ギャグ路線



「今日の議題 融機人の肉体構造について」

モーリンの道場に突然の召集がかけられて来てみれば、そこにあるのは毛筆で半紙に書かれた何やら不穏な議題と、集まった女性メンバー。
「何なのこれ…。」
私は素直につぶやいた。意味が分からない。

「あーケイナ。遅かったねー。」
トリスが私に気付き、白熱した議論を展開させていたメンバーがこちらを振り向く。
「あの、何なの、これ…。」
同じ台詞を繰り返す私。説明が欲しいが、聞きたくない気もする。

「あのね、ネスティが融機人ってことが分かったでしょ?
それで、今後のことをみんなで相談してたの。体が機械だと、色々違うこともあるでしょ?」
トリスの説明を聞き、私は少し安堵する。何か違うものを想像していた。
これじゃあの相棒のやましい思考のことを注意できない。少し顔が赤くなる。
「そうだったの。確かに、私達と体の造りが違ってたら、何か困ることもあるかも知れないわね。彼、そういうの隠してそうだし。」

「そうよー、特にエッチの時とか困るわよね!こっちの体にも関係する話だし。」

トリスの一言に固まる私。…やっぱり、なのね。予想はしてた、してたけど。
「聞いてくださいケイナさん。私、てっきりもうトリスはそういう関係になってると思ってたから、驚いちゃいました。兄弟弟子なんていう美味しい立場なのに。」
「えーだって仕方ないじゃんアメルゥ。ネスティったら全然しかけてこないんだもん。」
「なに言ってるんですか!あんな純粋培養色白召喚士にそんな甲斐性求めちゃダメです!トリスから攻めて攻めて攻めまくるんです!特にトリスは貧乳なんですから相手が欲情するのを待ってるなんて稚拙すぎます。」
「そっか。私が間違ってた。ごめんね、アメル。」
ど、どうしよう。普通こういう話題って誰か引くかなと思ってたのに。
みんなもしかして受け入れ済み?っていうかアメルも?天使よね?
トリスも皮肉にまったく気付かず笑ってるし。

「そういうわけで、ネスティさんの体のことを探る必要があるんです。だけど、ネスティさんの心は、多分傷ついてると思うんです。はっきりと裸を見せろと迫ることもできないので、方法について今ここでこうやって議論を交わしているところです。」

いや、傷ついてることが分かってるならそもそもこんなこと企むのやめようよ…。

「あ、こういうのはどうでしょう。シルターンに伝わる遊びで、『野球拳』というものなのですが。」
「何なにそれ何?」
私の妹、カイナの提案に、トリスが目を輝かせる。野球拳…。
私の海馬にも少しだけ残っているような…ああでも理性がそれを思い出すことを拒否してるような…。
「二人でじゃんけんをして、負けた方が一枚ずつ脱いでいくんです。こういう遊びなら、ネスティさんにも楽しく脱いでいただけるのでは…」
「却下ーーー!!」
即座に思い出した私は叫ぶ。かわいい妹の口からこんなことを聞くことになるなんて!あの忌まわしい、男の欲情を煽るためだけにあるような遊び(?)を!

「何で?おもしろいじゃん。用は負けなきゃいいんだろ?楽勝楽勝!」
道場主が腕をかかげて筋肉を披露しながら叫ぶ。勝負なら何でもいいのね、あなたは…。
「私もさんせー!ネスティが一枚ずつ脱いでいくところ見たい見たい!」
「ルゥもいいと思う。」「私もー。」「私も。」
口々に賛成意見が出され、私以外の全員の意思が一致してしまった。

「さて、手段が決まったところでメンバーを決めましょうか。あの顔色が激悪召喚士ネスティさんは自分が脱ぎ役になるのは拒否するでしょうから、彼を引っ張り出すために、こちらも最低でも二人は用意しておきたいところです。」
淡々とした口調で喋るアメル。守られるだけのか弱い聖女様じゃなかったの…。
「こういうのは、やっぱりTECの高いメンバーがいいんじゃないかな?」
「あ、ルー頭いい!私も、それがいいと思う。器用な人がやるべきだよ。」
「でしょー、ミニス分かってるー♪。」
じゃんけんとTECは一切関係ない!
この二人、自分達が召喚士だからTEC低いの分かってて言ってるわね。恐るべし。
何か非常にまずい流れになってきている気がする。早く止めなければ。
「あのね…」
「この中でTECが高いのって言ったら、私とケイナよね!」
突然トリスが高らかと宣言して立ち上がる。
え?そこでなんで私の名前が?この子なに言ってるのかしら。
思考が一瞬止まる。その一瞬がまずかった。
「そうですね。二人なら安心だわ。」
「んー、勝負事に出られないのは悔しいけど、ここは二人に譲るか!」
「けっていーー。」
皆トリスの提案を受け入れ、拍手までしちゃってた。
なんてこと!私が隙をつかれた!?ここは早く立て直さなければ!!

「待って待って、待ちなさいってば!何で私がそんなこと!」
激昂して立ち上がる私。
「まぁまぁお姉さま…」
いつの間にか隣に立っていた妹が私に耳打ちをする。
「もしギリギリのところになったら、フォルテさんが『俺のケイナに何しやがる!』って出てきてお姉さまが肌を見せる心配は無くなりますわ。しかもそのあと意識しあうようになった二人の中は進展。めくるめく快楽の夜が…」
「なに言ってんのカイナ!」
「姉さまは純ですのね。大丈夫。カイナに任せてください。皆さーん、姉さま、出場の決意を固められたようですー!」
「カイナァァァァァ!?」

おかしい、断じておかしい!何で私がこんなことを。
私は突っ込み役のはずで、普段こういうネタをいうフォルテをしばく役回りのはず!
はっ、まさかメルギトスの陰謀!?
そうよ、あの姦計と虚偽と鬼畜と陵辱の悪魔の仕業に違いない!
皆操られてるんだわ。うん、そう、そうよきっとみんなすぐに目を覚ます…。

私の希望的観測を一切無視して、計画は進められていくのだった…。

話し合いがあった夜、どういう形で説得したのか分からないが、アメルが野球拳大会のことを男性陣に伝え、2日後の開催が決まった。
あの堅物のネスティが、こんな馬鹿な催しに参加するとは思えない。
「君は馬鹿か!?」と言われて終わりだろう。そのことをアメルにも伝えたが、「ふふふ、『豊穣の天使』を舐めてもらったら困ります。」と、意味深な笑みを返してきた。
何を言ったんだろう…。ああ、もう知りたくないわ。どの道逃げられそうもない。

そして、2日後。モーリンの道場で、私は自分の甘さを痛感していた。
自分に置かれた状況を把握しようとすることに必死で、相棒の性格がどういうものかを忘れていた。
「よーうケイナ。女性陣の出場者はお前なんだって?やるねぇ。」
「どーーーーーしてあんたが出場者なのよーーー!!!」
「あっはっは。こんなおもしろそうなイベント、俺が傍から見てるだけのわけないだろう。」
そうなのだ。この男はアホなのだ。何でそんな真理を私は忘れていたのか。

話し合いの夜、半泣きになりながらカイナに説得されたのに。
「いいですか姉さま。殿方が好き好んでいる相手の肌を他の殿方にさらしたいと思うはずがありません。自分だけが見て楽しみたい。そういう独占欲を持っているものなのです。姉さまが負けて肌をさらしそうになったら、きっとフォルテさんが助けてくださいます。」
そんな風に真剣に説得してくるカイナにほだされて、嫌々出場したのに。

私が皆の前で裸になるのを一番嫌がってくれるはずの相棒は、私を脱がしにかかる方。
ああ、あんな話し合いがされてた時点で私は「世の中なにが起こるかわからない。」ということを学ぶべきだったんだ。修行不足だわ、私…。

自己嫌悪に陥りながら、本日の主役(というか、獲物かしら)であるネスティを見る。
もう色白通り越して蒼白、いいえ、向こう側が見えそうなほど色を失ったネスティ。
「ブツブツ…これは…間違い……虚偽と…変態の…メルギ……みんな…覚ま…ブツブツ」
何かつぶやいているけど、内容は私が2日前考えたことと同じことであるらしい。
そうよね。悪魔の仕業と思うしかないわよね。かわいそうなネスティ(と私)。
だけど、これは現実なのよ。うう…。

虚空を見つめているネスティと悩める私を他所に、トリスと相棒はやる気マンマン。
「負けないわよー!身包み剥がして市場に晒してやるんだから!」
「おお!?こっちこそ!ひん剥かれて泣くんじゃないぜー、トリス!」
もうやめて。私とネスティを巻き込んで話を大きくしないで。

進行役、と書かれたワッペンを付けたロッカがずい、と進み出る。
「それで、僕とアメルで相談したんですけど、せっかくだから召喚獣じゃんけんにしましょう。」
え?まださらに私を辱めるつもりなの?(注・被害妄想が入ってきています。)
「まず、グーはテテ、チョキはライザー、パーはポワソということで。両陣営のメンバーが、それぞれの召喚獣を召喚して、じゃんけんすることにします。」
じゃあTECうんぬんの話はなんだったのよ!
いやそもそもじゃんけんにTECは必要ないだろうけど。

「中々おもしろいと思いませんか、ケイナさん。」
ロッカが私の方を向いて笑う。下卑た笑いじゃないけど、確実に楽しんでる。
くう、こういう時、普段常識ぶってる奴ほど楽しんでるものなのよね。
キッと睨み付けると、「頑張ってくださいね、ケイナさん。」と笑顔を返してきた。
何をどう頑張れって言うのよ!後で、撃つ。あのアホ毛を根元から断ち切る…。
「それじゃあ始めましょうか♪」
同じく満面の笑みのアメルの宣言で、恐怖の野球拳が始まった…。

「それでは行きます。じゃんけん、」
「陸を走る青いシャチ!出てきて、テテ!」
「電子の彼方より、出でよ、ライザー!」
女性陣:ミニス、テテ=グー
男性陣:シャムロック、ライザー=チョキ

「偉いわ、ミニス!」
「ちょっとぉ、子ども扱いしないでよー。」
ミニスには怒られたけど、素直に嬉しい私はミニスの頭をなでた。

「何やってんだよシャムロック!」
「す、すいませんフォルテ様…。」
フォルテに怒られて、シャムロックが「様」付けで謝る。
単純なじゃんけんなんだから、怒られなくてもいいだろうに。
「まぁ勝負だから仕方がねぇ。とりあえずマント脱ぐぜ。」
フォルテが古びたマントをバサッと剥ぎ取る。
「ははは、男に脱がれても大して楽しくないなぁ。」
ロッカの心無い一言に、リューグがぎょっとする。
意外とこういう場では純真なのね。リューグ。
一方、主役=獲物であるネスティは、蒼の派閥のマークである×印を外して、床に置いた。
一瞬、静まる道場内。気持ちは分かるけど、それは無理よ、ネスティ…。
「卑怯者ー」「肝っ玉ちっちゃーい」「白い」「空気読めー」

「くっ!ああ、分かったよ!脱げばいいんだろう脱げば!!」
場の雰囲気に押され、ネスティもフォルテと同じくマントを剥ぎ取る。

その後も攻防は続く。
「大天使の名において、姿を現せ!ポワソ!」
「草原の走り屋!来てください、テテ!」
「レシィ、しっかりしてくれ…。」「ご、ごめんなさいぃ。」
「霊界の…えーとなんだったか。まぁいい、ポワソ!」
「拳こそが己が魂!テテ!」
「おっさん詠唱忘れるんじゃねぇ!」「まぁ勝ったからいいじゃねぇか。」
「うう…私はとりあえず胸当て外すわ…」
「来な!力の求道者!テテ!」
「機界に帯電する雷と共に!ライザー!」
「何でお前が女側なんだよ馬鹿兄貴!」
「女性陣に機属性がいないからね。僕が代理で。」
「んー、私が脱いでくところに興奮する?ネスぅ。」「君は馬鹿か!」
「ポワソ!」「テテ!」
「脱ぐ時にはもうちょっとしなを作ってだな…。」「あんたは黙ってなさい!」
「ライザー!」「テテ!」
「中々色っぽいですよ、トリスさん。」「ありがとうロッカ♪」
「村にいたころより色ボケがひどくなってやがる…。」
「ポワソ!」「テテ!」「ライザー!」「テテ!」
「ナガレ!」
「何やってんのシオンさん!」「いやぁちょっとしたお茶目です。」

ドタバタと時が過ぎて、気付かない間に私たちは結構脱いでいた。
フォルテは上半身裸。冒険中に付いた傷が痛々しい。って何見てるの私は。
ネスティは…機械の部分を手で隠してる…可哀想だけど、余計目立つわよ。
私の方も、上はさらしだけになってしまった。結構色々当ててたのに。
トリスも元々が薄着だったから、きわどいところまで来てしまっていた。

「ちょっと待って。もうこれ以上は無理よ!」
私が本気の抗議の声をあげて、ロッカに訴える。
私もお遊びに付き合っていた部分はあるけど、一線というものがあると思う。

「そうですね。これ以上は止めた方がいいかもしれません。(本当は続けたいんですけどね。)」
なんだか不穏なロッカのつぶやきが聞こえた気がするけど、一応わかってもらえたみたい。

けれど、よりにもよって相棒が、とんでもない提案をする。
「仕方ない。ハンデといこうぜ。全部とるのは勘弁してやるから、俺達が勝つたび、さらしを一回ずつほどいていこう。」
「へ!?何言ってんのあんた。」

つかつかと、フォルテが私の方に近寄って来て、
「うりゃ!」
「きゃあ!!」
私のさらしを引っ張る。その力が強すぎて、私は転倒してしまっていた。
全部は脱げてないけど、さらしの間から見えそうになってしまった気がして、慌てて手で隠す。
「おお、結構そそるぜ、その姿。」
私がこんな風になってるのに、フォルテはまだ軽口を叩いている。

最ッ低。口では軽いこと言ってるけど、少なくとも私と一緒に旅をするようになってからは、他の女を口説き落として寝るようなことはしなかった。
だから、私はパートナーとして認められてると思ってたのに。
フォルテにとっては、ただの仕事仲間でしかなかったの。
他の男に私が裸を見られても、フォルテにとってはどうでもいいことなの。
「う…」
本気で泣きそうになった。
もう何もかもどうでもいい。鬼神将呼び出して、この場を滅茶苦茶にしちゃおうか。

「…あー、ちょっといじめすぎたかな。悪ぃ悪ぃ。」
頭をポリポリかきながら、フォルテが私に手を差し伸べる。

すぱぁん

私の右手が、フォルテの頬を張る。小気味良い音がしたけど、フォルテは大して動じてなかった。いつもなら、「ぐひゃ!?」とかマヌケな声をあげて、その場に倒れるのに。
「…よっと」
「ひゃあ!?」
足が地面から浮いた、と思ったら、フォルテに抱きかかえられていて。
しかもこれは、お姫様抱っこという奴じゃないだろうか。
突然のことに、思考が停止しそうになる。
「な、な、な、何すんのよぉ。」
手は空いているので、もう一発叩いておこうかと思った。思ったのに。

「お前ら、悪い!ここから先は俺以外の奴に見せるつもりはない。」

「へ。」
先に、フォルテが高らかに宣言して、私の思考は完全に停止した。

「ブーブー。」「何だよー、ここからがおもしろいのに。」「もっと脱げー。」

みんなが、何か口々に文句を言っている。耳には入るけど、内容を把握できない。
「済まねぇなぁ。モーリン、一部屋借りるぜ。」
「ああ、いいよ。適当に使いな。」
行け、と軽くモーリンが手を振るのが見える。フォルテは、迷うことなくしっかりとした足取りで、道場を出て行く。私を横抱きにしたままで。

「さーて、二人がいなくなったから、私達のタイマンね!ネスティ!!」
後ろから、トリスの威勢のいい声が聞こえてくる。
(私は見ていなかったんだけど、その時、哀れな融機人は、既にプルプル震えだしていたらしい…。)


つづく

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