風邪引きさんと彼女の午後



「うん、こんな感じでいいかな?」
アティはおかゆの味見をすると、火を止めた。
そして、なべに入ったおかゆを少しずつ器へと移しかえる。
ところで、アティがなぜこんなことをしているのかというと―――

―――発端は今朝のことだった。
時間には決してルーズではないヤードが朝食にこないということで、心配になったいつもの面々がそろそろ様子を見に行こうか・・・と話をしているときに彼は現れた。
・・・顔を真っ赤にし、ふらふらとした足取りをしながら。
誰が見ても明らかに様子がおかしい・・・ということですぐさまヤードを部屋へと戻し、

クノンはヤードの症状を見て風邪だ、と診断した。
そのあとクノンは的確な処置を施し、いくつかアドバイスをして帰っていった。
しばらくして、皆が落ち着いたあとに一応何かあったときのために誰かがついていたほうがいい、という話になった。
そこで、医学については多少勉強しているし、いつも剣のことでお世話になっているから・・・ということでアティがヤードの看病をすることにしたのである。
・・・しかし、それらは口実。
実は、アティはヤードに対して密かに好意を抱いていた。
好きな人のために何かをしてあげたい。
口実にした剣や医学うんぬんのことも嘘ではなかったが、一番の理由はそれだった。
―――そんなわけで今日は特別にお休みをもらい、ヤードの看病にいそしんでいるというわけである。

・・・今日は、好きな人のために役に立てる。
何度もそのことを実感するたび、うれしさがこみ上げてきて胸がいっぱいになる。
「これでよし、と。・・・あ、あとナウパの実もいっしょに持っていきましょう」
不謹慎だな・・・と思いつつも、アティはウキウキとした気分でおかゆとナウパの実を乗せたトレイを手にヤードの部屋へと向かった。

―――コンコン。
「はい・・・どなたですか?」
ドアの向こう側からヤードの声が聞こえてくる。
「えっと、アティです。・・・入ってもいいですか?」
「ええ・・・どうぞ」
部屋に入ると、ベッドの上でヤードが本を持ったままこちらを見ていた。
きっとすることがなくてに読んでいたのだろうなと思いながら彼の顔色を見る。
見る限り、顔の赤みもだいぶ落ち着いてきていて、回復は順調という感じだった。
「・・・気分のほうはどうですか?」
「はい、おかげさまで・・・だいぶ楽になりました。」
その返事にアティはひとまずほっとした。
近くにおかゆをおき、ヤードへと近づいていく。
「苦しいところとか痛いところはないですか?」
そう言ったあとちょっと失礼します、と声をかけヤードの額にそっと手を当てた。
まだ、少し熱い。
「・・・・ええ、それも今のところは大丈夫みたいです。あの、今日は私のためにわざわざお休みまでしていただいて・・・その、申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに謝るヤードに、アティはにっこりと答えた。
「いいえ・・・気にしないでください、私が好きでしていることですから。それより、おかゆ作ってきたんですけど・・・食べられそうですか?」
「すみません・・・お言葉に甘えて、いただくことにします」
「よかった。・・・じゃあ、ちょっと待っててくださいね?」
アティは近くにおいてあったおかゆをひざの上にのせ、器から一口分おかゆをすくい、ふぅふぅ、と息を吹きかけ少し熱をさました。
そして、それをヤードの口元へと差し出す。
「はい、あーんしてください♪」

「・・・・え?」
ヤードは言葉を返したきり動かない。
アティはどうしたのだろうと思いつつもそのまま待っていた。
奇妙な状態のまま二人の時間が止まる。
「・・・あ、あの、自分で食べられますから大丈夫ですよ・・・?」
しばらくした後、ヤードの遠慮がちなその一言で、アティはようやく自分のしている行動がどのようなものか気がついた。ほほが一気に熱くなる。
「・・・あ、そ、そうですよねっ。やだ、ごめんなさい!つい・・・っ」
浮かれすぎてる。恥ずかしい。自分はなんて大胆なことを。早くおかゆを渡さなきゃ。
さまざまな思いが一瞬にして駆け巡りアティは立ち上がった。・・・ひざにおかゆを乗せたまま。
「あ・・・・っ?!」
気が付いたときにはもう遅かった。
立ち上がった衝撃で器が傾き、ヤードの布団はあっという間におかゆまみれになった。
「きゃあっ!ご、ごめんなさいっ!すぐにふきますから・・・っ」
近くにあったふきんでおかゆを取る。
・・・が、すぐに水まみれになり使い物にならなくなった。
むしろ、取った分のおかゆの水気が布団にこぼれていて2次災害になっている。
「ふきんっ!ふきんをっ、とってきますから待っててくださいねっ?」
「あの・・・私も手伝います」
「だ、大丈夫ですからっ!寝ててっ!ここにいてください!」
そう言って、アティはふきんを取りに慌てて部屋の外へと出て行った・・・。

「ご、ごめんなさい・・・」
あのあと、布団を片付けようと動かした際にシーツや床にまでおかゆが広がってしまい、
一気にベッド付近までおかゆまみれになった。
そして、急いでおかゆを掃除し、布団を取り替え、シーツを取り替え、床をふき、ようやく落ち着いたのだが。
結果として病人であるヤードまで動いてもらうことになってしまったのだった。
しゅんとなりながら、アティはうつむく。
(うう、ダメダメです・・・)
「気にしないでください・・・失敗は誰にでもあるものですよ」
ヤードがフォローを入れてくれる。が、余計に情けなくなった。
せめて次は失敗しないように、と決めアティはもう一度おかゆを持ってくることにした。
「・・・と、とりあえず、もう一度おかゆを持ってきますか・・・ら?」
そこで、アティは器がないことに気が付き、足元やあたりを見回す。・・・が、見当たらない。
どうやらさっきのどたばた騒ぎでどこかに隠れてしまったようだ。
もうしばらくあたりを―――今度はさきほどより広い範囲をよく見回してみると。
ふと、ヤードの布団の中で少し前まではなかったはずの、不自然に盛り上がっている部分がアティの目にとまった。
「あ、よかった。器・・・そこにあるみたいですね?」
アティはほっとしながらヤードの布団に近づいた。
ヤードもアティの手のあたりに視線を向け、そのまま追いかける。
・・・が、ある一点を見たとたん、彼は慌てた様子で止めに入ってきた。
「いや、あの、それは違・・・・」
「寒いかもしれませんけど、ちょっとの辛抱ですから。・・・ごめんなさい、失礼しますね?」
「やめっ・・・・!」
ヤードの制止も一瞬遅く。
がばっ、とアティは勢いよく布団をめくり上げる。
「・・・・・・ぁ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
そして。
アティは布団をめくり上げた体制のまま固まった。
ヤードはうつむいて、真っ赤になった顔を片手で抑えている。
不自然な盛り上がりの正体。
それは器ではなく・・・ズボンの下から激しく自己主張をするヤードのモノ、だった。


つづく

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