レックス×ヘイゼル



「それとも私が欲しいの?いいのよ、失うものなんてないもないし」
「・・・・・・っ!!」
「何?女がこう言ってるのに何もできないほど臆病な男なわけ?」
「・・・・・・・・・わかった」
レックスがゆっくり近づいてくる。
ヘイゼルは覚悟していた。
自分は捕虜だ。どういう扱いを受けるかも覚悟している。それに耐える自信もある。
しかし、こいつは組織での自分の居場所を奪った奴だ。一矢報いてやらないときがすまない。
この男は当然自分の体を貪るだろうと思っていた。
幸い体のいたるところに仕込んだ暗具はいくつか残っている。
自分を貪ってる間にノドでも掻っ切ってやる!
そう思い、手に小型ナイフを隠しもった。
レックスの体がヘイゼルに触れる。身構えるヘイゼル。
しかし、やってきたのはやさしい抱擁だった・・・
「・・・・・・なっ?!」
自分の考えが見透かされたと思い硬直するヘイゼル。自分の動きを制するものだと思ったそれは純粋なそれだけの抱擁だった。
「・・・・・・あ、・・・・・・」
(あたたかい・・・)
不覚にも体の力が抜けナイフを落としてしまった。静かな部屋に響くガチャリというナイフの音。
しかしレックスは動揺するそぶりも見せなかった。
それから何分が過ぎたのだろうか、ヘイゼルは心が安らかになっていくのに驚いた。
(なんなんだ、こいつは?)
犯されるだろう(そうすれば殺すつもりだったのだが)そう思っていたヘイゼルは混乱していた。
レックスの考えを測りかねてあれこれ考えている内にレックスがキスをしてきた。
初めてのキスだった。
「!!」
はじめは触れるだけのキス。次は少し長めのキス。そして、俗に言うディープキスだった。
男のイチモツは何度も加えたことのあったヘイゼルだったがキスは初めてだった。
それを知ってか知らずかレックスは舌をねじ込んでくる。
(なっ!なっ!なっ!)
気が動転して舌を噛み切るという思考は出てこなかった。
「ん、あむ、んんっ・・・・・・」
初めての感覚に呆然としてなすがままになっているヘイゼル。
次第におずおずと自分から舌を絡ませてみた。
舌と舌とが生き物のように絡み合う。レックスの唾液が流れ込んできたがなぜか気にはならなかった。むしろ
(・・・・・・悪くない。)
そう思った。貪るようにキスを続ける2人。
「んぁ・・・ぷはぁ・・・」
唇と唇の間につうっと透明な糸が張る。それをみながらヘイゼルはぼうっと余韻を感じていた。
ふと、ヘイゼルはキスの間中もずっとレックスに抱きしめられていることに気づいた。
「・・・・・・あ」
それに気づいたとたん、なぜか急に心臓の鼓動が高まったのを感じた。
離れようともしたが力が入らず密着した状態のままだ。
その間も心臓の鼓動は高鳴りっぱなしで、こいつに伝わっているのではないかと思ったが、案の定━━━
「ドキドキしてるね、本当に初めて?」
なぜかとてつもなく恥ずかしくなり、何か皮肉のひとつでも言ってやろうと思ったが言葉が出ず
「・・・・・・ある」
というのが精一杯だった。
「・・・・・・そうか」
少しその言葉には憐憫の情が含まれている気がした。
「それじゃあ、脱がすけどいいかな?」
何をいまさらと思ったが
「変わっているな、お前は・・・」
ふと自然に口づさんだ。
「そうかなぁ、普通だと思うんだけど?」
「そういうんなら、そうかもね」
ふっと笑みがこぼれた。
「・・・・・え?」
ごく自然にだ、自分でも予想していなかった。むしろ自分にこんな表情ができるということに驚いた。
「あっ、やっぱり笑うとかわいいね」
「・・・・・・なっ」
「かわいいよ?」
「・・・・・そんなものかしら・・・」
少しの沈黙。
「あなた名前は?」
「あれ、知らなかったけ?レックスって言うんだけど」
「・・・レックスね・・・」
「だけどやっとしゃべってくれたね。このまま最後までいっちゃったらどうしようかと。ハハッ、じゃぁ今日はこの辺で・・・。お大事に、ヘイゼル」
体を離し部屋を出て行こうとするレックス。
「・・・・・・まって」
「何?」
「その、助けてくれてありがとう・・・」
レックスはぱっと笑って
「俺がしたかっただけなんだから気にしなくていいよ。それよりクノンにお礼を言ってあげてよ」
「・・・ん、そうね」
「それじゃ、ヘイゼル━━━」
「それもやめてくれないかしら、それは組織がつけた名前だから好きじゃない・・・」
「じゃ、なんて呼ぶ?」
「・・・パッフェル。あなたには「そうよんでもらいたい・・・」
「・・・パッフェル?うん、わかった。それじゃパッフェルお大事に・・・」
「・・・そのまた来てくれる?」
「パッフェルがよければいつでも」
すこしうれしそうな声。
「それじゃ」
「ええ・・・」
ドアが閉まり足音がとうざかって行く。
少し名残惜しかったが、ほのかな温かみをヘイゼルは感じていた。雨に濡れた子犬が始めての飼い主に受け入れられたような、もしくは別の━━━
(あの人となたきっと・・・・・・)

後日、ヘイゼルはレックスのとりなしもあり無事島の住人に受け入れられることとなった。
組織しか知らないヘイゼルにとってこれからの生活は大変なものになるだろうが悲観も後悔もする暇さえなく忙しくなるだろう。

夜、砂浜でヘイゼルは折れた足のリハビリのためレックスに付き添ってもらっていた。一段落つき2人は並んで座った。寄せては返す波の音だけが響く。
(私の新しい居場所・・・)
「あなたにあえて本当によかった、レックス」
「え?」
「なんでもない・・・」
そういってヘイゼルはレックスに寄り添いそっと目をつぶった。
少しあわてたレックスだったが、ヘイゼルの方に腕を回しゆっくりと━━━


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