23話外伝BAD



・・・・・・闇。
最初にトリスの目に映ったものは、どこまでも続くかと思われるような漆黒の闇だった。
頭がボーッとする。トリスは朦朧とする意識の中記憶を辿った。

「・・・ここは・・・あたし・・は・・?」
(そうだ。確か、あたしたちはビーニャを倒すためギエン砦を攻めたものの待ち伏せに遭い、あたしとレシィだけが魔獣の群れに囲まれて・・・)
その時、闇の中に白い・・生者には有りえない程の白い肌を持った人影が現れた。

「捕まったんだよ、アンタは!キャハハッ!」
無邪気な、だからこそ残酷な、甲高い笑い声。
その声はもやがかかったようだったトリスの意識を急速に現実へ引き戻した。
「やっとお目覚め?・・・気分はどう?」
「・・・・・・サイアク、よ」
闇の中に浮かび上がった小さな人影−ビーニャを真直ぐ見据えながら、トリスは吐き捨てるように呟いた。
「キャハハハッ、そりゃ残念。でも、スグにサイコーの気分にしてあげるよ」
壁にもたれかかるように座るトリスを見下すように、心底楽しそうなビーニャの声が響く。
可能なら、トリスはひっぱたいていただろう・・・可能なら、だが。
服装こそそのままだったが、武器や装備品などは全て奪われていた。
そして後ろ手に手錠を掛けられ、足首を縛られ・・・首には、頑丈そうな鎖のついたごつい首輪が嵌められていた。
鎖の先は・・目の前にいるビーニャの手に握られていた。考えるまでもない。敵の手に落ちたのだ・・完全に。
ここはギエン砦の中・・・澱んだ空気からすると、地下室だろうか。
それでも、トリスはビーニャを射るような視線で睨み付けていた。
・・・必ず、助けが来る。脱出の機会はある。
そう信じる気持ちを、瞳に込めて。必ず、仲間が・・・

と、その瞬間。今まで毅然とた態度を取っていたトリスが明らかに狼狽を見せた。
「・・レ・・レシィはっ!!レシィはどうしたのっ!?」
(確かあの時、あたしをかばって・・・!)
魔獣たちの爪が。牙が。まだ幼さの残るメトラルの肌を引き裂き、目の前が紅く染まる・・そんな恐ろしい光景が頭をかすめる。
先ほどまでとはうって変わって、血の気すら引かせながら叫ぶトリスを見て、ビーニャは口の端を歪めた。
「へぇ・・・随分とアレがお気に入りみたいね?」
「っ・・・!」
トリスの、しまったという顔を見てますますビーニャが笑みを浮かべる。
無論カードがこちらの手にある以上、どう取り繕うと結局は無駄なのだが。
「アハハ・・大丈夫よ。あんな面白そうなオモチャ、簡単に壊しちゃもったいないもの。・・・アナタも、ね。キャハッ」
良いオモチャを見付けた・・・そんな、子供のような残酷な笑み。

もしかしたら誰かの助けでレシィだけでも逃げられていれば・・・その望みは、あっさりと潰えた。周囲にレシィの姿はない。
ビーニャの言葉が本当だという保証はなかったが、何よりも本当に愉しそうなその表情が真実を物語っていた。

そして・・その笑みを見て、トリスは初めて本当に恐怖した。
この先、自分たちを待ち受ける運命に。


つづく

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