シンゲン×フェア



「お疲れ様!今日も手伝いありがとう」
そう言って宿屋の少女店主は幼馴染みを見送った。
『ミュランスの星』に認められて暫く経つが、いまだ客足は衰えない。
後片付けも終わり、フェアは大きく息を吐いた。
このところ、色々あった。ありすぎた。
竜の卵を拾い、自分の秘密を知り、沢山の仲間と出会い、別れ、――そして先日…。
フェアは、シンゲンと一線をこえてしまった。
今までのフェアは生活する事に精一杯で恋愛する余裕もなかった。
そんな時に出会ったシンゲン。彼は、いつも自分を支えてくれていた。
眠る前の会話も、大切な相談をする時も、いつの間にかフェアは彼に頼るようになっていた。
(――わたし、シンゲンを好き…なんだと思う。…多分)
一応自分の気持ちには気付いたものの、所詮は恋愛レベル1。
レベル50のロリコン侍が放つ『求婚』という特殊技の前に、どうして良いか分からず撤退してばかりの日々だった。
――先日、熱を出すまでは。
行為自体に後悔はないが、熱のせいでいつもとは違う自分だった気がする。
(思い出したら顔から火が出そう)
「…しゅじん」
(何回もキスをして、その後シンゲンはわたしの体を…)
「御主人?」
フェアの目の前に、ぬっと黒ぶち眼鏡の茶髪が現れた。
「きゃあぁぁあっ!いきなり顔近付けないでよシンゲン!」
静かな店内に、フェアの高い悲鳴が響く。シンゲンは耳を押さえながら苦笑した。
「だって何度呼んでも気付いて下さらないんで――」
シンゲンの話の途中でフェアは素早く距離を取る。
「お…おかえり!ご飯は鍋の中にもう出来てるから!わたし、ちょっと部屋に戻ってるね!」
明らかに不自然な態度で店を飛び出すフェア。
体を重ねてから数日。フェアはずっとこんな調子だった。恥ずかしくてシンゲンと話せないのだ。
他の事には気持ちの良いほどサバサバしているくせに、どうも恋愛に関してだけは上手くいかない。
「もう一度熱でも出たら、また素直になれるのかな…」
ベッドの上で足を抱えながら、フェアはふと自分の体を見つめた。
上着を脱いでみる。小さな胸も、筋肉がついた腕も、女性的魅力があるとは思えない。
(シンゲンは好みだって言ってくれたけど…)
フェアは胸に触れながら溜め息をつくと、やがて優しく揉み始めた。
「…んっ…」
桃色の頂を摘みながら、乳房を揉む力を徐々に強める。
右手は胸を揉みしだいたまま、フェアは徐々に左手を割れ目に滑らせていく。
うずく奥へと指を潜らせて、肉芽を刺激するフェア。
「ぁ、シン…ゲン…っシンゲン…!」
秘所を慰める淫らな音が耳に響いた。フェアは声が漏れないように枕に突っ伏す。
そのまま目を瞑り、シンゲンに触れられる事を想像して更に激しく指を動かした。
「んあぁぁっ!…っ!」
頭の中が真っ白になり、大きく体を震わせてフェアは果てた。
肩で息をしながら、自分が情けなくなるフェア。
服を着て、風呂に行こうと部屋を出たところで、フェアはシンゲンに出くわしてしまった。
「…」「…」
沈黙。
部屋の扉はキッチリしめたので自慰に気付かれてはいないだろうが、フェアはシンゲンと目を合わせられない。
そんなフェアにシンゲンは、思いもよらない事を口にした。
「…実は…ここを出ていこうと思うんです」
フェアは、シンゲンの言葉を理解するのに時間がかかった。シンゲンは続ける。
「今日のお客の中に、自分の演奏を気に入って下さったシルターン自地区の富豪の方が居たんですよ。居住手続き云々の諸費用や旅費は出すから自地区で演奏しないか、と…」
シンゲンは寂しそうに笑う。
「…ここに留まっても御主人にはご迷惑みたいですし」
予想外の展開に呆然とするフェア。
シンゲンは「今までお世話になりました」と言って背を向ける。そこで漸く我に返り、フェアはシンゲンを引き留めた。
「待ってシンゲン!」
シンゲンの背中に抱きつくフェア。
フェアはシンゲンの体温を感じながら、少しずつ言葉をこぼし始める。
「こないだの事、嫌なんかじゃなかったよ。わたしも望んでた事だもの。ただ…恥ずかしかったんだ…。ごめんね、自分の気持ち優先でシンゲンを傷付けて…」
着物を掴む手に力が入る。自分よりずっと大きな男の人の背中。うっすらと匂う汗も、フェアにとっては愛しいものだった。
「だから行かないでよ!…わたしをお嫁さんにするって言ってたじゃない。…あなたが…好きなの」
シンゲンの背に、ぴたりと付いたフェアの胸。激しい心臓の音はシンゲンに伝わっているのだろうか。
シンゲンは、フェアに背を向けたまま尋ねた。
「本当ですか御主人?自分の求婚を受けて下さると?」
「…うん」
「…では、お願いを一つ聞いてくれませんか?」
「…うん。わたし頑張るよ」
「今から一緒にお風呂入りましょう」
「うん……え?」
ぐりん、と勢いよく振り向いたシンゲンの顔には満面の笑みがあった。
「だ…ッ騙したのね〜〜!?」
ぶんっ、と勢いよく繰り出されるフェアの拳。だがシンゲンは、ひらりとかわす。
「いえいえ、迷惑だったのかと悩んだのは本当です。御主人が弱っている時につけこんでしまいましたしねぇ。…まあ色恋に駆け引きはつきものですよ、フェア?」
戦闘型フェアの攻撃をひょいひょい避けるシンゲン。淫行侍にクラスチェンジすると、TECボーナスが50くらい付くようだ。
「熱で判断能力を失った御主人が、ただ雰囲気に流されただけだったのかと不安になったのも事実です。そしたら…」
ぱしっ。シンゲンの手がフェアの拳を受けとめる。TECだけじゃなくDEFにも大きなボーナスが付くらしい。
「先ほど…部屋で何されてたんです御主人?」
不敵に笑うシンゲン。フェアは瞬時に赤くなった。フェアの自慰はバレていたのだ。
「いや〜。抱きついて告白してくれて、その上お風呂までご一緒して下さるとは至れり尽せり。自分は幸せ者で――ぐほぁっっ」
クリティカル。フェアの拳がシンゲンの脇腹に入った。
「バカぁっ!出ていくって言われて、わたしすごく怖かったんだからね…っ」
フェアは涙をにじませていた。
それに気付いたシンゲンは、申し訳なさそうにフェアの頭を撫でる。
「…すみません。でもね?自分は好きなものに、とことんこだわる性格なんです。ちょっとやそっとじゃ諦めませんよ」
やがてフェアが落ち着いた頃、シンゲンは言いにくそうに話し始めた。「…それで…さっきの一緒にお風呂ってやつ、どうですかね?騙した感じになってしまいましたし、嫌なら今日は我慢…」
「いいよ」
「あぁやっぱりお嫌ですよね…ってエエエェ!?」
華麗にノリツッコミを決めた、淫行侍にフェアは告げる。
「シンゲンも知ってるでしょ?わたし約束破るの嫌いなの」

かぽーん。
ところかわって、ここは浴場。庭にある倉庫の裏に作られたなかなか立派なものである。
貸しきり状態の洗い場に、薄布を体に巻いて立ち尽くす二人。
「ご…御主人、本当によろしいんで?」
「なに怖じ気付いてるのよ、らしくないわね」
強気な返答をするフェアだったが、実際は緊張しまくりだった。しかし後には退けない。
約束を破りたくない、というのも本当だったが、結局はシンゲンともう一度触れ合いたかったのだ。
シンゲンの背中を洗い始めるフェア。
初めてちゃんと見た背中は沢山の傷が残っており、彼が戦いの日々に身を置いていた事を実感させられた。
「人に見せられるもんじゃないんですがね」と呟くシンゲン。
フェアは胸が苦しくなり、シンゲンの背中を抱き締めた。
「そんな事ない。戦闘でもたくさん助けてくれたよね、ありがとうシンゲン…」
既に体を巻いていた布はなく、むに、とフェアの胸が直接シンゲンの背中に当たる。
フェアとしては気持ちのまま抱き締めただけだったのだが、それがシンゲンのダメ侍魂に火を付けた。
「ご…御主人…。そのまま貴方の胸で背中を洗って下さいませんか」
シンゲンは淫行侍から淫行変態侍にクラスチェンジした。
「いえね?鬼妖界では、夫婦の証として妻が体を使って夫を洗うという風習が…」
嘘 を つ け 。
フェアは呆れたがシンゲンの提案を飲む事にした。
抱き締めて気持ちが良かったのは、フェアも同じなのだ。
(…わたし、実はすごくいやらしいのかもしれない)
そう思いながら、フェアは泡でぬめった背中を胸で撫で回しはじめた。
「ん…っ、結構…難し…」
乳首が擦れてフェアに快感をもたらし、息が荒くなる。
「…はぁっ…次は、前も洗わなきゃ」
フェアは泡だらけの体で、小さな椅子に腰かけているシンゲンの前に回った。
シンゲンの腰に巻かれた布の前方は、張りつめている。
フェアはシンゲンの布を取り、泡だらけの小さな胸で一生懸命肉棒を擦り始める。
「…くっ…御主人…?そこまで…しなくて、もっ…」
シンゲンが唸る。その顔に快楽を見い出し嬉しくなるフェア。
しかし控え目な乳房で男根は隅々まで洗えない。フェアは仕方なく、手でシンゲンを洗う事にした。
赤く膨張した温かい竿を、根本からゆっくり洗うフェア。初めは驚いたが、今はむしろ愛しく思えた。
時々ビクリと反応しながら、どんどん固く大きくなっていくそれに、フェアは尋ねる。
「…ね…気持ちいい…?」
そう言ってシンゲンを見上げるフェア。上目遣いで頬を染める姿は、S級召喚並の破壊力だった。
シンゲンは、予想外のダメージに我慢出来なくなってしまう。
「ごっ、御主人!今すぐ手を離してくれないと…その…っ」
言い終る前に、年甲斐もなく暴走してしまった。フェアの小ぶりな胸は、石鹸の泡と白濁液で白い。
謝るシンゲンに、フェアは笑いながら答える。
「お風呂なんだから、大丈夫だよ。…それより…気持ち良かったみたいで、嬉しい」
フェアは普通に答えたつもりだったのだが、シンゲンには何か耐えがたいものがあったらしい。
「今度は自分が」と言ってシンゲンはボディソープを手に取り、フェアを手で直接洗い始めた。
シンゲンはフェアを自分の膝の上に横抱きにして、ぬめった手を小柄な肢体に滑らせる。
背中、首筋、太腿…。特に胸は丁寧に、淡く色づいた小さな乳輪を丸くなぞり、乳首も優しく摘む。
もちろん柔らかな膨らみは上から下までしっかりと。
「あぁっ」
快感がフェアの中を駆け抜ける。どうもシンゲンは胸をいじるのが好きらしい。
そうこうしている間に、シンゲンの指はフェアの淡い茂みに差し掛かっていた。
「そこは…自分で洗えるよぉ…っぁ!」
既に充分濡れており、かつ泡で滑りが良いため、シンゲンの指は難なくフェアの中に侵入した。
「ダメですよ、ここは特に綺麗にしなきゃ。…しかし、どれだけ洗ってもぬめりが取れないんです。なんでですかねぇ御主人?」
フェアはシンゲンの言葉に顔を赤くする。
新スキル『言葉責め』を覚えた侍に敵はない。シンゲンはフェアが止めるのも聞かず、激しく指を動かす。
そして指を抜くと、既に復活した肉棒をフェアに押し入れた。
「痛っ、ちょっ…待ってってば、シンゲンっそういうのはベッドで…んぁあああっ!」
浴室なので、フェアの声は大きく響く。
そのままフェアは体を痙攣させて絶頂を迎え、ぐたりとしてしまった。

満月が窓に映る、ここはフェアの自室。静かな筈の部屋に男女の声が響いている。
「ごしゅじ〜ん。機嫌直してくれませんかねぇ?」
「シンゲンなんて、もう知らないっ!」
フェアは膨れてそっぽを向く。
風呂場で気を失ってしまったフェアは、シンゲンに自室まで運ばれたのだった。
「わたし待ってって言ったのに!シンゲンのバカっ!」
「…しかし、なかなか止まれないのが男の性でして…。それに御主人も気持ち良かっ…ごふぅッ!」
フェアは真っ赤になってシンゲンに枕を投げつけた。
確かに気持ちは良かったが、何というか配慮が足りない。乙女心は難しいのだ。
シンゲンから言わせれば、無意識とはいえあれだけ誘っておいて理不尽な話だが、フェアには通じない。
「どうすれば許してもらえますかねぇ、御主人?」
眼鏡を直しながら腑に落ちない様子で、シンゲンはフェアのご機嫌取りを始める。
フェアは口を尖らせて言い放った。
「…今からそっと抱き締めてキスをちょうだい。…すごく、優しいやつを」
シンゲンは一瞬呆気に取られた後、笑いだす。
シンゲンに子供と思われたかもしれない。フェアは赤くなりながらうつむく。
シンゲンは、そんなフェアの頬に触れ、そっと呟いた。
「どんなお願いをされるのかと思ったら…。これで許してもらえるなら、いくらでも」
フェアは、そっと目を閉じた。


おわり

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