シュガレット×プラティ×シュガレット



いつもの場所。
ふたりの他に誰も居ない船の甲板でわたしは彼女と月を見上げる。

「プラティ様」
「なに?」

「きれいな街にしましょうね」
「うん…」

「あたたかい街にしましょうね」
「うん」

「みんなが笑顔でいられる街にしましょうね」
「うん」

「わたしをおヨメさんにしてくださいね」
「――うん」

一呼吸を置いてから、わたしは彼女の想いに応えた。

「ほんとですか!シュガレットは幸せです…」

途端、間も置かず無邪気に抱きついてくるシュガレット。
そんな彼女に内心苦笑しながらも、わたしは覚悟を決める。
いつもならうろたえながらも彼女を引き剥がす為に使う両手を、そっと彼女の背中に回す。
と、体中をこちらに摺り寄せていた彼女の動きがピタリと止まった。

「なんて言うか…負けたよ、シュガレット」

言いながら、両手を肩に回し、少しだけ距離を開けて彼女と向き合う。
彼女は無表情だった。決めたはずの覚悟が揺らぐ。
なんでそこでそんな顔をするんだ。いつも通りのテンションならこちらも勢いに乗れたものを。
とはいえ、ここまできて無かった事にするわけにもいかない。
最後の覚悟を決める。全ての感情を強引に押し込め、一字一句、力を込めて宣言した。

「貴女のことが、好きです」

言った。ああ言ってしまったものはしょうがないさ。
告白の勢いに乗り、目を閉じて彼女を強引に抱き寄せ、口付けをした。
最初の出会いのときとは違う、自分から望んだ口付け。
やった。ああやってしまったものはしょうがない……と言ってしまって、良いのだろうか。
そのまま一秒が過ぎ、二秒が過ぎ、三秒が過ぎる。
何倍にも何十倍にも感じられる三秒が過ぎ(実際それくらいの時間だったのかもしれない)、やがてじわじわと不安と後悔が押し寄せてきた時、わたしの口の中に柔らかなものが侵入する。
いい感じにヒートアップしていたわたしの脳が、それをシュガレットの舌だと認識した時思わず閉じていた目を見開き、歓喜と至福に蕩けきった表情の彼女と眼が合った。

「「ん……ん……」」

顔は火傷しそうなほどに熱く、心臓は冗談抜きで破裂しそうなほどに高鳴っている。
頭などとうにまともな思考を働かせていない。
それでも、心の奥のどこかで、冷静に再確認した。
わたしは彼女が好きで、彼女はわたしの事が好きで、ふたりにはこうなる以外に結末などありえなかったのだ。
どっと押し寄せる安堵がわたしの心を加速させる。こちらからも舌を絡ませ、唾液を交換する。

しばらく続け、シュガレットの瞳から僅かに残っていた理性の光が消えた。甲板に押し倒される。
そのままプロテクタを外され、上着とアンダーウェアをまとめて脱がされ、最後に下着を外される。
手馴れた、手馴れすぎた手つきだ。自分でも脱ぐのには多少手間取るこの服装。
よぎるのは、心を決める前に一瞬だけ彼女の部屋で視界に納めた、やたらと細部まで凝ったわたしの等身大人形。
あの時は見なかった事にしたが、彼女はアレで何度訓練をしたのだろうか。
いや、具体的にどんな訓練をしたのかは今のわたしにとって未知の領域なのだが。
ともあれ、わたしが自分から動けたのはあのキスまでだ。後は彼女に全てを委ねるしかない。
ああ、こんな事ならサナレから押し付けられた『れでぃこみ』とかいうの、一度くらいは目を通しておくべきだった。
それはそうと、わたしとしては最初の時くらいは屋内で行為に望みたかったのだが、今の彼女を止める方法など、リィンバウムの何処を探しても見つかりはしないだろう。もっとも、止めるつもりなど毛頭無いが。
どのみち、徹夜が基本の工房は論外だし、自宅で母の目を欺くのも何となく無謀と言う気がしないでもない。
結局、『この場所』が一番落ち着く事に気がついて――衝撃に思考が消し飛んだ。

「なにを考えていらっしゃったんですか、プラティさまぁ」

ぶれる視界に何とかシュガレットを収めると、彼女は色っぽい、あまりにも色っぽ過ぎる目でこちらを見上げながら、わたしの膨らみなど無いに等しい胸に顔の下半分を埋め、先端を吸い上げた。

「…っ、…ぁ、…ぁ、ゃあうっ!!」

チャージボアの電撃をまともに喰らった時のように体が跳ねる。彼女が吸い付くたびに洒落にならない衝撃がわたしを襲う。
まずい、何かは知らないが、致命的な何かが急速に近づいてくる。怖い、恐い、コワイ。
この時まだイくという感覚を知らなかったわたしは、この衝撃が途方も無い快楽であるということすら認識できなかった。
しかし、未知の感覚に怯えながらもわたしは一切抵抗をしなかった。
彼女がわたしを害する訳が無いのだし、彼女はわたしに己が持つ総てを捧げてくれた。
ならば、わたしも彼女の想いに応えなくてはならないだろう。今日、一線を越えると覚悟を決めたのだから。
無論、彼女は自身の境遇を微塵ほども苦痛に思ったり後悔したりなどしていないだろう。
今、彼女にわたしの総てを捧げることに、わたしがこの上ない幸福を感じているように。

『ナニカ』に達する直前、彼女はわたしの胸から顔を離し、更に体の下部に移動した。
そしてやはり手馴れた様子で全てを脱がし、躊躇無く、いつの間にかお漏らしをしたかのように濡れていたわたしのソコに口をつけた。

「あ、ぁあぅ、……ぁああああ!!」

先に倍する衝撃。いい加減、わたしもコレが心地の良いものだと気付き始めた。
そして性に疎いわたしでも予感があった。――これが最後の一線なのだと。

運命――なのだろう。
シュガレット。
親子二代に渡って利用してしまった(こんな言い方をすれば彼女は怒るだろうが)異界の少女。
彼女が二度も同じような失恋に堪えられるとは思えなかったし、わたし自身、公私における最高のパートナーを手放せる訳も無かった。

負い目、同情、打算。
確かにそれらはわたしの中に存在する。
だが、それが、どうしたというのだ。
わたしは彼女が好きだ。誰よりも何よりも愛している。
ああそうだ、今なら誰に憚ることなく世界中に宣言できる。

再びどこか、きっと、とても素晴らしいどこかに達する前に、わたしは身を起こした。
もう何をどうすれば気持ち良いのかは分かった。このままひとりで達してしまうのはダメだ。彼女と一緒でなければ。
いつの間にか彼女自身も全裸だった。獣の本能で彼女に飛びついても抵抗はなかった。
再び舌を絡め合わせ、下腹部をこすり合わせる。

「「――――!!!!」」

嬌声が重なり合い、可聴域を越えた。
欲望を増幅させる水音がふたりの間から絶え間なく聞こえてくる。
動きの激しさに、船が揺れ出した。

「プラティさま、プラティさまぁ」
「シュガレット!!シュガレット!!」

相手の名以外何も言葉に出来ず、ただ、求めた。求め続けた。
そして、――達した。

「「――ぁ――」」

極限の、しかしそれでも心地良い疲労のなか、甲板にあお向けに寝転ぶ。
そのままで天を見上げると、変わらぬ位置で月が下界を見下ろしていた。
わたし達を祝福してくれていると疑いなく思ってしまうのは、まだ頭がのぼせきっていたからだろう。
ああ。今が最高のシチュエーションじゃないか。
わたしは寝転がったまま、シュガレットを抱き寄せた。

「シュガレット」
「はい」

「結婚しよう」
「……はいっ」


おわり

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