ギアンED前提のシンゲン×フェア



「御主人、たびたびで恐縮ですが、また『ヒトカタの符』を貸しちゃあもらえませんかね」
請われて、フェアはわずかに眉をひそめた。
昼時の喧騒もようやく遠くなったある日の午後。シンゲンは、いつもの飄々とした笑顔で彼女を見おろしている。
「・・・いいけど」
腰にくくりつけたポーチから貴重な符を一枚引き出し、手渡した。
「いやあ、恩に着ます。これも日々の精進のためでして。すぐにお返ししますからね」
「別に急がなくていいよ。もうそんなに使う機会もないだろうし」
「そういうわけには参りませんよ。では、また後ほど」
いそいそと符を懐に収め、店を出て行く後姿を眺めつつ、フェアは難しい顔のまま腕組みをした。
「・・・腑に落ちないなあ」
「どうかしたかい」
テーブルを片付けて戻ってきたギアンが、彼女に声をかける。白いシャツに黒いエプロン、クリムゾンレッドの髪を後ろでくくった彼の長身には、ウェイター姿がよく似合っていた。
「今シンゲンが来てね、『ヒトカタの符』を借りてったんだけど」
「また? ここのところ毎日だね」
「そうなのよ」
絶対おかしい、と断言するフェアに、ギアンは首を傾げてみせた。
「そんなにおかしいかな。だって、剣の鍛錬に使うって言うんだろう?」
「それが変なのよ。あの人、元々剣を振るうのは好きじゃないはずなんだもの。刀を持つこと自体嫌がってるような節まであったくらいなのに、それがわざわざ『ヒトカタの符』まで使って鍛錬なんて」
「へえ・・・」
「面倒事に巻き込まれてるんじゃなきゃいいけど・・・」
心配そうな声色に、ギアンは少なからず憮然とした。正直なところ、常日頃フェアに付きまとっては歯の浮くような睦言をささやいているあの侍がどうなろうと、彼には知ったことではない。むしろ本当に面倒事に巻き込まれてどこかに行ってくれればいいのに、とまで思っている。
「・・・・・・」
「やっぱりわたし、様子見てくる」
「あ、フェア。ちょっと待って」
とはいえ、駆け出そうとしたフェアをふとした思い付きで呼び止めたのは、同じ男の性ゆえか。
小さな手をとり、その中にそっと滑り込ませる。掌を開いてそれを見て、フェアは目をまるくした。
「ギアン、これ」
「念のため、にね」
そういって、青年は優しげに笑った。


昼なお暗い、シリカの森。
静謐な泉のほとりで、シンゲンは虚空を仰いでいた。
「・・・・・・」
一つ大きく息をして振り向けば、そこにいるのは彼が愛してやまない少女。
「フェア」
「シンゲン・・・」
フェアは大きな瞳を潤ませて彼を見つめていた。
「やっぱり・・・行っちゃうの・・・?」
震える声に、首を振ってこたえる。
「所詮自分は根無し草。用心棒のお役目も終わった今、いつまでもご厄介になるわけにはいきません」
「そんな・・・」
「それにもう、あなたには守ってくれる人もいる。邪魔者は退散すべきでしょう」
「やだっ・・・」
つなぎ止めていたなにかが切れたかのように、彼女はシンゲンの腕の中へと飛び込んだ。
「そんなこと言わないで。置いていかないで。もう、大事な人に捨てられるのは嫌」
「フェア・・・」
「好き。シンゲンが好き。だから、お願い、」
行かないで。その言葉は、こぼれる前に封じられた。あえぐ舌を舌で絡めとり、まるで魂までむさぼるような、深い深い口付け。
熱い息とともに唇が離れた時、銀色に光る糸がなまめかしく二人をつないだ。それを霞がかった眼で見ているフェアは、もう既に息か上がっている。
「いいんですね。途中でやめられるほど、自分は冷静じゃありませんよ」
「・・・・・・」
沈黙は肯定。シンゲンは再び口付けながら、少女を包む衣服を脱がしにかかった。
片手をエプロンの下に這わせ、ささやかなふくらみの感触を楽しみながら、もう一方の手で器用に紐を解いていく。戯れに指先で背筋を撫であげれば、あ、と切なげな声を漏らす。
なんと愛らしい。
上着を剥ぎ取り、薄手のチュニックをたくし上げれば、秘めやかな肌が外気にさらされた。未熟だが、もう既に子供ではない肢体。少女特有の悩ましい曲線と、恥ずかしさに眼を伏せる健気な仕草が、嫌でもシンゲンの欲望を昂ぶらせた。
「綺麗だ・・・」
つぶやきながら、ちゅ、と音を立てて桜色の蕾を口に含む。舌先で軽く転がすと、フェアは細い悲鳴を上げて細い体をのけぞらせた。その反応が可愛くて、ついついしつこく責め立ててしまう。
「ああ、あっ、はあ、あ・・・」
身をよじらせても、腰をたくましい腕にがっちりととらえられて逃げることはかなわない。観念したかのように、フェアはそのままシンゲンの頭を抱きしめた。
その間にも、シンゲンの手は絶え間なく動いて、難なくズボンをひき下ろす。手探りで秘所に指を当てると、布越しにも熱く濡れそぼっているのがわかった。
「フェア・・・嬉しいですよ。こんなに感じてくれて」
「やっ・・・そんなこと、言わない、で・・・ああっ!」
抗議の言葉は、敏感なその部分をかりかりと引っかかれたことで嬌声へと取って代わった。がくがくと震え、シンゲンの肩に必死でしがみつく。
ぐったりと力の抜けたその体を、そっと草地に横たえ、下半身を隠す最後の布切れを取り去る。透明な蜜を溢れさせたそこは、不思議と甘い香りがした。
「いや・・・見ないで・・・」
そう言って顔をおおい、閉じようとする膝の間に体をこじ入れ、まじまじと見つめた。彼女のそこは生娘らしく、つややかな桃色に光っている。それが今、シンゲンを誘うようにひくひくとうごめいているのだ。
凶暴なほどの劣情に突き上げられ、シンゲンは思わず笑みをこぼした。
「思ったとおり・・・。フェア。あなたは子供なんかじゃないですよ。充分に、女だ」
フェアは答えなかった。ただ、顔をおおったままいやいやと首を振っただけだった。
シンゲンもそれ以上は何も言わず、黙って下帯を緩め、己のものを取り出した。それは待ちあぐねていたかのように勢いよくこぼれだし、痛いほど赤く張り詰めている。
先端を入り口に当てると、それだけでフェアは声を上げた。すぐにでも貫いてしまいたい衝動を抑え、くりくりと円を描くように花びらを弄ぶ。同時に両手で柔らかな胸を包み込み、じっくり揉み解しながら人差し指で乳首をはじいた。
「ひゃあっ、ああ、あああっ」
フェアのそれはもう泣き声に近い。ねっとりとした意地の悪い愛撫。我ながら粘着質にもほどがある、と思う。
やがて、幼い顔を歓喜の涙に濡らしたフェアが、乱れた息の下で訴えた。
「あ・・・お願い、シンゲン・・・わたし・・・もう・・・」
「ん・・・何です? フェア。自分にどうしてほしいんですか?」
「お願い・・・お願い・・・あ、あなたに・・・」
「なんですか? さあ、はっきり言ってください。自分に・・・?」
「とりあえず10回ほど死んでもらおうかしらね」
「そう、浄土までイかせて・・・いっ!?」
氷のような声に、一気に現実に引き戻された。
生きた妄想は唐突に途切れて、シンゲンの下であえいでいた少女は瞬時に人型の紙切れ一枚に戻り、ぺらりと舞い落ちた。
そして、恐怖にこわばった体で、ぎこちなく振り返った背後には。
「ご、ごご、御主人・・・!?」
怒りと羞恥に顔を朱に染め、空色の瞳に炎を揺らめかせたフェアが――本物のフェアが、仁王立ちに立っていた。
「心配して来てみれば・・・まさかこういうことだったなんて・・・!!」
「いや、そのですね、これは・・・」
全身から嫌な汗をとめどなく噴き出しながら、何とか言い逃れようと言葉を探す。が、空気の読めない息子がこの期に及んでまだ元気良く天を向いている以上、釈明の余地などあるはずもなかった。
「最低、最悪」
搾り出すように言いながら、手にした悠冥の錫杖を振りかざす。
「10回と言わず、100万回死ね!!!」
瞬間、恐ろしいプレッシャーがその場にのしかかる。怒りに燃える少女の頭上の空間に穴を開け、今にも這い出してこようとするそれは、
「い、ま、まさか」
――凶魔獣レミエス・・・!!
まずい。非常にまずい。
今のフェアの精神状態からして、これはほとんど暴走召喚に近い。しかもその上レミエスだなんて、下手すりゃ骨すら残らないではないか。
(・・・し、死ぬ!!)
「ちょ、ちょっと待った御主人! ええとあれだ、これにはまあ要するに、惚れた女につれなくされる寂しさをケチな人形ごっこで慰めようという、聞くも哀れ、語るも哀れな男心というわけでして!」
「知るかあぁぁぁ―――ッ!!!」
咆哮一閃。少女の怒号を合図に、鈍器のごとき巨大なエネルギーが哀れな男一人に向けて一気に解き放たれた。

同時刻。
静かな宿屋を軽い地響きが襲い、テーブルの上の砂糖壺がびりびりと音を立てた。それで全てを察し、ギアンは口の端に薄く笑みを上せる。どうやら、レミエスを持たせたのは正解だったようだ。
――これであの変態侍も、彼女に近づくのをあきらめてくれると良いんだが。
いずれにせよ、フェアはひどく興奮して戻ってくるだろう。気持ちが落ち着くお茶を用意しておいてあげるとしよう。
ギアンは鼻歌交じりで厨房へと立った。


おわり

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