僕の憂鬱と君の温もり。



しんと静まり返った蒼の派閥の図書館に、少女の足音が響き渡る。

右手には勉強道具一式の入った鞄を肩から掛け、左手にはつい先程返されたばかりの 試験の答案を握り締めているその少女――トリスはまるでかくれんぼの鬼が誰かを探してるかのように 部屋の片隅を覗いてはまた別のところを覗くという動作を繰り返す。
彼女には珍しく、初めて一回目で及第点を取れた答案。
これを試験前日に、ずっと夜中まで根気良く勉強を見てくれた兄弟子のネスティに真っ先に見せたくて、 トリスは彼を探していたのだった。

トリスの足はやがて図書館の端の、機界ロレイラルの召喚術を取り扱う書物の部屋に辿りつく。
4つの異世界の中で特に謎が多いとされる機界を専門とする研究者や召喚師は少ないうえに 昼時という時間もあってか部屋には人がほとんど見当たらず、ただ1人部屋の隅で 召喚術理論の本を読んでたのが、先程から探していた兄弟子だった。
本に熱中してトリスの存在に全く気付かないネスティに声を掛けようとしてふと躊躇い、 そしてほんのささやかな悪戯心が芽生える。
(ミモザ先輩から教えてもったアレ…やってみよっと♪カタブツな相手ほど効果的だって言ってたしね)
本に熱中している後方からそっと近づき、手を伸ばせば触れられる距離まで近づいた時に見た 横顔は憂いを帯びて綺麗で、普段怒った顔しか見てないトリスにとってそれは新鮮な発見だった。
トリスはネスティに気づかれないように彼の座っている椅子の真横にそっと立つ。
「ネス、ネス〜」
声に気付いたネスティが視線を本からゆっくりと声のした方向に向ける。
「ん…トリス…?君がこんなところに来…」
「えいっ♪」
振り向いた彼の頭を引き寄せるように自分の発育途上の胸の谷間に近づけ、一気に押し当てる。
「どう?キモチいい〜?」
「なっ……!」
奇襲に驚いたネスティの反応に楽しくなったトリスは、顔を埋めている彼をさらにぎゅっと抱きしめ、 小さな胸をそっとすり寄せる。
「うふふ…実はネスってこういうの好きだったりするでしょ〜?」
普段色々と怒られている仕返しとばかりに真面目な兄弟子をからかう。
「……っ……はぁ………はぁ……」
薄い夏服の生地越しにネスティの体温とわずかに速い息遣いを感じ、いつの間にか 背中に回っている彼の手が動く感触の妙な心地良さにトリスは何となく頭の芯がぼんやりとして、 甘い微熱が身体のある一点を中心にして疼きそうになるのを感じたその時だった。
「きゃっ!」いきなり強い力で肩をつかまれる。
それからゆっくりと彼女のほうを見上げたネスティの顔が怒りに震えてるように見えた瞬間、 トリスの高揚感はバベルキャノンを放った後の敵軍の如く消滅して現実に返る。
「あ…怒ってる?軽い冗談だったんだけど……ご、ごめんなさい!」
悪戯が通じず彼を怒らせたのだと判断したトリスは慌てて謝り、そしてその後に続くであろう 長い長ーいお説教を覚悟した、のだが。
何故だかネスティは無言でトリスを押しのけて立ち上がり、ずれて外れかけた眼鏡を直すと、 読んでいた本を元の棚に戻してそのまま部屋を出て行こうとする。
「…ネス、どこへ行くの?」
「別に君には関係ないだろう」
一切の感情を取り払ったような機械的な声で告げると、閉じた扉とともにそのまま彼の姿は消えた。
「ネス……………?」

図書館を出たネスティの足は人目を避けるようにして彼が寝起きする召喚師用の寮に辿り着く。
ちょうど午前と午後の講義の境目の時間のせいか、寮にはほとんど人はいない。
自分の部屋に入り扉に鍵を掛け、窓に近づき部屋の外と中の間を遮るという効果にだけは長けた 無愛想なカーテンをしっかりと閉じ、纏ってたマントや上着を乱暴に脱ぎ捨て、 粗末なベッドに身を投げ出すようにして横たえる。
「………はぁ……はぁ……」
少し早足で歩いただけなのに呼吸は荒く、黒い瞳は熱を帯びて潤み白い肌は紅潮し汗が浮き出ていた。
ズボンと下着をまさぐって、既に充血して硬く膨張している男性の部分を取り出し、 手の中に収めて表面をそっと指先で慰める。
「……………………………ん…っ…」
身体を走る甘くて苦しい感覚を味わいながら、ネスティは最愛の少女のことを想った。

初めて出会ったころはまだ幼い子供だったトリス。
当初は憎んですらいた相手に、たとえ彼女が調律者の末裔で自分とは因縁深き者であることとは 無関係に、トリスそのものに徐々に惹かれていって。
機械のように生きようとしていたネスティを変えたあの笑顔、それがたまらなく愛しかった。
そしてトリスが子供から少しづつ女性に近づいてくる年頃には、兄妹弟子という関係や 家族のように育っている間柄というのとは別種の、もっと強い感情を抱いていることを自覚する。
他のことをしている時でも気がつくとトリスの事を考えていたり、一緒にいるときには 彼女の言動一つ一つがひたすら気になって落ち着かなくて、それでもずっと一緒にいたくて。
それがいわゆる「恋心」と呼ばれるものだと彼の知識が冷静に分析した上で、 現在置かれている自分の状況、生きてきた年月よりも遥かに多くの事を知り尽くしている故の老成、 そしてそれらから導き出される諦めという結論。
(それでも僕はトリスと一緒にいたいから…トリスといることだけが…僕にとっては…)
だからせめて、トリスの信じる彼の姿のまま、厳格な兄弟子という仮面をつけ優等生という 演技を続けることで抱く想いと暗い記憶を一切知られぬようにして、その上でトリスの側にいて その成長を見守ろうと思った。
いつかトリスが一人前になり、そして何一つ知ることのないまま自分から巣立って離れていくその時まで。

しかしそんなネスティの心を全く知らないトリスの言動は時として彼を掻き乱すことになる。
あの時突然彼に触れたトリスの体。
服ごしに伝わる体温と、小ぶりだが柔らかくて心地良い乳房の感触。
何も知らずに発せられる、男を誘うような魅惑的な言葉。
それらに対して彼の理性が適切な判断を下す前に、肉体の奥底から生じた「欲しくて手に入れたい」 という本能的欲求は体のあちこちの機能を掌握して、普段は必死に抑え込んでいる 彼女に対する情欲は理性の防護壁を破って溢れそうになる。
もしあの時トリスがいつもの表情で「軽い冗談」だと言わなかったら、あれ以上少しでも彼の劣情を 暴発させるような言動を見せていたら、もしかして今頃彼は図書室の床に彼女を押し倒してその身体を… ぎりぎりの所で見せずに済んだ肉欲を、何とか回復した理性を総動員して表に一切出さないよう押さえ、 そして機械的な動作で彼女から逃げるのが彼に出来る精一杯だった。

ネスティの両手に握られている男性の部分は強弱をつけて擦り上げる度に怒張の度合いを強めていく。
感じる刺激は徐々に強まり、抑え切れない喘ぎが荒い呼吸の合間に漏れた。
「あ………う…っ……はぁ…はぁ……」
肉体と精神の興奮が継続しているせいで、普段隠している機械の部分が顔や手の甲に すっかり浮かび上がっていたが、それすらも気にならなかった。
湧き上がる情動に身も心も任せた彼の脳裏に浮かぶのは、トリスの姿。
彼女の唇に自分の唇を重ねて、細い首筋や幼さが残る肢体に唇を這わせ、跡が残るくらい口づけて 華奢な胸の膨らみに顔を埋め愛撫し、頂点の尖りを口に含んで舌でその感触を味わいたい。
「く…っ………あ……」
我慢できずに漏れ出した体液で濡れた細い指で、すっかり反り返ったソレの根元から先端までを 強く扱きながら尖った部分の先を捏ね、そこから広がる快楽に酔いしれながら、 愛しい少女を想像の中で汚す。
(…トリス…僕は君が欲しい…何もかも…他の誰にも…渡したくないんだ…)
トリスの細い足を開かせて、その間に隠された秘裂から最奥まで自分の欲望で貫き、 犯される感覚に悲鳴をあげる彼女の熱い内部を雄の部分で貪欲に味わって存分に味わわせて、 やがてあどけない表情が淫らに歪み彼をもっと欲しいと乱れて、彼女の肌に自分の肌を重ね、 唇を重ねて舌を絡ませながら激しく抱き合って、交わっている場所を溶け合いそうなほどに蹂躙して、 彼女の口からは艶やかな喘ぎ声が漏れ、そして互いの身体を貪り尽くして、 彼女の中に欲望を何度も注ぎ込んで自分だけで満たして…
「くぅっ……はぁ…はぁ……………と…り…っ」
限界までに張り詰めたモノは昂りに耐え切れずに弾けて、頭の中が白くなるような感覚をもたらす。
激しく脈打ちながら放たれる精液は、手の中に収まり切らずに着衣やシーツを汚した。

「はぁ…はぁ…」
射精後の脱力感に支配された身体が、閉め切られた部屋の澱んだ空気を吸い込む。
手にべっとりと貼り付いた粘液が徐々に熱を失うにつれ、ようやく自分の中に理性が戻ってくるのを感じる。
(…本当に愚かだな…僕という奴は…)
どうしても寝付けない夜や、悪夢を見て目覚めた後は彼女を想って何度も慰め、 そしてその後に訪れる自己嫌悪はいつもの事だったが。
カーテンの隙間から漏れる太陽の明るさ。ベッドに横たわる愚かな自分の姿。
こんな昼間から、光のろくに差さない暗い部屋で一人ケダモノのような行為に耽っていた自分に 普段にも増して自身に対する嫌悪感が込み上げる。
彼にとっては一番大切な、何よりも愛しい存在を愚かな欲望で侮辱していた自分に。

手についた粘液をいくら洗い流しても、手に染み込んだ感触はなかなか消えてくれなかった。
それでも何度も何度も手が痛くなるほどに執拗に手を洗う。
「うっ…」胃から喉を伝って込み上げる不快感。耐え切れずに中のものを流しに吐き出した。


しんと静まり返った召喚師用の寮に、少女の足音が響き渡る。

トリスの部屋に兄弟子が来ることのほうが多かったせいもあり、一人前になって部屋を引っ越した
兄弟子の部屋を訪ねたことはあまりなかった。
それゆえ彼の部屋がどこにあるかよく分からなかったし、ましてトリスは普段から方向音痴であった。
(しかしネスって凄いよな…どこ行っても道に迷ったことなんてないし、あたしが脱走してどこに隠れても  すぐ見つけちゃうんだから…)
確か一番上の階にあったかもという記憶に基づき階段を上り、最上階にある共同の洗面台の片隅で 彼女は探していた人物を見つけた。
先程まで纏ってた服装は着替えたらしく、普段着らしい暗い色の上下を着ていた。
周囲には何だか鼻をつく嫌な感じの臭いが漂っている。

「ネス……………?」彼をなるべく刺激しないように、ほんの小さな声で名前を呼ぶ。
振り向いた彼の顔色は普段に増して青白く、眼鏡の下の黒い瞳は焦点を定めないままぎらついていた。
「君か……こんなところまで一体何をしにきた?」普段より低くて暗い声音で呟く。
「その…ネスの様子がおかしかったから…具合、悪いの?」
「別に大したことじゃない…そんなことよりトリス、授業はどうした?ただでさえろくに出てないのに、  またサボるつもりか?」明らかに無理矢理作ったような厳格な兄弟子の声。
「病気なの?すごく辛そうだよ…何かあたしに出来ることがあったら言って?」トリスは彼の方へ近づく。
「病気……別にそんなんじゃない。それに僕は君に頼ろうなんて思ってない…」
「師範、呼んで来る?」
「わざわざ義……師範に迷惑掛ける程の事じゃない」
「でも………」だんだんと彼に歩み寄ってくるトリス。
「いいからほっといてくれ!」精一杯の拒絶を込めて叫ぶ。
その瞬間トリスの手が彼の手に触れる。ずっと水に触れていた白い手はすっかり冷え切っていた。
そのまま自分の温もりをネスティに伝えるようにゆっくりと撫でる。
「ネス…確かにあたしは、いつもネスに迷惑かけてばかりだけどね…でも…
 たまにはあたしのこと頼りにしていいんだよ?」
トリスの、明るくて優しい声。
「トリス……心配かけてすまない。でも僕は大丈夫だから…」
トリスを安心させるために、ネスティは微笑みを浮かべる。
「ありがとう…トリス…」
そして彼女の身体をそっと抱きしめて頭を撫でる。

「トリス…ごめんな…本当に…許してくれ…」
兄弟子を信じ切って、華奢な身体を全て預けてくるトリスの温もりを感じながら謝罪の言葉を呟く。
(本当に…僕は君が信じてるような「人間」じゃないのに…それでも君は僕の側にいてくれる…
 …だからこそ…何があっても…僕はここで生きていけるんだよ…トリス)
瞳から零れた涙をトリスに見られないようにそっと拭いながら、ネスティは彼女の頭を撫で続けた。


End

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