていない為、プルンとこぼれた胸は大きさこそ小振りだが、張りがあり形良く、先端は肌より少し濃い桃色に染まりピンと屹ち上がって一生懸命自己主張している。
華奢な造りの身体の中でもさらに頼りない細い腰は、片腕一本で簡単に折れてしまいそうだ。
イオスの女の部分を隠す様に固く閉じられた両腿は陥落難航な砦の様で、ルヴァイドの闘争本能を煽り、無理矢理にでも強奪したくなる。
固く強ばった軍服を奪ってしまえば、過去やしがらみも失せて、ただ愛しいだけの存在になる。
「……お願いですから……灯りを消して下さい」
灯りの下に裸体を晒す羞恥が限界に達したのか、イオスは顔を背向けたまま真っ赤になって懇願する。
そんな羞恥に火照るイオスの姿を見ていると、ふとルヴァイドの中に意地の悪い感情が沸き起こる。
「それが上官に頼み事をする態度か?」
もはやこの状況下で上官も部下もなかろうに、飽くまで自分の優位性を誇張するルヴァイドの台詞に、イオスは素直に応える。
横たえられたままの身体を起こし、ルヴァイドの肩に手を添える。
その逞しい胸板に、固く屹った乳首ごと胸を押しつける様に身体を密着させ、イオスの方から軽く唇を重ねてから耳許に囁く。
「灯りを消してください。お願いします」
ルヴァイドもイオスを抱き締め直し、触れるだけの口づけをしてから卓上の灯りを落とす。
夜目に慣れてくると暗闇は官能的な夜の空気に味方した。




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