ネスティ×トリス



ネスティが帰ってきたあの日から、だいぶ経ってから。
蒼の派閥にもどったネスティは難しい召喚術の本を大きな木の下で読んでいた。
はじめはトリスもネスティの肩越しにそれを見ていたが、千分の一もわからない内容にため息をつき、木に登り始めた。
それは本を読むより楽しい世界だった。
ネスティが生み出したあの木には劣るが、いい眺めだった。

ネスティがいなかったあのころ。
トリスは毎日あの木に登っていた。
ロッククライミングに近いものがあったが、それでもやめられないものがあった。
もしかしたら、何かネスティ縁のものがあるかも、いや本人がいるかも。
本人は今、下の方で読書をしている。
一緒に生活していたアメルには「言わないで」と口止めしていた。

あんなこともあったんだ。
トリスはぼんやりと空を見つめた。
足もとからめきょ、とかびしとかそういう音に気付かないまま。
結果は皆様の予想通り。
トリスは重力に引かれてぐんぐん落ちた。
落ちた先は。
ごん
ネスティとトリスの頭が惹かれあい、鈍い音がした。
あまりの痛みに二人はしばらく無言だった。
「き、君はバカか!」
「だって、ネスがまたいなくなるような気がして・・・あ!」
しまった、言っちゃった。
トリスは無意味に両手を振った。
ネスティは考える顔になる。
大事な可愛い子にどうするべきか。
ちょっちょ、とネスティがトリスにもっと近くに寄れ、という動作をする。
トリスが恐る恐るネスティに近づく。
ネスティは手が届く範囲にトリスが来ると彼女を引っ張った。
そして、静かにトリスの唇と自分の唇を重ね合わせる。
この時点でトリスの顔は赤かった。
数秒後、トリスは耳まで赤くなる。
ネスティはやっと唇を離した。
「ネスのバカー!」
いつもと正反対の言葉を言いながらトリスは走り去った。

不覚。
ネスティの血には融機人としての記憶があった。
と、いうことはキスがうまい人やその・・・触れ合うのがうまい人の記憶もあるわけで。
油断してはいけない。
すっかり忘れてたよー!!
首まで真っ赤にしてトリスは自室に戻った。





トリスとキスをした数日後。
一緒に買い物に行く約束だったが、ドアを押しても押しても開かない。
「トリス!何をしているんだ、トリス!」
仕方がない。
ネスティは息をついて、周囲に人がいないか確認してからドアに体当たりした。
ガシャーン!ばさばさばさ!
はい?
ネスティは呆然とした。
本棚が倒れている。
トリスは本棚でバリケードを作っていたようだ。
押せども押せども反応がないはずだ。
部屋の中には人の気配はない。
数日前のキスがいけなかったのか、いや、女性はあれぐらいのキスを好むはずだ。
先祖たちの思考が頭のなかで回る。
とにかく、トリスを探さなければならない。

繁華街を一人歩く。
目覚めてから、一人で繁華街を歩くのは久しぶりだ。
たいていトリスと歩いていたし、トリスの誕生日プレゼントを買う時にはアメルがいた。
トリスと恋愛関係にある、というのは自覚している。
二人で一緒にいる時間も長い。
そこでネスティははたと気づいた。
恋愛関係にあると思っていたが、恋人らしいことと言えばデートだけだ。
キスも今回が初めて。
恋愛関係にあると思っていたのは自分だけなのか。
トリスには誰か別の想い人がいるのか。
「わぷっ!」
「わっ!」
誰かとぶつかった。
正体はすぐ知れた。
「トリス、ローブを頭から着て買い物に行くのが君の習慣なのか?」
声が震える。
「あうう。」
トリス一人が読めるような量ではない本が、全てを語っている気がした。
「トリス、僕が半分持つから派閥の本部に帰ろう。」
ネスティが本を持つ。
かなり重い。
体力のあるトリスでもかなり厳しい重さだ。
誰のための本なのだろうか。

本部に戻って、二人は本を置いた。
「で、トリス。あのバリケードは何だ?」
トリスは少し黙っていた。
「ネスに。」
絞り出すような声でトリスが言った。
「ネスに会ったら、いろんな・・・いっぱいいろんなこと、言いそうかなって。」
トリスがいきなり笑った。
「無理しなくていい。君の正直な気持ちを知りたい。僕が邪魔なら」
「邪魔じゃない!」
いきなりトリスの顔が赤くなる。
「前みたいに、キス、されたら、何回もキスしてって言いそうかなって。」
ネスティはトリスを抱き寄せて、唇を合わせた。
唇を離すと、案の定トリスの顔、耳、首が赤くなっていた。
「トリス、僕だってしたいんだ。ただ、君が行ってしまったから。」
「ごめん、ネス。」
ネスティは窓とカーテン、ドアを閉めた。
「ネス?」
「僕をその気にさせた君が悪い。」
ネスティはトリスを抱きしめて服をそっとはいでいく。。
「ネス?」
「君を愛してる。いつからかは知らないけれど。」
そうして二人は抱き合った。

「君はバカか!本棚の本の並べ方を忘れただと!?」
「ええと、色順かな?」
「ああもう!倒れて困るようなものをバリケードにするな!」
そう言いつつ、ネスティは本を難易度別にきれいに並べていく。
「ネスが几帳面でよかった〜。」
「何か言ったか?」
「誰もしゃべってないよ。」
本を並べているのはネスティだけだ。
トリスは見ているだけ。
「あ、ネス!」
トリスが買ってきた本の中から何冊か分厚い本を出した。
「ネスが欲しがってた本ってこれだよね?」
ネスティは本棚の整理の手を休めて、それを見た。
「売っていたのか!?てっきり派閥本部にしかないと。」
「裏路地の本屋さんにあったわよ。」
「トリス。」
ネスティが厳しい顔になる。
「あんなところに行ってはいけない、と言わなかったか?」
トリスの笑顔が固まった。
やってしまったことはしょうがない。
「もう二度と行くな。これからは僕も付いて行くからな。」
トリスが幸せそうに笑った。
「やっぱりネスはネスよね。」
わーい、と言わんばかりの無邪気な笑顔。
それを見てから、本棚を見ると脱力した。
縁結びに役に立ったらしいのは確かだが、素直に礼は言えない。
まだ、半分くらいしか片付いていないのだ。
本気で色順にしてやろうか。
そう思いつつ、几帳面なネスティは本を本棚に並べていった。

おわり

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