レックス×ミスミ



ジーィ ジィ ジィ ジィ・・・
遠慮なく鳴き続ける油蝉の合唱が暑さを際立てる。
納涼の為、と縁側の柱には風鈴が吊るされているのだがいかんせん風が弱くあの清らかな音色が聞こえてくる事は無い。
その代わりであるかのようにぱきり、と茶器の中の氷が割れた音が室内に響いた。
「今日は格段と蒸すのう・・・何もこのような日に訪ねて来ずともよかろうに」
「迷惑・・・でしたか?」
「そうではない。おぬしが日射で倒れでもしたら大変であろう?」
おずおずと聞いてきたシアリィにミスミは苦笑してみせた。

「で、用向きの方は何かの?」
「ええと・・・」
ミスミの視線を受け、獣人の娘は視線を逸らす。
レックスとスバルはこの暑い中学校。キュウマもまた今日は姿を見せていない。
勉学を兼ねて読書でもしようか、と思っていた所へのシアリィの訪問であった。
元々対して懇意でもなかっただけにミスミとしてはシアリィの訪問に驚きはしたがわざわざこちらの集落にまで来たということは余程の事であろう。
(わらわでなければならない、という事なのだろうな)
シアリィの視線が宙を泳ぎ―慣れぬ正座をしている所為でもあるのだろうが―体をもじもじとくねらせる。
が、やがて意を決したかのように出された麦茶を一気に飲み干すときっとミスミを正視した。
「じ、実はミスミ様にお聞きしたい事があってきたんです」
「ふむ?」
「夫婦生活の事なんですが・・・」
成る程、と麦茶を軽く啜りながらミスミは納得する。丁度レックスとミスミが祝言を挙げた頃にシアリィとオウキーニもまた式を挙げていた。同期であり、かつ夫婦生活が二度目であるミスミなら・・・そう思って彼女は訪ねてきたのであろう。
「そういうことか。なんなりと質問にすると良い」
「は、はい。その・・・」
「?」
「夜の方、についてなんですけど」
「・・・・・・っ!?」
麦茶を噴出しそうになり、慌てて口を押えるミスミ。
夜の夫婦生活。といえばもう一つしかないだろう。
シアリィの褐色の肌が恥ずかしさ故か、可哀想な位赤く染まっている。
「別に主人のアレが立たないとか・・・そういうのとは違うんですけど・・・お互い緊張してしまって中々うまくいかなくて・・・それに・・・主人も私も経験がまったくないもので・・・」
「成る程、のう・・・」
いささか唐突ではあったが、シアリィの声色から深刻さが伝わってきた。
お互い好き合っているのに契りをうまく交わせない、というのは辛いものである。
「それで私・・・思いきって・・・相談に」
「ふふ。そういう事であれば・・・わらわに任せるがよい」
「本当ですか!?」
「うむ。殿方を喜ばせる技術を色々と教授してやろう」
ミスミはそう言って軽く胸を叩いてみせる。彼女自身それ程そういった術を知っている訳では無いが頼られて力になれない、では風雷の里の長としての面子がすたる。ミスミはそう考えた。
・・・いささか面子の立て方が間違ってはいるのだが。
「そうと決まれば・・・ちとキュウマを使いにやらねばならぬな」
「キュウマさんを、ですか?」
「うむ。今日はまだ館に顔を出してはおらぬが・・・どうしたものか」
『ご安心を、ミスミ様!』
「む」
「きゃあっ!?」
どこを探すか、そうミスミが考えるまでもなくキュウマが天井から飛び降りてきた。
「このキュウマになんなりとお申し付け下さい」
「それは良いのじゃが・・・キュウマよ」
「はい?」
「お主・・・まさかさっきの話を聞いておったのか?」
「無論です。一字一句漏らさず聞いておりました!」
「そうかそうか。ふ・・・暫く鍛錬を怠っていたからのぅ。勘が鈍っておったようじゃ」
「はっはっは・・・どうしましたミスミ様。顔が怖」

「で・・・キュウマがぼこぼこの顔で『御館様。一大事です』とか言うから俺、急いで帰ってきたんだけど」
館の寝室、布団に仰向けになったレックスが仏頂面で呟いた。
「なんで帰宅早々、ひん剥かれてるのかな・・・」
まだ頭が混乱しているといった様子で頬を掻く。下半身を覆っている布さえ取り除いてしまえば完璧に裸一貫である。
「ええい、男がぐだぐだ言うでない。相手がおらねば技術も見せれんだろう」
「すいません・・・私が無茶な相談したばっかりに」
薄着一枚のミスミと、所在無げにちらちらと視線を動かすシアリィ。

「いや。話も聞いちゃったし俺もできる限りの協力はさせて貰うよ。でもミスミ、一体何を・・・」
―する気なんだ? そう聞く前にするり、とミスミがレックスの身体に覆い被さりくすりと笑った。
「また心にも無い事を。無論・・・こういう事するために決まっておろう?」
「く・・・?」
痒みにも似た甘い疼きがレックスの身体を襲う。
ゆっくりと、ミスミの舌がレックスの乳首の上を這っていた。
(わ・・・す、すごい・・・)
予想だにしなかった光景をまざまざと見せ付けられ、シアリィの顔が紅潮する。だが行為を見逃すまい、と視線は二人から逸らされない。
「・・・んっ」
乳首を、そしてなぞるようにして乳輪をくるくると舐めていたミスミの舌がつつ、と下へ下へと降りてゆく。
手で布を取り去り、ゆっくりと身体を伝っていた舌が腰骨の辺りで一旦止まりチロチロとのたうった。
「う・・・わ、ミスミ・・・」
「んふ・・・なんじゃ。そのようにだらしのない顔をして」
腹の辺りに頭を添えたままミスミが笑って見せた。既にその顔は良き里長としての表情を消し、完全に夫のみに見せる”それ”となっている。
「こんな技術一体いつの間に・・・」
「なに。お主やヤードから文字を教わりはじめてから
どれだけ経つと思っているのだ・・・? その手の書物を読み解く事など造作も無いわ」
(いや、その誇り方はおかしいから)
頭ではツッコミを入れようとするレックスではあったがそれ以上に襲ってくる快感から意識を逸らす事の方に意識を集中していた。
気を抜けば簡単に声がでてしまいそうである。
夫婦二人だけの時ならばともかく・・・

「・・・・・・」
今は、シアリィに見られているのだ。
(まったく・・・自分の身体じゃないみたいだな)
腰辺りを愛撫していたミスミの舌はレックスの予想に反し、そのいきりたった剛直を避けて太腿の内側を滑っていた。意外な場所への刺激、行為を見られている事への興奮。普段は無いそれらの要因が自然とレックスの身体を熱くさせ、震わせた。
(まさかこれほどに効果があろうとは・・・)
ミスミもまた内心驚いていた。書物から得た知識だけに半信半疑で試していたにも関わらず、レックスの身体は面白いようにピクピクと良い反応を返してくる。
愛撫をしているのは自分であるはずなのに、頭がぼうっとなり動悸が早くなる。
「ミス・・・ミ」
愛しい人から名前を呼ばれ、背中をぞくぞくとしたものが駆けてゆく。
「だらしない顔を・・・しおって。だがまだこれからじゃ・・・」
漸くここでミスミの手がレックスの剛直に触れる。ねっとりとした舌淫が効いていたのか、先端からは既にぷっくりと透明な液が分泌されあたかも彼女が触れるのを待ち焦がれていたかのようだった。
「今度はこれじゃ」
赤黒く腫れあがった剛直がミスミのたわわに実った白い双丘によって挟まれ、姿を消す。谷間につぅ・・・と一滴の唾液を垂らすとミスミはゆっくりとその身体を上下させはじめた。
「うお・・・」
快感が堪えきれない、と言うかのようにレックスの声が漏れる。
動きが開始され程無くするとしゅにしゅにとした肌の擦れあう音が唾液と先走り汁により粘液質の物にとって替わられ、熱気の増した室内に響いた。
「くっ・・・駄目だよ」

「ど、どうした? お主がいきたいのならいつでも出してくれて構わんのだぞ・・・?」
問いかけるミスミの頭に軽く手が乗り、そのまま彼女の髪を撫でる。
「いや、駄目だね。俺だけが気持ちよくなってちゃしょうがないさ。・・・辛そうな顔してるの、まさか俺だけだと思ってないだろうね?」
「う・・・ふふ。やはりお主には適わぬわ」
ミスミは苦笑すると上体を起こし、自らの秘所に剛直をあてがった。
「前戯は無くても良さそうだね・・・あんま体に力が入らないから丁度良か・・・っ!?」
「んうっ・・・! この・・・助平め」
既に秘所が愛液で濡れそぼっていた事への照れ隠しか、レックスの言葉を遮るかのようにミスミはその腰を深く沈めた。剛直が奥まで到達した所で身体をしならせ軽く痙攣させる。
「はぁ・・・は・・・ぁ」
「挿れてすぐに軽く達する人には言われたく無い台詞かな・・・」
「お主こそ・・・。このようにピクピクとさせていてはそう持つまい?」
冗談を交し、腰がゆっくりと動き始める。
「ああっ・・・あ・・・くう・・・っ」
一定のリズムを保ちながらミスミの身体が上下する。剛直を貪るかのようにその腰が微妙に左右にグラインドし、更にお互いの快感を引き上げてゆく。
「はあ・・・ああっ・・・あああ・・・」
(い、いかん・・・腰に力が・・・)
「おっと・・・」
倒れこみそうになるミスミを上半身を起こしたレックスが支える。自然とミスミの両手がレックスの背中へと回され、互いの身体を密着させた。
そんな動作の間も接合部分は絶え間なく蠢き敷き布団には混合液によってできた染みが広がってゆく。
「あああああっ・・・あなた・・・あなたぁ・・・っ!」
「ミスミ・・・ミス・・・ミっ」

ぎり、とレックスの背中にミスミの爪が食い込む。だが今のレックスにはそれすらも心地良く感じられた。
「ミスミ。どこに出して欲しい?」
「んんんっ・・・! この・・・まま・・・中にっ・・・欲しいのぉっ・・・」
「分かった・・・いくよ」
「ああ、あ・・・あ〜〜〜〜〜〜っ・・・!」
ミスミの最奥に突き入れられた剛直が肥大し、滾りの全てを吐き出す。
それを直に感じながらミスミの意識は白に覆い隠されていった。
そんな彼女をぎゅっと抱きとめ、レックスもまた重力に身を任せ一緒に布団へと倒れこんだ。
「ふ・・・ぅ。流石に今回はハードだったな・・・」
快感の余韻に浸ろうとしたレックスではあったが、そこではたと気付き横へと目をやる。

「・・・あ」
「・・・・・・ぅぅ」
そこにはうっすらと涙すら浮かべ、塩の塊と化したシアリィが正座していた。

チチチチチチ・・・チ
蝉時雨が油蝉から蜩へと変わっていた。後数刻もすれば島に夜が訪れる事だろう。
「ミスミの奴は・・・ちょっと暴走しちゃったけどさ」
「・・・・・・?」
体力を使い果たしたのかそのまま眠ってしまったミスミを部屋に残し、レックスはシアリィを里の境まで送っていた。
「結局、夜の営みに一番大事なのはね・・・技術なんかじゃない。お互いの気持ちが通じ合うって事なんだよ。多分・・・シアリィさんとオウキーニさんは契ろう、って考えだけが先行して空回りしちゃっただけなんじゃないかな?」

「あ・・・」
思い当たる事があったのか、館を出てからというもの熱に浮かされたような顔をしていたシアリィがはっとする。
「まあ・・・あんな事して見せてた俺が言うのもなんだかおかしいけどね」
苦笑してみせるレックスにシアリィがかぶりを振った。「・・・いえ。多分先生の言ってること、間違いじゃないと思います。やっぱり、ミスミ様に・・・先生に相談してみて良かったです」
「そう言って貰えたらきっとミスミも喜ぶと思うよ。それじゃ、気をつけて」
「はい。ありがとうございました」
憑き物が取れたように笑顔で手を振り、去ってゆくシアリィが視界から消えるとレックスはその場に尻餅をついた。今頃になって腰が痛み出す。
「彼女達はあれで多分大丈夫・・・かな」
「御館様・・・明日の授業は平気なのですか?」
気付けば隣にキュウマが立っていた。
「うーん・・・ミスミのあの顔だと夕食の後、また付き合う事になるかもしれない」
「今日といい明日といい・・・ヤード殿にまた迷惑がかかりそうですね」
「ところでキュウマ」
「はい。何か?」
「天井から見てただろ」
「無論です。しっかりと拝見させていただきました」
「そうかそうか。ははははは」
「どうしたんですか御館様。目が笑って無」


「オウキーニ・・・オウキーニか?」
「あんさん・・・お久し振りです」
「生意気に髭まで生やしやがって。で、かみさんとは仲良くやっとるのか?」
「ええ。貧乏子沢山で色々大変ですわ」
「子供までいるのか!」

義兄の前で笑うオウキーニ。その顔は少しやつれてこそいたが・・・とても幸せそうだった。


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