気高き翼、霊界を行く



「あら、お姉さま、また来たの?」
「ああ。今日は武訓廊、霊界への道を頼む」
「頑張られるわね。お一人で大丈夫?」
 御使いとして迎えた最大の戦い――ラウスブルグを巡るあの戦いからほとぼりはもう冷めていた。その一方で、アロエリは未だ己を鍛えるのを怠っていない。
 兄様はもういない。またあんな死闘が繰り広げられることがあれば、自分が御子様を守らなくてはならないのだ。その使命感があったから、アロエリはあの戦役の後も、一日たりとも鍛錬を欠かしたことはなかった。
 そんなアロエリに、シャオメイが無限界廊を勧めたのがきっかけだった。強敵と戦い、仮に負けても命までは取られない、修行の場としては恵まれた空間。アロエリはここでめきめきと力をつけ、今では最深層のひとつ手前まで来られるようにまでなっていた。
「頑張ってね、お姉さま。無理は禁物よ?」
「ああ、わかってる」
 シャオメイは笑顔で見送った。界廊の向こう側の連中とは話をつけてある。アロエリが仮に打ち倒されても、命まで取られることや、人生を棒に振らなくてはならない重傷を負わされることはない。そう確信していたからだ。

「……っく!」
 アロエリは苦戦していた。星光を駆使するペコヴィオラやムギュラ、そして歴戦の悪魔たちが相手のこの世界。先に攻略した機界や鬼妖界も苦しかったが、それらとはまた違った手強さがあった。
 シャオメイのさじ加減で頭数は抑えられているにしても、敵一人一人が強豪であるこの状況は、さすがに一人で押し通せるものではなかった。
 槍と弓を巧みに持ち替えて、目下の悪魔と金属音を鳴らす。1対1でも手こずる相手。
 さらに――
「ぐあっ!?」
 目の前が真っ白になり全身を焼くような痛みが走る。それが敵の後衛が放った星光の力だと気付く頃――
「あっ、ぐ……!」
 ひるんだアロエリのみぞおちに、悪魔の槍の石突きが深くめり込む。肺が空になるまで空気を絞り出され、気を失いそうになって膝をつく。もう一撃、星光の追い打ちが飛んできたのはその2秒ほどあとだった。
「かは……っ」
 立ち上がろうと手の平で地面を押す。しかし、力の入らない腕は床を這ったまま、肘さえも地面についたままでは、いくら力を込めても立てようはずがない。
 負けた――そう思った。悔しいがここはまだ、自分に手の負える場所ではなかったのだと、不本意ながらそう自分に言い聞かせるアロエリだった。
 さて、いつもなら、この後乱暴にシャオメイの店まで送り飛ばされる。生傷そのままで放り出されるため決して良心的ではないが、負けたのだからそれは仕方ない。ここに至るまでに何度か敗北も繰り返したアロエリは、今回久しぶりにそんな処遇を受けることを悔しく思う一方、それを受け入れる心積もりをしていた。
 しかし、この日は――
「が、っ……!?」
 うつ伏せに倒れて力尽きたアロエリの肩口に鈍く重い痛みが走る。見てみれば悪魔の一人が、アロエリの肩口をかかとで踏みつぶしていたのだ。
「な、何を……っ!? ぐああああああっ!?」
 口応えした瞬間、さらに力が加えられた。弱った体を、床と悪魔の全体重に挟まれる圧力に、肩がめしめしと悲鳴をあげた。
 アロエリには完全に想定外のことだった。戦いに勝った後に敗者をなぶる、そんな発想をもとより持ち合わせていないアロエリにはなおさらのことだ。
「っぐ……き、貴様ら……!」
 悪魔たちはにんまりしていた。見れば嗜虐的なイメージのないムギュラやペコ達も、この時は同じように笑っている。
 悪魔たちの方からすれば、いくらシャオメイに頼まれてやってることとはいえ、いきなり来た異界人に喧嘩を売られた形。勝ったとはいっても、攻撃も反撃も受けてそれなりに痛い目も見ている。正直、送り返す前に多少仕返しをしてやらないと少し割に合わないのだ。
 ――今日の相手の面々に一人でも天使がいれば慈悲があったかもしれないが、今日に限って彼らがいないのは単なる不幸であった。
 ムギュラが数匹がかりでアロエリの体を持つ。彼女の肢体は度重なる鍛錬によって美しく絞られた体であるが、多くを成し得るその力強い肉体は見た目より重いのか、ムギュラたちはしかめっ面で羽を羽ばたかせた。
「な……っ、何をする……!?」
 教訓廊で負けた時はこんな運ばれ方はされなかった。明らかに企みがあるとわかり、アロエリも抵抗しようとする。
 しかし動こうとすれば、手の空いている悪魔たちが取り押さえてくる。弱った体では鎮圧されるばかりで、アロエリはムギュラと悪魔たちに荷物のように運ばれていく。
 やがて回廊の端――切り立った床の端を超え、床のない所まで。そしてぴたりとムギュラ達が前進をやめ、一匹ずつアロエリの体から離れていく。
「お、おいっ!? まさか……」
 アロエリは慌てて、渾身の力で翼を羽ばたかせようとする。このままでは、サプレスの底なしの空間に落とされてしまう――容易に想像のつく状況だった。
 しかしその拍子に、アロエリの周りを飛んでいた悪魔たちがその槍でアロエリの翼を横なぎに殴りつけた。低いうめき声がアロエリの口から溢れるより一瞬遅れて、再びペコ達の星光がアロエリの翼を焼く。
「が……!? う……っ、うわああああああああっ!?」
 思わず漏れた悲鳴とともに、翼の機能を失ったアロエリの体は、眩しいサプレスの闇へと落ちていった。

「ここ、は……?」
 アロエリが目を開けたその空間。光の溢れる眩しい空間に、翼を傷めたはずの自身の体が浮いている。そしてその周りを、3匹の悪魔がふわふわと舞っていた。
「貴様ら……っ、オレをどうするつもりだ!?」
 痛む体に鞭打って悪魔の方を向く。なぜ体が浮くのかは知らないが、飛ぶことには慣れているせいかスムーズに動けた。そんなアロエリを嘲笑するかのような顔で、ふわりと悪魔の一人が寄って来る。
「このっ! 近寄るな!」
 いつの間にか槍も弓も取り上げられていたが、アロエリは気にしなかった。反射的にその拳で悪魔の喉元を殴りぬいた。
 しかし、その拳は空を切る。それどころか、悪魔の体までものがアロエリの体を通り抜けてアロエリの背中に背中を合わせたのだ。
「な……!?」
 驚くアロエリをしたり顔で笑い、その悪魔がアロエリの尻をひっぱたいた。
 振り返って当の悪魔を睨むと、直後に背後から背中を軽く撫でられた。かっとなって振り向きざまに蹴りを飛ばすが、その蹴りは空を切る。しかし目の前に、確かに悪魔はいる。その悪魔の体を、アロエリの足がすり抜けていっているのだ。
(バカな……触れない、だと……!?)
 戸惑うアロエリを、背後から悪魔の一人が羽交い絞めにする。アロエリの方から悪魔たちには触れるのに、悪魔の方からは平然と触って来る。それも、すごい力だ。
「く……っ、は、放せ……っ!」
 霊界におけるサプレスの住人は、肉体を持たない精神生命体となる。まずこれが、アロエリが悪魔たちに触れない理由だった。
 一方、ここに定住している悪魔たちは日頃から精神生命体の身。魂の扱い方なんか知り尽くしている。悪魔たちが触れているのはアロエリの魂であり、肉体ではない。
 加えて、この場所はサプレスでもやや最深層に近い場所。本来なら生身の肉体のまま来れるような所ではなく、その存在を保てるよう、アロエリの魂が本能的に肉体から身を乗り出している。現在のアロエリの体を構成している比率は肉体よりも魂の方が多いため、魂を押さえつけると肉体も抑圧されてしまうのだ。
 当然そんな理屈を知らないアロエリに、この状況を打破する術はなかった。魂の力をコントロール出来れば抵抗もできるだろうが、あいにくそんなことには慣れていない。
(くそっ……! なんて力だ……っ!)
 魂の扱いならば遥かに悪魔の方が上手であり、アロエリは不慣れ。悪魔たちは先ほどの倍以上の力でアロエリをおさえつけ、アロエリは半分の力も出せずにいた。
「ん、むっ!?」
 ふと、悪魔の一人がアロエリの唇を奪った。思わず口を閉じるアロエリだったが、悪魔が指先でくいっと顎を引くだけで、アロエリの口は強引に開けられた。
「あ、っ……!? んぷ、っ……は……!」
 舌を絡ませられる。接吻の経験のないアロエリにはわからない差だったが、悪魔の舌先の技術は高かった。口の中を丹念になめ上げ、アロエリの舌を味わい、頬の内側を優しく撫ぜた。
「んは……やめ、ろぉ……っ!」
 舌を追い出してやろうと、悪魔の舌めがけて上下の歯を閉じる。しかしその歯も、例によって空を切るばかりでカチカチと虚しい音を立てる。そうしている間にも、悪魔の舌は首尾よくアロエリの口の中を犯すばかりだった。
「っぷぁ……く、っそぉ……!」
 羽交い絞めにされた体は動かないのに、こちらの抵抗は敵に触れることもかなわない。
 理不尽な状況になすすべもなく、与えられる屈辱的な仕打ちに耐えるしかなかった。
 魂の嬲り方を心得ている悪魔たちにとって、今のアロエリを苦しめる方法を導き出すのは非常に簡単な話だった。例えば、今アロエリの口元を責めているこの悪魔は――
「はっ……はっ……あふ、ぁ……!」
 しばらく口の中をしゃぶり尽くされたアロエリの目元が、本人の意図とは裏腹に蕩けてくる。この悪魔の口元から溢れる、柔らかく、甘く、温かい吐息。そして恋愛経験の豊富な者さえも落としてしまいかねない舌先のテクニック。恋愛経験はおろか、浮ついた話を聞くだけで赤面する純情なアロエリにとってこの口付けは、魂の奥底まで溶かしてしまう麻薬のようなものにさえ感じられた。
「あ、ぷぁ……っ! はぁ……はぁ……っ、んむううううっ!?」
 涙目で頭を必死にのけ反らし、悪魔の口元から距離を取る。しかし間髪入れずに悪魔が顔を近づけ、アロエリの唇を再び奪う。これ以上首を後ろに下げることも出来ない
 状況で体も動かせず、いよいよ進退極まる状況で捕えられる形となった。
「ん……っ! ん、ぷぁああぁっ……! ふうう、う……っ!?」
 どんなに考えても、悪魔の唇から逃れる方法を導き出せない。その間にも、ふんわりとしたその舌が、アロエリの舌を甘く包み込む。溶けきってぐったりとしたアロエリの舌を、ふと抱き起こし、ふとそっと撫ぜ、常に優しさを与え続ける。身動きとって逃れることは不可能だと悟るに連れて、アロエリの集中力は現在の被攻撃対象であるその舌に移る。注意散漫だった時ですらすでに魂を焦がしていたその舌触りを、完全に意識してしまったらそれはもはや泥沼であった。
「あ……っ、あふ、あ……あ、あ、あ……」
 口の外に、ぴちゃ、ぴちゃという音が溢れ始めた。さっきまで悪魔の許す限り口を閉じようとしていた、アロエリのその意識が薄れてきたためである。下顎に力が入らず――あるいは無意識のうちに悪魔の舌を求めてしまっているのか、ともかくアロエリの口元の鍵は失われ、悪魔の侵入を簡単に許してしまっていた。
「ん……ん、っ……んく……っ、んんん……っ……」
 口応えすることはもはや出来なくなっていた。口の中いっぱいに広がる悪魔の熱い息、それが喉から胃にまで届き、体全体を火照らせる、そんな錯覚さえも起こしていた。
 口の中――体の中を他人に預けるという初めての経験にアロエリの心臓は無条件に高鳴らされ、だらしなく開いた口の横から、透明なよだれがあっさりと落ちていった。
「ん、ん……っ、ぷはっ……! はぁ……はぁ……はぁ……」
 アロエリの心が完全にへし折れるその直前に、悪魔はその唇をアロエリから離した。
 まるで悪い夢から――もとい甘い夢から覚めたかのように、アロエリは憎々しげに悪魔の方をにらみつける。にやついた悪魔の瞳の奥には、涙目で相手をにらみつけることしかできない、敗者の惨めな顔が映っていた。
 しかし、その見下した瞳の前で続けられるのはさらなる恥辱。アロエリを羽交い絞めにする悪魔が、アロエリの胸元にその手を滑り込ませてきたのだ。
「っな……や、め……!」
 抵抗しようとした矢先、他の悪魔に両手を真上に挙げた状態で手首を掴まれる。
 言うまでもなくびくともしない強さで、ほどくことなど絶望的だということが一瞬でわかってしまった。
 それをきっかけに、悪魔たちがアロエリを捕まえたままふんわりと移動する。やがて霊界の空間に浮かぶ一つの小島に辿り着いた。そしてその小島の中央にある柔らかそうな球体――あれが、悪魔たちにとってのベッドなのだろうか。
 アロエリはその球体のわずか上、空中で悪魔たちに捕らえられた状態だった。地に足をつけることができず、こちらから悪魔の方に触れることも出来ない状況で、ただ悪魔たちの凌辱に身を任せるしかなかった。
「ひゃっ、あ……! は、放せ……ああっ、ひ……!?」
 悪魔が巧みにその指をアロエリの胸に這わせる。
 胸を隠すものはとうの昔に捨てられ、褐色の肌よりもわずかに白みを帯びた胸が、サプレスの風にさらされていた。日に当たることが少ないせいかさらさらの胸は、文字どおり誰も触れたことのない秘宝のように輝く。
「い、いい加減、に……っ、んふ、ああっ……!」
 露骨な責めにアロエリの口も決死の反抗を見せる。しかし先ほどの口付けで程よく火照らされた肉体に、この愛撫はあまりにも適合していた。その細い指先は緻密にアロエリの胸元を滑り、たまにこすれる爪先の刺激と指の腹のくすぐったい動きが絶妙に絡む。熱くなった体はその感覚を、限りなく快感に近い形で脳髄に刻む。
「あ、あああ、っ……!や、め……あ、っふあぁあぁっ……!」
 口先では悪魔たちを制しつつも、快楽として伝えられるその感覚に口元は素直に反応してしまう。心は明らかに拒絶しているのに、体が求めている。アロエリは何度も心の中で首を振り、それを受け入れまいとしていたが――魂を嬲ることに関しては一流の悪魔たち、ただ優しく、そして時にはふと力を加え。
 力加減を間違えるなどということは万に一つもなく、時間とともにアロエリの性的な昂りは向上していくばかり。
(くっそぉ……こ、こんなバカな、こと、が……っ!)
 セルファンの誇り高き戦士として、戦うことにひたすら明け暮れた毎日。自慰なんて当然したこともなかったし、そういった行為は汚らわしいとさえ思っていた。そんなアロエリにとって、今の性的な拷問に体が屈伏するなどということは、この上なく屈辱的な仕打ちだ。死んだってそんなこと認めるわけにはいかない。認めたくない。
 悪魔たちの狙いはまさにそこだった。暴力的にではなく、精神的な屈辱を与えての仕返し。これならシャオメイとの約束は破っていない。それでいて、アロエリにとっては最も耐えがたい仕打ちとはまさにこれだった。
(違う……違う、ぞ……オレは、誇り高き……セルファンの戦士、なんだ……!)
 戦士としてのアロエリのプライドは高かった。それでこそ、へし折り甲斐がある。
 いくら自尊心を保ったところで、自慰の一度もしたことのない処女が、魂をいたぶる達人の前で魂を丸裸にされた状態で無抵抗なのだ。悪魔たちも、時間さえかければ屈服させられると簡単に確信できたものである。
(こんな……こんなこと、ぐらい、で……っ!)
 アロエリは必死で耐えていた。しかし悪魔たちはゆっくりと責めればいいだけ。
 その青白くも温かい指が後ろから乳房を包み、すぼめて、広げて、じっくりと嬲る。
 悪魔たちにとってはこんなもの前戯ですらないのだが、人に胸を触らせたこともないアロエリにとっては充分すぎる拷問った。
「あ……っ、くあっ……! あ、ひあ……っ!?」
 時間がたてば、アロエリの口から悪魔たちに対して浴びせる言葉もまた消える。
 その口元から溢れるのは、こらえきれずに漏れる喘ぎ声のみ。体は正直に快楽の波に溺れつつ、一方で傷つけられていくプライドにアロエリの魂は悲鳴をあげた。
 逃げ道はどこにも無い。初めての快感に体が飽きを唱えることもない。身動き取れぬまま、アロエリは永遠とも思える悦楽の渦にのみ込まれる。
 現状ですらアロエリは地獄の中だというのに、攻め手はさらに発展する。
「!? っ、うあああっ!?」
 胸元から飛び出た二つのスポット。火照らされて丸く、こりこりに膨れたその二点を悪魔の指がきゅっと挟んだのだ。
「だ、駄目、だ……っ! それ、は……あうああああっ!」
 敏感になったまま放置されていた性感帯を突然刺激される強烈な感覚に、足の指先まで痙攣したように震える。逃げられないことを強く実感させられているアロエリの口からは、思わず懇願するような声が溢れた。
 当然、悪魔たちはその手を止めない。むしろ、予定通りと機嫌を良くしただけだ。
「や……あひっ!? やめ、ろ……っ、んああっ!? あく……っ!」
 セルファンの誇り、戦士としての誇り、誇り、誇り――自分の中で何度もそう唱え、底なしに沸き立つこの衝動を抑えようとする。そう暗唱すればするほど、その心が折れた時の痛みは計り知れないものになるということを、アロエリ自身はまったく気付いていなかった。
「あ、う、ああああっ……! はあ、あ……っ!? あ、うあ……っ、く!?」
 すかさず、アロエリの正面でその無様な顔を眺めていた悪魔が、再びアロエリの唇を頂いた。そして先ほどとは違い、まさしく犯すようにアロエリの口の中を、その舌で乱暴に、しかし丁寧にまんべんなく舐め回す。
「んむあああっ……! んふ……ん、っぷああ……っ!」
 呼吸さえままならないほど口を吸いつくされるアロエリ。押さえつけられた腕をほどこうとギシギシと抵抗しても逃れられず、頭はすでにこれ以上動かないよう悪魔の手で固定されている。涙で歪んだ視界の向こうには、遠い遠い空が見えた。
 無抵抗のまま胸と口元を支配される。舌を捕まえられ、乳首をいたぶられ、アロエリの意識はサプレスの風景のように実体を保てない状態だった。遠のく意識の中、ここで意識を失っては誇りを失ってしまうという、漠然とした想いだけが浮いている。
(だ、駄目、だ……オレ、は……戦士、なん、だ……)
「はふ、ああぁ……っ! ひっ、く……ああっ……!」
 吹き飛びそうな精神、元気によがる口。サプレスの深層にアロエリの哀れな喘ぎ声が響く真ん中で、その魂はまだギリギリのところで踏みとどまっていた。断崖絶壁の端で片足で立つような――下手をすればすぐにでも堕ちてしまいそうな感覚の中。
(耐えろ……耐え、ろっ……耐えるんだ……っ!)
「んむうっ……! っぷは、あっ……! は、あ、あ……!」
 心だけは明け渡してなるものかと必死の思いで耐える。いくら悲鳴が漏れようが、誇りまで屈服させるわけにはいかない。今すぐ全てを悪魔たちに捧げてしまえば楽になれるところを、この葛藤こそがアロエリを最も苦しめるのだった。
 ふと、目の前の悪魔が唇を離す。同時に、胸を嬲っていた悪魔の手も止まり、その手は再びアロエリを羽交い絞めにする。
「はあ……は、あ……はっ、あ……」
 不意に無限地獄から解放されたアロエリは、その羽交い絞めにした腕に従うまま、ハンガーに吊るされたようにぐったりとする。もはや、能動的に抵抗する気力は残っていなかった。だが、無情な悪魔たちはアロエリにとどめを刺す準備を進める。
 さっきまでアロエリの両手を掴んでいた悪魔が、アロエリの腰元に近づき――その腰布をほどき、サプレスの底へ放り捨てた。
「! やめ、ろ……っ……!」
 過呼吸のような状態で声の出ないアロエリを尻目に、悪魔はにんまりと笑い――アロエリの秘部を覆う、たった一枚残った布を強引に引き破った。
「あっ……う……」
 とうとう最後の砦を晒したアロエリの声が急に萎れる。ここまでも初めて尽くしではあったが、ここを人に見られるというのはやはり相当特別なものがあった。
 無意識に自身の中の"女"を自覚させられ、アロエリの心が揺れる。しかし心にギリギリ残った自尊心を強引に奮い立たせ、アロエリは目に最後の炎を宿す。
 そんなアロエリをあざ笑うかのように、さっきまで唇を奪っていた悪魔がアロエリの真っ正面に顔を持ってきて、その冷たい目で見下してくる。その目はいやに挑戦的で、『これから起こることを耐えられるか?』と、反語を含めて問うてくる目だ。
「っひ……!」
 股下の悪魔が、アロエリのふとももを指でなぞった。悪魔をにらみ返そうとしたアロエリの目に一瞬で新しい涙がたまり、弱々しく蕩けた目で悪魔の喉元を見るのが精一杯だった。
 度重なる愛撫で熱くなったアロエリの体は、局部を濡らすには充分すぎるほど高まっていた。ぬらぬらと霊界の光にいやらしく艶めくその秘部は、布が失われた今、その液が分泌されるたびにぽたぽたとサプレスの空に消えてゆく。
「っく、あ……!」
 その、最大の弱点にはまだ触れぬよう、その周りの肌を丸くなぞる悪魔の指先。戦慄を感じたアロエリが悪魔の顔を蹴飛ばそうと足をバタバタさせるが、悪魔を蹴ることはできない。足が空を切る感触が、逆に絶望感を新しく生み出すだけだった。
 不意にそのアロエリの頭を、正面の悪魔が両手で持って顔を上げさせる。そして、瞳を逸らしようがないほどに正面に顔を持ってきて、まっすぐにアロエリを見つめる。
 一方は陥落寸前の女戦士の瞳――もう一方は、それをあざ笑う冷たい瞳――思わずアロエリが目を閉じてしまった時点で、決着はあっけなくついていた。
「っ……!? は……っ……!?」
 アロエリの股下の一点、ついにそこに悪魔の指が触れた。その瞬間、ばたついていた足からも一気に力が抜け、両脚がゆっくりと垂れ下がる。仕舞には、がに股のようなみっともない形で、褐色の美しい脚だらんと落ち着いた。
「あ……あ……く、あ……」
 ゆっくりとくすぐる程度の力でそっと撫ぜ、焦らして焦らして楽しむ。ちょっとでも本気を出したらすぐに果てる、デリケートな性器だと悪魔たちにはわかっているのだ。
 アロエリの表情が無残に崩れる。これだけ高められながら未だ絶頂を迎えていない、快楽に溺れっぱなしの女の顔。その瞳には、悪魔の顔が映ってはいるが――
(誇り……セル、ファンの……誇、り……っ……)
 堕ちてゆく自分の表情を、目の前で悪魔が嘲笑っている。屈辱、なんたる屈辱――このまま誇りまで明け渡してしまうのか――そんな想いが明確に、アロエリの心を蝕んでゆく。
「は、あ……!? あっ……ひ……!?」
 絶頂に一歩及ばない刺激が、ゆっくりと速度を増してきた。その感覚につれて、下半身の奥から何か、得体の知れないものがこみ上げてくる。
「くあ、っ……!? な、何……あ、かああっ……!?」
 その表情を見て、悪魔が目を輝かせた。それを見てアロエリは一瞬で悟る。
(いけない……っ! こ、これだけ、は……だ、ダメ……っ……!?)
 これは敗北だとアロエリの本能が告げる。しかしもう手遅れ。どんなに耐えても、ここまで高められた肉体がその波を止めることなど出来ない。
 秘部を撫でる指は、いつの間にかかき回す指へと変わっていた。
「あ、うあ、あ……っ! ダ……メ……っ、ゃ……め……て……!」
 裏返った声で最後の懇願をするが、一番近くでそれを聞いた正面の悪魔は笑うだけ。
 そしてアロエリの胎内の指が、アロエリの最奥を突いたその瞬間、
「っ……、くああああああ……っ! あくあっ、ああああああああ……っ……!」
 噴水のような勢いでアロエリの秘部から愛液がはじけ飛び、3匹の悪魔の渦中から、くぐもった、しかし空の果てまで通りそうな美しい女性の悲鳴があがった。

 数秒後、なんとか舞い戻ったアロエリの視界に真っ先に飛び込んできたのは、悪魔の陶酔の表情だった。悪魔の目には息絶え絶えのアロエリが映っている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 そう、自分はこの悪魔の前で、恥ずかしげもなく絶頂の顔を見せたのだ。アロエリにとって、それは誇りを打ち砕かれること意外の何物でもない。心の折れたアロエリの目は情けなくとろんと力尽き、もはや涙も流れなかった。

 悪魔たちは当面の目標を終え、ひとまずは満足したようだ。この後どうするかは完全に気まぐれ次第なのだが――今日はどうやら、悪い風が吹いたようだ。悪魔たちはアロエリを抱えたまま真下の――柔らかそうな球体、悪魔たちのベッドにアロエリを寝かせた。
 初めてのオルガズムを迎えたアロエリには、自分の状況が把握できていない。生まれたままの姿で仰向けに寝かせられ、股を開かされる。悪魔たちが腰布を取れば、そこには人間離れした男根が隆々と立っていた。肉体を持たない悪魔には不必要なもの、要するに、アロエリに対するサディスト心が今、即興でさくっと作ったのだ。実体のない魂だけの存在の彼らなら、自身の現在の肉体を多少改造することなど容易である。
 その、一歩間違えば大根かとさえ思うような巨根が――
 ぐぷ――っ――
「っぐ!? あぐ、が……っ!?」
 今日初めて絶頂を迎えたばかりのアロエリの秘部に一気にぶち込まれた。
 容赦を知らない悪魔はその巨根を一気に奥まで突っ込み、初めての女を抱くとは思えぬ乱暴さですさまじいピストン運動を始める。
「んああああああああっ! やめっ、ひゃめへっ! あひああああああっ!」
 アロエリには何が何だかわからなかった。痛いのか気持ち良いのかさえわからぬまま、イったばかりのヴァギナをかき回される強烈な刺激に踊らされる。思わず腰元に手を送って拒絶しようとするが、アロエリの方から悪魔には触れないのだ。錯乱して暴れ、しかし逃げ道はどこにもなく、確かにある凶悪な責めに苦しめられる。
「いひあああああああっ! んひいいいいいいっ! あはあああああああっ!」
 戦士としてのアロエリの姿はそこにはなかった。そこにあったのは、強引に操を奪われながら、初めての性行為に意味もわからず悶えまくる、まるで家畜のような姿。
 その硬い仮面を剥いだセルファンの戦士は、今や一匹の雌としか呼べない有様だった。
「あ、っひあああああああっ! も、もうっ、らめ、らめへっ……!」
 アロエリの体が性感帯に忠実に上り詰める。近づく2度目の異様に早い絶頂――魂を直接焦がされる所業がなせる技なのか、ともかくアロエリは失神寸前だった。
「い……っ、いひ……あ……っ、っはっ!? ひひゃああああああああっ!?」
 そして、迎えた。大量の潮を吹くと同時に、びくびくと痙攣を起こすアロエリの体。
 のけぞる肢体の曲線美は美しく、処女を失ったばかりの生娘の肌が眩しい光に輝いた。
 すべてを吐き出し終えた後も、アロエリの体はびくびくと波打っていた。少し遅れて、その股間から溢れる黄色い水。緩んだ下半身の筋肉が、アロエリの中に残っていた尊厳を捨ててゆく。
(あ……兄、者……私、は……)
 あおむけで首ことのけ反っていても今の状態がどうなっているかはわかっていた。
 悪魔たちに犯され、2度もイかされ、さらには失禁まで……兄から受け継いだ、御使いとしての誇りがあるとは到底言い難い自分の姿。真っ白なサプレスの世界の深くで、アロエリは失意と絶望のどん底を彷徨っていた。
 だが、悪魔たちの宴は終わったわけではない。強引にアロエリをうつ伏せにすると、今度は先ほどの極太を、アロエリの後ろの穴にあてがった。
「!? 待っ……」
 少しだけ声が出た。だが、すでに手遅れ。
 メリ――ッ――
「はが……っ!? あ、っぎあああああっ!?」
 明確な苦痛に吐き気すら催し、肺の底から鈍い悲鳴を上げる。指先までの感覚がすべて奪われ、意志とは関係なく操り人形のように体が揺れる。
「あぐああああああっ!? ひぎいいいいぃいぃぃいいいいっ!?」
 ぐっちゅぐっちゅと腸の中をかき回される苦しみ。指を入れても届かないほどの奥をぐりぐりとこすられ、味わったことのない感覚に腰が砕ける。抵抗したところで所詮されるがまま、裂けかけた尻穴はもはや限界寸前だった。
「おごあああああああっ!? あぐ、はっ!? ひっ、ぐあああああああっ!?」
 腸内で巨根が踊り狂っている。あまりに強烈すぎる押しに、腸壁が押しこまれ、その奥の子宮にまで衝撃が届いているような錯覚に駆られる。
「あがっ、ひああああああんっ!? ああああああああんっ!?」
 うつぶせに股を開き、尻穴に巨大なペニスを打ち込まれ、あるのかないのかも定かでない悦楽に身を任せてよがる。もはや正常な感覚を失ったアロエリの肉体は、受ける体内への刺激に下半身をびくつかせるだけの、哀れな肉便器そのもの。
 どくっ
「!? んひっ!? いっ、ひああああああああっ!?」
 びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ。後ろの穴の奥深くに放出される熱い何かに思わずアロエリも驚愕の悲鳴をあげる。生殖活動の必要のない悪魔が戯れで作り上げた、疑似スペルマのようなものだ。
「んはぁっ!? あふあっ!? あひぃっ!?」
 加減を知らない悪魔の射精はとにかく長かった。何せ本物の精子じゃないんだから、出そうと思えば魂が尽きない限りいくらでも出し続けられる。それこそ1時間でも。
 が、幸いにも途中で飽きたか、悪魔の射精が止まる。それでも量としては破壊的で、一回の射精でアロエリのお腹がぐるぐる音を立てるほど、腸の中は白濁のどろどろで満たされていた。
「あ……は……っ、ふあ……」
 ペニスを引き抜かれたアロエリのアナルからあふれ出るザーメンは、うつぶせのアロエリのヴァギナをそのまま濡らした。焼けるような熱い刺激をクリトリスに受け、また一度アロエリの下半身が跳ね上がる。
 そんなアロエリを引き起こし、悪魔の巨根が再びアロエリの前の穴にあてがわれる。
「あっ……あく、あああああっ……!」
 悲鳴はもはやかき消えそうなほどだった。むしろ、与えられる快楽を受け入れる準備をしていたかのように、挿入に合わせてゆっくりと――
「あっ、ああっ……あんっ……! いはっ……あ、ああっ……!」
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。甘い声でよがるアロエリの目に、もはや尊厳は宿っていなかった。それは肉体だけでなく魂が悪魔たちに屈服した何よりの証拠。堕ちたセルファンの戦士の魂は、悪魔の凌辱を受けるたび甘美な声をあげるのだった。
「あふああっ……! あひ……ああん……っ! い、ひあああっ……!」
 前を犯されながら、後ろの穴に同時にもペニスがあてがわれる。力を抜き、受け入れる体。アロエリ本人は、もはや意図せずそうなっていることに気付かず、ただ鳴くだけ。
「あっ……!? あ、あ、あ……」
 入ったことを確認し、うつろなの表情でぐったりと天を仰ぐ。やがてそれが動き出せばその強烈な快感に、尻穴が裂けかけていることも忘れてひたすら喘ぐのだ。
「あ、あへあああっ!? あっ、あがっ……あ、へあああああっ……!?」
 あれほど意固地に守り抜こうとしたプライド――支配欲の強い3人の悪魔たちによる凌辱にそれはいとも簡単に呑みこまれ、意地も誇りも無くはしたない声をあげる。
 堕ちた魂は舞い上がることはなく、この悦楽の底でのたうつことしか出来なかった。
 理性は際限なく失われるその肉体、その二つの穴を責め立てる二人の悪魔が、前後からアロエリの健康的な肢体を前後から抱きしめる。悪魔たちは計6本の手で、アロエリの胸を、乳房を、首を、耳元を、うなじを這いずり回る。下半身にしか感覚の残っていなかったアロエリの神経は全身同時に刺激され、いよいよ体の全てを悪魔たちに奪われた感覚に陥る。
「んひああぁぁああぁっ! はひぃ……っ!? んっ、んあああああああっ!?」
 自分を中心に凌辱の海が広がり、その中で漂うような感覚。動いても手足は空を切り、生まれたままの姿で全身を刺激され、絶え間なく続く下半身への猛撃。戦うために鍛え上げたその体もそれに対しては何の力も示せない。逞しい女戦士の美しい肉体が、サプレスの悪魔たちに食われ、蝕まれ、一人の単なる女の体に変わっていく。
「いひ……っ! あふぁああぁぁあああっ! ああんっ、あんっ……!」
 抵抗する力を失ったアロエリの体は正直だった。ただ悪魔に身を任せるだけでいい。
 それだけでアロエリの体と心は、悦楽の底に沈んで行った。
 腸壁と膣壁が同時にこすられる凶悪な刺激に、アロエリの頭の血管が何本も切れる。
 お腹の中をかき回され、ドロドロのスペルマに満たされた後ろの奥を擦り回され、悪魔に調教された人格が脳髄を支配する。
「いひああああああっ! あひいいいいっ! ら、っ……も、もうっ……ら……っ……」
 前の巨根が子宮まで、後ろの巨根が最奥まで、一気に打ち込まれた。
 びゅくっ
「あっ!? あひあっ、あっ、あああっ……!?」
 同時に前後の穴の奥に爆ぜる、沸騰しそうなほど熱いザーメン。射精の勢いで押された壁がひくつくほどの勢いで発射されるそれは、子宮を満たし、腸を溺れさせるまで吐き出され続けた。子宮に収まりきらない精子がペニスの脇から洩れ始めて、やっと射精を止める悪魔。
 その男根を抜いた瞬間、
「っ…………!」
 そのはずみでアロエリの全身が震え、最後にもう一度絶頂を迎える。一気に噴き出る愛液の脇から、胎内に満たされたおびただしい量の精液があふれた。尻穴からも同時に同量の精液が流れ、あおむけのアロエリの尻が精液の池に沈む形に落ち着く。
「あ、はぁ……ひ……は、ぁ……っ……」
 天を仰いでそう呟く。褐色の美しい肌は、霊界の空の下で真っ白に輝き、その堕ちた翼を見て、3匹の悪魔が祝福するように笑った。

 魂にその快楽を刻みつけられたアロエリ。しかし実界――魂ではなく肉体が存在の主となるリィンバウムに戻った頃には、魂に刻まれた記憶は薄れ、心の奥にしまわれる。
 何も知らず、武訓廊で負けた悔しさだけを心に刻みつけたアロエリは、きっとここに再びやって来る。その時また悪魔たちに屈すれば、嗜虐的な悪魔たちはアロエリをまたこの魂だけの空間に連れてくることだろう。
 魂を剥き出しにされたその瞬間、アロエリの魂に刻まれた傷が記憶として蘇り、その耐えがたい屈辱の記憶に顔を歪ませた時、再び今日のような宴が開かれる。
 楽しみの増えた悪魔たちは上機嫌で、失神したアロエリをリィンバウムへ送り返した。

おわり

目次

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル