学生時代の苦い思い出



 帝国の軍学校──その資料室にアズリアは居た。
 がらんとして、彼女以外に人の姿は見つけられない。普段使われることの少ない部屋だが、アズリアはここに用があった。
 明日に控えている筆記試験のために、もう一度大まかなところを復習しようと思ったのだ。
 しかし、彼女の他にも同じことを考えた者がいたらしい。
 望む文献のうちのいくつかが、既に誰かによって借りられた後だった。これでは満足のいく勉強などできない。
「仕方ないな……」
 今あるものだけで我慢するしかない。そう思って引き返そうとしたところで、突然後ろから抱きすくめられた。
「──っ!?」
 瞬時に声を上げようとするも、その直前に唇を塞がれた。目の前に真紅の髪が揺れる。
 じたばたともがき離れようとしても、強い力で押さえつけられて抵抗できない。
 不意に唇が離され、目の前には彼女の良く知る人物の顔があった。
「落ち着いて。俺だよ、俺」
「レックスっ! 一体なんのつもりだ!?」
 それは彼女の同期生である、レックスだった。いつも自分の一歩先を歩く、越えるべき壁。
 ふと、今の体勢に思いを馳せ、アズリアは動悸が速くなるのを自覚した。
 落ち着け、と言ったのかこいつは。
 こんな人気のないところで二人きり。あまつさえ抱きつかれ、キスまでされた。
 それでも落ち着けというのか、こいつは!
「何のつもりかって……わかってるだろ?」
 とぼけたふうな口調で逆に聞き返され、アズリアは言葉に詰まる。
 当然、アズリアにはレックスがなにをしようとしているのかわかっている。
 以前にも何度か同じような目に遭っているからだ。その度にアズリアは翻弄され、屈辱的な姿をレックスに晒してしまっている。
「な、なんだというのだ。私にはとんと見当がつかないな」
 反射的にアズリアはとぼけ返すことしかできなかった。
 少なからず想いを寄せている男に抱かれるというのは決して不快ではないが、この男は自分の都合などお構い無しに襲ってくる。
 今だって、勉強のためにここにやって来たというのに……。
「なら教えてやらなくちゃな。学年トップとして」
「なッ! お前、なにを偉そうなことを……ひゃん!」
 いけしゃあしゃあと自慢するレックスにプライドを刺激され、反論しようとして、アズリアはつい隙を見せてしまった。
 すかさずレックスはアズリアの服の中に手を差し入れ、その柔らかな胸を揉みしだく。
「相変わらず、敏感なんだな」
「やめろ……ぉ……んん、ふっ……! こんな、誰が来るかもわからんところで……あぅ」
 いつの間にかレックスの両手が入り込み、胸を弄り回される。
 首筋に息を吹きかけられ、アズリアは悶えた。
 骨ばった大きな指で、信じられないくらい器用に、優しく先端を転がされ、全身に痺れるような熱さが広がっていく。
 くすぐるように微かに、絞るように強く摘まれて、アズリアは切なく喘ぐ。
「あ、んぁ……はぁ……っ」
 体の内側からとろとろに溶かされていくような感覚。力が抜けて、思考がおぼつかなくなる。
 再度、唇を塞がれる。口内を蹂躙するような激しいキス。頭の中に薄いもやがかかったようになってしまう。
 離されると同時に、アズリアの口から吐息が漏れた。
「可愛いよ、アズリア」
 耳元で囁かれる甘い声に、抗うことができなくなる。
「あッ……やぁ」
 薄っすらと湿り気を帯びはじめた秘部に顔を寄せられ、たまらず声が出る。
 唇でついばむように触れられる度に、背筋が仰け反るほどの強い刺激が体中を走ってゆく。
 秘部を優しく指で押し広げられ、外の淵の部分をなぞるように、ひたすら丁寧に舐められる。
 あえて敏感なところを避けているようなその動きに、アズリアは頭がおかしくなりそうだった。
「レックス……もっと、奥……」
 ふと鎌をもたげた羞恥心も、快楽の奔流とその期待に容易く押し流されてしまう。
 さらに強い刺激を求めて哀願することしか、今のアズリアの思考には存在しなかった。
 だがそれでも、レックスの舌はその動きを変えてはくれなかった。奥の方までは進まず、敏感なところには決して触れない。
 その周囲ばかりを丹念に、執拗に責め続けている。
 焦らされているとわかっていても、アズリアに選択肢はない。
「レックス……お願い、だから……ひぁッ!」
 その瞬間、アズリアは突然強い刺激を受けて、頭の中が真っ白に弾けた。
 クリトリスを口に含まれ、舌先で転がされているのだ。今までとは打って変わった激しい快楽の波がアズリアを打ち付ける。
 声も満足に出せず、限界まで昂ぶっていたアズリアはそのまま絶頂を迎えてしまう。
「〜〜〜っ! ふぁ、っあぁ……!」
 びくりと全身を震わせ、力が抜けたアズリアを見て、レックスも察したようだった。口元に愉悦の色が見える。
 あくまでも優しいレックスの笑顔が、アズリアには恨めしく、そしてたまらなく蟲惑的に思えた。
 痛みなのか快楽なのかわからない、ただ体の奥に熱い炎が宿ったような感覚。
 レックスのモノを受け入れ、浅いところ、深いところ、隅々までかき回される。
 今の自分がどんな姿なのかもよくわからぬまま、この恍惚を手放さないように、アズリアは目の前の体にしがみつく。
「大きな声は出すなよ? ちゃんと我慢するんだ。いいね」
「あ……ッ、はあぁッ、ン……んぅ……ッ」
 だらしない表情を隠すことさえ思い浮かばない。意識を丸ごと蹂躙されるような大きな波に酔う。
 全身に、焼け付くような痺れと甘い衝撃が同時に波紋を広げる。体の隅々まで、指先の節々まで侵略される。
 アズリアは、それに身を委ねることしかできなかった。
「あ……私、わた、し……ッ」
 絶頂の予感を感じ、悲鳴に近い声を上げる。もはや自分で動く気力もない。涙を零しながら喘ぐ以外の術をアズリアは持っていない。
 一際激しく打ち付けられ、アズリアの体は悦びに震えた。熱病に浮かされたような心持ちで、迫り来る波をただ待つ。
「レッ、クス……ぅあぁッ、あ、はぁあッ……!!」
 力ない声は掠れて、荒い吐息に阻まれる。それでも、アズリアは既に達していた。
 ぐったりと脱力した体から、レックスは自分のモノを引き抜く。その刺激だけで、アズリアは痙攣した。
 視線も定まらず陶然としている美しい顔に、白濁した液体がかけられる。
「ん……ふぅ」
 無意識のうちに、アズリアはそれを舐め取っていた。
「なんだ、これは」
 約一週間ほど後の軍学校、広場。
 掲示板に張り出された試験結果にアズリアは眩暈を覚えた。
 また勝てなかった。トップの座には、レックスの名前がしっかりと刻まれている。
 果たしてどうだろう。いつもであればそのすぐ下にあるはずのアズリアの名前がない。
 恐る恐る、ゆっくりと視線を下に落としていくと、10番台のところに「アズリア」とある。
 あいつのせいだ。
 あいつが私の勉強の邪魔をしたからだ。
「やあ、また勝たせてもらっちゃったな」
 突然背後から声を掛けられて、アズリアは殺気混じりにその相手を睨みつけた。
「キ・サ・マ……これが狙いだったのか」
 常人が見れば腹の底を捻り千切られるような恐怖を覚えるそのドス黒い視線を、レックスは鼻で笑い飛ばす。
「いーや、そんなつもりはなかったよ。まあこっちはおかげで頭スッキリ、勉強にも精が出たけどね」
 アズリアは逆だった。自室に戻っても頭が不透明なままで、結局朝までノートを開くことすらしなかった。
 奥歯を噛み砕く勢いでぎりぎりと歯を食いしばり、怨嗟の声をぶつける。
「もう、その手には乗らんからな……!」
 思い切り体を捻り、平手を繰り出す。しかしそれは一冊の本に阻まれた。
「おっと」
「! それは……」
 レックスがガードに使ったその本は、あの日アズリアが求めていた文献だった。
 アズリアよりも先に、レックスがそれを借りていたのだ。
「わかったかい? 俺があの日なにもしなくたって、多分勝ったのは俺だぜ」
 ぶるぶると体が震える。心の底から、アズリアは叫んだ。

「納得いかん!」


おわり

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