軍医さんの休日



※この話は以下の脳内設定を使っています。
 1,アティが帝国軍に所属している
 2,アティとレックスは双子。レックスの方はおおむね本編通り(でも出番なし)



「お休み、ですか?」
おうむ返しに呟くアティに、アズリアは頷く。
「そうだ。アティはこの隊でたった一人の軍医だから、ずっと働きづめだったろう? だからせめて明日くらいはゆっくり休んではどうだ」
「けど、皆さんが働いてるのに……」
「いいから休め。これは隊長命令だぞ?」
内容の割に優しい顔を向けられては逆らえない。
しかし、
「どうやって過ごしましょう……」
「お前の好きなように過ごせばいいさ……ってどうしたんだ?」
難しい顔して考え込んでたアティがおもむろにアズリアを見つめ、
「困りました」
「なにが」
「……何したらいいか思いつかないんです」
「……は?」
ぽかんとするアズリア。
「だってお休み貰うのなんて久しぶりですし」
「悪かったな……。って本当になにもしたいことがないのか?」
したいこと、と呟いて再び考え込む。
「……学生の頃は、お前は日曜は勉強してるか昼寝してるかだったな……。そうだ、長期休暇の時はどうしていたんだ」
「ええと、図書館で涼みつつ勉強してるか、学費稼ぎにアルバイトを……」
「……」
「……」
「……」
「……どうしましょう」
「そのくらい自分で考えろ」

で、一晩考えてはみたものの。
(結局思いつかなかったなあ……どうしよ)
「まあ、なーんにもしない一日っていうのも悪くないですよね、多分」
言い訳のように呟いて、アティはさしあたって駐屯地を散歩することにした。
気温は少し肌寒いくらいだが、日差しが暖かいのでかえって丁度いい。絶好の散歩日和といえよう。
で、ハミングなんぞしながらアティの向かった先は。
医療テント。
つまりアティの職場。
「……休めてないです、私」
無意識のうちに出勤コースをたどってしまったらしい。
おやすみ、今日はおやすみと自己暗示かけつつ立ち去ろうとしたその時。
「ぎぃやああああああああああ!!!」
ものすごい悲鳴がテントから聞こえた。
咄嗟にテントにとびこみ、
「負傷者ですか?! ……ってアズリア?」
中には怪我人らしき兵士が数名と、アズリア、ギャレオがいた。
何故だかアズリアの手にはピンセットが握られており、つまんだ脱脂綿を兵士の一人にぐりぐり押しつけている。
兵士Aは涙と洟水と脂汗とでぐしゃぐしゃになった顔を向けて、
「あああアティさん助けてください!!」
「こら彼女は本日休暇だと何度言えばわかるんだ。だからこうして私が軍医代理をしているのだろうが!」
―――なんとなく、こうなった理由は把握できた。
脇に立つギャレオを見ると、悟りきった表情で首を振る。
「大体なんだ薬がしみる程度で悲鳴をあげて、それでも貴様栄えある帝国軍人か?! もっとしっかりしろ!!」
「ひだだだいたいいたいですけがしたときよりいたいですっ!」
「……こういうわけだから、ここは諦めてくれんか」
「……出来る範囲で構いませんから、アズリアのことよろしくお願いします。本当に」
ほとんど白目むいて悶絶しかけている兵士Aと、次はおのれの番だと隅で泣きそうになってる一団に、
心の中で合掌しつつアティはテントを出た。

「―――というわけで、行く所がなくなったんです」
「行動範囲狭いなオイ」
数十分後。アティは炊事場でにんじんの皮むきをしていた。
隣では食事当番のビジュがじゃがいもの芽をくりぬいている。
「はあ、私って昔から暇の潰し方が下手なんですよね。やることがないと却って調子が狂うみたいです」
「で、包丁握って晩飯づくりか……どこが休みなんだ?」
「正直こっちが聞きたいですよ」
ぐち垂れる間も包丁器用に動かして綺麗にむきあげてしまう。終わったのは空鍋へと放り込んで、新しいのを手に取った。
「ところで夕ご飯はなんですか?」
「煮物。……しかしたまには芋以外のものが食いてェなあ」
「同感です。購買のクリームコロッケパンが懐かしいですよ」
「そんなにうまいか、あれ。俺はバターロールのほうが好みだけどな」
「ビジュはシンプル派ですか。私は惣菜パンがお得感があって好きなんですけど……」
「……」
「……」
虚しいな、とビジュが言った。虚しいですね、とアティが返す。
とりあえず一番虚しいのは『食べたいもの』を考えた時、購買か仕事場近くの居酒屋のメニューしか浮かばないさみしい食生活だったりするのだが。
互いに黙ったまま、ひたすら野菜の皮むきを続けた。

医療テントから出て、アティは思い切り背伸びをする。
夕飯後、やはり気になって負傷兵らの様子を見に行ったのだが、命に別状はないので一安心した。
皆一様に蒼白な顔して「隊長……ひどいです」とうわ言を繰り返していたのはさて置いて。

とりあえず、今日はいい日だった―――のだろう、おそらく。
親しい人と剣を交えることもなく、同朋を失うこともない、ひどく穏やかな一日。
明日がどうなるかは分からないが、少なくとも今夜は、
「久しぶりに夢見が良さそうですね」
アティは誰にともなく微笑んで、自分の寝床へと向かった。


おわり

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