レンドラー×ミリネージっぽいもの



 ラウスブルグ―――深夜。
 夜の狭間にて息を潜める城に、密やかな睦言が―――
「やっほーヒゲオヤジー! ミリィがなぐさめに来てあげたよー♪」
「ええい貴様には恥じらいというものはないのかっ?!」

 響かなかった。

 レンドラー率いる剣の軍団、その構成員はほぼ全員が頑健なむくつけき男どもである。『将軍』レンドラーからして、全身鎧を着込み巨大なハルバードをぶん回す膂力を誇っている。
 兵士が健康なことは、結構なことだった。
 しかしながらひとつだけ問題があった。
 男所帯の軍ならでは悩み―――性欲処理について、である。
 レンドラーは「性欲なぞ訓練で発散しろ!」なぞという無茶を言うほど無能でも不能でもなかった。しかしながら今の状況は如何ともし難い。
 元旧王国軍という立場に加え紅い手袋の連中と行動を共にしているというしがらみもあって、気軽に花街で女を買うわけにもいかない。
 本拠地としているラウスブルグに、女の姿がないわけではない。だが絶対数の問題もあり、娘さんがたとねんごろになれるのは、ごく一握りの幸運な奴だけだ。あぶれ者は涙を呑んで耐え忍ぶしかない。

 兵士らが強姦魔と化すか、隣の同僚とケツ掘り合うか、の瀬戸際に立たされた時―――救いは、とある老人から与えられた。
「貴様らの抱えている問題、ワシの娘たちに任せてみんか?」

 かくして兵士は『鋼の軍団』機械人形三姉妹という夜の女神を得たのであった。回想終了。


「いいか、機械娘。これでも我輩は貴様らに感謝しておるのだ。まあ、部下も貴様らに助けられている、と言ってもいいだろう。しかし! 夜中に他人の部屋の前で騒ぐ根性はどうにかならんのか!」
「ヒゲオヤジは話が長いんだからぁ。もうミリィ部屋に入るよ」
「貴様ひとの話は最後まで聞くようにと『教授』に習わなかったのかっ!」
 怒鳴る相手は既に廊下から部屋の中だ。
 レンドラーの体躯で以って八割がた遮られていた入り口を、ミリネージは身軽な子猫のようにひょいっとすり抜けた。小柄なミリネージだからこそ、機械兵士の戦闘プログラムを組みこまれた彼女だからこその挙動。
(クソ、鎧を着ていれば防げたか)
 おそらく無理だっただろう。
 歯軋りするレンドラーを尻目に、ミリネージは我が物顔で寝台に腰掛け、
「いつまでもそっちにいたら朝になっちゃうよー? ほらほらっ♪」
 ぐぎぎぎ、と異様な音を漏らす部屋の主を誘うんだか挑発するのだかな口調で呼ぶ。
「ミリィからの満員御礼出血大サービスだよ、嬉しいでしょ?」
「嬉しいわけあるかっ!」
 ずかずかとレンドラーはミリネージに歩み寄り、
「第一、貴様はもっと、こう……情緒というものを解せんか!」
「似合わなーい、ヒゲのくせに」
「ヒゲヒゲうるさいわっ!」
 女の子らしい声で笑う姿は、生意気盛りの無邪気な少女そのままだ。
 手刀で敵の腹をぶち抜くにも、男の腹の上で腰を振るにも、それこそ似つかわしくない。
「いいじゃん、溜まってるでしょ? ミリィが抜いてあげるよ」
「だから婦女子の使う言葉ではないと……ええい、もういいわっ」
 元々無骨な武人風情が口で敵う相手ではないのだ。よく張り合った方だろう。


「ヒゲオヤジは脱いだほうが好きだったよねー」
 ミリネージの口から出ると、煽り文句も大分色気の抜けたものになる。
 彼女はぺしぺしと調子よく装甲の止め具を外してゆく。脱いだ服が「ごとん」なんぞという物々しい音を立てる娘は、そう多くはないだろう。
 人間でいえば十六、七か。初々しく膨らんだ胸と、なだらかな腹部。
 を、模したフォルムが露わになる。
 ミリネージは機械人形。人間ではありえないほど滑らかで硬質で関節部分に継ぎ目が見える肢体も、センサーの透ける瞳も、全てがつくりものだ。
 それでも交合は可能だし、快楽を与えることも出来る―――その機能を持たされたから。
「何、眉間にシワ寄せちゃって」
「……我輩は元々こういう顔だ」
「ふーん。あ、そうだ! 見て見て本邦初公開♪」
 なにが、と訊ねる暇もあらばこそ。
 呼吸が封じられる。
 鼻腔はそのままだから鼻呼吸すりゃいいんじゃないかという指摘はあるがしかし口の中になにやら小さくて柔らかくて動くモノがある状態では難しいというか―――落ち着いて。事の次第を思い出そうではないか。
まずは分かり易いところから、だ。
 ミリネージが抱きついてきている。左胸から聞こえるのはモーターの駆動音。
 白い顔が、すぐ近くにある。目の前ど真ん中に。
 まぶたは慣習に従って閉じられている。何の慣習かって? そりゃあ勿論、
「……ふ〜」
「きさ、貴様、今何を」
 唇から唾液のアーチを引くミリネージに、レンドラーは上擦ることしか出来ない。アーチの一端が自分にある身としては当然か。
「ふっふっふ」
 ミリネージは自慢げに笑い、数秒前までレンドラーの口内に収まっていたもの、桃色の舌を出す。
「新しい生体部品だよ。音声区域と連動もさせたから、声もちょっと違う風に聞こえるでしょ?」
「知るか!」
「あーその態度、モテない男っぽーい」
 むくれるミリネージだが「まあ今日は許してあげる」と早々に機嫌を直す。新しいパーツが余程気に入ったらしい。
「ふっふっふ、これでミリィはもっと色々なコトができちゃうウルトラスーパーハイグレードミリネージになったのだ。すごいっしょ♪」
「舌を変えただけではないか。下らん」

「……ふーん」

 つっと、レンドラーの腹にミリネージが馬乗りになる。
「ヒゲオヤジ、そういうコト言っちゃうんだあ」
「な、何がおかしい」
「べっつにい。―――いいよ。ドコが凄いのか、ハイパーメガマックスミリィが教えてあ・げ・る」


 小さな舌が、亀頭を這う。身を起こした剛直、その先端にちゅっと可愛らしい音を立てての口付け。だが続いての大きく口を開けて咥える仕草は、可愛らしさとはある意味対極を成すものだった。
 寝台に仰向けに寝転がる逞しい男と、男の性器に甲斐甲斐しく奉仕する異界の少女―――語感だけは隠微なものだ。
「きゃはは♪ いい感じになってきたじゃんっ」
「だからその甲高い声を抑えろと」
 レンドラーの抗議は即効で封殺された。
 再び咥え込まれた剛直は、温かな上顎で先端を、生体部品の保護液で湿った舌でもって裏筋を、それぞれ刺激される。少女の口には余るのか、根元までは行き届かない。
 と。狭い場所から放り出された。
 いかにも物足りなさげに震える器官に、ミリネージは躊躇いなく頬を擦りつける。内部モジュールが発熱を促し、体温はほどよく上昇済み。
 フォローしきれなかった部分を、舌が這う。硬くなった付け根から、毛をかき分けて、柔らかい袋まで。保護液が筋をつくり、軌道を示す。剛直もミリネージの口元も濡れて光っていた。
 ミリネージが身を起こす。
 ぺろりと舌で唇を舐める。小生意気な顔立ちに、粟立つような色気が見えた。

「それじゃ、本番行こうかヒゲオヤジ」

 事此処に到ってもヒゲオヤジ、だ。
 だからどうするわけでもないが。

 天をつく剛直に、ミリネージが腰を下ろす。
 先端に軽く指を添え、細い脚のつけね、綻ぶ亀裂へと導く。細かく薄い生体部品を幾層にも重ねたソコから、浸透膜を透し潤滑液が滴る。微かに振動するのは液を送る為だ。
 ヒトの、オンナを模した機関。
 狭い場所へと、レンドラーの体格に見合ったものがめり込む。
 軋みを立て、層が重ねを薄くし拡がる。ミリネージが浅く息を吐いた。

 痛みは無いのだと聞いていた。
 快楽だけを与えるように、感じるようにつくられたのだと。

「あ、やっぱり、ココまでっぽい」
 どうにか三分の二まで呑み込んだ部分を見下ろし、ミリネージはレンドラーの顔へと視線を移す。
「ゴメンね、後、挿れて?」
 その瞳を覗く限りでは、確かに苦痛はないのだろう。あるのは圧迫感か、もしかしたら、快楽も。
 そうならいい。
 レンドラーの腕が、ミリネージの腰を掴む。
「無理をさせるな」
「いいっていいって♪ ―――んっ」
 一度持ち上げ、突き上げると同時に、落とす。ミリネージは一切抵抗しない。狭い場所にオーバーサイズのものを収めようと躍起になる。襞が限界まで引き伸ばされ、潤滑液が少しでも滑りが良くなるようにと大量に分泌され、どうにか。ぜんぶ、収まった。

 普通の女ならば動けずにいるところを、ミリネージは構わず腰を前後させる。中の生体部品が剛直を包み、締めつける。
 隙間無くみっちり詰まっているものだから、どう動こうと吸いつき、刺激を与えてくる。伝わる振動はモーターのものか。
「あー、やっぱ、ヒゲオヤジの、きついね」
 自ら動き、揺すぶられながら、ミリネージが囁いた。レンドラーは「そうか」とだけ返す。実のところ、余計なお喋りをする余裕はあまり無い。
「ココの生体部品……も、変えよう、かな……でもヒゲオヤジに合わせたら、他のヒトとサイズ、合わなくなっちゃうかも―――ひゃうっ?!」
 ミリネージが仰け反る。突起のない乳房が上向いて、戻った。
「……アレで大きくなるって、マジ?」
「……」
「えっちー」
「やかましい」
 押さえつけ、突き上げる。機械の身体が踊る。
 射精の兆候を察知し、咥え込んだ内側が流動し奥へと絞り入れる動きをとる。根元から先端へと向かって締めつけ、ぐねりと舐める。襞がざわめき、折り重なって押し寄せる。
「ふあ、あ! あ!」
 甲高い声は、確かに、嬌声。
 もう突く空白は無い。引こうとすれば、入り口からして放すまいと締めてくる。ミリネージの身体はバグでも引き起こしたように無茶苦茶に震えている。手足は弛緩し、残る全ての力は繋がるその一点にのみ集中。
「――― っ!」
 衝撃。そう呼んでも違和感のない、最後の、引き絞る誘い。
 背を弓なりに伸ばして痙攣する身体を抱え、奥へと吐き出す。汗が移り、機械の肌を鈍く光らせた。


「じゃあね、ヒ・ゲ・オ・ヤ・ジっ♪」
 元気いっぱいのミリネージに、レンドラーは苦虫を噛み潰した顔になる。
「だからそのヒゲオヤジというのは―――」
「だってヒゲでオヤジなんだもーん」
 ひょいっ、と足取りも軽やかにミリネージは廊下に出て。
「まったねー」
 満面の笑顔を、レンドラーに向ける。
 レンドラーは、
「またな」
 少しばかり笑って、応えた。


 夜は更けて。
 また、明日。


おわり

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