天使は舞い降りた



「ウオオオオオオオォォォォォォッ!!」
遺跡に響き渡る咆哮。
リィンバウムに幾多の災いをもたらした大悪魔メルギトスの断末魔の叫び。
しかし、朽ちようとしているメルギトスの体に走る無数のひび割れから漏れ出す源罪。それは悪魔がもたらす人間を堕落させる黒き風。

「これじゃ、また同じじゃないか!繰り返しになっただけじゃないか!イヤだよ・・・っ!アメル・・・っアメルぅぅ〜ッ!!!」
天使の魂のかけらである少女の力と源罪の衝突。それは、彼女を愛した青年の悲痛な叫びをもかき消し、世界は光に包まれる。


メルギトスそのものと化した機械遺跡は1本の大樹・・・いや、少女アメルに抱かれ永遠の眠りについていた。
その大樹の下で彼女を見上げる青年が2人・・・
「早いものだな・・・あれから、もう季節がふたつも巡っていったなんて・・・」
傀儡戦争と呼ばれるメルギトスのリィンバウム侵攻から2年。
かつての戦いが、わずか数日前に行われたような錯覚を感じつつネスティはつぶやく。
「聖なる大樹・・・この樹が、アメルだって知っているのは、たぶん俺たちだけ・・・あの時から、ずっと邪悪な魔力を吸収して浄化し続けているのも」
マグナが愛おしそうに彼女に触れた。
「だからこそ・・・僕たちはこの樹の、いや、彼女の護人になったんだ・・・いつか、この樹の中で眠りについている彼女が起きるのを信じて」
「あははは・・・っ、起きるかどうかさえもわかってないのにな」
自嘲気味なマグナの乾いた笑いは、幼いころから一緒にすごしてきたネスティにとってこの上なく痛々しく見えた。
「不甲斐ないな・・・これだけの月日を使って、調べているというのに・・・手がかりさえも・・・つかめずに・・・ッ」
「ネス・・・?ごめん、俺・・・自分1人だけ、勝手に悲しんでると思って。ネスの気持ち・・・考えてなかった・・・」
悲しそうな顔をするマグナに、ネスティは首を横に振る。
「いいんだ・・・それよりも・・・笑ってあげなくちゃな。彼女のために・・・僕たちは、笑っていなくちゃいけない。彼女の分まで、幸せにならなくちゃ・・・」
「うん・・・」
もう一度2人は彼女を見上げた。マグナはそっと目を閉じ、彼女に語りかける。

聞こえるかい、アメル・・・君の愛したこの世界は今もここうして息づいているよ・・・
相変わらず、俺たちは不器用な生き方ばかりしかできてないけど・・・でも、君は言ってたよね・・・
人間は自分自身の力だけで変われるんだって・・・そんな人間のことが愛しいって・・・
だから、俺も信じるよ・・・いつかきっと・・・誰も悲しまずにすむ未来がこの世界に訪れるって・・・
だから・・・・・・
ずっと、ずっと、この場所から、俺たちを見守っていてくれるかい?・・・・・・なあ、アメル・・・


――いるよ・・・――
「えっ?」
声が、聞こえた気がした。

――ここに・・・ここに、いるよ・・・――
「どうしたんだ?」
「この声は・・・まさか・・・っ?」
確かに、声が聞こえた。

――やくそく・・・したから・・・かえって・・・きたんだよ・・・――
聞き間違えるはずも無い、この声は・・・
「アメルの声だ・・・っ、間違いないっ!」
「なにを言ってるんだ!僕には、なにも・・・」

――ほら、ここ・・・あなたの・・・すぐ、そばに・・・――
「アメルっ!」
「マグナっ!どこへ行くんだ!?」
頭で考えるより先に、走り出していた。

サワサワ・・・
風が吹き、枝が揺れる。葉と葉の間から差し込む光の先に、彼女は・・・・・・アメルはいた。
「アメル・・・っ!」
ネスティがぶんぶんと首を振る。
「そんな・・・信じられない・・・。僕まで・・・幻を見てるとでもいうのか・・・!?」
「幻なんかじゃない!!アメルは・・・っ、帰ってきてくれたんだ。俺とした約束のために、帰ってきたんだよ!」


――約束・・・彼と彼女との約束・・・それは、メルギトスと彼の率いる悪魔たちとの最後の戦いに赴く前日の夜に交わされた、ひとつの約束・・・――

「貴方に出会えたことが、本当にうれしいの。貴方の側にいられて、・・・好きになった人が、貴方で・・・」
「アメル・・・」
月明かりの下、永い時を経て運命的な再会を果たした二つの想いが、一つに重なる。
「捕まえていてください、あたしのことを・・・もう二度と・・・離ればなれになんか、ならないように・・・」
「うん・・・」
寄り添うアメルの体をギュッと抱きしめた。シャンプーの爽やかな香りが、早鐘を打つマグナの心を少し落ち着かせる。
(うわ・・・アメル、やわらかくて、いい匂いで・・・)
小さな感動と共に、少し心の余裕ができたマグナに、小さな欲望が顔を出す。
「・・・・・・マ、マグナ・・・」
「・・・! あ、いや、これはその・・・」
気がつくと、マグナの欲望に忠実な部分がアメルに当たっていた。パッと離れると、ばつが悪そうにそっとアメルの顔を見る。
アメルは、いたずらっ子のような、それでいてとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「・・・マグナ、ひとつ、お願いを聞いてくれませんか?」
「・・・な、なんだい?」
「この戦いが終わったら、あたしを・・・・・・抱いてください」
「え・・・・・・えっ!?ええっ!!?」
既に赤かったマグナの顔が真っ赤に染まる。この場合の『抱く』とはもちろん『抱きしめる』事ではなく、つまりは・・・
「貴方と、ひとつになりたいから・・・貴方のこと、もっといっぱい知りたいから・・・・・・ダメ、ですか・・・?」
「ううん!そんなことないって!・・・約束しよう、アメル。そのためにも、絶対に勝ってみせるから!」
「ええ、約束ですよ?」

――約束・・・彼と彼女との約束・・・それは、メルギトスと彼の率いる悪魔たちとの最後の戦いに赴く前日の夜に交わされた、ひとつの約束・・・――


「ん・・・っ、ふぁ、あ・・・っ」
小さなあくびをしてアメルが目をあける。
「アメルっ」
「あ・・・っ、マグナ・・・おはようございます」
「お、おはよう・・・っ」
「あたし、ちょっと寝坊しちゃったみたいですね・・・お腹すていてるでしょ?ごめんね、すぐにご飯の用意しますから」
ごく短い昼寝から目覚めたかのように、普段と変わらないアメルの姿がそこにはあった。
まるで自分の方が2年間も悪夢を見ていたかの様な錯角さえ覚える。
「いいんだよ・・・っ、今、俺・・・っ、胸がいっぱいだからっ、いいんだ・・・っ!」
「どうしたんですか?なにか、悲しいことがあったんですか?」
「アメル・・・っ!!」
涙目になりながら、アメルをぎゅっと抱きしめた。マグナの意外な行動にアメルは顔を赤くして慌てる。
「あ・・・っ、は、恥ずかしいですよ。マグナ。あたし服をどこかでなくしたみたいで・・・っ、裸、だから・・・んんっ!?」
一糸纏わぬ姿で眠っていた彼女を見た瞬間に、マグナの理性は一気に削り落とされていた。
思うままにアメルの柔らかい唇を奪った。舌を割り入れ、彼女の舌に絡ませる。
「・・・あ・・・」
アメルの目がとろんと虚ろになり、がくんとひざを折る。マグナが体を支えると、手早く派閥の制服の上着を地面に敷き、その上に横たわらせた。
「アメル、俺、あの時の約束を果たしたい。アメルが欲しい」
アメルの上に覆いかぶさり、彼女を求める。アメルはマグナを見つめ、こくんと頷く。
「嬉しい・・・。マグナ、あたしもずっと待ってた・・・あたしも、貴方に抱かれたい・・・」


マグナはアメルのひざに手をかけた。恥ずかしさからか、僅かな抵抗があったもののマグナはそのままアメルの両脚を割り開く。
『待っていた』との言葉の通り、既にアメルのそこは蜜を湛え、溢れさせていた。
「・・・そんな、あまり見つめないで・・・」
アメルの声も耳に入らず、軽い感動を覚えるマグナは、神秘的にさえ思えるそこに口をつけた。
「ひゃうっ!」
刺激が強かったのか、可愛らしい嬌声をあげる。
(可愛い・・・)
マグナの可虐心に小さな火がついた。もっとアメルの嬌声が聞きたくなり、そこに舌を割り入れる。
アメルにも聞こえるようにぴちゃぴちゃと音を立ててみる。
「や、やだ・・・きゃうんっ・・・ひゃうんっ!」
アメルは真っ赤な顔を手で覆って今にも泣き出しそうだ。
さすがにやり過ぎたかな、とマグナはアメルの手を除けると頬に優しくキスをして落ち着かせた。

愛撫によって2人の身体は限界まで高まっていた。
マグナは着ているものを全て脱ぎ捨てる。アメルを求めいきり立つモノを入り口に押し当てた。
「・・・いくよ・・・?」
アメルは首を縦に振り、肯定の意思を送る。
「・・・っ」
先端が少し飲み込まれた所で、手応えが強くなった。アメルから声が漏れる。
緊張と恐れで硬くなっているアメルの唇を塞ぎ、舌を絡ませる。身体の力が抜けた所を見計らい・・・・・・一気に貫いた。

「んんんんっ!!」
固く閉じられた目から涙が溢れる。やはり破瓜の痛みは相当のものなのだろう。
「アメル、大丈夫・・・?」
2人の繋がった部分からは紅いものがぽたぽたと垂れていた。
マグナが何か気付いたのか、あまり動かないように、
――アメルに痛みを与えないようにと言うより、少しでも動けば暴発してしまいそうな自分を抑えつつ――
アメルの下にある上着のポケットをまさぐる。
「・・・召喚」
紫のサモナイト石が光り、サプレスの聖霊リプシーが現れる。
小さな手をアメルの下腹部に当てると、その部分が淡く発光した。
リプシーを送還した後、しばらくアメルを撫でてやる。彼女の涙も収まり、マグナにも少しの余裕が生まれる。
「・・・ごめんなさい、マグナ。あまり痛くなくなったから・・・動いて・・・」
「俺、初めてだし、痛かったら・・・ごめん」
彼女の泣き顔を見ても、やめようか、とは言えなかった。本能が彼女と離れることを拒否している。
彼女の優しさに甘える事を謝り、ゆっくりと腰を動かし始める。
「ああっ・・・」
幸いにも、リプシーによる治癒はかなり効果があったようだ。アメルの声に、苦痛の色はほとんど無かった。
マグナが、少しずつ動きを激しくしていく。彼女の膣は、2人の境目を溶かすように熱いほどだった。
2年もの間、想い続けた相手と交わっているという事実は、2人の快楽に拍車をかける。
「好きだよ・・・!アメル・・・っだから、もう絶対に、どこへも行かせない・・・ずっと、このまま俺の側にいてくれよ、お願いだから・・・っ」
「・・・あたしも、貴方のこと、好きです・・・だから・・・もう、泣かないで・・・あたしの大好きな、貴方の笑顔を、見せて・・・」
シンプルに削ぎ落とされた思考が、マグナ、アメルの素直な想いを口にさせる。
「アメル・・・俺、もう・・・!」
「マグナ・・・っ!」
真っ白になりそうな淡い思考で、本能で、互いを求めて強く抱き合う。
「うあああああっ!!」
絶叫に近いほどの2人の嬌声と共に、アメルの奥底にマグナの想いが満たされていった・・・


大樹の下で、2人はそのまま並んで寝転んでいた。乱れた呼吸もおさまり、風が火照った身体に気持ちいい。
「あっ、アメル」
「はい」
首を、アメルの方に傾ける。アメルと見つめ合う形になる。
「あんな事しちゃった後で何だけど、まだ君に言いたいことがあったんだ・・・」
「なんですか?」

――・・・・・・おかえり――

――・・・ただいま!――

FIN




おまけ
不意に、マグナの視線が下に流れる。アメルの胸、腰、そして・・・
「マグナのえっち!」
「ご、ごめん、アメル!」
服の無いアメルはもちろん、マグナもまだ一糸纏わぬ姿のまま。
そして、あれだけ激しく愛し合ったにも関わらず、既にマグナのモノは復活を果たしていた。
「・・・アメル、あのさ・・・」
「なんですか?」
むくれた表情でアメルが言う。ダメで元々だ、とマグナは覚悟を決めて続ける。
「もう一度、アメルと・・・その・・・したいんだけど、ダメ・・・かな」
「ふふっ・・・」
笑われた。・・・やっぱりだめか・・・と今の発言を少し後悔する。
「いいですよ」
「・・・えっ?」
何とも間の抜けた声を上げる。アメルは上目遣いにマグナを見つめていた。
「あたしも、もっとマグナに・・・して欲しいですし・・・」
「アメルっ!」
「ちょ、ちょっとマグナ、もうちょっと優しく・・・ひゃあんっ!!」



「・・・・・・僕は、放置か・・・」
愛し合う2人にすっかり存在を忘れ去られ、ネスティはそっと呟く。
彼の脳裏には、融機人のデータベースから引き出された『ギシギシアンアン』なる言葉が浮かんでいたとかいないとか。


おしまい

目次

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