ポム子な日々 3



 くちゅり。くちゅり。卑猥な音を立てながらわたくしの指はおじょうさまのあそこを優しくほぐします。
 ああ、ぷにぷにとしたお肉の感触。感無量です。わたくしの頭がぼーっとしてまいります。
「……っあ……やぁ……うぅ……」
 とろり。とろり。おじょうさまのぷりぷり肉に美味しそうな蜜が絡まってゆきます。
 ほんと、おじょうさまときたらこんなにも敏感でいらっしゃって。ますますそそられるではありませんか。
「お願い……やめてよ……ポムニット……こんな……ああんっ!……ひっ……くぅ……」
 こりこり。乳首さんも可愛らしいですね。思わず摘んじゃいたくなるじゃありませんか。
 ああ、おじょうさま可愛い。その御身体のすみずみまで愛でて差し上げたい。
「ふふ、そういうおじょうさまも随分とたまっていらっしゃるのではないのですか?最近はまたお忙しくてライさんともご無沙汰のようですし」
「そんなわけな……っあ……んひっ……ひゃぅぅっ!」
 お二人とも忙しくてまともに会えない日も多いですからね。その分、一緒にいられるときの乱れぶりときたらそれはもう。
 そういえばライさんと初めて結ばれたあの夜も、おじょうさまときたらあのまま二回戦、三回戦へと突入して。
「ばらすな。馬鹿ぁぁぁ!!」
 あはは。おじょうさまのお顔。タコさんみたいです。それはさておきおじょうさま。きちんと避妊はしないと駄目ですよ。
 万が一のことがあったりしたら、ライさんが旦那様に比喩表現抜きでクビにされちゃいます。
「わかってるわよ……そんなこと・・・…んっ……あくぅぅ!」
 おじょうさま。これは真面目なお話です。デキちゃった後では遅いんですよ。ちゃんとご自分達で責任持てるようになるまではどうかご自重くださいな。
「………うん………」
 素直でよろしい。さあて、それじゃあご褒美におじょうさまを気持ちよくして差し上げましょう。
「だからやめてってさっきから言ってるでしょうがっ!」 
 なにも聞こえませんよ♪今のわたくしは自分の欲望に忠実ないけないメイドさんですから。
「なによそれぇぇ!!」
 ご理解いただけなくても別に構いません。こっちはこっちで好きにさせてもらいます。
「んぐっ…んむぅ…んっ……」
 再度、熱いベーゼを交わします。ああ、おじょうさまの唇。とても柔らかい。
「ひやっ!だ…めぇ……そんな…とこ……」
 ちゅくちゅく。うふふふ。弄り回すわたくしの指におじょうさまの肉蜜がからんできます。ぺろぺろ。ふふ、とても美味しい。
「ひあぁぁ!あっ…く……ふぅ……」
 ああ、わたくしのアソコがおじょうさまのに触れて、ぴったりとくっついちゃいましたね。さあ、このままいきますよ。おじょうさま。
「だから嫌ぁぁぁあああああ!!!!」
 お風呂場中におじょうさまの悲鳴が響き渡ります。それがむつましい嬌声にかわるのにはさして時間がかかりませんでしたとさ。
 あらかしこ。あらかしこ。


 ふう、すぱあ。なにやらお煙草を吸った後のような擬音が流れてますね。うふ。流石にわたくしも久しぶりなんで乱れちゃいました。
「うっ……うっ……ひくひく……ひくひく……」
 すっかりわたくしに嬲られつくしておじょうさまは果てておられます。ああ、それにしてもおじょうさまの艶姿の愛らしいこと。
 濡れたわたくしとおじょうさまの秘肉同士が互いにこすれ合ったときのおじょうさまがおあげになった喘ぎ声。
 もう(*´Д`)ハァハァが止まらなくてどうしようもありませんでした。あはぁ。リシェルおじょうさま。
「うっ……うっ……ぐすっ……ひっく……」
 あらあら、おじょうさま。お泣きになられるほど気持ちよかったのですか?そうですよね。軽く5,6回はお逝きになられましたもの。
「うっさい!なんてことすんのよっ!ポムニットの馬鹿ぁぁ!!」
 あらら。怒らせちゃいましたか。でも、おじょうさま。ちゃんとあったでしょう?
「何がよ!」
 ほら、言ってたじゃありませんか。おじょうさまがわたくしのためにしてあげられることとか。
「全然違うわぁぁぁああ!!っていうか今回もあんたが一方的にしただけじゃない!」
 あ、そうでした。わたくしとしたことがとんだポカを。これは仕方がありません。ならばこうしましょう。
 艶かしいポーズをとってわたくしはおじょうさまにこう囁きます。
「お、おじょうさま。よろしければ今度はおじょうさまが……このいやしいわたくしめにどうかお情けをくださいまし」
「するかぁぁぁあああ!!!本気で怒るわよ!ポムニット」
 怒り心頭。おじょうさまはすっかり頭を沸騰させておられます。わたくしは軽くフッと笑ってこういいます。
「そうですね。まあ、これは冗談なんですけど」
「冗談でこんなことするなぁ!……って、ちょっと……やだっ、ポムニット……」
 わたくしはふいにおじょうさまを抱きしめていました。
「やだっ……もう……やめ……」
 顔を赤らめながら強張るおじょうさまの姿はたいへん可愛らしいです。わたくしはそんなおじょうさまのお背中をさすりながら
「そうやって、わたくしの冗談にいつもむきになって怒ってくださいますね」
 おじょうさまの耳元で囁きかけます。
「でも、最後にはわたくしのこと、ちゃんと許してくれるんですよね。リシェルおじょうさまは」
 普段は素直じゃないけれど、本当はとてもお優しい人だから。貴女は。
「わたくしが旦那様のお叱りを受けた後は慰めてくださいます」
 まあ、元々の原因はおじょうさまなんですけどねと胸の中で付け加えて。
「おじょうさまの悪戯の謝罪回りで疲れ果てたわたくしに、不貞腐れながらですけど、いつも『悪かったわよ』って謝りにきてくださいました」
「………ポムニット………」
 気がつくとわたくしの胸の中はおじょうさまとの思い出でいっぱいになっていました。わたくしは語り続けます。
 昔はよく一緒にいったピクニックの思い出。お弁当の準備をするのはいつもわたくしのお仕事。
 原っぱの上で美味しそうにわたくしのお弁当を頬張るおじょうさまたちの笑顔。心に焼き付いて離れません。
 わたくしのささやかな趣味の他人の噂話。いつも面白そうに一緒になってつきあってくださいましたね。
 毎日、隙を見てはお屋敷を抜け出して、連れ戻すわたくしの苦労も少しは考えてほしかったですよ。
 けれど、泣きついたわたくしに渋々ながらも『一緒に帰る』と言って下さったときは全てが報われた気がしました。
 思い返せば思い返すほどに。わたくしは強く確信いたします。こんなにもわたくしがおじょうさまのことを愛しく想っていることに。



 わたくしの思い出語りは続きます。わたくしとおじょうさまにとって避けては通れないあの出来事に。
「貴女に『バケモノ』と言われたときは哀しかった。もうこの世に生きてなんていたくないぐらいに」
「っ!」
 そう言った瞬間、ビクッと腕の中でおじょうさまのお身体が震えるのを感じます。
「あのとき、わたくし本気でお母さんのことを恨みました。なんで大切に思ってきた人にあんな風に言われるような身体に産んでくれたんだろうって!」
「あ……ぁ……」
「また一人ぼっちになるのかと思いました。もう一緒にはいられないのかと思うとそれだけで胸が潰れるほど苦しかったです」
「……ごめん……ごめん……ポムニットぉ……う…ぅぅ……」
 わたくしの言葉におじょうさまはまた泣き出してしまいます。すみません。おじょうさま。でも、まだ続きがあるのですよ。
「ですけど……」
 そこで言葉を区切って息を吐きます。あのときの思いをかみ締めるように。
「その後、必死になってわたくしを引き止めになったときのことも、わたくしは忘れていませんよ」
 すすり泣くおじょうさまにわたくしは語りかけます。あの日の夜の出来事も。
 ライさんの説得にもかかわらず去ろうとするわたくし。そんなわたくしの目の前におじょうさまは現れました。
 いきなり現れたと思ったら居丈高に『どこにもいくな』とご命令して、その命令はもう聞けないと言うわたくしに自分のことがもう嫌になったのか?
 と痛々しく問い詰めてこられて、馬鹿ですね。おじょうさま。わたくしが貴女のことを嫌いになるはずがないじゃありませんか。

『勝手に決め付けんな!あたし、あんたに面と向かってそんなこと言った覚えないわよ!』

 馬鹿はわたくしも同じでしたね。勝手に思い込んで一人飛び出そうとしていましたものね。それで貴女を悲しませることが分かっていながら。
 力を制御できなかったわたくし。けれど自分の命も顧みずに近づいてくださいました。怖かった。また大切な人を自分の力で死なせてしまうことが。
 どうしていいか分からずに、ただ泣くわたくしを貴女は後押ししてくださいました。キツイ言葉と真っ直ぐなそのお気持ちで。



『ポムニット、大好きだよ』



 あのとき、貴女に抱きしめられながら大好きと言われたときに

 永く、わたくしをとらえていた心の鎖は断ち切れて

 そして素直に思えるようになったんです。自分がこの世に生まれてきたことを、本当に心から良かったと思えるように。



「こんなにも……こんなにも……わたくしの中をいっぱいにしておきながら……」
 ぽろり。わたくしの瞳からふいに涙がこぼれてきます。
「それで……なにが『何もしてあげてない』ですか……怒りますよ……本当に……」
 駄目ですね。止められそうにないです。
「貴女から頂いたたくさんの大切なもの……返しきれないのはわたくしの方……なのに……」
 嗚咽が喉の奥から迫ってまいりました。これはもういけませんね。
「ポムニット!悪かった。あたしが悪かったから……」
 すると、おじょうさまはわたくしにがっしりとはみつきます。
「だから泣かないで……お願い……もう……ぅ……」
 涙で濡れた顔をわたくしの胸に押し当ててそう言います。ふふ。いつまでたっても泣き虫なおじょうさま。
「これは悲しくて泣いているんじゃありませんよ。おじょうさま」
 ぼそりとおじょうさまの耳元。わたくしは囁きます。
「愛しいからです。貴女のことが愛しくて愛しくてたまらないから泣いているんですよ。リシェルおじょうさま」
 そう言ってわたくしはおじょうさまの頭をキュッと強く抱きしめます。温かい。おじょうさまの温もり。
 ねえ、お母さん。許されるならばわたくしは、このぬくもりをずっと、こうしていつまでも感じていたいです。




「はあ、色々とサッパリしちゃいましたね」
「あたしはなんか疲れた……」
 お風呂上り。おじょうさまのお部屋でわたくしたちは二人してくつろぎます。
「ふふ、けれど少しは嬉しかったですよ。あの傍若無人だったおじょうさまが他人のことを気にかけるぐらいにはご成長なされて」
「またそうやって……子ども扱いする……」
 おじょうさまはまたぶすっとふくれてしまいます。
「いえいえ、おじょうさまは健やかにご成長なされております。嬉しいことでもあり、寂しいことでもあるんですけどね」
 軽い微笑みにほんの少しだけ寂しさの影をつけてわたくしは言います。
「おじょうさまが大人になられて、わたくしの手から離れちゃうのはやっぱり寂しいです」
 それが偽りのない今のわたくしの気持ちでした。
「矛盾してますよねえ。おじょうさまがご成長なさることをあんなにも楽しみにしていたのに……いざとなると……」
 ほんの少しだけですけど、わたくしの心に不安が広がっています。おじょうさまたちに尽くすことが生きがいのわたくしに
 それがなくなってしまったらいったい何があるんだろうなって……
「教育係の役割も今じゃほとんど名目上になっちゃってますし……まあ以前と比べて楽といえば楽なんですけど……」
 ほんと振り回されていた頃はあれだけあの多忙地獄から解放されることを切に願っていたというのに。
「なに言ってんのよ!あたし、あんたに楽させる気なんてこれっぽっちもないわよ!」
 すると、おじょうさまは少しセンチになっていたわたくしに向かって言います。
「あんたは一生、あたしの家来なんだから死ぬまで扱き使ってやるわよ。覚悟しなさいよ」
 あわわわ。わたくしとしたことがまた地雷をふんじゃいましたね。おじょうさま。お手柔らかに頼みます。それと家来じゃなく保護者です。
「あたしに将来、子どもが生まれたらその子の面倒はあんたが見るんだからね。当然でしょう!」
 おじょうさまのお子様ですか。それはさぞかしヤンチャさんなんでしょうね。うう、今から戦々恐々しちゃいます。
「あたしがお婆ちゃんになっても孫の面倒はあんたの仕事よ。定年退職なんてないんだからね」
 お孫様ですか。そうなると長生きしないといけませんね。お互いに。
「あたしが死んだら墓のお守りもあんたの仕事よ。あたしより先に死んだら許さないんだから!」
 そこまで先のことまでは責任持てませんよ。前向きに善処するとしか。
「絶対……楽になんてさせない……寂しいなんて思う暇なんて与えてやらないんだから……だから……」
 ぷるぷると顔を震わせながらおじょうさまは続けます。
 まったくおじょうさまときたら、普段はちっとも素直じゃないくせに……
「ずっと一緒にいて!どこにもいったりしないで!」
 本当に必要なときにはいつも、わたくしが一番言ってもらいたいことをおっしゃってくださるのですから。
「どこにもいったりしませんよ。わたくしの居場所はここにあります」
 ポンとおじょうさまの御肩に手をおいてわたくしは言います。
「これからもずっと貴女のお側で仕えさせてくださいまし。リシェルおじょうさま」
 晴れやかな気持ちで。晴れやかな笑顔で。わたくしはおじょうさまに心からの望みをお伝えしました。










 キミが植えた小さなタネは ボクの中で芽吹いていた
 こんなに泣ける自分が在るうちは 愛は消えない

 キミを大好きなボクの詩が シアワセに響いていくんだ
 もう二度となくしたくないボクに 怖いものは無い






 エピローグ 〜はじまりをくれた貴女に〜


「ライ……あたし、浮気しちゃった……ごめん……」
 朝の仕込み前の時間、久しぶりに顔を見せるリシェルが突然そんなことを言い出しライは面食らう。
「浮気って……オマエ……」
 半眼でリシェルを見つめながらライは息を吐く。思い当たる相手は一人しかいなかった。あの人しかいないだろう。
「ポムニットさんだろ。違うか?」
 尋ねるとビクッとリシェルの肩が震えた。図星のようである。リシェルは裁きを待つ咎人にように神妙になって小さくなる。
 やれやれとばかりにライはため息を吐いてリシェルの帽子にポンと手をのせて言う。
「怒らねぇよ。どうせまた隙を見せたら襲われたんだろう?そういうの浮気って言わねえし」
「そりゃ……そうだけどさ……」
「それに知ってるからさ。オマエにとってポムニットさんがどれだけ大切か、ポムニットさんがどれだけオマエのこと好きなのかをさ」
「ライ……」
 自分が好きだと思う相手。その相手の大切なものは自分もまた大事にしてあげたいとライは思っている。
 それにポムニット。彼女のお節介がなければこうしてリシェルへの想いに気づくことにもなかった。
 リシェルに対する思いの深さ。悔しいがまだ勝てそうにないだろう。あのおじょうさまLOVEの暴走メイドには。
(そんなんじゃいけないんだけどな。横からコイツを掻っ攫われちまう)
 弱気になるなとハッパをかける。あの小姑気分バリバリのメイドとの戦いの日々はまだ始まったばかりだ。
 なんか当分の間は、到底勝てる気がしないのだけれど。
(まあ、いつかは必ずな。そうだろ?ポムニットさん)
 それが彼女の望みでもあるのだろうから。愛するリシェルの幸せ。それを本当に心から願う彼女の。
「しかし、変なところで律儀だな。オマエも。そんなのいちいち報告しなくてもいいってのに」
「だって……イヤだったんだもん……あんたにそんな隠し事とかするの……」
 やばい。今のちょっとツボにきた。頬を赤く染めて呟くリシェルにライはすっかりあてられる。
 ひょっとしてこれが狙いか?とライはこの場にいないポムニットに対していぶかしがる。
「なあ、今日はこれから時間あるんだろ」
「うん。そうだけど……」
「だったらゆっくりしてけよ。オレの方は……相変わらず忙しいけどそれでも相手してやれる時間はつくれる」
 そう言ってからリシェルの顔を見つめると真っ赤になっていた。多分、鏡で見ればライ自身もそんな顔をしているのだろう。
 これが今の自分の精一杯。やはりどこか気恥ずかしい。だが、それでも。
「仕事後にしっぽりというわけですか。いやあ、お若いというのは羨ましいことですねえ」
 突然、横から入ってくる声にライとリシェルは眼を剥く。驚き振り向く二人の声がぴったり重なる。
「「ポムニット(さん)!」」」

「はい。おじゃまいたします。ライさん。それにリシェルおじょうさま」
 にこやかに微笑みながら件のメイドことポムニットは二人の前に姿を現す。
「いったい何しにきたのよ!」
 せっかくの二人きりのいいムードを台無しにされてリシェルは口を尖らせる。それに対しポムニットはしれっとしながら。
「いえ、実は先日の件につきまして、わたくしの方からもライさんに直接お詫びしようと」
 そう言って神妙そうな表情を見せながらペコリとライに対して頭を下げる。
「本当に申し訳ございませんでした。ですがこの度のことはわたくしの方が一方的に迫ったことです。悪いのは全て、このわたくし。
 リシェルおじょうさまには何の非もございません。ですからライさん……どうか……どうかおじょうさまのことは……これからも……」
 そうやってすんなり頭を下げられると何も言えなくなる。ライは苦笑しながら。
「いや、オレ怒ってないから。リシェルにも。ポムニットさんにも」
 そう言うのだが、しかし
「怒ってない……ですって!?ライさん。何ですかその態度は!!」
「へ?」
「ここはおおいに怒るべきところですよ!『この女(アマぁ)我の女(スケ)に何さらしてくれとんねん!ボケェ!!』という感じで!!」
 あんたいったいどこの生まれだよ?そんな突っ込みも入れるまもなく突然逆ギレしだしたポムニットの勢いにライは気圧される。
「失礼ですがライさん。あなたは本当にリシェルおじょうさまのことを愛していらっしゃるのですか?」
「え……えーっと……」
「ライさんがそんなご様子なら、わたくし本気でおじょうさまのこと頂いちゃいますよ」
 言いながらポムニットはリシェルの肩に手を回す。
「ちょ、ちょっと!ポムニットっ!!」
「うわわ!それは困る。それは困るから!マジで」
 慌てふためく二人を楽しそうに見つめてポムニットは悪戯っぽく微笑み
「それなら今すぐこの場で証明してくださいまし。ライさん。あなたのおじょうさまへの愛を」
 無茶なことを言う。愛の証明なんていったいどうしろと。
「ほらほら、決まってるじゃないですかぁ。恋人同士が交わす基本のあれですよ」
 にんまりとしながら促す。悪魔だ。やっぱりこの人は根っからの悪魔だ。
「はい、おじょうさま。ここに立っててくださいましね。ライさん。あなたもおじょうさまの近くによって。早く早く」
 急かされるままに二人向かい合わせにされる。共に相手のゆでだこのようになった顔をマジマジと見つめる。
(つまり今ここでキスしてみせろってことか。流石にそいつは……)
 キスぐらいもう何度も済ませた。それ以上のことだってしっかりヤッている。けれどそれは二人きりのときでの話。
 こんな保護者の目前で、堂々とするのは流石に勇気のいる話だ。
「ええい、ままよ!リシェル。眼を閉じてろ」
「え?あ……分かってるわよ!そんなの……」
 反駁しながらも言われるがままにリシェルは眼を閉じる。そしてじっくりと待つ。ライの唇が自分のそれと触れるのを。
 ライもまた緊張していた。心臓がバクバクいっている。もう破裂してしまいそう。
(落ち着け……こんなのどうってこともない……これまでに何べんもしたからな……だから落ち着け……)
 言い聞かせるが余計に心は波立つばかり。今、間近で自分からのキスをじっと待ち受けるリシェル。
 その健気な姿がライにとっては反則的なまでに可愛かった。うわ、オレもうマジで死にそう。
(やれ!さっさとやっちまえオレ!早くなんとかしろぉ!)
 強張りながらライはその顔をリシェルに近づける。あともうちょい。5cmの距離。もうすぐだ。あと少し。
「ああ、もうじれったいですねえ」
 ぶちゅ そんな擬音が盛大に二人の頭の中で響き渡る。しびれをきらしたポムニットの手によってライとリシェル。
 二人の唇と唇は見事なまでに接触事故を起こしていた。

「きゃあぁぁぁ♪とてもお熱い口付けでございましたよ。ライさん。リシェルおじょうさま」
 真っ赤になって呆然としている二人の側でメイドが一人はしゃぎだす。
「うるうる。これでわたくしも少しは肩の荷が降りる気持ちです。ライさん。おじょうさまのことをどうか幸せにしてくださいまし」
 勝手に自分一人の世界にひたはしるポムニット。それを止めるものは誰もいない。
「いやあ、それにいたしましてもいつまでも子どもだと思っていたおじょうさま達も大人になられて……」
 昔を懐かしむように目の端に涙を滲ませながら
「もうわたくしがお教えすることはなにも……あ、いえ。ありましたね。そういえば」
 すると何かを思いついたのかポムニットはいまだ呆然とするライの耳元で囁く。
「お二人が夜に何か戸惑うことがあればいつだってわたくしが手取り足取り教えてさしあげますからね」
 ボソッと心臓に悪いことを囁いてくる。これは悪魔の囁き。
「……っていったい……何を……」
「うふふ、いやですねえ。わかりきったことじゃないですか。そのときはわたくしのことも満足させてくださいましね。ライさん」
 そう艶っぽく囁くポムニットにライが何も言えずにいると、すると
「調子に乗るなぁぁあ!!この馬鹿メイドぉぉぉぉぉ!!!!」
「キャァァァァァアアアアアア!!!」
 いつの間にか回復したリシェルがシェアスラッシュを見舞う。限界ダメージ240。
「な、何をなさるんですか!おじょうさま。わたくし、おじょうさまのためを思って……」
「うっさい!うっさぁいぃ!!頼んでないわよ。そんなこと。っていうか今日という今日はホントに頭に来た!もう許さないんだからっ!!」
「ひぇぇぇえええ!お助けぇぇぇえええ!!」
 そのまま嵐のように駆け出す二人。小さくなっていく二人の背中をライは一人見つめる。
「やれやれ……まったく……」
 そんな二人を見送りながらライは苦笑していた。今日もまたしてやられた。自分は一体、いつになったらあのポムニットに勝てるのだろうか。
(やっぱ一番の強敵だよな。色々な意味で……)
 今の自分じゃまだ割り込めそうもないあの二人の絆の深さに少しだけ嫉妬しながら
(けどまあ……いつかはちゃんと必ずなってみせるからな。ポムニットさん。あんたが心から安心してあいつのことをオレに任せられるように)
 それがなによりの恩返しだから。リシェルを好きだという自分の気持ちを気づかせてくれた。
 そして自分の大好きなリシェルをここまで育んでくれたポムニットへの。
「さてと、今日も仕事仕事っと」
 背伸びをして今日も生業に臨む。あの二人がおっかけっこから帰ってきたら何をつくってやろうか。そんなことを考えながら。



 お母さん。わたくしはずっと貴女に謝りつづけてきました。わたくしがこの世に生まれてきたこと。
 それで貴女をおおいに苦しめて、ついには貴女の命までをも奪ってしまったこと。全てに悔いながら。
 『生まれてきてごめんなさい』 そんな謝罪を繰り返してまいりました。
 でもね、お母さん。最近になってようやく気づいたんです。『生まれてきてごめんなさい』だなんて
 そんなことわたくしを産んでくれた貴女に対してとても失礼なことだったんだなって。
 だってきっかけはどうあれお母さん。貴女はあんなにもわたくしのことを愛してくれていたのに。
 リシェルおじょうさま達と一緒にすごす中で気づいたことがもう一つ。
 おじょうさま達がわたくしにいつも、大切な何かを与えて続けてくださるように
 お母さん。わたくしもまた貴女に何かを与え続けていたんですね。
 今なら分かります。自分にとって都合のいいものの見方なのかもしれませんが。
 お母さん。わたくしと一緒に過ごしていたときの貴女は決して不幸なんかじゃなかった。
 わたくしと一緒にいてわたくしを愛することで貴女もまた幸せだったんだと。
 それに気づいたところで、貴女が戻ってきてくれるわけではないけれど。
 わたくしが貴女の命を奪ってしまったという罪は決して消えないのだろうけど。
 それでもお母さん。わたくしはもう止めます。貴女に『ごめんなさい』と謝り続けるのは。
 もっと他に言うべき言葉があるから。もっと早くに言うべきだった言葉が。


 お母さん。わたくしは今、とても幸せです。大好きな人のすぐ側にいられて。
 大好きな人と一緒に日々を過ごしていゆける。そんな幸せのなかにいます。
 こんな幸せをわたくしが今、感じていられるのはお母さん。貴女のおかげです。
 貴女がわたくしをこの世に生み出してくれたからこそ今のわたくしの幸せがある。
 辛いこともあったけれど。哀しいこともあったけれど。でも、それら全部を乗り越えたから今があります。
 命を懸けて守りたいと思う自分だけの宝物。こんなわたくしを温かく受け入れてくれる優しいみなさん。
 わたくしがずっと欲しがっていたものは今ここにこうして全部ある。わたくしの幸せは今ここにある。
 だから言わせてください。お母さん。『ごめんなさい』という言葉の代わりに。


「こらぁぁっ!!待てぇぇぇえ!!ポムニットぉぉ!!」
「待ちませんよ。おじょうさま」


 大好きなおじょうさまと巡りあえた運命。そのはじまりをわたくしにくれた貴女に。
  

「待てぇぇ!!待てったらぁぁ!このぉぉぉ!!」
「あはははは。おじょうさまこっちです。手のなる方へ」


 そしてわたくしにはじめて愛を与えてくれた貴女に今、心からこう言わせていただきます。
 本当はずっと貴女に言いたくてたまらなかったこの言葉を。


『お母さん。わたくしをこの世に産んでくれてどうもありがとう』


 ちょっと照れくさいですね。でも、お母さん。どうかいつまでもわたくしのことを見守っていてくださいましね。






 〜fin〜

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