4キャラで初の座談会



ポムニット「お帰りなさいませ。おじょうさま。お夕飯の支度できていますよ」
リシェル「あ、ゴメン。あたし、ライのとこで食べてきたから要らない。適当に片付けといて」
ポムニット「え、……でも……」
リシェル「それじゃあそういうことで」
ポムニット「あ、おじょうさま…………」



ポムニット「おじょうさま。今度のお休みに一緒にお買い物にいく約束なんですけど」
リシェル「ふんふん(うわの空)……」
ポムニット「あの、聞いていらっしゃいますか?おじょうさま」
ルシアン「姉さん。ライさんが言ってたんだけど今度の休日に一緒にどこか行かないかだってさ」
リシェル「え、ホント!いくいく。当然じゃない!」
ポムニット「……………………」


ルシアン「姉さん、帰り遅いね」
ポムニット「今日はライさんとご一緒にデートですから……」
ルシアン「あ、あのポムニットさん?」
ポムニット「はい。なんでしょう?」
ルシアン「その……大丈夫?」
ポムニット「え?何のことでしょう?」
ルシアン「いや、その……なんか元気なさそうだし……」
ポムニット「いやですね。おぼっちゃま。わたくし全然平気ですよ」
ルシアン「ならいいんだけど……」
ポムニット「あらやだ。わたくしとしたことがお洗濯ものの取り込みを忘れていました。おぼっちゃま、お鍋の方をみていてくださいな」
ルシアン「別に構わないけど……」
ポムニット「それじゃあすぐに戻ってきますので……」
ルシアン「うん。任せてよ」

 ポムニットが去った後でルシアン、鍋に近づいて覗き見る。すると。

ルシアン「なっ!?」

 なんと、そこには空の鍋の中におたまが入っているだけであった。

ルシアン「ポムニットさん……」



ポムニット「あ、どうやらおじょうさまがおかえりになられたみたいですね。おかえりなさいませ。おじょうさ……」
リシェル「ほらほら、あがってあがって。遠慮しない」
ライ「あ、ポムニットさん。おじゃまします」
ポムニット「…………………」
リシェル「んじゃあ、早くあたしの部屋いこっか」
ライ「お、おい。ひっぱんなって……」
ポムニット「……帰って……」
ライ&リシェル「「え?」」
ポムニット「帰って……帰ってくださいまし…帰ってくださいまし… 帰って…帰って…帰って…」
リシェル「ポ、ポムニット?」
ポムニット「帰ってえええ!!! 帰って!帰って! このお屋敷にまで来ないで!!!……リシェルおじょうさまを……返して…」
ライ「ポムニットさん……」
ポムニット「イヤぁあ!!離して!離してくださいまし!!」
リシェル「どうしたのよポムニット!あんた落ち着きなさいよ!」
ポムニット「イヤぁ!どうして!どうしてなの! 」
リシェル「ちょっといい加減に……」
ポムニット「ライさんなんか!!死んじゃえばいいんだ!!!」




ポムニット「というような心の温まるお話でしたね」
リシェル「どこがよっ!?っていうかまた中の人ネタだし」
ポムニット「いえいえ、我ながら結構、真に迫るものがございました。近頃のおじょうさまときたら口を開けばライさんのことばかり……」
リシェル「違うわよ!!あたし、ここまで無神経じゃないわよ!」
ポムニット「さて、それはどうだか。まあ冗談はさておいて読者の皆様。おまたせいたしました。初の4キャラによる今回の座談会。
      司会をつとめますのはこのわたくし、最強淫乱半魔メイド吸血鬼ことポムニットと……」
リシェル「その主人ことこのあたし、リシェル=ブロンクスとでおおくりします。……って、しかしのっけから飛ばしてるわよねえ」
ポムニット「ええ、なにしろこの作者のSSは悪魔の微笑む時代ですから」
リシェル「ポムニットが言うとなんかすごい説得力……んで、今回は何するの?」
ポムニット「実はゲストの方をお呼びしてトークということなのですが」
リシェル「いったい誰?ひょっとして噂に聞く邪悪な誰かさんとか?流石にそういうのはちょっと……」
ポムニット「いえ、今回のゲストはいたって真面目な方ですよ。4の舞台である帝国領内では結構、有名な方でもあらせられます」
リシェル「帝国の有名人……ていうと……」
アズリア「ここが座談会場というところか?私はアズリアというものだ。今回はゲストとして呼ばれてきた。失礼する。」
リシェル「ええ!アズリアってあのアズリア=レヴィノス将軍!傀儡戦争の英雄で帝国初の女将軍の」
アズリア「ああ、そのアズリアだ。どうやら驚かせてしまったらしいな」
リシェル「そりゃ驚くわよ!だって、アズリア将軍ってもう40過ぎぐらいの歳のはずでしょ?とてもそんな風には……」
アズリア「年齢の話はするなぁっ!!てえぇぇりゃぁぁぁああああああ!!!(秘剣・紫電絶華!!)」
リシェル「キャアアアアアアア!!」
ポムニット「おじょうさま。3の人間キャラの方に年齢の話は禁句です」
リシェル「う……ぅ……あたしが……悪かった……」
アズリア「わかればいい。ちなみにこの場の私は3バージョンだ。そこのところを忘れるなよ」





ポムニット「さて、今回アズリア将軍をゲストにお呼びしたのには理由があります」
リシェル「いったいどんな理由よ。それ」
ポムニット「実はアズリア将軍とリシェルおじょうさま。お二人にはある共通点がございまして」
アズリア「どちらも名家の長女で跡取りという点では共通しているな。弟がいることも」
リシェル「へえ、そうなんだ。アズリア将軍に弟がいるなんて初耳だけど」
アズリア「まあ、色々とあってな。ということで今回のゲストトークの題目は……」
ポムニット「はい。今回のテーマは姉弟についてです」
リシェル「姉弟ねえ。ルシアンの話とかすればいいの?」
ポムニット「ええ、まずはおじょうさまの方からおきかせくださいまし」
リシェル「そうねえ……って言ってもルシアンで思いつくことなんて……やっぱ二軍?」
ポムニット「おじょうさま……それは流石に……」
リシェル「いや、だってあの子、性能中途半端だし、打たれ弱いし、クラスチェンジ遅いし、イベントでも影薄いし
     そういえばあたしの最強召喚術ってあいつとの協力専用なのよね。おかげでこっちはいい迷惑というか」
ポムニット「おじょうさま……容赦なさすぎです……」
アズリア「自分の弟をそんな風にいうものではないぞ。例えどんなごく潰しであろうと弟には愛情を注ぐのが姉としての責務ではないか?」
リシェル「分かってるわよ。いくらユニット性能が低くたってあいつはあたしの大事な弟なんだから。まあ一応、色々と感謝もしてるし」
アズリア「分かっているのならばいい」
ポムニット「ルシアンおぼっちゃまは確かに万年三軍の身ではあらせられますが、真面目で心のお優しい素晴らしいお方です」
リシェル「ポムニット……あんたもさりげなく酷くない?」
アズリア「どうやらおまえの弟は不遇な身の上にも負けず、真っ直ぐに育っているようだな」
リシェル「そりゃ、あたしの教育がゆきとどいているからね。あんなのでも一応、自慢の弟よ」
ポムニット「おぼっちゃまを教育したのはこのわたくしです。おじょうさまは反面教師ではありませんか」
アズリア「そうか。うらやましいな。あの子も……イスラもそんな風に育っていてくれたならと何度思ったことか……」
リシェル「え………?」
アズリア「私は苦しんでいるあの子に何もしてやれなかった。あの子にとって重荷にでしかなかったんだ
     あの子のためによかれと思ってしたことも、結局はあの子を追い詰めるばかりで……」
リシェル「追い詰めたって……?」
アズリア「あの子の替わりに私が軍に入って家を継げばあの子はその分、重圧から解放される。そう信じていた。
     でも実際は逆だった。そのためにあの子は跡取りとして落第の烙印を押され、家の中で居場所がなくなり
     あの子がそんな一番苦しい思いをしているときに私は……傍にいてやれなかった。そして最期は……」
リシェル&ポムニット「……………………………………」
アズリア「すまない。こんな湿っぽい話をするつもりはなかったのだが」
ポムニット「いえいえ、そんなことはありませんよ。そんなお辛かったことをわざわざどうも……」
リシェル「ねえポムニット。あたしもルシアンのこと傷つけてるのかな……」
ポムニット「おじょうさま。なにをおっしゃるのですか」
リシェル「だって、あたし……あの子にはいつも才能がないとかひどいこと言って……今だってさっき……」
ポムニット「それは……確かにちょっと無神経ではございましたね」
リシェル「あたしが家名を継げばあの子は自由に自分の夢に挑戦できるって思ってたけど……それもやっぱあの子にとってお節介なのかな?」
ポムニット「それは違います!おぼっちゃまはおじょうさまのお気持ちを分かっておいでです。そんなことはどうかおっしゃらないでくださいまし」
アズリア「今までの自分を反省する気持ちがあるのなら、いつだってやり直しは効く。そうではないか?」
リシェル「……そうだけど……」
アズリア「だったら今からでも自分がしてやれることをすればいいじゃないか。いつだって諦めさえしなければ、遅すぎるなんてことはないんだ」
ポムニット「アズリア将軍……」
アズリア「これは誰かの受け売りだがな。私とイスラは残念な結果に終わってしまったがお前たちにはまだまだ未来がある。
     悔やむよりも先に、自分にできることを少しずつこなしていけばそれでいいじゃないか」
リシェル「……そうだね」
ポムニット「アズリア将軍、どうもありがとうございます」
アズリア「別に礼はいらん。湿っぽい話で場の空気を重くした詫びだと思ってくれればいい」
リシェル「今度ルシアンに会ったらさ……そのときはもう少し優しくしてあげようかな……」
ポムニット「わたくしもそれがよろしいかと思われます。さて今回の座談会もそろそろお開きの時間です」
リシェル「あとは恒例のSSの紹介よね。それじゃあみんなまたよろしく」
アズリア「こういう趣向も中々面白いものだ。また機会があったならばいつでも呼んでくれ」
ポムニット「それではわたくしとおじょうさまでお送りしたこの座談会もサヨナラの時間です。皆様方またの機会を」
リシェル「これからもあたしたちのことよろしくね。それじゃあバイバイ」



リシェル「しかし今回、このシリーズにしてはめずらしくキレイにまとまったわね」
ポムニット「たまにはこのような終わり方もいいじゃありませんか。おじょうさま」








 これは夢だ。それだけははっきりと分かる。夢でなければありえない状況だからだ。
「ポ、ポムニットさん?」
「んふふ。ルシアンおぼっちゃま……」
 戸惑うルシアンにポムニットは妖艶に微笑む。すらりとしたその肢体。それを覆う衣をポムニットは何一つ身につけていない。
 一糸まとわぬ姿でポムニットはゆっくりと迫ってくる。
「や、やめてよポムニットさん。そんなこと……」
 いくら夢の中とはいえ家族同然に暮らしてきた彼女とそういうことになってしまうのはルシアンには躊躇われた。
 後ずさろうとする。しかし、うしろからがっしりと押さえつけられる。
「ちょっとあんた何処へいくつもりよ」
「ね、ねえさん!」
 ルシアンを捕まえたのはリシェルだった。ぴったりとその肌を密着させてルシアンが逃げられないようにする。
「や、やめてよ。ねえさん!うわ、なにかあたって……わぁぁあ!」
「はいはい。そんなこといちいち気にしない。だらしないわねえ。まったく、あんたは……」
 背中越しに伝わる柔らかな感触。リシェルのほのかな膨らみがルシアンの背中に触れていた。
 当たっているのはそこだけではない。ぷっくりとしたリシェルの肉の割れ目。それがルシアンのでん部にこすりつけるようにして触れ合う。
「ふふふ。おぼっちゃまのここ。こんなに大きくなっていらっしゃいますよ」
「このシスコン。変態。いつまでたっても姉離れできないのよねえ。うちのルシアンは」
「ひやぁぁぁああ!!や、やめてぇぇ!!ねえさん!ポムニットさん!」
 前からは膨張した海綿をまじまじと見つめて手に取るポムニット。後ろからは密着してその肉肌をこすりつけて来るリシェル。
 そんな二人に挟まれてルシアンの頭の中は真っ白になる。なにがなんだかもうわかりやしない。
「今からわたくしめがご奉仕してさしあげちゃいますからね。おぼっちゃま。はむっ……んっ……むちゅ…ぺろぺろ……」
「やっ……ひあっ…あんっ」
「あははは。あんたって女の子みたいな声だすわねえ。ふふ、あたしも」
「やっ!ねえさん……そんなところ……っ……くぅ……」
 丁寧に皮を剥いてルシアンのペニスをポムニットは頬張る。リシェルは後ろからルシアンの首筋を愛撫する。
 もっとも親しい二人からの責めにルシアンの意識は甘くとろける。
「ああ、ルシアンおぼっちゃま……どうか…このわたくしめに……お情けを……」
「ああ!ポムニットばっかずるい。やっぱ可愛い弟の筆下ろしは姉であるこのあたしのつとめでしょう」
 なにを言っているんだ。この二人は。到底、理解できない。理解したくもない。そもそもこれは夢。
 だとするならばこれは自分の内なる願望?ルシアンは迷い戸惑う。そうこうしているうちに。
「さあ、おぼっちゃま……わたくしもおじょうさまも……準備はできていますよ」
「ルシアン……きて………」
 ブハッ 思わず噴出す。眼前ではリシェルとポムニット、二人が蜜でしたたる互いの肉貝を重ね合わせながらルシアンを待ちわびていた。
 ゴクン 唾を飲み込む。据え膳くわぬは〜、そんな鬼妖界の格言が脳裏によぎる。
(どうすればいいんだ……僕は……)
 心臓がバクついていた。股間の一部哀しいほどに硬直していた。夢の中とはいえこのまま実の姉と、肉親同然に慕ってきた女(ひと)と
 関係を持ってしまっていいものなのか?躊躇いがはしる。
「うわぁぁぁあぁぁあああああああ!!」
 結局、どうしてよいかも分からず、叫び声を上げたところで本日の淫夢は終わりを告げた。


(また、やっちゃった……)
 夢精でおおいに汚した下着を眺めてルシアンはうなだれる。このところはこんな夢を毎日みている。
 ホームシックというやつにも限度がある。よりにもよって……
(ねえさんやポムニットさんと……あんなことになる夢を見ちゃうだなんて……)
 激しく自己嫌悪に苛まれる。夢を叶えるために家を出た自分を温かく送り出してくれた二人。
 その二人に対してあんな劣情を催すだなんて。自分で自分のことが情けなくなる。
(やっぱり寂しいのかな……一人だけこんな遠くに離れて……だから……)
 ここは帝都。ルシアンは軍学校への入学準備のために先駆けて下宿していた。下宿先はルシアンの父とは別居中の母の実家。
 父のテイラーがあらかじめ話を通してくれたらしい。久しく会っていなかった母と再会したときにはお互いに感極まって泣いたりもした。
 母をはじめ縁戚の厚意であたたかく迎えられてはいる。
(なのに、僕ときたらこんな調子で……最低だよ……)
 自由騎士になるという自分の夢。その夢をいまだ父には認めてもらっていない。妥協案としてまず軍学校に入学することになった。
 そこで過ごす中で自分の夢がただの一時の憧れにすぎないのか、本当に人生をかけて貫き通したいと思えるものなのか。
 それをじっくりと見極めろと言われた。だからルシアンはまだ夢のための最初の一歩さえ踏んでいない状態なのである。
 それなのに故郷恋しさなのか、思春期特有の情動なのか、あるいはその両者なのかもしれないが。
(こんなんじゃアルバとの約束はたせそうにないよ……)
 同じ夢を誓った友を思い出しながらルシアンはおおいにうなだれていた。



「せいっ!やっ!てやっ!せいっ!」
 日課となっている剣の修行。朝みた夢を振り払うようにルシアンは精をだす。こうして身体を動かしていれば気がまぎれる。
 シックな気持ちもドロドロとした気持ちの悪いもやもやも。
(気持ちを入れ替えて頑張るんだ!自分の夢のために。僕自身のために)
 こうして前をむいて努力していればいつかはきっと夢に辿り着ける。ルシアンはそう信じるようにしていた。

『おぼっちゃま。どうか、自信をもって 胸をはってくださいまし。貴方なら、きっと ご自分の力で、夢をかなえられますから』
『家のことならあたしがちゃんするから、あんたは安心して自分のやりたいようにしなさいよ』
 
 そうでなければあたたかく送り出してくれたあの二人に申し訳がない。だから迷わない。自分の信じた道をこのまま突き進むと。
「せいっ!てやぁぁ!!」
「ほう、せいが出ているな」
「っ!?」
 刹那、かけられる声にルシアンは振り向く。するとそこにはえらく威厳のありそうな女性が一人立っていた。


 ルシアンは呆然とその女性を見つめていた。年のころはもう若くはないのだろう。
 けれど凛としたたたずまい。身体から滲み出る、気高さのようなものに惹きつけられる。
(この女の人、軍人だ。それも上級の……)
 彼女が身にまとう制服が軍の将校のものであることにルシアンは気づく。女性の身でそこまで辿り着くのは並大抵ではないのだろう。
 かの有名なアズリア=レヴィノス将軍のように。
「あ、いや……邪魔をするつもりはなかったんだ。すまない。許せ」
 すると女性は訓練に水を差したことを率直にわびる。ルシアンは少し戸惑いながらも
「あ、いえ……別にいいんです。そんな邪魔だとかは……」
 流石に緊張する。慣れ親しんだ郷里の駐在の青年とは違い、相手は帝国の上級の軍人だ。思わずかしこまってしまう。
 そんなルシアンを見やって女性は軽く笑いながら言って来る。
「少年、その稽古の様子をみるに軍学校への入学を志望しているのか?」
「え、あ・・・・・・はい。そうなります。一応……」
「そうか、ならばいっそう励め。帝国軍は意欲熱心な若者をいつでも歓迎しているぞ」
「え……は、はい。そのように努めます」
 しゃちこばって答えるルシアンに女性は苦笑する。いつの時代も若者は初々しいものだ。
 かつての自分にもあったそんな時期を思い返しながら。
「稽古の邪魔をした上にすまないが少年、少し私の暇つぶしの相手になってはもらえないか?」
「え?」
 何故、目の前の女性がそんなことを言い出したのか。それが分からずにルシアンは目を点にした。




「私のことは……そうだなアティとでも名乗っておくか。そう呼んでくれ」
「はい。アティさん」
 それが実名なのか偽名なのかは知らないが、言われたからにはルシアンは彼女をそう呼ぶことにした。
 話を聞いてみるとやはり女性は帝国の軍人であった。それもひとかどの将校であるらしい。部隊の名前までは教えてくれなかったが。
 なんでもアティは前線での任務の最中に上の方から強制的に休暇をとらされてこの帝都で暇を持て余しているのだそうだ。 
「私に対する遠まわしな嫌がらせだ。まったく上のやつらときたらいつもいつも……」
 アティはそう愚痴をこぼす。組織の中で生きるというのはやはり色々と軋轢があるものなのだろう。
「だが、それでも自分で選んだ道だからな。すまんな。お前に愚痴るつもりはなかったのだが」
「いえ、いいんです。気にしていませんから」
 愚痴を聞きながらもルシアンはこのアティから意思の強さのよなものを感じていた。
 自分の決めたことを貫き通す強い信念。自分も見習いたいと素直に思った。
「さて、お前の方の話を聞かせてくれ。軍を目指す若者がなにを思っているのか。少し気になっていたのでな」
 そう言ってアティは話を振る。問われたのでルシアンも答える。自分が軍学校に志望する動機。そのそもそもの発端から。



「そうか。お前の実家は召喚師の家系なのか」
「はい。金の派閥に属するブロンクス家という家なんですけど」
 帝国に対する牽制役。それが派閥におけるブロンクス家の役割であり、相応に地位も高い名家であった。
 本来なら長男であるルシアン自身がそれを引き継いでしかるべきなのだが。
「僕は召喚師としての才能がなかったから……だから別の道で身を立てろって父さんが……」
 召喚術に対する素養自体が元々あまり高くなかった。だが、それ以上にロレイラルの術への適正が全くなかったことが大きかった。
 ブロンクス家は代々機界ロレイラルの術を扱う家系である。召喚術の秘伝は一族ごとに違う。適正が父や姉と違うサプレスな時点で
 ブロンクスの家名を引き継ぐには不適格とされる。だからテイラーもルシアンには召喚師の道を歩ませようとはしなかった。
 替わりに身を立てる方法。軍はそういった名家の子弟が箔をつけるのには格好の場とも言える。
「家の方はねえさんが跡を継いでくれるんで心配はいらないんですけどね」
 そう答えたとき、目の前の女性の顔が一瞬曇った感じがした。すると彼女は聞いてくる。
「辛くはないのか?」
「え?」
「そのような境遇を辛いと思ったことはないのか?自分を差し置いて家名を継承する姉をねたましく思ったことはないのか?」
 問いかけてくるその表情がルシアンにはどこか険しいものに感じられた。しばらくすると彼女はハッとなる。
「すまない。そんなことを聞くべきではないな。どうかしていた。忘れてくれ……」
 そう頭を下げる。いきなり謝られてルシアンも困惑させられる。だがしばし逡巡しながらその問に答える。
「そうですね……妬むとかじゃないですけど……気にしてはいました。どうして僕には父さんやねえさんと同じことができないんだろうって……」
 召喚術の名門に生まれながら才能に恵まれない自分。そのことに引け目を感じないわけではなかった。
「家族の中で僕だけがおち零れなんだなと思ったことも何度かありました。ですけど……」
 それでも自分が道を踏み外すことなくここまで育ってこられたのは

『あんたってホント才能ないわよねえ』
『そんなはっきりと言わないでよ。気にしてるんだから……』
『でもさ、いいじゃん。召喚術の才能なんかなくったって』
『よくないよ!ねえさんたら、ひとごとだと思って……』
『……あたし知ってるから。召喚術の才能なんか無くたって、あんたにはあんたのいいところが沢山あるって……』
『ねえさん……』
『ああ、もう!こんな臭いセリフ言わすんじゃないわよ。あんたがつまんないことでウジウジしてるから!』
『痛い!痛いって……姉さん……』

 本当に素直じゃないけれど、何時だって親身になってくれる大好きな姉がいたからであり

『ふう。リシェルおじょうさまときたら……少しは謝りにいくわたくしのことも考えて欲しいですよ』
『ごめんね、ポムニットさん。ねえさんがいつも迷惑かけて』
『いえ、おぼっちゃまがお謝りになる必要はございません。これがわたくしのお仕事ですし』
『でも……』
『わたくしにとってお二人のお世話をするのはお仕事であると同時に生きがいなんです。そりゃ疲れますけどこれはこれで満足していますよ』
『そうなんだ』
『ええ、ですからルシアンおぼっちゃまはもっと気軽にわたくしを頼ってくださいませ。わたくしはいつでも、おぼっちゃまの力になりますから』
『ポムニットさん……』
『うふふ。でもリシェルおじょうさまには少しはおぼっちゃまを見習って欲しいものですねえ』
『あはは。ホントにそうだね』

 常に傍にいて、飛び切りの愛情でもって包んでくれる優しい女(ひと)がいてくれたから。

「僕が落ち込んだときはいつも大切な家族が、友達が励ましてくれるんです。だから今は辛いとは思いません」
 苦しいとき、辛いときに一緒になって支えてくれる存在。そのありがたさをルシアンはかみ締める。
 ありがとう。いつも、みんなが支えてくれたからこうして今の僕がある。だから僕は歩いていくよ。真っ直ぐ自分の夢に向かって。
「それに今の僕には夢があるんです。自由騎士になるっていう大切な夢が」
「自由騎士?最近、発足した何処の国家にも属さずに民衆を助けることを目的とした騎士団のことだな」
「ええ、一緒に自由騎士になろうって約束をした友達もいます。ねえさん達も僕の夢を応援してくれて」
 調子に乗って夢の話までルシアンは語りだす。だがすぐに失策に気づかされることになる。
「つまり、軍学校には入るが、軍に入隊するつもりはないということか?」
「そういうことになりますね……ああ!すみません。不愉快ですよね。こんな話」
 まさに失言だった。相手は仮にも軍の将校である。軍学校に通いながら軍に行く気がないだなんて、聞いていていい顔をするはずがない。
 そう思い恐る恐るルシアンはアティの顔色を伺うが。だが、予想に反して彼女の顔色は晴れやかで。
「いや、いいんじゃないか。そういうのも」
 予想外のことを言われて面食らう。上級軍人である彼女の立場からすれば考えられない発言だった。
「実はな、私の知り合いにもいるんだ。軍学校を主席で卒業しておきながら早々に軍を辞めた大馬鹿者が」
 軍学校の主席ともなればかなりのエリートであろう。それを自ら捨てるとは。少しもったいないようにルシアンは思う。
「元々あいつは軍人にはむいていなかったからな。だからそれでよかったのかもしれん。あいつにとっても。他の多くの者にとっても」
 そう語るアティの顔は懐かしげであった。ふいに、好奇心にかられてルシアンは尋ねる。
「その人は今はどうしてるんですか?」
 そう聞かれてアティは軽く微笑んでから答える。
「どこかの島で今も教師をやっている。たくさんの生徒達に慕われながらな」
 語る彼女の顔はほころんでいた。その顔をみてルシアンも心から思った。その人は自分の心からの夢を叶えたのだなと。




「さて、そろそろお暇するとしよう。修練の邪魔をしてすまなかった。少年」
「いえ、僕の方も貴重なお話を聞かせてもらって……ありがとうございます。アティさん」
 しばし語らい会った後、別れを交わす。あれからルシアンは家族のことを、アティは軍を止めて夢を叶えた友人のことをお互いに話した。
 会話の中でルシアンはなにか心に満たされるものを感じた。話すことで自分の大切な家族への確かな想いを確認できて、
 アティから聞いた話から自分の夢を突き進むことへの希望を手にして。
「できればお前にはいつか……私の部下になってもらいたいものなのだがな……」
 そう言ってアティはルシアンの顔をしばし見つめる。
「本人が望まぬものを無理強いしても仕方あるまい。まあ、いい。在学中に気が変わることがあれば遠慮なく私を訪ねてくれ」
 そういい残してアティは去っていく。その背中をルシアンは見つめた。
(カッコいい……それにキレイな女性(ひと)だったな……)
 あるいは、彼女のような上司の下でなら軍人になってもいいかもしれない。そんな風に思ったりもしたが
(ううん、それでもやっぱり僕はいくよ。自分が信じた自由騎士への道を)
 誓いを新たにルシアンの夢への日々はまだまだ続く。



「こんなところにおられたのですか将軍」
「なんだ。お前か。いったいどうした?」
 長年の付き合いの副官に彼女は訪ねる。確か彼もまた自分同様、強制的に休暇をとらされたはずなのだが。
「実は前線からの急報で我々に今しがた帰還命令がでております」
「やれやれ、人を厄介払いしておいて自分の手に負えなくなるとまたこれか。まったくしょうのない連中だ」
「分かった。お前は先に戻っていろ。私も直ちに向かう」
「はい。了解しました」
 かくして休暇は終わりを告げる。いざ終わってみると少し名残惜しい気もする。思い返すのは先程の少年のことだ。
(しかし今日の私はどこかおかしいな。あんな見ず知らずの少年に自分から声をかけたりして)
 あの少年がどんな人生を選ぼうと自分には関係のない話だ。それをあんなふうに話し込んでしまったことに疑問を覚える。
(まあいい。しかし私としたことが、訪ねてこいと言っておいて偽名しか教えていなかったな)
 自身の失策に気づく。だが、どうでもいいことだ。あの少年の決意は固い。揺れることはありえそうもない。
(まあ、あったとしてもその時はそのときだ……)
 自分の正体を知ったとしたら、あの少年はどんな顔をするのだろうか。少し好奇心で見てみたい気もする。
 どうしてこうもあの少年のことが気にかかるのだろうか?理由は分かっていた。なんとなく口にしてみる。
「久しぶりにお前のことを思い出したからだろうな。なあ、イスラ」
 遠き想いをその胸に、彼女は今日も任務に赴く。自分自身が選んで決めたその生き方を全うするために。


 〜fin〜

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