フレイズ×ファリエル



水晶が月明かりの下静かに輝く。
蒼白い光に浮かぶのは睦みあう男女の姿。
「……フレイズ、その、ちょっと、いいかな」
仰向けになり愛撫を受けていたファリエルがそっと呼びかける。
「如何しました?」
身を起こした拍子に金の髪がファリエルの肩に落ち、
そのまま突き抜け地面に届く。
大人になりきらぬ体は実体を持たない。触れることすら叶わぬ朧。
先程までの愛撫も実際に肌を合わせてはいない。夜気とファリエルとの間をなぞるだけの行為。
それでも好きな相手にされているというだけで頭の芯がぼうっとなるが、
「少しそこに座ってくれる?」
「は、はあ……」
足りない。彼も。自分も。
ひんやりとした水晶の柱に羽根に気をつけつつ背中を預けるフレイズ。
その股間には天使にはそぐわない屹立。
このままでは収まりがつかないだろう。
だから。
覆いかぶさるようにしてフレイズを抱く。
「ファリエル様?!」
小ぶりな胸が目の前に来て、フレイズは焦って目線を上げた。
誰よりも大切な少女が微笑んでいた。
「大丈夫……大丈夫だから……」
それは相手に向けてのものなのか、初めての行為へと僅かに残る恐怖を宥める為なのか。

ゆっくりと。
華奢な身体が男に沿って下がり、
白い裸体の、生身なら膣にあたる場所に屹立が沈む。
極薄の膜を幾重にも押しのけ絡みつかれるような感触。
肉の確かさの代わりにもどかしい位の柔らかさと甘い冷気が覆う。
動く度に擦れまた絡む。隙間なく埋まっているから快楽は零れることはない。

魂の繋がりを至上のものとするが故に、肉の交わりを軽視していなかったと言えば嘘になる。
けれどそれは知らなかったからだ。今なら何故ヒトがこの行為に溺れるのか理解できた。

ファリエルの幼さの残る顔に蕩けてしまいそうな喜悦の色。
たぶんフレイズも似たようなものだろう。上擦る吐息は混ざり合って区別がつかない。

それだけではない。

繋がった場所から、流れ込む、流し込む、
原形を失ったとはいえ精神体たる『天使』に属する存在と、剥きだしの魂だからこそ、
直に伝わる感情。
好き。愛しい。欲しい。互いだけを見て。他のものなんていらない。
唯あなただけが。

ファリエルが震える。異なる冷たさの層が圧し込めてきた。
深く、もっと深くと突き上げる。華奢な身体が大きく仰け反り、それでも快楽を
ひとかけらでも逃すまいとするかのように腰を沈めて。
限界まで熱く張りつめた部位へ、ひときわ重く冷気に似た圧力。
高く泣くように名を呼ぶ声。ほの白い腹へぎゅうと波がはしり。

白く濁った体液が水晶の地面へと撒き散らされた。


「ごめんなさい……」
「ファリエル様……」
辺りを汚す体液は乾き始めていた。それを見てファリエルはうつむく。
どんなに望んでも、この身は実体を持たぬあやふやな存在。
生身の女なら受け止められるであろうそれも、自分では無様に散らすことしかできない。
悲しくて情けなかった。
「ごめんなさい、フレイズ……っ?!」
謝罪を繰り返す唇がふさがれる。
重ねるだけの、否、寄り添わせるだけの接吻。
なのに温かいと感じた。
「愛しています、ファリエル様」
端正な顔には真剣な色が浮かぶ。
「貴女には幸せになってほしい。その為なら私は喜んでこの身を捧げましょう。
 だから、笑っていて下さい」
小さな白い手に恭しくくちづける。お伽話の騎士を思い出した。
じゃあ姫役は自分なんだろうか、と考えてファリエルは軽く息を吐きだす。
血の流れない身体なのに体温上がった気がする。
「フレイズって恥ずかしいこと平気で言うのね」
「私は恥ずかしくありませんが」
「……もう、いいです!」
ぷいとそっぽを向き、直ぐに慌てるフレイズへと微笑む。
幸せそうに。愛しげに。


End

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