至福の時



普段から予習復習を欠かさずにいれば試験期間と言え特別に勉強する必要などない。指定された範囲を多めに復習しておけばそれで事足りる。ただ普段と異なるのは部活が無いので早くに帰宅できるということだけだった。早めの帰宅をしてから早めに予習と復習を済ます。すると自然と余暇というものが生まれてくる。いつもならば適当にテレビを見るなりして無為に潰す時間だ。特別することなど何もなかった。彼女が来るまでは。

「……あのさ…カシス。そんな風に覗かれていると気が散るんだけど。」
こめかみを押さえてどこかいぶかしげに籐矢は呻く。背後からジロジロと見られるような視線。それが自分の恋人からのものであってもあまりいい心地はしない。視線に気をとられて机に向かう意欲もそがれてしまう。」
「えっ?あっ…ごめん…ごめんね。」
慌てて謝りだすカシスだったがその視線を籐矢からは外さない。籐矢が机に向き直ればまた背中に物欲しげなカシスの視線が突き刺さる。もの言いたげな念でもこもっているかのように。後ろがどうしても気になってしょうがない。堪えきれず籐矢はカシスの方に振り向き溜息混じりに言葉を吐く。
「構って欲しいのかい?」
「えっ!いっ…いや…そんなことない。そんなこと。あはは…は…」
苦笑交じりに問いかける籐矢にあたふたするカシス。誤魔化そうと作り笑いを試みるも上手くいくものでもない。にんまりと微笑みながら無言の圧力をかけてくる籐矢に抗することが次第にかなわなくなりとうとう本音が洩れる。
「あはは…ははは…は…その…ごめんなさい。本当は構ってほしいです。だって…せっかくトウヤが早く家に帰ってきてるんだし。」
そういって肩を落として小さくなるカシス。顔を赤らめながらモジモジとしている彼女の様子は籐矢の目にも可愛らしく映る。あちらの世界ではどこか自分をリードしてきた彼女も実際には歳相応の女の子であることが容易にうかがい知れた。

(まあ、向こうじゃそうそう余裕もなかったしね。)
慌ただしかったそして懐かしいリインバウムでの日々を思い出す。あれからこちらに戻ってきて、カシスがこちらの世界にやってきて、こちらじゃ戸籍もなにもないカシスをどうにか両親を説得して家に居候させて、どれだけ時間が過ぎただろうか。せいぜい数ヶ月程度なのに随分と昔のようにも感じられる。
(おっと僕としたことがついノスタルジックになってしまったよ。)
つい物思いにふけっていたことに気づき慌ててカシスに視線を戻す。カシスは相変わらずに顔を赤らめながら伏せかえっている。自分と視線も合わすのも躊躇われているようだ。
「あの…ごめんね…あたし…トウヤが勉強中だって分かってるんだけど…」
穴があれば飛び込んで入ってしまいそうなほどの気恥ずかしさに悶えながらカシスは呟く。
彼の勉強の邪魔をしちゃいけないと理性では分かっている。そのはずなのにどうしても胸に込み上げてくる熱いものがカシスの意識を自然と籐矢の方へと向けていた。自覚してはいても止めようがない。この火照るような想いを。
「でもさ…その…トウヤ…今日早いし、おじさんやおばさんいないから二人っきりだし…って!なに言ってんのよ!あたし!あはは…その…気にしないで…ははは。」
うっかり洩れだす言葉にカシスは焦りかえる。これではまるで自分から彼を誘っているみたいではないか。この家の中に二人きりという状況にかこつけて。
(ああ、もう…どうしよう…駄目…あたし…こんな…)
もう身を焦がす羞恥で胸が潰れそうになるカシス。そんなカシスの様子にトウヤは息を大きく吐いてパタリとノートを閉じる。
「まったく…しょうがないなあ。」
そう言って優しく微笑みながらカシスの方に近寄る。間近によるとカシスの顔はいっそう茹でダコのように沸騰していた。急上昇する心拍数にどうにかなってしまいそうなほどに。
「本当に。カシスは甘えん坊さんだね。」
優しい微笑みとともに彼はそう囁いた。やばい。心臓が止まらない。血液が逆流している。
「な!ななっ!な!!そんなっ!!!」
血の気がすっと頭に上っていた。呼吸も息苦しい。喉から何かが飛び出来そうだ。
「そんな…違っ…その…いや……」
慌てて否定しようにも言葉が続かない。反則だろうにその台詞は。自分の中から平常心を根こそぎ奪っていってしまう。
「ふふ。そうやって慌ててるカシスを見るのも中々新鮮で可愛いよ。」
追い討ちにそんなことまで言ってくる。もうどうにも止められない。
「イ…イジワルぅぅぅ!!トウヤのバカぁぁ!!あ〜ん…もうっ!!」
どうしようもなく身体が火照りだす。余った熱気が衝動になって気がつくと駄々っ子のようにトウヤの胸をポカスカ叩いていた。それはもうひたすら照れ隠しに。
「はははは。ごめんごめんったら。」
にこやかに笑いながら謝ってくるトウヤ。誠意がこれっぽちも感じられない態度で。人をからかって楽しんでいるのだ。つまりは。
「もうっ!ひどいよ。そんなふうにあたしのことからかって。」
少し拗ねた風にカシスは口を尖らせる。こちとら恥ずかしさでもう顔が真っ赤だというのにトウヤはすました顔。拗ねたくなるのも当然だ。少し傷ついた風に首を傾げるカシス。
そんなカシスに対しトウヤはポンとその肩に手を置いて告げる。
「ごめんよ。カシス。つい調子に乗っちゃって。」
今度は少し真剣味がこもった口調で。こうされるとカシスはもう何もいえない。何もかもがトウヤの手の平の上のようにさえ思えてくる。
「…もう……トウヤの…バカ……」
そうポツリと呟くのがせいぜい。それも顔を紅潮させて。本当に彼の意のままに。
「それでどうするんだい?とりあえず勉強の方は後回しにするけど。」
あくまでもにこやかに餌をこの魔王のごとく狡猾な少年はぶら下げてきた。そんなものを目の前に出されて食いつかずにいられるわけがない。
「…その…あたしと…一緒に………」
小刻みに震えながらカシスは望みを彼に告げる。

別に今日が初めてというわけでもない。それなのに自分はちっとも慣れないのはどういうことなのだろう。彼の方はもう百戦錬磨の手錬と化しているのに。
(ずるい。絶対にずるいよ。)
トウヤの剥きだしの身体を間近にみるのも。自分のなんら一糸まとわぬ姿を見られるのも。もう初めてではないはずなのだ。それなのにどうしようもない恥ずかしさが溢れてくる。入る穴はどこかと探したいくらいだ。
「相変わらず反応が初々しいね。カシスは。」
相変わらずにこやかにどこの中年だオマエはとつっこみたくなることを言ってくる。こっちは裸を見られているだけで恥ずかしくて死にそうだというのに。
「いじわる…トウヤのいじわる……」
泣き出しそうにポツリと呟くカシス。ここまで彼女のいじらしい姿を見るのはこちらに着てからだろう。リインバウムでは波乱万丈な日々を送ってきたのでカシスの側にもそんな弱さをさらけ出すほどの余裕は無かった。だがこちら側の世界。誰よりも愛しい人の側で暮らすうちに弱さも甘さもトウヤの前では隠さなくなった。ありのままの自分を曝け出せる。そんな何よりも大切な人の前では。
「ごめんよ。カシス。それじゃあはじめようか。」
「……あ……うん……」
合意を取り付けるような呼びかけにこくりとうなずく。もはや乗りかかった船である。今さら途中下船はきかない。彼とひとときをすごすのだ。男女の営みのときを。
(トウヤと一緒に………)
脳がとろけだしそうな感覚の中でカシスはトウヤに身をゆだねる。この上なく幸福な彼との時間を噛み締めながら。

それは既に見知ったものである。衣服まとわぬ彼女の裸体は。そう発育の良いとは言えない少女の身体。胸板に申し訳程度にのった乳肉。歳の割りに幼く見える童顔。チャームポイントなクセ毛。そしていまだ毛も薄くほんのりとした桜色の秘部にはひき付けられる。
「あんまり見ないでよ……」
そしていまだに初心なその態度。いくら愛でても足りないほどの。この愛らしい恋人をどう虐めてやろうかと悪戯心が騒ぎ出している。
「じゃあまずはここから……」
とりあえず下準備に濡らしてみる。別に初めてというわけではないが濡れていない状態ではどちらにとってもやりにくい。カシスの秘肉を籐矢は舌先で嬲りだす。
「ひやっ!やだぁ…そんなとこ…あっ…ひぃぃっ!!」
こちらの愛撫にあまりにも素直な反応が返ってくる。籐矢にしてみればそれは楽しくてしょうがなかった。こうも可愛らしく返されてはもう少し意地悪をしてみたくもなる。
「ふふふエッチだね。カシスは。もうこんなに濡らして。」
短時間での愛撫。だが敏感なカシスの身体は容易くも反応している。塗り込められた唾液とにじみ出る愛液とですでに十分なほどに濡れ細る。
「ひどいよぉ…ぐすっ…ひどいよぅ…またそんな意地悪なこと言って。」
籐矢の言葉にカシスは目に涙さえ浮かべる。いまにも泣き出しそうな彼女。その姿がより愛おしい。この世で自分だけが彼女のこんな姿を堪能できる。
「トウヤ…だからだもん…あたしがこんなにいやらしくなるの…キミじゃない…あたしをこんな風に…いやらしく…しちゃうのは……」
聞いてて身悶えしそうな嬉しいことを言ってくれる。籐矢に俄然意欲がわいてくる。今日はカシスとの最高の時間を楽しもう。試験勉強などいつでもできる。そう思って籐矢はカシスへの攻めの手を強める。
「あひっ…あふぁっ…ひどいっ!あたしが胸弱いの知ってるくせにぃっ!あっ…駄目ぇ!吸っちゃ嫌ぁっ!…ひんっ…ひゃふぅぅ!意地悪ぅぅ!トウヤの意地悪ぅぅっ!!」
カシスの小さな膨らみを手で弄りながらその乳頭を口に含む。舌先で軽くつつくようにしごいてやると案の定、色の良い反応が返ってくる。貧乳な方が感度は高い。そんな俗説が頭をよぎったがすぐに忘れた。どうだっていい。今はこうしてカシスを堪能することさえできれば。
「やだぁっ!やっ…ひあっ!トウヤのバカぁぁっ!!」
喘ぎながら抗議してくるカシスの姿。それは何よりも至福を与えてくれる籐矢の宝物。
「ぐすっ…うっ…えっ…うぅ……」
ほとんど彼にされるまま。一方的に弄られて涙ぐみながらカシスは小さく嗚咽する。
(ひどいよ…意地悪なんだもん…トウヤ…いつも…)
いつもそうだ。彼とするときは。こうやって主導権を最後まで握られてなすがままにいいように遊ばれるのだ。
(でもそれが嬉しかったりするんだ…我ながら情けないことに……)
決してトウヤには言えない本音が心の中で洩れる。どんな形にせよ愛しい人をより強く感じていられる。それがカシスにとっては何よりも幸せだ。こちらを焦らすように意地悪をしてくる彼。それがたまらなく恋しい。もうどうしようもないほど自分は彼のことが好きになってしまったのだと改めて感じられる。
(キミの側にいられるから…だからあたしは……)
無色の派閥の一員として育てられてきた過去。親の愛情も知らず。友達さえ居ない。そんな自分の世界を変えてくれたのがトウヤだ。カシスにとって彼こそが世界そのもの。
(キミと…大好きなトウヤとだから…だからあたし…)
表面的には恥ずかしがったり泣きぐずったりしている。でも心の底では幸せだ。羞恥心もなにもかも全部。彼の前ではささいなことだった。自分の全てを彼に捧げる。これ以上の至福があるはずがない。それで彼が喜んでくれるなら。彼とともに幸福を感じていられるのならば。
「カシス。」
すると突然に声がかかる。優しい声。そして真剣な眼差し。先ほどまで自分をからかって楽しんでいたときとはまったく違う面持ち。
「いいかい?」
短い一言だけど十分だ。自分も同じ想いだから。一つになりたい。愛しい人と。
「うん。いいよ。」
そう答える。そして目を閉じ待ち受ける。彼自身が自分の中に入ってくるのを。
「…んっ…くっ…ああぁっ!トウヤぁぁぁぁっ!!」
十分に濡れた膣内に逞しい肉の棒が埋め込まれるのを感じながらカシスはとっさに叫んでいた。愛しい人の名前を。


つづく

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