初任務



「なんで、こんな事になったんだろうな」
俺はそう相手に気が付かれない様に一人呟く
背中には、堅い鉄の筒…どう考えても銃が突きつけられている
一般市民には馴染みのない、特に帝国では持つ事が許されないであろう
結果的には辺りをつけて尾行した人間は大当たりだったなどと洒落で片づけるにはあまりにも笑えない。内心苦笑していると二人ほど冷たい目をした男が近づいてきた……

「尾行……ですか?」
二日前の午前、士官学校の学長に呼ばれた俺とアズリアは怪訝そうに学長を見る
「そうだ、最近帝国内で麻薬の密輸が横行している、知っているだろう?」
「えぇ…新聞とかの見出しに最近よく見かけますね」
学長室独特のピンとした空気は好きになれない、隣のアズリアは緊張のためか言葉が出ないでいた様なので俺が変わりに答える
「そうだ、この帝国内にそんな事を許してはならない。そこで今度、軍で近いうちに壊滅作戦を行う事に決まった」
ダン!と学長は机を叩き一気にまくし立てる
「はぁ………先生達の噂には聞いてましたけれど、けれど何故軍が学生である俺達にそんな命令を?」
「レックス、解らないのか?麻薬組織の場所を正確に掴むために軍が動いているが、実際…人手が足りない、そんなところでしょう?」
ようやく緊張の糸がほぐれたアズリアが答える
「その通りだ、水面下では小さな組織は潰してはいるのだが大元である組織の場所を掴み倦ねている」
「解りました、それで…具体的にはどんな事をやればいいのでしょうか?」
俺達が使われる理由はなんとなく解ってきた、軍が人手が足りないから士官学校で使える奴を駒として貸せ
そんな物だろう、考えるだけで胸がムカムカしてくるのだ実際に言葉にされたら不愉快になるの火を見るより明らかだ
「理解が早くて結構、作戦内容だが簡単な物だ。歓楽街に潜伏しこれだとバイヤーの尾行をするという物だ」
「なっ!」
歓楽街という単語にアズリアは反応する、彼女の顔が赤くなっているのは俺の気のせいではないだろう
「か、かかかか歓楽街ですか……しかし、私は女です!一人で行動するには不自然な様な」
「目は二つより四つの方が目標を見つけやすい、それに単独行動ではないぞ」
「えぇ!」
俺とアズリアの驚愕が狭い学園室内に響いた
「この作戦は高度の観察眼が必要とされる、単独ではどうしても死角と限界がある だが3人、4人と一緒に行動していては不自然になる。だが男女二人での行動はあの場所でも不自然ではない、幸いにして主席と次席が男女だからな」
「…つ、つまり、私はこい…レックスと恋人をやれと」
見ているのも気の毒なくらいにアズリアは真っ赤になっている
「平たく言うとそういう事になるな」
「……拒否権は無いんですね」
俺は一応聞いてみる
「いや、拒否権はある。この命令は尾行もあるが囮の意味もある、字数は同じだが意味は全然違う、正直言って学生がやる仕事ではない」
「……もう一度聞きますが、単独行動はないんですね。絶対に…」
「そうだ、必ず二人一組だ」
「解りました。今すぐには答えは出せませんが……」
横目でアズリアを見る。すっかり狼狽している
「なるほど、解った。こちらでも人は探してみるが…良い返事を期待しているよ」

「落ち着いたかい?」
「……すまない」
学園内にあるカフェテリアでアイスコーヒーを飲み、なんとかアズリアは立ち直った様だ
「さて、どうしようか……拒否権はあるらしいけど?」
「お前の方はどうなんだ?
もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
珍しくアズリアが弱気だ
「そうだね」
「そうだねって…死ぬのが怖くないのか?」
「う〜ん、怖いかもしれない。けど、俺が死んでも失うものは無いからさ」


つづく

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