黒い人



「…お姉さん、固まっちゃってどうしたんですか?」
にっこりと、しかし確実に迫り来るその愛くるしい顔にナツミは背筋が寒くなった。
紅い瞳に若草色の髪。
バノッサとは似ても似つかない義兄弟。
名をカノン。

ナツミが言った、彼らと「仲良くしたい」の意味をどうやら勘違いしてるらしい。
先程まで、スラム街に来てはいけないと言っていたくせに…何やら思考を始めた。かと思うと強引に手を掴み廃屋へとナツミを連れて来た。

「…大丈夫ですよ、バノッサさんがよく部屋に連れ込んでるんでやり方は知ってますから」
しばしば放心状態だったナツミはそれで目が覚めた。
「違う、違うってばカノン!あたしが言ってる仲良しはそっちじゃないよ!!」
手を振りほどこうにも抜けない。さすがは、鬼人の子供だ。改めて思い知らされて、恐怖が募る。

弟。男。可愛い顔してるけど男!

思わず、悲鳴が
「…っ」
…出る前に、引き寄せられカノンに口を塞がれた。
手では無く、口で。
半ば開いていたナツミの口の中にさっとカノンの舌が侵入する。

しばらくすると、ナツミの口からは荒い息遣いがもれた。
「か、カノン…やめっ」
そのまま力任せに倒された。ナツミの顔を女性のように綺麗な指が這う。
「バノッサさんに、気に入って貰えるようにボクも協力しますよ。だから、先にボクと仲良くして下さいね」

にっこり。

黒い笑顔を絶やさずカノンはナツミに迫った。
「…お姉さん、固まっちゃってどうしたんですか?」


つづく

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