R×L Summer Vacation 1



 突き抜けるような青空だった。そこに浮かぶは白い雲。眩しい太陽の輝き。
 照らされるは砂浜。そこへ波がザザン、ザザンと押し寄せる。
「海だな……」
 見ての通り。そのままをライは思わず口にする。
「海よね……」
 つられるようにリシェルも相槌を打つ。そのまま二人で感慨にふける。
「あれだろ?赤身の魚だの白身の魚だのが元気に飛び跳ねてるあの海だよな」
「そうそう。そんでもってサハギョとかタコツボとかがプカプカ浮いちゃってたりするあの海よ」
 微妙に間違った認識。だが気にも留めずに心は弾む。山間に隣接したトレイユとは一味違ったその風景。
 新鮮ではある。鼻につく潮の香り。肌に感じる浜風。より強く実感する。今、自分達のいる場所を。
 軽く拳を握る。噛締める。そして二人同時に吐き出した。
「「ひゃっほー♪海だぁぁぁあ!!」」
 まるで子どものようにライとリシェルははしゃぎだす。
「絶交のバカンス日和でなによりですね。ライさん。おじょうさま」
 そんな二人に同伴保護者のメイドはにっこりと笑ってそう言うのであった。



 話は数日前に遡る。その日、ライはテイラーから急の呼び出しを受けた。何事かと思った。
 営業成績は好調。最近は小言を言われる頻度もめっきり減った。そんな頃合に不意打ちであった。
 ひょっとしたらリシェルとの付き合いについて何か言われるのかもしれないと不安に駆られた。
 けれどテイラーの用件はライの予想とは異なった。休暇を与える。ただそれだけのことだった。
 働き尽くめの身体をリフレッシュさせてより仕事に励め。そう言われたのである。
 ライは肩透かしを食らうと同時に狐にでも摘まれたような心地になった。
 なにせあの空き缶しかくれないドケチのオーナーが休みをくれたのである。
 まあ、以前シルターン自治区に旅行に行った際にも同じように休みをくれたので前例がないわけではないが。
(それでもやっぱ……拍子抜けだよな……)
 そんな感じにひとりごちていた。そして考えあぐねた。振ってわいた臨時の休暇をどう過ごそうかと。
 そんな折である。この海辺でのバカンスにリシェルから誘われたのは。
『ほんと幸運よねえ。ちょうど休みにうちの派閥の保養地の貸切、ゲットできてさあ』
 とはリシェル曰く。なんとも狙い済ましたかのようなタイミングに何らかの作意を感じないでもない。
 だが、例え保護者同伴でもこんな風にリシェルと一緒に旅行へいける機会など滅多にないだろう。
 細かいことは気にせずに素直に満喫することにした。そうして今に至るというわけである。







(ま、そんなこんなでこうしてここにいるわけだ)
 金の派閥所有のプライベートビーチの浜辺。波打ち際の砂に足を沈めながらライはひとりごちる。
 トランクスタイプの水着。ポムニットの方で用意してくれたものを着用している。
 思えば海での行楽など生まれて始めての経験かもしれない。なにぶん山間のトレイユ育ちである。
 海に対してはある種の憧れがライにはあった。だからこうして海でのバカンスを満喫できるのは僥倖と言っていいだろう。
(コーラルも一緒に連れてきてやれたらよかったんだけどな)
 ふいに隠れ里に帰省しているコーラルのことを思う。思えば最近あまり構ってあげられなかった気がする。
 理由の半分は多忙な毎日の営業。もう半分はリシェルだ。ここのところ休日はいつもリシェルとアレコレしていた。
 まあなんというかお子様にはとても見せられないようなことを散々。しっぽりと。
 コーラルも色々と気を利かせてくれるのでつい甘えてしまう。猛省。この旅行から帰ったらうんとサービスしよう。
「……それにしても二人とも遅いな。着替えに手間取ってるのか?」
 浜辺で待つこと十数分。一向に来る気配のないリシェルとポムニットにライはいぶかしがる。
 到着早々に上着をほっぽりだしてそのまま泳ぎに行こうとするリシェルをポムニットが圧し留めて
 そのまま引きずるように脱衣所に連れて行ったのが半刻前のことだ。
 なんか脱衣所のほうで悲鳴のようなものが聞こえた気がするのはとりあえず割愛。どうせいつものことだ。
 先に更衣を済ませたライはこうして待ちぼうけを食らっているわけだが、その胸になぜか高鳴るものを感じていた。
 期待している。何を?言うまでもない。これから目にするであろうリシェルの水着姿にである。
 どんな感じだろうか。リシェルに似合いそうな可愛らしい水着をアレコレ脳内で着せて妄想する。
 妄想にふけるうちに自分がなんかおそろしく変態街道に足を踏み入れている気がして欝になる。
 どうにもリシェルを思うときの自分はおかしい。これが人を好きになる気持ちというやつなのだろう。
(やべぇ……今から心臓やられてる……落ち着けオレ……)
 スーハースーハー深呼吸を繰り返してライはどうにか自分を落ち着けようとする。
 それでもドキドキは収まらないものだ。そうこうしているうちに待ち人は来る。
「お待たせしました♪ライさん」
 そう言って現れたのは健康的な白のワンピースの水着に身を包んだポムニットである。
 均整のとれたポムニットの身体のラインが照り輝くような白色に栄える。
 一瞬、ライが見とれそうになるとポムニットはしたり顔でにっこりと微笑む。
「むぅ………」
 そんな様子にリシェルは少し不機嫌そうな顔をポムニットの身体の影から覗かせる。
 睨まれてライは慌てて伸びかけた鼻の下を戻し、ポムニットはクスクスと笑う。
 リシェルはというとポムニットの後ろに隠れたままでチラチラとライを覗う。


「はいはい。おじょうさま。そんなところに隠れていないでちゃんとライさんにみて貰いましょうねえ」
「ちょ…ちょっと!ポムニット。あたしまだ心の準備がっ!」
 そうイヤイヤ抵抗してもなんのその。あっさりとライの前に引きずり出されるリシェル。
 そして露わになるリシェルの水着姿にライは息を呑んだ。
「こ、これはっ!?」
 眼前にそびえる光景。ライは絶句する。そこにいるのは水着姿のリシェル。
 その身を包む布地の色は紺色。それがリシェルの華奢な肢体にぴったりと密着していた。
 身体全体を包む一見シンプルなデザイン。それでいて男を異様な性的衝動に駆り立てる魔性。
 下半身の局部に入ったスリット。馬鹿な!とうの昔に絶滅したはずではないのか。
 胸元には名札とおぼしき白い布地。シルターン文字で大きく『りしぇる』と書いてある。
 スタンダードだ。この上なく基本を抑えたスタンダード。それ故にその威力は強烈。
 思えばリシェルの成熟しかけの身体にはこの水着が良く似合う。そう。その水着の名は。
「だぁぁぁぁあ!そんなマジマジ見つめて鼻スピスピ言わすなぁぁ!この変態っ!」
 そうして羞恥に耐えかね弾けるリシェルにライは景気よく吹っ飛ばされるのだった。
 波うち失神する寸前、『スク水万歳!』と謎の台詞を残しながら。 



「まったく。いちいち水着一つでそんなに興奮するなっての!このケダモノ」
 紅潮した顔でリシェルはぷりぷりとそうぼやく。ちなみに既に別の水着に着替えている。
 フリルつきの可愛らしいデザインでこれもリシェルに良く似合ってはいる。だが思う。
(………もうちょっとだけ見ていたかったな。さっきのアレ……)
 モノ惜しそうに残念がるライ。
(ライさん。同感です)
 その心中を見透かしたようにポムニットも胸中、呟く。さっきのやつの仕掛け人は無論、彼女である。
 抵抗するリシェルをあの手この手で篭絡してあれを着せるのは一苦労だったので早めの退場は口惜しい。
 まあ、そのぶんイロイロとお楽しみもできたのでよしとするが。
「ちょっと聞いてる!二人とも!」
 どやされて二人、肩をすくめる。リシェルはぷくっと頬を膨らませるがすぐに息を吐いて言う。
「まあ、いいわ。せっかくの海なんだし思う存分満喫するわよ」
「同感です。おじょうさま」
 景気よく切り出すお嬢。軽快に相槌をうつそのメイド。そんな二人に囲まれてライは不意に自分の頬をつねった
 やっぱり痛い。どうやら夢じゃないらしい。
(本当に幸せ者だよな。オレ)
 しみじみと噛締める。この天国のようなビーチライフ。それはまだ始まったばかりなのだ。





 そんなこんなで三人のバカンスは始まった。その様子をかいつまんで説明すると。


「ほら、そっちいった!ちゃんとトスして!」
「わかってるって……ほらよっ」
「よっしゃ。食らえポムニット!必殺のリシェル様アタック!」
「甘いですよ!おじょうさま。奥義!半魔ブロック!」


 定番のビーチバレーに興じて汗を流したり。



「そっちそっち。違うっ!そっちじゃない!なにやってんのよこのグズッ!アホっ!マヌケっ!」
「うるせえ!少しはマトモな指示よこせっ!」
「ライさん。ファイトですよ」


 これまた定番のスイカ割り。ちなみにスイカはポムニットが割って粉々になったので食べられなかった。合掌。


「う〜ん。やっぱ海で食べる焼きそばはやっぱ格別よねえ。おかわり」
「あ、ライさん。わたくしもお願いします」
「……なんで海にまで来て料理作らされてるんだ……オレ……」


 持ち込んだ材料でつくる焼きそば。それとバーベキュー。二人があまりにもひょいぱく食べるものだから
 調理担当のライがありつけるのはかなり後だった。

 

「おじょうさま。ライさん。あまり深いところで遊んじゃだめですよお」
「わかってるわよ。そんなの。もうポムニットは心配症なんだから……っ!?ひゃぁぁぁ!今なんかお尻さわったぁ!」
「どうせクラゲかなんかだろ。って……どわぁぁぁ!急にはみ付くな。溺れるぅぅ!」
「イヤぁぁぁ!早くおっぱらいなさいよ。アンタ、なんとかしなさいよぉぉ!」
「だから暴れるなって……ぐえぇ!足つった!ギブ!ギブ!ヘルプミー!!」


 そうやって二人して溺れかけたところをポムニットに助けられて事なきを得た。
 二人ともにメイドの熱いマウストゥーマウスを必要もないのにされたのはご愛嬌。
 真っ赤になって追い回すリシェルと逃げ回るポムニットのおっかけっこもそれなりに見ものだった。
 




「た〜まや〜〜」
 ドン。ドン。轟音を立てながらうち上がる夏の風物詩。夜空に咲く大輪の花をライは眺める。
 召喚術の応用で次々とうち上げられる花火。その光景はなんとも壮観であった。
「すげえな。コレ」
「ふふん。どうよ。コレがリシェル様の実力ってもんよ」
 素直に感心するライにリシェルは得意げになる。この日のために練習した成果。
 それは見事に花開き、夏の夜空を鮮やかに照らし出す。
「風情があっていいですね。おじょうさま。お見事です」
 にっこり微笑みながらポムニットはそう言う。するとなにかを思い出したようにポンと手をうつ。
「あ、いけません。わたくしとしたことがベッドの仕度をするのを忘れていました。ライさん。おじょうさま。
 わたくしは先にペンションに戻ってますから、お二人はどうぞごゆるりとお楽しみくださいまし」
 そう言ってくるりときびすを返すようにポムニットは去る。後にはポツンと残される二人。
「……ポムニットめ……」
 照れくさそうにリシェルはそう呟いた。自分達を二人きりにさせるためのポムニットの配慮。
 心ではありがたく思ってるのだろうが態度は素直じゃなく、やれお節介だなんだのブツブツ言ってくる。
(相変わらずの照れ隠しだな。コイツ)
 そんなリシェルの様子に和みながら、ライも照れくさい気持ちでいっぱいになっていた。
 ポムニットも加えて三人仲良く過ごした日中。それもとても楽しいものだった。
 けれどこうしてリシェルと二人きりで過ごす時間。待ち望んでいたものでありそれがいざ来ると戸惑う。
 リシェルじゃないが思わず照れ隠ししてしまいたくなる。そんな矢先に。
「キレイ……だよね……」
「ん!?……あ、ああ……」
 不意にリシェルに話しかけられてライはドギマギする。たぶん花火のことだろうと思い空に視線を向ける。
 するとまた一発、大きな輪っかが瞬きながら広がり、儚く消えてゆく。
「ほんと凄いよな。召喚術ってこんなこともできるんだな」
「ふふん。この天才のあたしならではよ。どうよ。見直したでしょ」
 召喚術でできる打ち上げ花火の遣り方。以前、リシェルがファナンの本部に研修に行ったとき知り合った
 自称次期派閥総帥のチビジャリ娘から教わったものである。属性に違いはあれ基本は同じ。
 ファナンの夏祭りの際に熟練の術師が打ち上げるそれには及ぶべくもないがリシェルとしては会心の出来である。
「あんたにもさ一度……見せてあげたかったから……」
 そう呟くリシェルの顔が赤いのは花火の光のせいではないことはライにもわかる。ふいに胸がつまった。
 なんとも愛らしい。抱きしめてしまいたくなる。最高に可愛いこの恋人を。ライはフッと軽く笑う。
「ありがとな、リシェル。こうして誘ってくれて」
 素直に告げる謝辞。それに照れくさそうになりながらリシェルは呟く。
「お礼ならポムニットに言ってあげなさいよ。今回はほとんどあの娘が頑張ったおかげなんだから」
 振ってわいたようなこのバカンス。それに尽力してくれたのはやはりあのメイドである。
 テイラーを説得し、日程からなにまで事前に綿密に整えてくれたのだから本当に頭が下がる。
「ああ、そうだな。ポムニットさんには本当に感謝しないとな」
「いちいちお節介なのがたまにきずなんだけどね」
 そう言ってライもリシェルもポムニットへの感謝で胸が溢れる。
 こんなかけがえのない時間を自分達にプレゼントしてくれたあの素敵なメイドに。



 そうして二人、夜空を眺める。花火は既に終わっていた。澄み渡る海辺の空に星が輝く。
 なんとも魅せられる空だった。星見の丘。色々な思い出がつまるあの丘の空にも決して負けないくらい。
 満天の星空の下に二人。それは穏やかな静寂。その静寂にずっと身を任せてもいいぐらいの気持ちであった。
 けれどその静寂は破られる。不意に囁かれるリシェルの声に。
「二人っきりで来れたら……もっとよかったのにね……」
 そう言ってすぐにリシェルは付け加える。
「いや、もちろんポムニットには感謝してるけどさ」
 そう呟くリシェルにライはフッと目を細める。ライもまたリシェルと同じ気持ちだった。
 確かにポムニットには感謝しているし、自分達だけではなく他のみんなと一緒にすごすからこその幸せもある。
 けれどいつかは。本当に二人だけでこんな日をすごしたいとも思う。欲張りすきだとは分かっていても。
「そうだな。いつかは来ような。二人っきりで」
「……うん……」
 そうして持たれあいながらしばらく星を眺めていた。感じるお互いの重みと体温。それが本当に愛おしい。
 そんな風に穏やかで優しい時間が続くと思っていた。するとリシェルはまたなにか言い出す。
「あのさ……ちょっとだけ待っててくれる?」
「どうかしたのか?」
 尋ねるライだったがリシェルはその問には答えず言ってくる。
「あんたは黙ってここで待ってればいいの!放っぽって帰っちゃったら承知しないんだからね」
 そう言いすててリシェルはかけて行ってしまった。ライはポツンと一人残される。
 なんとももの寂しい。けれど素直に待つことにした。リシェルのことだ。きっとなにか企んでいるのだろう。
 待ち遠しい気持ちでライはそのままたたずむ。なにか期待感が胸をよぎった。丁度、昼間のときのように。
(まさかな……)
 ふいに頭をよぎるビジョン。ライは一笑にふす。そうして待ちわびること半刻。
 ライがいい加減待ちくたびれた頃合にリシェルは帰ってきた。
「ごめん。待たせちゃって」
「いくらなんでも遅いぞ。いったいなにやって……」
 ライは二の句を告げることが出来なかった。固まっていた。星光に照らされて映し出されるリシェルの姿に。
「な……ななな……なぁぁぁああ!」
 呆気にとられるライ。リシェルは恥ずかしそうに顔を伏せる。そんなリシェルの身を包むのはそう。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁあああ!!」
 恥ずかしさをこらえながらも昼間のスクール水着姿で現れたリシェルにライは大いに噴出した。 


 続く

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