ヤッファ×アティ



「ヤッファさんこんにちは、今いいですか?」

 ある日の昼下がり。散歩がてらユクレス村を訪れたアティは、いつものように「なまけものの庵」と呼ばれるヤッファの家を訪れていた。
「…ああ、アティか…勝手に入んな」
 入り口から顔を覗かせたアティを見て、気だるげに家主が軽く手を振る。
 お邪魔します、と独特の造りをした玄関をくぐりヤッファの側へ腰を降ろすと、アティはふと異変に気付き小首を傾げた。

「…ヤッファさん。なんか顔色悪く―――というかむしろ、妙に良くないですか?」

 光源は窓から射す太陽の光のみの薄暗い庵ゆえに先ほどは気付かなかったが、心なしかいつもより頬が上気し、蒼い目も潤んでいるように見える。
 このユクレスの護人が気だるげなのはいつものことだが、そう気付いてみるといつもよりもさらにだるそうに見える…ような気がするのは気のせいかもしれないが、とにかくヤッファの体に変調が起こっているのは間違いなさそうだ。
「風邪でもひいたんじゃないですか?なんだか目もうるうるしてますし」
「ん?あぁ…そういうわけじゃねぇんだが、ちょっとな…」
 返事をするのも億劫そうに視線を逸らす様子に、ますますアティの心配が募る。
 そういえば最近ずっと戦いっぱなしでろくに休む暇もなかったし、風邪のひとつやふたつひいてもおかしくないかもしれない。
 …そもそもメイトルパの獣人であり不老不死の護人であるヤッファが風邪をひくかどうかも定かではないのだが、そう考えた途端アティの心は一気に心配で埋め尽くされてしまった。
「でも、なんか様子が変ですよ…ちょっと診せて下さい」
「あぁ?…お、おい。ちょっと待てアティ!」
 ずいっと身を乗り出し頬に触れようとするアティを見て、なぜかヤッファが酷く動揺して体を後ろに逸らしその手から逃れようとする。
 その様子にアティは一瞬不思議そうにきょとんと瞬きしたが、すぐににっこり笑ってさらに身を乗り出した。
「心配しなくても大丈夫ですよ、クノンには敵いませんけどこれでも軍学校では医学を勉強してたんですから」
「いや、違うそういうことじゃなくてだな!今はっ…ああもう、俺に触るんじゃねぇ!」
「きゃっ!?」
 強い拒否の言葉と共にどんっと突き放され、アティはその場に尻餅をついてしまう。
「―――あ。悪い、大丈夫か」
 その悲鳴にはっと我に返ったヤッファがアティを引っ張り起こそうと手を伸ばしかけるが、その手は途中で躊躇うように止まり結局そのまま降ろされてしまう。
 当のアティ本人はそれに気付かずに目尻に涙を滲ませながら僅かに痛む尻を擦り姿勢を戻すと、情けなさそうにへらりとヤッファに笑いかけた。
「ち、ちょっと痛かったですけど平気です…それよりごめんなさい、私何か気に触ることしちゃいました?」
「そういうことじゃねぇよ…ただ俺は風邪なんざひいてねぇし、何より今はだな―――」
「…今は?」
 彼にしては珍しく何やらごにょごにょと言いよどむヤッファを小首を傾げて見つめ、アティがその続きを促す。
 風邪でないならば、そのおかしな様子の原因はなんなのだろうか。アティの知らないメイトルパ独特の病?それとも…?
 ヤッファはしばらく言いにくそうに口を閉ざしていたが、やがてアティの疑問の眼差しに負けてかしかしと首の後ろをかきながら重い口を開いた。

「…発情期、なんだよ…」
「………は?」


つづく

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