毒の名残



『紅き手袋』と名乗る組織に連れてこられ、すでに数年がたとうとしていた。
 あの頃は握る事すら恐ろしかった刃物の感触が、今ではその手に恐ろしく馴染む。
 歯向かう事が、この世界では何よりも無意味な行為だという事を知り、少女はただ命令されるがままに暗殺の為の訓練を受け、死と隣り合わせの日常を送っていた。
 本当は死など恐れてはいない。
 だが、彼女は死の危険をともなう『彼らへの抵抗』ができないでいた。
 他の同年代の仲間は逆らえば即座にその首を掻き切られていた。だが彼らに比べ明らかに優秀な素質を兼ね備えていた少女は、例え逆らおうとも殺される事はなかった。
 将来質のいい手駒となるであろう彼女を殺すのは忍びない、そう考えた組織は、生かさず殺さず、生と死の極限を幾度も味あわせる苦しみを与えた。
 自分達にとって都合のいい、従順な犬となるように。
 彼女が、二度と自分達に逆らう事のないように――。


「お前にもそろそろ仕事を与えてやってもいい頃かもしれんな」
 少女の歳が十代にさしかかり、少しの年月が経った頃、いつも自分を監視していた男がふいにつぶやいた。
 その言葉に、少女が的へ向けてナイフを投げる手を止めた時、男の手が彼女の頬を間髪いれずに引っ叩いた。
「ッ……!」
「誰が手を止めていいと言った」
 頬の痛みに、無意識に目から涙が滲む。
 少女は無言でナイフを握りなおすと、再びそれを的へ突き立てる。
 ……本当はこのナイフでこいつを殺してやりたい。
 だがそれを実行したとしても、次の瞬間自分の身に降りかかるのは死ではない。
 気が狂うほどの苦痛を、それでも自我を失わせない程度に、死なないように加減して繰り返される時が待ち構えているだけなのだ。
 ナイフを握る少女の指には、爪を剥がされた痕が痛々しく残っていた。
「お前はなかなかの逸材だ。お前の腕が今以上に伸びれば、二つ名を与えられる日も夢ではないかもしれん。それに……女という生き物はそれだけでもう一つの武器を持っているようなものだしな」
 そう言った男の目は、少女の体をじっくりと舐めるように見つめる。その目に嫌悪を抱きながらも、少女はそれに気づかないふりをし、ナイフを投げ続けた。

「そうだな……お前が仕事を請け負う前に、習得させねばならん事があったか」
「……何よ」
「お前にまだ教えていなかった事だよ」
 だから何、と少女は言いかけたが、途中でその口を閉ざした。
 どうせまたくどいと言っては殴るのだろう。
 殺人の技術、拷問に薬。あらゆるものは今までに経験し、教え込まれていた。これ以上何を叩き込むつもりなのか。
 少女はすでに何に関しても無関心でいた。
 教えるつもりなら教えればいい。お前達が望むように、この身を人殺しの道具へと変貌させてやろうじゃないか。
 手を離れたナイフが的の中心へと突き立つ。
 それを見た男は、そのまま無言でそばの椅子へと腰をおろした。それがいつもの合格という合図の代わりであった。

「……珊瑚の毒蛇?」
「お前も名前くらいは知っているだろう。この組織の中でも有名な暗殺者だ」
 ナイフを投げ続けたせいで痛む腕をさすりながら、少女はその名を口ずさむ。
 確か毒を操る事を得意とする男、だったか。少女の脳裏には、そのイメージに合わせた痩せた陰険な顔つきの男が浮かび上がる。
 その男に会えば、どうせそいつは毒で相手の体を蝕み、その苦しみもがく様を見るのが楽しみだとでも言うのだろう。
 会ってもいないその男の不気味な笑みが目に浮かび、少女は眉をひそめる。
「毒蛇には俺から話を通してある。今夜、お前はあの男に会いに行ってくるんだ」
「そいつに毒の扱いでも教わってくればいいの?」
「まさか。お前のようなガキにそんな高等な技術を取得する事など期待しておらん」
 嘲笑するように答える男に内心舌打ちし、少女はそう、と軽く流す。
「これからお前がこの世界で生き延びていく為の術。――それをこれから教わりにいくんだよ」


 部屋の場所を教えられた後、少女は長い廊下を歩き、階段を上がり、ただ黙々と歩き続けていた。
 向かう先に待ち構える男が一体どんな人物か。
 どうせろくでもない容貌と人格の持ち主が、自分の輝かしい暗殺の経歴を延々と語る気でいるのだろうと考えると、少女は目に見えるくだらない光景に溜め息をつく。
 ――その時ぴたり、と彼女の足が止まる。
 目の前にあるのは、自分が寝食に使う部屋と何も変わる事のない、古びた鉄の扉だった。
 だが彼女の部屋と違うのは、その扉に鍵がかけられていないという所か。少女が一人、部屋の中にいる時は決まって外から鍵がかけられているのだが。
「……」
 少女は息をのむと、その扉を軽く叩いた。
 だが頑丈なそれは、彼女の軽いノックでは簡単に音は響かない。今度は乱暴に扉を拳で叩くと、以外にも鈍く大きい音が扉を震わせた。
 思わずその音に驚いて肩をすくめた時、部屋の中から人の声が漏れた。
「そんなに乱暴に叩かなくったって聞こえてるわよぉ」
「……え?」
 予想外の声だった。
 苦笑するように言葉を発するそれは、能天気な雰囲気すら感じられる若い男の声。
「貴女、『ヘイゼル』ね?――入ってらっしゃいな」
 優しげに語り掛ける声に、少女――ヘイゼルは重い鉄の扉に手をかける。
 部屋の中にゆっくりと足を踏み入れると、正面のベッドに足を組んで腰掛ける、一人の派手な青年の姿が目に入った。
 青年はにこりと微笑むと、ヘイゼルに向けて手を差し出した。
「初めまして、ヘイゼル。アタシは『珊瑚の毒蛇』。よろしくね?」
「あ……うん」
 青年の姿にヘイゼルはただあ然と口を開け、差し出された手を無造作に握り、握手を交わしていた。
 もっと陰険な雰囲気の中年だと思っていたのだが、目の前に座る実物は、その想像を遥かに越えるものだった。この組織に居座る暗殺者とは明らかに違う、場違いと思えるような明るい笑顔。
 きっとこの男は人を殺める事など何とも思っていないのだ。だからこそこんな風に笑っていられる。
 そう思うと、ヘイゼルの中に彼に対する軽蔑心と吐き気が込み上げた。
 毒蛇は彼女の表情で胸の内を読みとったのか、苦笑を浮かべる。
「さてと。自己紹介はこのくらいにしておいて、本題に移りましょうか」
「ええ……、用事は早く済ませたいわ。さっさと私に教える事を教えて」
 ヘイゼルの言葉に毒蛇は頷くと、そのしなやかな手先を彼女の腰へと伸ばした。そのまま腰を掴み、ぐいと引き寄せる。
「!?ちょっ……」
 バランスを崩し、ヘイゼルはベッドに座る形となって毒蛇の腕の中にそのまま抱き込まれる。
 慌てて立ち上がろうとしたが、毒蛇はそれを押さえるように腕を腰から背中へと滑らせた。
 何をするの、そう言いかけた時――。
 彼の手がヘイゼルの顎を掴み、その唇を優しく塞いだ。
「――ッ!」
 突然の事に、ヘイゼルは唇を奪われたまま目を見開く。
 しかし毒蛇はさらに深く唇を重ね、彼女の口内に舌を割り込ませようとする。初めて味わう他人の生温かい舌の感触に、少女の肌が粟立った。
「んぅっ……うぅっ!!」
 反射的に彼の体を力任せに押しのけると、ヘイゼルは顔を赤らめながら、口元の唾液を拭い取る。
 そして目の前の男を鋭く睨みつけた。
「いきなり何するのっ……!」
「まあ、真っ赤になっちゃって、ウブねぇ。だけどその様子じゃあ、本当に今まで人殺しの技術や拷問の事しか学んでこなかったみたいね」
 その言葉に、ヘイゼルは怪訝な表情を浮かべる。
 当たり前だ、ここは暗殺をするための組織ではないか。それらの技術以外、何を必要とするというのだ。
 首をかしげる少女の様子に、毒蛇はふいに眉をひそめる。
「……貴女、あの男から何も聞かなかったの?」
「アンタにこの世界で生き延びていく為の方法を教えてもらえって、そう言われただけ」
「……」
 淡々と話す彼女に、毒蛇は困ったように笑みを浮かべ、目を伏せた。
 ――この少女は何も分かっていないのか。
 小さく息を吐くと、毒蛇はヘイゼルの肩に手を添え、彼女の冷めた目を見据えた。
「いい?ヘイゼル。……貴女はね、今からアタシに抱かれるのよ」
「……え?」
「セックスするっていう事」
 一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
 だがすぐにその言葉の意味を理解し、ヘイゼルは青ざめる。

「なっ……何言ってるの。私は嫌」
 嫌悪をあらわにし、ヘイゼルは首を振る。
 こんな初対面の、どんな人間なのかさえ知らない相手に抱かれるなど。
 まして、処女を奪われるなんて――。
 だが毒蛇は躊躇のない眼差しで彼女を見つめ、言葉を続ける。
「貴女さっき言ったわよね。『この世界で生き延びていく為の方法』って。これがその方法よ」
「っ……」
 警戒心を解くことなく毒蛇を睨みつける彼女の瞳には、穏やかな面持ちで話す彼の姿が映っている。
「貴女はまだ少女だけど、それでも女である事には変わりない。……この世界に身を置く女にとって必要不可欠な武器はね、自分の体そのものなの。場合によっては、戦う術を持たない状況でも、女の貴女にならその場を切り抜けられる可能性だって、充分にあるのよ」
「それが……体を使うって事?」
 毒蛇はそう、と頷いてみせる。
「本来ならそれ専門の人間が貴女に性の技術を教えるんだけどね、ちょっと前に面倒事があったみたいで、貴女の扱いはアタシにまわされる事になっちゃってさ」
 毒蛇の言葉に、ヘイゼルはある日の出来事をふいに思い出した。
 自分の仲間だった一人の少女。歳はヘイゼルと同じくらいで、美しい顔立ちだった。その少女がある日、男にどこかの部屋へと連れていかれたのだ。
 そして少女は、二度と仲間のヘイゼル達のもとへと帰ってくる事はなかった。
 あとで聞いた話によると、彼女はその部屋で自ら命を絶ったらしい。
「男を喜ばせる技術……。それを教え込むつもりだったみたいだけど、その子は随分と抵抗したみたいでね。それを押さえる為に、教育係の男は彼女に酷く手荒な事をしたそうよ。……その結果、その子は苦痛から逃れる為に、自分の舌を噛み切ったの」
 ヘイゼルの脳裏に、生前の少女の姿が浮かび上がる。
 どんな酷い事を彼女はされたのか。想像する事が恐ろしく、ヘイゼルはうつむき、自身の肩を抱きしめた。
「アタシは女っぽいから女の扱いも分かってるだろうって、そんな理由で上から命令されちゃってね。だから、アタシが貴女を抱いても恨まないでちょうだいね。恨むならお偉いさん方を恨んで」
「ふ、ふざけないでっ――」
 ヘイゼルが叫んだ時、部屋の鉄の扉が施錠される音が響いた。
 その音に、とっさに彼女は振り返る。
 ……扉の窓部分の鉄格子には人の影が。
「……そういう事なのよ。だから、いい子にしてアタシに抱かれてちょうだい」
 誰かが部屋の様子を監視している――。ヘイゼルはその事に気づき、唇を噛んで毒蛇を睨みつけた。
 毒蛇は苦笑し、肩をすくめる。
「だからそんな目で見ないでよ、お願いだから。……言っておくけど、抵抗したって無駄よ。貴女は殺されはしないけど、その代わり……今までの経験でどうなるかくらい、分かってるわよね?」
 ヘイゼルの剥がされた爪痕を見下ろしながら、毒蛇が言う。
 彼女が優秀な素質を兼ね備えている為に、殺されずにそういった暴行を受けていた事は人づてに聞いていた。
 美しい指と爪に挟まれた数本の指だけが、その傷跡で異様に浮いている。あまりに痛々しい光景に、毒蛇はその手を上から優しく撫でた。
 冷たい手の感触に彼女の体はぴくりと動き、思わずその手を払いのける。
「アタシを拒んじゃ駄目よ」
 払いのけた手を掴むと、毒蛇は自分の方へ彼女の体を引き寄せ、力強く抱きしめた。
「い、いや……」
「……抵抗すれば、アタシも彼らと同じように貴女を苦しめなくちゃいけないから」
 毒蛇の紫色に塗られた爪が、ヘイゼルの剥がれた爪痕に食い込む。
「ああぁッ!!」
 まだ完全に癒えていない肉身をえぐるように、爪は傷を押す。途端に激しい痛みが彼女の指先を襲い、まもなくそれは全身へと流れ込んだ。
 ヘイゼルの目には涙が浮かんでいる。
 瞬きすると、それは頬を伝い、涙の跡がランプに照らされて光を帯びた。
 毒蛇は涙の跡をなぞるように舌で舐めとり、少女の唇を再び優しく吸う。
 ……彼女はもう拒む事などなかった。ただ体を震わせ、目の前の男に身を任せるつもりでいる。
「……ごめんね」
 毒蛇はそうつぶやくと、少女の衣類に静かに手をかけた。


 薄暗い明かりにぼんやりと照らされた少女の体。
 その年齢にしては、女として男を楽しませるには充分なほどに成熟していた。
 だが、彼女の幼さの残る顔つきは、その体には不釣合いなものだった。
「っ……」
 ぎしり、とベッドが軋む音を立て、裸体となった毒蛇はヘイゼルに覆い被さる。
 体を強張らせた少女は、これから起こる事から視覚だけでも避けようと、固く目を閉じていた。
 温度の低い彼の手の平が乳房を包み、柔らかに揉みしだく。
 吸いつくようなみずみずしい感触に、愛撫する毒蛇自身もその身にわずかな興奮を覚えた。
「いい体してるわね……。大人になった時が楽しみだわ」
 ヘイゼルの胸に、熱い息がかかる。それと同時に彼の舌が乳首を転がし、口の中へと含まれた。
 もう片方の乳首を指先で愛撫したまま、口内のそれを唇で包み込むように優しく吸う。
「ッ……、あッ……!」
 嫌悪を抱く行為のはずなのに、ヘイゼルの口からは無意識に嬌声が漏れる。シーツを握り締め、その快楽に耐えるように歯を食いしばる。
 その様子に気づいた毒蛇は、胸から顔をあげると彼女の顔を覗き込んだ。
「無理しないで。アタシはやめてあげる事なんてできないんだもの。どうせなら、その分気持ちよくさせてあげるから……お互い楽しみましょう?」
「そ、そんな事……」
 彼の吐息を顔に感じ、ヘイゼルは閉ざしていた目蓋を開く。
 その時には、毒蛇の顔はすでに至近距離まで近づいていた。目を開ける時を待ち構えていたとばかりに彼は少女の唇を奪う。
「……んっ」
 すぐに唇は解放され、毒蛇はヘイゼルを見下ろしながら口元に笑みを浮かべた。
「まあ、拒むのも仕方ないけどね。まだ貴女は女の喜びを知らないわけだし」
 そう言って、彼は手をヘイゼルの下半身へと滑らせていく。
 へそをなぞり、下腹部を伝い、指先が彼女の茂みにうずまった時、へイゼルは思わず頬を赤らめ、息を呑んで両足を固く閉ざした。
 だが毒蛇は強引に手を股の間へ差し込むと、まだ男を知らない陰唇の膨らみをそろりと撫で上げる。
「いや、……触らないで」
 初めて他人に触れられたその場所に、ヘイゼルは体を震わせる。
 だが毒蛇はそんな彼女の耳元に口を寄せると、そこに軽く口付けて断ってみせた。
「駄目よ。これからもっと気持ちよくなるから……ね?」
 毒蛇の指はそのまま陰唇から上へとたどり、小さな突起を探し当てた。
 二本の指で軽くつまむと、それだけの事にも関わらず、体はその部分に異様なまでの刺激を覚える。
「あッ……!」
 ヘイゼルの体はビクリと揺れ、閉ざしていた足は思わず力を緩める。
 毒蛇はその足を押し広げ、自身の体を彼女の足の間に割り込ませた。
 無防備に股を開く体勢となってしまったヘイゼルは、無駄と分かりながらも足を動かし、何とか閉ざそうとする。
 だが毒蛇はその抵抗を相手にせず、突起を弄びながら言葉を続けた。
「ヘイゼル、ここがクリトリスっていう事は知ってる?……女が体の中で一番感じる所よ」
「そ、そんなの、どうでもっ……ぁ……」
 指の腹でそこを往復するように何度も撫でる。
 そのたびにヘイゼルの身を襲う刺激は増し、こらえようとする声は苦しげに押さえられていた。
 
 ――乳首を口に含み、同時にクリトリスを愛撫するうちに、彼女からふいに女の匂いが漂い始める。
 それを知った毒蛇は弄んでいたクリトリスから手を放し、それを陰唇に滑らせる。するとそこはすでに愛液で潤い、ぬめりを帯びていた。
「ちゃんと感じてるじゃない。やっぱり貴女も女ね」
 毒蛇は笑うと、指で陰唇を押し広げ、間の中指を彼女の陰口へ押し当てる。秘肉のわずかな抵抗をものともせずに、彼の長い指は膣内へとうずまっていった。
「ひっ……!」
 突然自分の内側に入り込んできた異物の感触に、ヘイゼルはわずかな悲鳴とともに体を跳ねる。
「まだ痛くはないでしょ?」
 膣内を慣らすように、ゆっくりと指の挿入を繰り返しながら、毒蛇は目に涙を溜めるヘイゼルを覗き込む。
 ――しばらく膣内を慣らしたあと、毒蛇は指をゆっくりと引き抜き、彼女に覆い被さっていたその身を起こした。
「はぁ……はぁ……」
 ようやく一息つく事ができるのかと、安堵の表情を浮かべるヘイゼル。
 だが毒蛇はそんな彼女の腕を掴むと、強引に起き上がらせた。
「何よっ……?今度は何する気……」
「貴女を抱く前に、アタシの方もその準備が必要でしょ?」
 それがどういう意味を持つものなのか。ヘイゼルがそれを理解すると同時に、毒蛇は彼女の後頭部を掴み、ぐいとうつむかせる。
「痛っ!」
 だが、視界の下にあるのはシーツではなかった。
「ッ……」
 彼女の鼻先に、独特の男の匂いがかすむ。
 目の前にあるのは、まだ興奮状態に至っていない彼のペニスだった。
 後頭部を押さえつけながら毒蛇は自身のそれに手を添え、亀頭を持ち上げる。
 ヘイゼルは反射的に唇を閉じるが、亀頭は彼女の唇に押し当てられた。
「口を開けなさい。咥えるの」
 できない。こんなものなど口に入れられるわけがない。
 首を横に振って否定をあらわすが、毒蛇は押さえつけるその手を緩めてはくれない。
「男を惑わせる暗殺者になるにはね、こういう技術も不可欠なのよ?ただ受け身になるだけじゃ、男は満足しないわよ。……もちろん、アタシもね」
 そこまで言うと、毒蛇はわずかに身をかがめ、声をひそめる。
「……生半可な技術じゃ、これから先それが命取りになる可能性だってあるのよ。当然、上の連中にも貴女を抱いてみたいと言い出す奴が現れるわ。そんな時に、下手な奉仕で相手の怒りを買ってもいいの?」
 ヘイゼルの視界に、自身の爪の剥がされた指が映り込む。
 またあの苦痛を味わう事になるのか?そう考えるだけで、彼女の胸の内に恐怖心が込み上げる。
 ……嫌だ。これ以上体に痛む箇所を作られるのは。
 ヘイゼルは眉をひそめながらも、手を彼のそれにゆっくりと伸ばした。
「……」
 小さく開いた口から舌を出し、彼のペニスにたどたどしく這わせていく。
 グロテスクな容貌のそれは、彼女の慣れない愛撫にわずかな反応を示した。
「唇を使うのよ。咥え込んで、扱いて……。歯を立てたりしたら、相手によれば殴られるわよ」
 彼の言葉にヘイゼルは舌を離すと、躊躇しながらも口を大きく開け、それを咥えていく。
 ペニスを含んだ口をすぼめ、鼻で苦しげに息をしながらも、それを扱こうと頭を上下に動かしていく。
「は……」
 彼自身も久々の行為だったのか、不慣れな愛撫だが、ヘイゼルの口内の感触に恍惚とした表情を浮かべる。
 目を細め、熱のこもった息を吐くと、しばらく毒蛇は彼女の奉仕を楽しんでいた。
 そうしているうちに、ヘイゼルの口内で彼のペニスはその大きさを増していく。
 熱を持った肉の塊は脈打ち、ヘイゼルの小さな口を広げようとする。苦しげにうめきながらも、彼女は何とか奉仕を続けようと口を動かした。
 口内に溜まる唾液は飲み込む暇すら与えられず、唾液は彼女の口から溢れ出すように垂れ、その顎と、毒蛇のペニスを伝っていった。
「んッ……ふぅ……」
 いつしか毒蛇の頬も、押し寄せる快楽に紅潮している。
 額に汗を滲ませながら、自分がそろそろ限界に達しようとしている事を感じた。
「くっ……!」
 毒蛇の手がひときわ力強くヘイゼルの頭を押さえ込むと、彼は同時にわずかに身震いした。
「――ッ!」
 瞬間、ヘイゼルの口内で生温かいものが弾けるように広がる。
 どろりとしたその味覚に、それが彼の精液なのだと彼女は知るが、口内深く咥えていたためにそれは彼女の喉奥に流れ込み、飲み下す事を余儀なくされた。
「ゴホッ、ゴホッ……!う……ぇ……ッ!!」
 喉を通り抜けた精液に、ヘイゼルは込み上げる吐き気を押さえきれず、嘔吐しそうになる。
 彼女の目に溢れる涙を毒蛇は指先で拭い取ると、満足げに微笑みながらその赤毛を優しく撫でた。
「初めてのわりには上出来だったわ。貴女、素質あるわね」
「……嬉しくないわよ、そんな事言われても」
 口を伝う精液を手の甲で拭い、伏し目がちにヘイゼルは答える。
 まあね、と毒蛇は笑うと、彼女の肩に手をかけた。
「何?」
「今度は、アタシの番でしょ?」
 そう言って笑みを浮かべる毒蛇に、ヘイゼルは顔色を変える。
 彼のそこは一度射精したにも関わらず、先ほどと変わらぬ大きさで頭を持ち上げていた。
 ……彼に奉仕する事に精一杯で、すっかり忘れていた。もともとこれは、彼が自分を抱く為にさせていた事なのだ。
 ヘイゼルの体は再びシーツの上へと横たわらされる。そこに毒蛇は覆い被さり、彼女の細い足を掴むと左右に押し開いた。
 さらけ出された無垢な花弁に、毒蛇は固く反り立ったペニスをあてがう。
 その圧迫で左右の花弁が形を歪め、ペニスの先端は陰唇の中へその身を隠そうとした。
「まっ……、待って!」
 悲鳴混じりにヘイゼルは叫び、彼を押しのけようと肩を掴む。
「待ってもいいけど、セックスはするわよ」
「あ……」
 確かにその通りだったが、ヘイゼルはその言葉を聞き、唇を噛んだ。
 この部屋に訪れた時点で、自分が彼に抱かれる事は決定されていたのだ。
 彼とのセックスを終わらせない限り、この部屋から出る事はできない。仮に彼がやめたとしても、部屋の外の監視役がそれを許すはずがない。
 毒蛇はヘイゼルの頬を撫でると、その華奢な体を抱きしめた。
「……貴女だって、アタシとこんな事はいつまでもしていたくはないでしょう。この部屋から早く出られる方法はただひとつ。……分かるわよね?」
 彼女を見下ろす毒蛇は、融通の利かない子供をなだめるような目で、困ったように笑っている。
 彼もただヘイゼルを早く抱いてみたいが為に、そういう事を言っているわけではないという事はヘイゼル自身も分かっていた。
 彼にしても、セックスの様子を第三者に監視される事など快くは思っていないだろう。
 ヘイゼルはしばらく目を閉じていたが、やがて諦めたように目を開き、毒蛇の背中へ腕をまわした。
「……分かったわ。さっさと……抱けばいいじゃない」
「もちろん、そうさせてもらうわ」
 押し当てられていた亀頭は、そのままゆっくりとヘイゼルの膣内へ侵入していく。
「んッ……!」
 膣口を強引に広げられる痛みに、ヘイゼルの体はビクリと震える。
「痛い?」
 毒蛇は尋ねてくるが、ヘイゼルは歯を食いしばりながら首を横に振った。
 ……これ以上自分の弱い部分を他人にさらけ出すのは恥ずかしい。
 明らかに無理をしている彼女の様子に毒蛇は苦笑すると、腰を抱える力を少しだけ緩め、なるべく彼女が苦痛を感じないように優しく自身をうずめていく。
 だが先端を挿入した所で、彼女の膣はそれ以上の侵入を拒もうと、彼の肉を押し返した。
「ヘイゼル……」
 やはり優しすぎる挿入では、処女を抱く事は困難のようだ。
 それにこれから先、彼女を抱く人間が相手をいたわるセックスをするとは限らない。
 毒蛇は目を閉じ、困ったように息を吐くと、ヘイゼルの腰を抱えなおし、体をかがめた。
「ごめんね。ちょっと痛いかもしれないわよ」
 そう言うと、毒蛇は処女肉の抵抗をものともせず、ペニスで肉を掻き分け一気に膣奥へと進めた。
「ッ……!!あッ、あぁッ!」
 狭い膣をペニスの先端が引き裂くように押し広げ、道を作っていく。男を知らない膣肉を強引に貫かれ、ヘイゼルの秘部に今までに味わった事のないような激痛が走る。その口からは悲鳴が上がり、痛みのあまり背中はのけぞった。
 根元までペニスを沈めると、毒蛇は互いの繋がった部分に視線を落とした。
「う……、あぁ……ッ、っく……」
 自分のそれを痙攣しながら締めつける膣口からは、破瓜による鮮血が滲み出ていた。
 少しだけ引き抜いてみると、赤く染まったペニスがそこから顔を覗かせる。
 自分の下で顔を真っ赤に染めながら嗚咽をあげるヘイゼルを見つめ、毒蛇は彼女の太ももを掴むと、その両膝が乳房に触れるほど前に倒した。そうする事で、互いの結合部は彼女自身の視界にも写り込んだ。
 血に濡れた自身の性器に、男の凶器が容赦なく突き立てられている光景を目にし、ヘイゼルは思わず目を伏せる。
「見るのが怖いの?ヘイゼル」
「こ、怖くなんか」
「それなら見なさい」
 だが、彼の言葉にヘイゼルは従おうとしない。
「やっぱり怖いのね。それは血を見るのが嫌だから?それとも、自分が汚れる様を見たくないからなのかしら?」
「…………」
 答えようとしない彼女に、毒蛇は続ける。
「言っておくけど、これから先、貴女は今まで以上に血を見ることになるし、汚れもする。今の光景は、その始まりにすぎないわ」
 ヘイゼルは苦痛に涙を零しながら彼の言葉を聞いていた。
 この先自分を待ち構えているのは、手を赤く染める汚れた行為と、それをしくじった時に与えられるかもしれない『死』。
 男に犯された過去など、その時にはどうでもいいとさえ思っているかもしれない。
 それでも――。
「私、は……」
 言いかけると同時に、毒蛇は血にまみれたペニスを膣内から乱暴に引き抜く。そうして再びそれをあてがうと、鮮血が零れだしたその部分をもう一度貫いてみせた。
「あぁッ!!」
 貫く寸前に聞こえたぐちゅ、という生々しい音が、愛液の立てた音ではない事は明らかだった。
 純潔を失った破瓜の血が潤滑の道具へと変わり、毒蛇のペニスを受け入れていくのだ。
 毒蛇はそのまま動きを止めることなく、幾度も挿入を繰り返した。そのたびに彼女の膣からは血が溢れ、シーツに赤い雫を落としていく。
「あはッ……、うッ……!」
 毒蛇が自分の中へと身を沈めるたびに、そこからは濡れた嫌な音が立ち、血の匂いが漂う。
 ヘイゼルの視界は涙と痛みで霞み、その思考さえもままならぬ状態となっていた。ただひたすらにこの時が終わるのを待ち、シーツを握り締める。
「はぁッ……、ヘイゼル……、もうすぐ終わるわ。もうしばらくの辛抱よ」
 息を荒げながら、恍惚とした表情で毒蛇は言う。
 動きを早めながら彼は息を吸い込むと、ヘイゼルの腰を一層深く抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと待って」
 彼の行動に、ヘイゼルは青ざめる。
「中で出すのはッ……」
「出すわよ」
 その言葉にヘイゼルは慌てて抵抗するが、この体勢で押さえ込まれていてはほとんど体を動かす事すらできない。
「いや、そんな事したら!」
 何とか彼を振りほどいて逃れようとしたが、逆にその手は彼の片手で押さえつけられ、今度こそ何の抵抗もできない状態となってしまう。
 激しく突き動かしているさなか、毒蛇は頂点に達した快楽に顔を歪めると、彼女の腰を指が食い込むほどに掴み、自身を膣の最奥まで押し込んだ。
 彼の汗ばんだ指が、体がヘイゼルに密着する。
「んッ……!」
 彼の動きが、荒げていた呼吸と共に一瞬止まり、その身は再び快楽に震えた。
 ヘイゼルの膣内でしばらくのあいだ絶頂の余韻に浸ったあと、彼はそこからペニスをゆっくりと引き抜いていく。
 途端に、そこから生温かいものが流れ出る感覚にヘイゼルは襲われる。
「あ……ぁ……」
 それが彼の体液なのだという事は目で確認せずとも理解できた。
 ヘイゼルの目からは大粒の涙が溢れ、彼女はその顔を両手で覆うと嗚咽を漏らし始めた――。


「……ヘイゼル。薬よ」
 股を血と体液で濡らしたままぼんやりと寝そべっていた彼女に、すでに服を身につけた毒蛇は優しく声をかけた。
 監視役から受け取ったらしき錠剤と水の入ったコップを、彼女の枕もとへ静かに置く。
 だが当のヘイゼルは彼の言葉には耳を傾けようとせず、目を伏せたままシーツに顔をうずめていた。
「怪しいものじゃないのよ。ただの避妊薬だから」
「――え?」
 その言葉に、ヘイゼルは伏せていた顔をようやく上げる。
「二日以内に飲めば大丈夫よ。こんなものも無しで、アタシが中で出すわけないじゃない」
 ヘイゼルは身を起こすと、慌ててそれを口に放り込み、水を飲み干した。
 コップを持ったまま安堵の息を吐くと、彼女は毒蛇を睨むように見つめる。
「こんな薬があるのなら、先に言ってよね……。さっきまで私がどれだけ不安な気持ちでいたか」
「ああ、ごめんごめん。この薬はこれからの貴女の仕事には必要不可欠なものになるでしょうから、ちゃんと知っておいてもらわなくちゃね」
 苦笑しながら毒蛇は謝ると、壁にかけていた上着を彼女の裸体にそっと羽織らせた。
 ――これからの、私の仕事。
 毒蛇の言葉を心の中で噛みしめ、ヘイゼルはコップの底を見つめ続ける。
「私は――これからも、男とあんな事をしなくちゃいけないのね」
 そうつぶやくヘイゼルを、彼女の衣類を整えながら毒蛇は眺める。
 彼女が座っている血で汚れたシーツは、さきほどの行為の荒々しさを痛々しいまでに物語っていた。
 毒蛇は彼女の横に腰を下ろし、その顔を覗き込む。
「最低最悪の初体験だった?」
 そう尋ねる彼の表情は、怒りさえ覚えるほどに明るい。あれほど酷く自分を犯した事を、まるで忘れているかのような様子にさえ見える。
「……そんな生易しいもんじゃないわ」
 ヘイゼルは苛立ちに眉を歪めると、吐き捨てるように答えた。
 その返事に、毒蛇はそう、と静かに頷く。
 まるで何かに安心したかのような彼の反応に、ヘイゼルは首をかしげる。
「――それなら、これから先貴女が経験するセックスは、ずっとマシなもののはずよね?」
「……どういう意味」
「だってそうでしょう?」
 彼女の問いに、毒蛇は身を乗り出して答える。
 指先を彼女の前で振り、彼はさきほどの笑みを再び浮かべてみせた。
「むりやり処女膜を破られて、血まみれになってる所を何度も貫かれた。死ぬほど痛いと思ってる所を、抵抗もできないままずーっとね。で、さらに中出しをされて、死ぬほどの恐怖を体験しちゃったんじゃない。まさに地獄のような悲惨極まりない初体験でしょ?」
「……確かにそうね」
「ええ、――だから」
 毒蛇は、彼女の乱れた髪の毛を、手ぐしで優しく撫でるようにとかす。
「これから先のセックスがどんなに辛いものでも、アタシに抱かれた事をそのたびに思い出しなさい。あの時よりはマシだって、そう思う事ができれば、大抵の事は乗り越えられるわよ」
 ね、と彼はヘイゼルの頭をぽんぽんと叩く。
 ……それはあまりにも無理のある前向き的な解釈ではないのか?ヘイゼルは彼のムチャクチャな言動に、思わず顔を引きつらせる。
 これは彼なりの、自分に対して元気付けようとする言葉だったのだろうか。
 あれだけ酷い事をしたにも関わらず、ヘイゼルは彼の向ける笑顔に対し、何も言い返す事ができなかった。
(……何のフォローにもなってないわよ、バカ)
 彼に向けてその言葉を言うのは何故か気が引け、ヘイゼルは疲れた体をもう一度ベッドに横たえると、そのまま静かに目を閉じる。
「ねぇ……毒蛇」
「なぁに?」
 ヘイゼルの声に、毒蛇は相変わらずの明るい声で答えた。
 彼に背を向けたまま、ヘイゼルは薄く目を開ける。
「――アンタのその性格、全部演技なわけ?」
 何気に口をついて出た言葉だった。
 途端に、部屋は一瞬静まる。
 驚いたような目で毒蛇は少女を見下ろすと、彼はしばらく顎に指先を当てて考え込む。
「んん、どうかしらねぇ?」
 背中越しに返ってきた返事は、やはり能天気そのものといえる声色だった。
 ――心の読めない男。ヘイゼルはふいにつぶやいていた。
 この世界にこんな風変わりな男がいたなんて。
 闇の広がる未来をただ見つめているよりは、時たま自分を汚したこの男を眺めているのも悪くはないかもしれない。
 何重にも重ねられた鉄格子の窓から覗く三日月を眺めながら、ヘイゼルはふいにそう思った。


おわり

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