カイル×アティ



 月の明るい夜だった。
 微かに聞こえるのは、今なお続いている宴の喧騒と、穏やかな潮騒のみ。
 窓から差し込む月明かりだけを光源とする薄闇の中で、アティはただひたすらに恋人の口唇を味わっていた。

「ん、ふぅ‥‥」

 鼻から抜ける気だるい自分の声が、まるで他人のもののように耳を掠める。
 きつい酒の味がする舌を絡め取って吸い上げる。既に全身に廻っているアルコールが、さらにその濃度を上げていく感覚に酔いしれた。

 アティは、ベッドに腰を下ろした男の足の間に身体を割り込ませ、両足で筋肉質の腰を挟むようにしてその上に乗っていた。
 金色の髪に指を差し入れ、深く深く口付ける。
 最初は戸惑いの色を浮かべていた男も、今はアティのなすがまま身を任せていた。


 ――どうしてこんなことになったのか分からなかった。

 今日は夕暮れ時からユクレス村で宴が開かれていた。
 招かれたカイル一家たちと共に、アティや生徒もそれに参加した。

 常の殺伐とした雰囲気を払拭するかのようなその宴は思いの外楽しくて、余り強い方ではないのに、飲み過ぎてしまったかも知れない。
 気分よく酔っていたはずが、いつか足元がおぼつかなるほどに酩酊したアティを気遣ってくれたのがカイルだった。

 送り狼になるなよ、と冷やかしの声を浴びながらも部屋まで送ってくれた彼を、アティは押し倒してしまったのだ。


「ん‥‥」

 肌蹴たシャツに手を差し入れ、逞しい胸筋を堪能する。

「先生、どうした‥‥?」

 問い掛けには答えず、アティは右手をするするとカイルの下肢に伸ばした。

 黒いズボンの奥の、まだ性的な興奮を示していないそこを撫でる。
 形を確かめるように掌を何度も上下に動かしていると、そこが少し熱を持ったのが分かった。

 申し訳程度に留められたシャツのボタンを外し、胸の小さな突起に舌を這わす。
 いつも自分がそうされているように、甘噛みしちゅっと吸い上げる。
 それにカイルがぴくりと反応したことに気付いて、アティは笑みを洩らした。

 顔を上げ、耳元に囁く。

「気持ちいいんですか?」

 息を吹きかけ、耳朶に舌を這わす。
 ゆるゆると触れるだけの愛撫を繰り返していた右手の下には、もうその形を顕にした昂りがあった。
 口唇を舐めながらベルトのバックルに指を掛けると、カイルの身体がびくりと震える。

「っ、アティ」
「今日は、カイルさん何もしちゃダメです。私の好きにさせてください」

 寛げたそこから現れたのは、天を突くように雁首をもたげたカイル自身。
 亀裂に透明の液体が滲んでいるのが見えて、思わず喉を鳴らす。
 根元からそっと指で握り先端に口唇を当てると、カイルの腰が震えるのが分かった。

「ん‥‥」

 ゆっくりと、焦らすように口腔内に含めていく。
 先走りを吸い上げ、口唇の内側に力を入れて窄め、喉の奥まで熱の塊を受け入れた。
 そのままで、血管の浮いた棹を五本の指で強めに握り、ゆったりと上下させる。

 カイルの喉から唸り声が上がり、力の篭らない手がアティの頭に乗せられる。

 舌での愛撫を続けながら視線だけを上げると、カイルが何かを堪えるように目を閉じているのが見える。
 その時、男を銜え弄っている自分の奥深くから、熱いものが流れ落ちてくるのが分かった。

 ――厭らしい。
 これから男を受け入れることを期待して、アティの女の部分が悦び綻んでいるのだ。
 いつもなら身を捩りたいほど恥ずかしいことなのに、今日はそれに胸が高鳴った。

「っ、もう、やべ」

 小さく呻いたカイルが突然腕を突っ張ったせいで、アティの口唇からちゅるりと音を立てて昂りが抜け落ちる。
 不愉快そうに眉を顰めたアティは、その腕を両手で横に除けて言った。

「ダメです。今日は、じっとしていて」

 カイルの上に乗ったまま、アティは自身に纏ったニットワンピースを脱ぎ捨てる。
 ふるんと零れ落ちた乳房を包むブラジャーをも乱暴に外し、目を瞠っているカイルの口唇を塞いだ。

 そのままの体勢で下着を少し横にずらし、蕩けるほどに潤った秘裂にカイルの先端を宛がった。

「ん――、っ」

 丹念な愛撫で慣らされていないそこは、いつものようにスムーズに男を受け入れてはくれなかった。
 だが、ぎちぎちと狭いところを掻き分けて突き抜かれる感覚に、ぞくぞくと快感が背中を駆けてゆく。

 太く逞しいそれを全部受け入れたところで、アティは深い息を吐いた。

「あぁ、カイルさん‥‥、熱い‥‥」

 うっとりとした表情で、見事に割れた腹筋に手を当てる。
 そのままカイルの上半身に視線と指を滑らせ、頬に手を添えた。
 アティを見つめる、琥珀色の瞳が欲情に燃えている。

 ――何ていい男なんだろう。
 目が眩むほどの独占欲に、アティは微笑んだ。

 硬い胸板に頼りない自分の乳房を押し当てて、腰を揺する。
 激しく存在を主張する互いの鼓動がぶつかりあい、弾けた。

 距離を縮める度に、卑猥な水音が室内に響く。
 アティは、ゆるゆると繋がったままの快楽に酔いしれていた。

「あ、あ、カイルさん‥‥っ、気持ち、いい‥‥っ」

 上りつめずまた引くこともない、寄せたままの快感に身を委ねていると、突然カイルの腕がアティの腰を掴んだ。
 そして悲鳴を上げる間もないまま、ぐるんと身体を反転させられシーツに背中を押し付けられる。

「‥‥わざとだろ?なあ」

 ひどく加虐的な表情を浮かべたカイルがそこにいた。

「カイル、さ、ああっ!」

 刹那、先ほどまでとは比べ物にならない強さで腰を打ち付けられ、アティは背を仰け反らせた。
 呼吸すら満足に出来ない律動に、ただ涙を流す。

 獣のような熱い息を吐きながら、カイルの口唇がアティの張り詰めた胸の先端を愛撫する。
 汗ばんだ掌が乳房を揉みあげる。いつもより余裕のない動きは痛みを伴ったが、それすらもがアティの脳髄を痺れさせた。

「アティ、アティ‥‥」

 うわ言のように名を呼ばれ、アティは思わず自分を組み敷いた男の背に腕を伸ばした。
 汗に滑る背中に爪を立てる。このまま壊されてもいい。

 カイルの抽送は容赦がなかった。
 本能の赴くまま動く男に、簡易なベッドがぎしぎしと悲鳴を上げる。
 アティの中はきつく、まるで離さないとでもいうかのようにカイルを締め付けた。
 潤った肉襞の戒めから逃れ、また突き入れる。それは永遠に浸りたいほどの快楽であった。

「っ、くっ‥‥!」

 やがて訪れた限界に、カイルが低い唸り声を上げる。
 熱い口付けと共に身体のいちばん奥で弾けた衝撃に、編み上げブーツを履いたままのアティの足がカイルの腰に絡みついた。

「あ、ああ‥‥」

 一瞬意識を飛ばしていたアティは、絶頂の残滓に身を委ねていた。
 ぐったりとシーツに沈み込むその身体を、カイルが力任せに反転させる。
 そのまま豊満な尻をがっちりと掴み、一度吐き出しても硬度を保ったままのそれで、アティの胎をぐりぐりと掻き廻し始めた。

「まだだぜ、先生」
「あ、カイル、さ、ああっ!」

 背中に、カイルの汗がぽたりと落ちる。
 あれほど体中に廻っていたアルコールはすっかり薄くなって、やけに敏感になった神経がアティを苛んだ。

「お前が誘ったんだろ、アティ」
「あ、あっ、だめ、壊れちゃ、‥‥っ!」

 カイルにイニシアチブを握られてしまった。
 アティは自らの行いをようやく後悔したが、時は既に遅過ぎたのであって。

 ――二人の夜は、まだまだ終わりそうになかった。



 終

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