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「だからダメだって言ってんだろ! いいかげん聞き分けろマルルゥ!」
「嫌ですっ! ヤンチャさんがダメって言っても絶対にマルルゥはついていくですよっ!」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて、ね?」
ここは幻獣界集落ユクレス村。治めている護人のゆるーい性質もあってか、のどかさが売りの場所であるが、ここ、ユクレスの木の下の広場では、今は少し様相が違っているようであった。
「だからお前がついてきても危険なだけなんだって!」
「大丈夫ですよ、悪い人たちが出てきたってマルルゥがこらしめちゃうですよっ!」
「だからそういう事を言ってるわけじゃねぇんだって……」
言い争いをしている二人。一人は長身で筋骨隆々とした大男。しかし表情の端々には子供っぽい一面も覗かせる、長い黒髪と立派に成長した二本の角が特徴の、風雷の里の王子。スバル。
もう一人ははずいぶんと昔からその姿形も性格も変わらない、ルシャナの花の妖精。マルルゥ。
「もう……とりあえずスバルもマルルゥも一度頭を冷やしてから、もう一度落ち着いて冷静になってからね?」
そしてそのケンカをなだめる、こちらは立派に成長した犬型の亜人バウナスの青年。パナシェ。
「いいかっ、お前がなんと言っても絶対、岩にくくりつけてもここに置いていくからなっ! 行くぞパナシェ」
「それならマルルゥはスライムさんの力を借りてでもヤンチャさんにくっついていきますですよ!!」
とりあえずの言い争いを収めたパナシェは、スバルと二人で話し合うために風雷の里まで引き上げてきた。

昔からケンカしては仲直りを繰り返してきた仲良し三人組ではあったが、今回ばかりは事情が違った。
事の起こりは先日、護人達の会議ににて起こった『島の外との交流のために派遣する人員について』に端を発する。
会議によって、派遣される人員はほぼ確定していた。
多少血の気は多く子供っぽい部分もあるが、義理堅く責任感の強いスバルと、その荒っぽい部分を島内で唯一諌められ、物事を冷静に判断できるだけの観察力と冷静さを持つパナシェ。
この二人で決定していた所、突然会議場に乱入してきたのがマルルゥであった。
彼女曰く『ヤンチャさんとワンワンさんだけで遊びに出かけちゃうなんて酷いですよっ、マルルゥもついていくですっ!』
との事である。とりあえず『遊びに行く』という根本的な誤解だけは何とかして解いたものの、それでも彼女は二人についていくと、頑なに言い続けている。
むしろ遊びではないという事を聞いた時に、さらに頑固になったような様子まである。
それに噛み付いたのは代表者であるスバル。
曰く『お前みたいなちみっちゃいのがついてきたって足手まといになるだけだ!』
どちらにしろ子供のケンカレベルの言い争いに、その場にいたパナシェは、『人員の決定に関しては護人会議の結果で決めよう』という、しごくまっとうな意見であった。これには流石にスバルもマルルゥも何も言えなかった。
それから数日の後、護人達の決定が下った。その決定とは『島外への査察活動の追加人員については、代表者であるスバルとパナシェによって一任される。決定は出発当日の朝に行う』という、暗に護人達からの『お互い納得するまで話し合いなさい』というありがたい決定であった。
幸い出発まではまだ少々の余裕があるため、それだけの期間は十分にある。
当然ながらスバルは大反対であったが、もう一人の代表者であるパナシェが首を振らない限りは決定とならない。
いずれにしても採用か不採用かに決定しなければならないのが救い所ではある。
そして両者の説得合戦が始まったのだが……お互い子供っぽい性格もあってか、その様は説得と言うよりも口ゲンカ。
最初はそれをレクリエーションの一種として見ていたパナシェではあるが、次第に『これはもうダメかもわからんね』
という心情になり、そして数日が過ぎて……。

「全く……出発は明日だって言うのに、これじゃあ僕の方が納得なんてできないよ」
「何言ってやがるんだパナシェ、お前だってマルルゥがついて来るのは危険だって思うだろ?」
「確かにそうかもしれないけど……」
と、このように出発の前日になってもまだちっとも話がまとまっていない。
パナシェはスバルの家でお茶をすすりながら。
「(スバルはしきりにマルルゥが危険だからって言っているけど……果たして本当にそれだけなのかな?)」
と疑問にも感じていた。今日はそのことをしっかりと聞き、審議を決するためにスバルの家へと来たのである。
時刻は夕刻、そろそろ日が沈むかという頃である。
「で、スバル、一つ聞きたい事があるんだけど」
「ん? どしたパナシェ、改まって」
「あのね、これは僕の思い違いかもしれないけど……」
と、先ほどの疑問を口にする。
「……だから本当に、それだけなのかな……って」
「……」
眼を伏せ、沈黙するスバル。そしてそれにいささかの驚愕を感じるスバル。
パナシェはこの鬼人の青年とはもうずいぶんと長い付き合いであると自負ができるが、こんなにも、思いつめた表情を見るのは初めての事である。
そして、何かを決意したような表情でスバルは口を開く。
「パナシェ、これから言う事は絶対に皆には、特にマルルゥの奴には話さないって約束してくれるか?」
「……分かったよ、スバルがそこまで言うなら約束する」
その瞳の真摯さに、パナシェは少し考えた後、そう答えた。彼がここまで言うからには、少なくともそれなりの理由があるのだと感じたからだ。
「ありがとよ、恩にきるぜ」
「ううん、別にこれくらいは、それで……本当の理由っていうのは何?」
「いやその……あいつがついてくるのが危険だからっていうのは、半分その通りなんだ」
「半分? じゃあ……もう半分があるってこと?」
「いやその……なんつーか、俺も最近、ってかつい先日気がついたことだから、その、上手く言えないんだけど……」
「??」
彼にしては珍しく、と言うかこれも生まれて初めて見るような、真っ赤になって恥ずかしそうに俯くスバル。
「俺はな、あいつに傷ついて欲しくないんだ、そりゃあ……確かに俺とあいつは友達だからってのもあるけど……」
「スバル……まさかひょっとしてマルルゥの事」
「ああ、多分、こういうのが好き、って事なんだろうな」
突然の告白。確かにここ最近、スバルとマルルゥは、と言うよりスバルの方から一方的にマルルゥの事を避ける場面は多かった。
パナシェは、スバルも大人になって今までのようにマルルゥと遊ぶ事は出来ないから避けているのかなと思っていたが、まさかただ単に「好きだからどうしていいか分からず避けていた」という、ある意味では実にスバルらしい意見に思わず。
「ぷっ……あははははは」
「わ、笑うんじゃねえよ! 俺だって真剣に考えて、お前だったら話しても良いって思ったから……」
「あははは……ごめんごめん、そうじゃないって。笑ったのは悪かったよ、でもそっか、そういう事だったんだね」
「……まぁな」
笑われたのが気に障ったのか、少しふてくされて言うスバル。しかしその顔は何か憑きものが落ちたように安堵している。
しかし直に表情が暗くなり。
「けど、俺怖いんだよ、あいつと一緒に旅に出たとして、あいつを本当に護ってやれるのかって、もし護れなかったら、俺は……」
「スバル……」
「もし向こうで悪いヤツにでも狙われて、俺が傷つくならばそれは構わない。でももし、あいつが傷ついたりしたら……」
「だからスバルは反対していたんだね」
「そうだ、アイツはこの島で平和に暮らしてくれさえすればそれで……」
大切な人に傷ついて欲しくない。ならばいっそ自分の気持ちと引き換えに、平和に暮らしてくれればそれでいい。
そう、己の心情を吐露するスバル。
「でも、スバルは本当にそれでいいの?」
「パナシェ?」
「確かにそうすればマルルゥは安全かもしれない、ううん、少なくともこの島にいる以上安全だよ。ここには護人の皆や先生も居てくれるしね、でも……それってスバルがスバル自身の気持ちから逃げているだけじゃないの?」
「!!」
「それにスバルは肝心な事を忘れているよ」
「肝心な……事?」
「他ならない、マルルゥ自身の気持ちだよ。マルルゥのついていきたいって気持ちに、スバルは正面から向き合っているのかい?」
「アイツは……ホラ、ただ単に俺らに置いていかれるからってむくれてるだけだ……」
「違うよっ!!」
「!! パナシェ……?」
「少なくとも、マルルゥはそう考えてはいないと思う、ただそれだけの理由とは思えない。スバルも、今まであんなに食い下がっているマルルゥを見た事があるかい?」
「それは……」
「それにね、そういう理由があるんだったら、ちゃんとマルルゥに説明してあげないと」
「なっ!? いや、でも、俺は……その、アイツの事が好きになったのは最近の話で、まだ告白とかは、その」
「全く、スバルらしくないよ、いつも明け透けに物事を何の躊躇も無く言うキミは何処にいったんだい?」
「ものすげぇ、ひでぇ言われようだな……だが俺は」
ガタッ、と二人が話している横で、障子に何かが当たる音がする。
「誰だっ!」
とスバルが素早く開けるとそこには……。
「あ、あはははは……ま、マルルゥは何にもさっぱり全然ちっとも聞いてないですよっ!?」
「ま、マルルゥ……?」
マルルゥが今にも泣きそうな目でソコに居た。
「マルルゥ、お前、何処から聞いてた?」
「あいつがついてくるのが危険だからっていうのは、半分その通りなんだ、ぐらいから……って、マルルゥは何も聞いてないですよっ!」
「殆ど全部じゃねーか!!」
「そ、それではマルルゥはお邪魔なようなのでこれで失礼するですよっ、ヤンチャさんもワンワンさんもまたですっ!!」
と言って素早く飛んで行くマルルゥ。
「あいつ……」
「どうしたのスバル、早く追いかけないと!!」
「追いかけて……それでどうするってんだ? 俺はアイツに伝える前に知られちまった、きっと嫌われて……」
「バカッ!!」
ぱしん、と平手でスバルの頬を叩くパナシェ。その瞳には薄っすらと涙がにじんでいる。
「パナシェ、お前……」
「そうやってする前から諦めないでよっ!! 弱気になるなんてスバルらしくないよっ!! 僕はそんなスバルは……大っ嫌いだよっ!!」
「……」
少しの間眼を伏せるスバル、そして何かを決意したかと思うと、おもむろに拳を握り締め、バキッ!! と、叩かれていないほうの頬を自分自身で殴る。その威力には手加減など微塵も感じられない。
「スバル?」
「ゴメン、パナシェ。俺が馬鹿だった」
「スバル……ううん、いいんだよ。ごめん、スバル叩いたりして、その……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよこんくらい。俺こそすまねぇ、ちっとばかし弱気になっちまった、全く……俺らしくもねぇ」
「あはは……」
顔は真っ赤だがその笑顔は晴れ晴れとしていた。
「すまねっ、ちょっくらあのバカに会って話してくる。母上には……適当に言っておいてくれ」
「うん、分かったよスバル」
「ああ、んじゃな」
「スバルっ!!」
「何だ?」
「頑張ってね!!」
「……お、おうよ」
少し照れた様子で部屋から出て行くスバル。その様子を静かに見送るパナシェと……。
「で、ミスミ様。いつから覗いてらっしゃったんですか?」
「ほほほ、息子の恋路を見守るのも母親の勤めじゃて。最初から殆ど全てかの。じゃがあのスバルが恋か……月日の経つのは早いもんじゃて」
「はは……そうですね」
母はいつの時代も強いものである。

その頃マルルゥは、ユクレス村近くの花畑の中で一人俯いていた。
もうすでに夜の帳は下り、花はは月明かりでうっすらと照らされている。
見る人が見れば非常に幻想的で美しい光景だが、マルルゥはまるでその花がしおれてしまったように、膝を抱えて俯いていた。
「ヤンチャさんが……マルルゥの事、好き……、マルルゥも、ヤンチャさんの事は好き……ですけど」
先ほどからマルルゥは思考のループにはまっていた。
自分はスバルやパナシェも含めてこの島に生きる全ての人々が好きだ、そしてその気持ちに特別なものはないと思っていた。
しかし最近、スバルに対する気持ちだけが変化し始めているのだ。他の人の笑顔を見ていると、マルルゥはとても暖かい気持ちになれる。
しかしスバルが笑顔になるとどうだろう、胸の奥がキュッとなってしまい、ドキドキが止まらないのだ。
最初はスバルの事が嫌いになってしまったのかとも思ったがそうではない。
むしろ、好きという気持ちだけがどんどん大きくなって、押さえが利かなくなってしまっているのだ。
とうとうワケがわからなくなって先生に相談してみた所。
「それはスバル君本人に話したほうがいいんじゃないかな」と言われてしまった。
しかしこんな状況でスバル本人にこんな事を話したらどうなってしまうんだろう。
おかしなヤツだといつもどおりにからかわれるかもしれない。しかし、なぜかその時は『いつもどおり』が嫌だった。
だからと言ってどうすればいいのだと、堂々巡りになってしまう。
「ヤンチャさん……マルルゥは、マルルゥは、ヤンチャさんに会いたいです……でも、会えないです……」
そして、自分の気持ちを隠すかのように、彼と出会うと口げんかになってしまう、気持ちとは裏腹に、素直になれなくなってしまう。
彼と離れたくない、でも『何故離れたくないのか』が説明できない。
自分の気持ちが分からない、でも知られたくない、怖い。
でも……ふと見上げるとそこにはいつも笑顔の彼の顔があって。
「ったく…逃げる事はねえだろうに、ようやっと見つけたぜマルルゥ?」
こんな風に優しい言葉をかけてくれて、それだけで気持ちが晴れてしまう。
彼の笑顔はまるで御伽噺の魔法だ、自分が今悩んでいた事が、ぱあっと晴れていってしまい、そして……。
「いいか、マルルゥ、一回しか言わないからよぉく聞けよ。俺はお前の事が好きだ。友達とかじゃなくって、お前が一人の女の子として、好き……いや、愛している」
こんな風に、自分が今一番言って欲しい言葉までかけてくれるのだ。
「ヤンチャさん……マルルゥは……マルルゥもヤンチャさんの事……」

少し時間は戻る。
森の中を駆け抜けながらふと、いつ頃からこうなってしまったんだろうと思い出してみる。
自分がマルルゥの事を好きだと感じるようになったのは、先ほどもパナシェに対して言ったが、ついこの間。
島の外への査察活動が正式に決まり、その人員が自分になりそうだという事を聞いてからだった。
その事を聞いた時は、確かに不安もあったが期待のほうが大きかった。
以前にそのようなことがあるかもしれないと聞いた時は、自分から立候補したものだが、まさか本当になるとは思っていなかったのだ。
しかし、島の外に対する興味もあった。何よりも自分の憧れである先生がその人生の大半を過ごしてきた場所がどんな所か、非常に気になっていたからだ。
しかし、そんな期待をしていたのもつかの間、何故かふと、不安とも違う、何か寂しさのようなものがこみ上げてくるのだ。
確かに査察となればそれなりの期間があるだろう。一年か二年か、それとももっとか。
だが、確かに母を置いていくのは少々気が引けるが、母にはキュウマやゲンジがついている、心配はない。
ではパナシェか? 確かにパナシェと離れるのは寂しいが、話によるとあいつも査察のパートナーとしてついて来るという話だ。
このように、あーでもないこーでもないと考えた。普段は使わない頭を振り絞って考えた。
そして最後に出てきた名前……いや、違う。意図して最後になってしまった名前があった。
自分の心の中で否定しながらも、成る程なと納得してしまう。
いつからだろう、彼女のことが気になり始めたのは。
考えたって出てこない。それはまるで、花が身を結び、やがて咲くのがあたりまえのように、自分の心の中で芽吹いて、そして咲いた想いなのだから。
「(俺もバカだな……何でこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう)」
と考え、目をその方向へ見やる。
膝を抱えてうずくまる小さな影、そんな姿にも思わず胸がキュンとしてしまい。
「(ああ、やっぱり俺は……バカなんだなぁ、すっかりこいつに惚れちまってる)」
と、自分的には最高の笑顔を浮かべて話しかけた。
「ったく…逃げる事はねえだろうに、ようやっと見つけたぜマルルゥ?」
見上げた愛しい人の顔は、涙に濡れていて、こういう顔も可愛いなと思う反面、もう二度とこんな顔はさせたくないと誓う。
そして、決意を新たに、自分の気持ちをまず始めに言う。
「いいか、マルルゥ、一回しか言わないからよぉく聞けよ。俺はお前の事が好きだ。友達とかじゃなくって、お前が一人の女の子として、好き……いや、愛している」
多少の照れくささは混じるが、このくらいは許してもらおう。
そしてマルルゥがその小さな唇を開き、言った。
「ヤンチャさん……マルルゥは……マルルゥもヤンチャさんの事……」

月明かりがちょうど空のてっぺんに差し掛かり、ちょうど木の間から花畑を照らす。
そこに寝そべる二人。その顔は穏やかそうに笑みを浮かべている。
「かーっ、心配して損したぜ、マルルゥも俺のこと……その」
「はいっ♪ マルルゥはヤンチャさんの事が大好きですっ! 愛しているですっ!」
「わかったからそんなに大声で叫ぶなって! こっちが恥ずかしいだろうが……」
「そうですか? でもマルルゥはもっともっとヤンチャさんの事が好きだって伝えたいですよ」
「そうだな……それなら、二人っきりの時だけ、な」
「二人っきりの時だけ……ですか?」
「そうだ、他のヤツが居る所だと……照れくさくてかなわねぇ」
「うーん……ヤンチャさんがそう言うなら仕方ないです」
「お、珍しいな、マルルゥがこんなに早く聞き分けてくれるなんて」
「えっへん、マルルゥだって成長しているのですよー、
『女は愛する人から半歩下がってついていくものだ』ってお姫さまさんから聞いたのですよっ」
「……また母上はヘンな事を教えて」
「えへへ……ヤンチャさんっ」
ひょいと、飛び上がり、スバルの真正面にくるマルルゥ。
「ん、何だマルルゥ?」
ちゅっ、と唇に触れる感触。それは数秒の間だったが、離れる時、鼻腔に程よい花の香りがしたのを確認し
「(あ……俺、キスされたんだ)」
と、ようやっと理解したスバルであった。
「えへへ……マルルゥのふぁーすときす、ですよっ」
「ま、マルルゥ、お前」
はずみで上体を起こすスバル。
ヤバイ、胸のドキドキが止まらない。そうでなくたって二人っきりでドキドキしてるって言うのに。
「はや……? はやややや? なんだか下がムクムクさんですよっ?」
「げ!?」
そんな状況でマルルゥの位置はちょうどスバルの下半身に来てしまったのだ。
適度な重みと暖かさを感じてしまったところに、マルルゥのとろけるような表情。
それらが合わさって相乗効果で反応してしまったのだ。
スバルも年頃の男、加えて先生からの授業で性教育は習っている。
ムラムラしていた時は自分で抜いた事もある。
一方それはマルルゥも一緒で、ある程度は男の生理現象も習ってはいたものの(最も数秒前まですっかり忘れていたが)、正直自分には関係の無い事と思って授業を聞き流していた所も多々あった、何故ならば……
「えっと……ごめんなさい、ヤンチャさん」
「何謝ってるんだよマルルゥ、むしろ謝るならこっちが……」
「ヤンチャさんは……その、マルルゥとは、せっくす、できないです……」
「あ……」
見れば分かる問題、何しろサイズが違いすぎる。
舐めたり擦ったりという行為は何とか出来そうだったが、性行為という意味でのセックスは出来そうにない。
「マルルゥ、ちょっと悔しいですよ、ヤンチャさんはこんなに……マルルゥの事を考えて、こんな風になってくれたですよね?」
「マルルゥ……」
「でも、マルルゥにはそれに応えて上げられません……悔しいです、悔しいですよ……」
「あのな、マルルゥ、俺は全然そんなこと気にしてないって」
「でもマルルゥが気にするですっ!!」
「!!」
「マルルゥは……マルルゥはやっぱりヤンチャさんとは一緒にいられないですか? マルルゥは……」
「……」
すっと優しく、マルルゥの事を抱きしめるスバル。
「ったく、俺は本当にバカな男だな、大好きな女を二度も泣かせちまって……」
「ヤンチャさん……?」
「気にするな……って言いたい所だが、お前はそれじゃ納得してくれなさそうだからな。俺だって……その、マルルゥとしたい、けど」
「……」
沈黙が続く、お互いにお互いを想うからこその悩み。
しかしその沈黙を破ったのは、淡い月の光と、咲き誇る花たちだった。
「はや? はややややや? 光ってるです! マルルゥ、光ってるですよ!」
「な、なななな何が起こってるんだ!?」
月の光に照らされた花々の光がマルルゥを包む、そして次の瞬間。眩いばかりの光が起こったかと思うと。
「……っ!! マルルゥ、大丈夫か!?」
「や、ヤンチャさぁん……」
「な……マルルゥ……お前っ!?」
「ヤンチャさん……マルルゥ、おっきくなっちゃいましたー!?」
そこには、人間とほぼ変わりないサイズのマルルゥがいたのである。

マルルゥのサイズがおっきくなってしまった。
顔も大人っぽくなり、まっ平らだった胸も出ている。
目測の身体のサイズだが、かつてこの島に来た海賊の娘……ソノラくらいであろうか。
「はやややや……びっくりしたですよー」
「それは俺のセリフだ……何が起こったんだ? 一体」
「えっとですね、お花さんたちが助けてくれたですよ」
「花が?」
「シマシマさんに聞いた事があるですよ、って言っても今思い出したですけど……妖精は成長して。人を愛するようになると、その人を受け入れられるように身体が成長するものらしいです」
「だから、大きくなったのか……」
「はい、ですけどマルルゥはまだまだ妖精で言えば子供ですから、本当はこうなるまでにもう少し時間がかかったです。ですけど、ここのお花さんたちがマルルゥの事を見て、助けてくれたですよ」
「花の魔力……」
確かにここには大量の花が咲いている、そしてこれらは全てマルルゥが世話をしている花だ。
マルルゥの事が助けたくて、泣いているマルルゥの力になりたくて、皆が少しづつ力を分け与えてくれたのだ。
「そっか、なら感謝しないとな」
「はいです、でも。今夜だけなのですよ」
「今夜だけ?」
「はい、魔力による成長は一時的なものなのです。ですからマルルゥは明日の朝には元に戻ってしまうのですよ」
「そっか……でも、成長すれば今みたいになれるんだろう?」
「へ? そ、そうですけど、でもまだまだ時間が……」
「大丈夫だって、お前もまぁ随分と長生きらしいけど、鬼の一族だって負けてないんだぜ? 長生きっていう点ではな」
「あ……」
「だからまぁ、その間くらいなら待てるさ、だから……その、側に、いてくれないか? その、さっきはついてくるなって言ったけど、スマン。もう、離れられそうにないわ、お前から」
「ヤンチャさん……はいっ! マルルゥはどこまでもついていくですっ!! 嫌だって言っても離してあげないですよっ!」
「あはは、覚悟しとかないとな」
と言いつつ二人は見つめあい、そして……
「んっ……」
唇を重ねあった。

「んっ……ふぅ……」
「んあっ……ちゅぷっ……やんちゃ……さぁん……」
いつしか二人のキスは舌と舌を絡める濃厚なモノへと進化していた。
二人とも性行為の手順はなんとなしには分かってはいるものの、こういった行為は未知の領域、つまりは本能でこうなっているのだ。
「ちゅぷ……はぁ……」
「ふあぁぁぁ……キス、すごい……です、マルルゥ、おかしくなりそう……です、……ふあっ!?」
唇からのキスの後は耳、そして首筋へとその標的が移る。
キスをしながら、スバルはマルルゥの服を脱がしにかかる。
筒状の服を上から脱がし、腕の花飾りを取る。
そこには一糸纏わぬ美しい花の妖精がいた。
「マルルゥ……その、すげー綺麗だ、うん」
「えへへ……ちょっと恥ずかしいですけど、嬉しいですよ」
スバルは優しく、成長した乳房へと手を這わす。
正月に食べる餅のような手触りと、ほのかに薫る花の匂い。
「ひゃうっ!? や、ヤンチャさんっ な、なんだかくすぐったいですよ」
その香りにすっかりやられてしまったスバルは、一心不乱にマルルゥの胸を揉んでいた。
マルルゥも最初はくすぐったそうにしていたが、次第にその表情は消え、とろんとした目つきになり、頬が上気し始めてきた。
そうしているうちに、その頂上にて隆起する乳首に手が触れると……。
「あうっ!? な、なんだか、びりびりくるですっ!?」
「マルルゥ、気持ちいいか?」
「は、はいっ? よ、よくわからないですけど……ヤンチャさんの手が先っぽつまむたびにびりびりって、痺れるみたいなのがくるで……ひゃふっ!?」
「こうか?」
「ま、マルルゥが喋ってる時につままないでくださいっ!?」
「悪い悪い……それじゃ、続けるぞ」
と、今度は胸を弄り続けるのは左手だけにし、右手は下半身に伸びていく。
膝の先端を触ると、マルルゥの身体がビクリとする。
そして、そこから太股をゆっくり撫で上げて行き、最後にその付け根へと到達する。
そうしている間もマルルゥの口からは、戸惑いと羞恥、そして快感から来る嬌声が出続けていた。
スバルの右手がマルルゥの花弁へと到達するとそこは……。
「あ……濡れてる」
「や、やぁ……言わないでくださいです、はずかしいですよ……」
すっ、と優しく触れるとそこは既にマルルゥの蜜で溢れていた。
スバルは胸を弄る手を止め、マルルゥの唇にキスをした後、その顔をおもむろにマルルゥの下半身へとやった。
「ひゃあっ!? み、みないでくださいです!!」
「これが……女の子の……」
前述した通り、性教育の授業である程度の男女の身体の作りは知っていたが、実際に見るのは初めてであった。
「あ……息が、かかって……くすぐったいです」
そのくらいまで顔を近づけていたスバルは、数瞬の躊躇いの後、その花弁を舐め始めた。
「!? や、ヤンチャさんっ!? そ、そこはきたないですよっ!? な、なめちゃだめですっ!?」
「甘い……なんだこれ、花の蜜みたいな味がする」
花の妖精であるマルルゥだからであろうか、その愛液は、さながら花の蜜のような味がする。
その蜜の匂いに酔ってしまい、どのくらいその行為をしていたであろう。
マルルゥの顔は既に真っ赤なゆでだこのようになっており、秘所もまた、準備万端の状態になっていた。
「マルルゥ、もう、入れていいか?」
「ふあ……?」
耳元で囁くスバルと、何処か夢見心地で応えるマルルゥ。
「あ……はいです、その、マルルゥ初めてですので、その」
「ああ、優しくするよ」
そう言ってスバルは服を素早く脱ぎ、正常位の体勢になり、勃起した男性自身をあてがう。
「ソレが……ヤンチャさんの……おっきぃ、ですねぇ」
「そうか? まぁいいや……行くぞ」
「はい、来て……くださいです」
最初はゆっくりと挿入していく。マルルゥも最初は異物の挿入感による違和感だけだったのだが……。
「痛っ……いたいですぅ……」
「あ、大丈夫かマルルゥ? 辛いなら止めるか?」
「だ、大丈夫です、それに、今夜を逃したら暫くお預けですよぉ……だからマルルゥ、今夜は最後まで……したいです」
涙目になりながら懇願するマルルゥ。それを見たスバルは眼をつぶって決意をすると。
「行くぞ……っ!」
「はやっ!? ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一気にその秘所を貫いた。そこからは幾ばくかの血液と思われる赤いものが流れ出してくる。
「ふあっ……ハァ……ハァ……全部、入ったですか?」
「ああ……」
「よ、よかったです……それじゃぁ、最後まで、するですよっ」
「え?」
「男の人は動かさないと、気持ちよくならないですよね? それにマルルゥ、もっとヤンチャさんの事、感じたいですよ……」
少々の躊躇はあったものの、スバルは優しく頷くと、ゆっくり腰を動かしていく。
「んんっ……! ふわぁ、ひゃうっ!?」
「だ、大丈夫かマルルゥ?」
「う、うん、大丈夫、ですっ、ですからヤンチャさんは、もっと気持ちよくなってくださいです……」
恐らく痛むのだろう、動かす度に脂汗を流しながらも、心配をかけまいとけなげに微笑むマルルゥ。
スバルも負担をかけないようにゆっくりと動く。
「っうん……ふあっ!? な、中で動いてるですぅ……はふぅ……ひゃうっ!?」
「(やべぇ……マジで気持ちいい)」
スバルも初めての行為に戸惑いを感じていた。
膣内に突き入れる度に律動する肉壁が、スバル自身を捕らえて離さない。
その快感の前に、もっと突き入れたいという感情が湧き出してくるスバル。
「(でも、そうするともっとマルルゥを苦しめちまう……)」
そんな感じでスローペースを保つスバルであったが、ふと、そんな様子にマルルゥが気づく。
「んっ……ふぁ、ひょっとしてヤンチャさん……もっと速く、動きたいですか?」
「そ、そりゃあ……その」
言葉に詰まるスバル。
「いいですよ、マルルゥは、もっと気持ちよくなってくださいって言ったです……ですからヤンチャさんが気持ちよくなってくれないと……マルルゥは……マルルゥは……」
悲しそうな表情になるマルルゥ、その様子を察したスバルは
「……すまねぇマルルゥっ!!」
「ふあっ!? くふぅぅ……!!」
そう言って強く突き入れる。
「んあっ……奥まで……来てるですぅ……」
未だに苦しそうな声はするものの、少しづつ慣れてきたのか、徐々に気持ちよさそうな喘ぎ声が混じり始める。
「ふあっ……すごっ、なんですかこれぇ? ……気持ち、良くなって……ひゃうっ!?」
「マルルゥ、俺もすげぇ気持ち良いよっ」
「あは……よ、良かったですぅ、もっと気持ちよくなってくださいです……ふあっ!?」
ぐちゅ、ぐちゅ、と結合部から卑猥な音が漏れる。そんな音までも快感に変えて、二人の行為は加速していく。
「は、激しいです……ヤンチャさんの、が……はわぁ、奥に、ズンズン当たってるですぅ!?」
「マルルゥ……俺、もうっ!?」
膣内でスバルのモノが脈動する。
「はいっ、来て、下さいですっ! マルルゥも、何か……何か来るですぅ!?」
「くっ……出るっ!!」
「ふああ……ヤンチャさん……ヤンチャさん……」
「マルルゥ……マルルゥ……!!」
「ヤンチャさ……スバルッ、スバル!!」
生まれて初めて名前を呼ばれた、しかもこんな時にだ、正直卑怯だと、スバルは思った。なぜならその瞬間、スバルは絶頂に達していたからだ。
「スバルッ!! スバ……ふあ!? ふぁぁぁぁぁあぁぁぁはぁぁぁぁぁぁぁ!?」
絶頂の瞬間、スバルはこれ以上ないと言うくらいに深く突き入れた。
ビュクッ、ドプッ、ビュプッ
マルルゥの膣内に熱い塊が何度も打ち込まれる。
その度にマルルゥは喘ぎ声を漏らしながら身体を痙攣させる。
「ふあぁぁ……スバルの……熱いのが……いっぱい、お腹の中に、出てるですぅ……」
「くあっ……ハァ……ハァ……ま、マルルゥ……」
「ひゃうっ? ま、まだ出るですかぁ? あはは、元気良く出てるですぅ……」
そしてお互い見つめあうと、二人同時に目を閉じ、キスをした。

暫く繋がったままでいた二人だったが、やがて名残惜しそうに離れる。
「大丈夫だったかマルルゥ? 辛くなかったか?」
「えへへ、ちょっとヒリヒリするですけど、全然大丈夫なのですよ」
「そうか、ならよかった」
お互い安心し、笑顔になる。
「ねぇ、ヤンチャさ……スバル、今夜はこのまま一緒にいて、いいですか?」
「ああ、かまわねぇさ。それとマルルゥ」
「はい? どうしたですか?」
「その、スバルって呼ぶのも、できれば二人っきりの時にしてくれねぇか?」
「何でですか?」
「あー、その、何だ、恥ずかしいんだよ……」
「えへへっ、わかりました、スバルっ、なら二人きりの時にはそう呼ぶですよっ」
「ったく……にしてもちゃんと名前で呼べるんだな」
「いくらマルルゥが人の名前覚えるのが苦手でも、大好きな人の名前くらいはちゃんと覚えるのですよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんですよっ♪」
こうして、二人にとってとても大切な思い出の夜はふけていった……。

翌日。出発の準備を整え、挨拶のために会議場へと来るスバルとマルルゥ。
ちなみにマルルゥは昨日の夜に言った通り、起きてみると元のちみっちゃい妖精の姿へと戻っていた。
「やあスバル、マルルゥとは仲直りできたみたいだね」
先に来ていたパナシェがスバルに話しかける。
「ん、ああ、まぁな」
「えへへっ、マルルゥとヤンチャさんはとっても仲良しになったのですよっ、ね?」
「へぇ、そうなんだ……(上手くいったみたいだね、スバル)」
「(ああ、まぁ……そう察してくれ、しかし……)」
「(ん? どうしたの?)」
「二人とも、コソコソ話はダメダメさんですよっ、マルルゥも混ぜてくださいですっ」
「ゴメンゴメン。それで結局スバル、マルルゥは連れて行くの?」
「ああ、コイツがどうしてもって聞かないからな、連れてくよ」
「はいです、そういう事にしておくですよー♪」
「?」
「だぁーっ! 何でもない、何でもないぞっ!? ほら、とっとと皆に挨拶しないとなっ!!」
「変なスバル……」
「えへへへ……♪」
そう言ってスバルはパナシェとマルルゥの背中を押しながら、マルルゥの意地悪そうな笑顔を見てこう思うのであった。
「(俺、絶対尻に敷かれるな……)」
それも悪くないか、と思ってしまうあたり、惚れた弱みは重症であった。
そう言えば聞いた事がある、確かルシャナの花の花言葉は……。

「マルルゥは、大大だぁーい好きなスバルと、ずーっといっしょにいるですよ♪」

そう、熱愛だ。


おわり

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