腹ぺこ羊は泣き虫狼と夢を見るか・第二話



何事も一度目が鮮烈で、二度目三度目がそれに劣るという事はない。
一度目で判らないものが、二度目以降で新たに見つかる物がある。
回数を重ねるほどに深まり広がる物があるし、……回数を重ねなければ判り合えない物もまた、存在する。

やわやわとした小ぶりの胸の表面、すれすれの所を五本の指でなぞると、彼女が鼻にかかったような、可愛らしい声を上げる。
忘我の表情で…でも少し怖いのか、普段はピンと張った大きな耳をちょっと寝せ、彼に全身を預けてくるその姿は、凶器とも言うべき可愛らしさだ。

昨日はとにかく、お互い緊張と混乱、驚きと怯え、試行錯誤とすれ違いが多く。
…まあ激しくはあったが、でもその分こんなゆとり持って接する事は、出来なかった。
彼女の耳の後ろを梳いてやると、気持ち良さそうに頭を軽く左右に振るのを、レシィはなんとも言えない、穏やかな、満ち足りた気分で眺め味わう。
あの強くて元気な、転んでも泣かないオルフルの女の子が、彼の腕の中ではまるで子犬みたいになってしまっていて。
こんな可愛い女の子が、これからは自分の――自分だけのものなのだと思うと、またこれまでとは違った目で、彼女の事を見下ろしている自分を知った。

それでこそ昨日、言葉で身体で。幾重にも折り重ねるように、繰り返し何度も何度も。
時に優しく、時に意地悪に。彼女の忌まわしい記憶を削り取りながら、二度と消えないように深く深く、快楽を刻み込んであげた甲斐があるというものだ。

――しかし。
(でも、ユエルさん? まだまだこんなもんじゃないんですよ?)
二年以上もの間、彼女が繰り出す『無自覚スキンシップ攻撃』に、散々生殺しの生き地獄を見せられてきた自分の想いは、まだまだこんなものでは満たされない。
(…借りは、利子つけてきっかり返してもらいますからね?)
今日の、明日の、明後日の夜の事まで考えて。レシィは微妙に、邪悪に笑った。

「…だめ……。…ぱんつ……ぬれちゃう……」
「…そうですか」
意外に早く、ユエルの理性が快楽への誘惑に打ち負けたのを密かに喜んで、レシィは彼女の秘密の場所を守る、最後の砦に手を差し入れると……
……そのままぐぅっと、真下に向け引き摺り下ろした。

ズボンにも尾を出す為の穴があるように、当然パンツにもそれがある。
故に彼女やレシィにとって、それらを脱ぎ着するのは一々結構難事だったのだが、だからってそれを、尻尾を抜かずに強引に下ろそうとすれば。

「…っあああ!」 当然、擦れる。
下着を引っ掛けて太腿を滑り降りていくレシィの指が、軽く仄かな痺れを。
そんな下着の穴に引っかかって、ぐぅんっと引き伸ばされる尻尾が、重く甘い痺れを。
二種類の痺れをもたらして、彼女の足先を僅かに震えさせた。

…痛くはない。引き千切られるように、乱暴に引っ張られているのではないから。
ただ、尻尾が下に引き攣らされる感じがして……それが酷く、切なくて。

「…あっ……あっ、あっ、あっ」
正面ではちょっぴり透明な糸を引きながらも膝下まで下げられた下着は、後ろ側では絵筆型をした彼女の尻尾の中程で留まるのみ。
ただでさえ真ん中部分が一番膨らんだオルフルの尻尾、そこが一番穴に通すのが大変な、大事な部分と判っているはずなのに、レシィはお構い無しに、徐々に腕に体重をかけていく。

身体がお尻から後ろ下方に引っ張られる感覚と、尻尾の芯を締め付けながら、時折ズッズッと引っかかりつつ、窮屈そうに下着が下がっていく感触。
尻尾の付け根部分に、キュンキュンするものが走る。

そういう風に、少しずつ力を強められてゆっくりと引っ張られた時に、臨界を越えて痛感に変わる前に感じる、あの引き伸ばされるような感じ。
息苦しさと苦痛の中間、……でもそれが、とても気持ちよくて。
もうこれ以上は痛みに変わるという、痛痒いような快感に、彼女が思わず胸を掻き毟りそうになった時。

「……っ!!」
すぽんっ、という音と共に、山場を越えた下着が、一気に下へと滑り落ちた。
反動で、今まで下への力が掛かっていた尻尾が大きく上に跳ね上がり、ピクピクッと二度三度、妖しく痙攣する。

……いや、二度三度、ではなかった。
(…あ……)
たかだか30秒にも満たない、わずかな間の責め苦だったにも関わらず、彼女の尻尾は、まるでその続きを望んでいたと言わんばかりにピクンピクンと、何度も何度も、彼女の意に反して痙攣をし続け、止まらない。
尻尾の付け根と下腹部に、滓みたいに気持ちいいのが溜まって、疼きが膿む。

「…ユエルさん、なんだか脱がされるの好きみたいですね」
普段からは考えられないような、こんな強引な事を彼女にして来といて、なのに悪びれた様子が無いどころか、笑いながら自分を見つめてくるレシィを、ユエルは恨みがましい視線で見つめるのだが。

「あ! 酷いです、そんな目するだなんて。ユエルさんだって昨日、僕のズボン無理やり脱がしてきたじゃないですか。…これはそのお返し」
そう言われてしまうと、そう言えばそんな事があったのを思い出し、ウゥゥ、と答えに窮してしまう。

そうしている内に、左手が彼女の胸に、右手が股下へと伸ばされて。
そんな動きにわずかに怯えたユエルだったが、レシィはその意を察したのか、白い乳房を優しく撫でつつ、秘所の上部、ふさふさの草むらに指を伸ばして、円を描くようにさするだけだった。
(ちなみに、そこは普通の人間と違って、さながら美しい雌狼の毛並のような見た目と感触をしていて……まあ要するに、人間のそれのように毛が太く縮れてはいない代わりに、その、かなり毛ぶk……じゃなくて、ふっさりしていた)

それで先程までと同様、後ろから抱きすくめられる…というよりは、のしかかられるような体勢になったのだが。
もうだいぶ足元が危うい彼女が、その重みに崩れ落ちないでいられるのは、ひとえに前に回されたレシィの二本の腕が、彼女の身体をしっかりと支えてくれているから。

……それが彼女を、どうしようもなくうっとりとさせた。
どうしてそこまでと、彼女自身不思議になるくらい、胸をドキドキと高鳴らせた。
次第に力強く胸をこねくり回す手も、さらさらと音を立てて恥部をまさぐる指も、背中に掛かる重みも、自分をかき抱く腕も、全てが素敵で、夢のようで――

「…う……んっ……?」

――でも、そんなユエルの顔が、ちょっと困ったようにきゅっと歪む。
最初はまるで、生まれたばかりの雛鳥を撫でるみたいだった胸を揉む力が、段々、強く、大胆になり始めてる。
まるで揺り篭に揺られるような穏やかな気持ちよさの中に、徐々に不穏なものが混じり始める。
決してそれが怖く、嫌なわけではないのだけれど、でもほんのちょっと強過ぎて、荒れ始めた海を見ているようで不安なのだ。

「…ユエルさんの胸は可愛いですね」
それを見越したか、横からレシィの声がかかった。
その声や言葉自体は、とても初々しくも感嘆に満ちた物だったが、でもぐにぐにと、まるでパン生地みたいにユエルの胸をこね回しながら言う言葉には相応しくない。

「ちっちゃいけど、でもちゃんと膨らんでて、白くて、柔らかいですし…」
「…や……だぁ……っ!」
耳元で囁かれる恥ずかしい言葉に、せめてきゅうっと身を縮こませ、耳も尻尾も両手も丸めて目を瞑るユエル。
だがその瞬間、ぐにっ、と一際強くレシィの片手が胸を掴んだ事により、我慢しきれなかったのだろう、耳や尻尾が実にかわいらしくもひょこっと動くのだ。
――自分のそんな仕草がどれだけ彼の劣情を刺激してるのか、知りもせずに。

「…何より、先っちょがピンク色で、ツンってとんがってるのがね」
「ひんっ!?」
すっかり硬く尖ったその先端を、指の腹で挟んでかる〜く擦ってあげるだけで、あられもない悲鳴と共に、電流を流されたみたいにその四肢がはねる。
「知ってます? 女の子の乳首がこういう風に硬くてツンってなっちゃうのは、エッチな気分になっちゃった時なんですよ? …って事は今ユエルさん、すごぉくエッチな気分になっちゃってるんですよね?」
「……や、やあああぁぁ…っ!」

レシィも性格が悪い。
ユエルが必死に隠そうとして、目を逸らしているのに、わざわざ実況中継しながら証拠を見つけ出して来て、彼女の目の前に突きつけて楽しんでいるのである。
――そうする事で、まるで何かを誇示するかのように。

「隠したって無駄ですよ、ほら」
そう言ってユエルの股下に手を伸ばすと、今や十分に潤い溢れ出た透明の液体を掬い取って、たっぷりと彼女の柔らかな茂みになすり付けた。
その何とも言えない淫靡な感触に、ユエルが言葉にならない掠れた声をあげながら身を捩じらせて逃げようとするが、もう一方の腕でその動きを強く押さえつけ、同時にまた指で乳首を転がしてやって黙らせる。

「ねぇ、ユエルさんにも何回かありますよね? こういう風に乳首立たせちゃって変な気分になっちゃった事。…その時の事、教えてくださいよ?」
「…ん……あっ……や、そっ…そんな事、な……」
「あるはずですよ?」
「わっ、わうぅうぅぅっ!?!?」

両方の乳房をかわりばんこに揉んで、先端の乳首をころころ転がす。
彼女の秘密の場所をまさぐって、切れ目の上についたちっちゃな突起を指で剥く。
…昨日、もう彼の頭を押しのける気力もない彼女の抗議を他所に、ついでにそこの突起を舐めつつも、十二分に観察しておいた甲斐があるものだ。
もう見なくたって一発でそこを探り当てる事ができる自分に、レシィは24時間前までの自分のおっかなびっくりさを思い出し、少しだけ苦笑した。

「僕だけ、自分がしてきた恥ずかしい事話すってのも、不公平ですし」
ペロリと首筋を舐め上げて、歌う様に言葉を紡ぐ。
「僕の方も恥ずかしいの我慢して、嘘つかないでちゃんと話したんですから、ユエルさんにも嘘っこなしで正直に話して欲しいんです」
「…えっ……あ、んんっ、ふっ……ユ、ユエル……ユエルぅっ!」

そうやって運命の数奇さを笑いながら、すっかり充血してまん丸になったそこを、剥いたり、包皮の上から押したりしつつ聞いてやる。
今も撒き散らされる、彼女の自ら望まぬ嬌声にかき消されぬよう、息が掛かるくらいに顔を近づけて、ユエルの大きな耳元で…

「…だって、言うじゃないですか。『夫婦の間には隠し事は無し』って」
…ひくっと耳が大きく動いたのは、たぶん快楽のせいではあるまい。
だって彼はその言葉の共に、彼女の体をいじくり回す手を止めていたのだから。
「だから嘘つくのは無しです。……ね?」

泣きそうなのか、はたまた単に顔中を火照らす熱の為なのか。
水っぽい、半分潤んだような瞳で、縋るようにこちらを見つめて来た彼女に、わざと突き放すようにそう言うレシィ。
ユエルはむこうを向いたり、また彼の方を向いたり、落ち着きなく視線を彷徨わせて。
…それでもやがて決心したのだろう、意を決したように、震える口を開いた。

「…み、…皆で、遊んでる時とか…なんかたまに、乳首、擦れ…ちゃう事、あって…。…え、エッチな事考えちゃったんじゃなくて! …擦れちゃった、だけで……」

……胸が膨らみ始め、ほんの少し、シャツが窮屈になり始めた頃からだろうか。
何かの拍子に、予期せずも勢いよく服と乳首が擦れてしまって、妙な感覚が全身を走り――酷い時には呻き声すら漏れて――地面にしゃがみ込んでしまう事があったりとか、した。

「…時々ユエル、いきなりしゃがみ込んじゃって。…そ、そんな時レシィっ、いつも心配してくれたでしょ!? 『お腹痛いんですか?』って!」
彼女は知らなかったが、まあそれはいわゆる『ノーブラの弊害』というやつで。
何も『立って』困ってしまうのは男だけの特権ではないという証拠なのだが。

「…ユ、ユエル、そんなんなっちゃってるの、なんかすごい恥ずかしくって…。レシィやミニスが心配してくれてるのに……、『そうなの』って、う、嘘ついてぇ…っ」
なんとなくだがそれが恥ずかしくて、彼女は本当の事が言えなかった。
ミニスは……もしかしたら薄々感づいてたかも知れないが、敢えて後でその事に触れて来ない事が、すなわちそんな自分の直感が間違ってない事を示していた。
それが酷く恥ずかしい事であって、話題にするには気まずい現象である事を。

「ほ、本当は違ったのっ! …うずくまっちゃったてたのは……、乳首擦れて、変な気分になっちゃって……、乳首立っちゃってたからで……! そこで動いちゃうと…ますます擦れて、変なのピリピリって来ちゃうの! だから収まるまで……乳首元に戻るまで、立てなくて……」
それでも彼女の言葉を真に受けて、『だ、大丈夫ですか?』とあれこれ慌てて心配してくれるレシィの優しさが心苦しかった。
(彼女自身それの正体が何なのかよく判らなかったが)もやもやとする、何か不確かな理由で彼に嘘をついているのが判るので、罪悪感も募った。

「…………怒っ、…た?」

耳を縮こませ、尻尾に丸め、前に回された彼の両腕を微かに震える手で掴みつつ、あんまり上…レシィの方を見ないようにして、消え入りそうな声でそう呟く。
自分は強いオルフルで、皆に迷惑掛けないで生きていけるくらい強いはずで。
だけどもう一人ぼっちは嫌で、大好きな人達から嫌われるのが怖くて……

「……かわいいです…」
「へ?」

…何か幾分ずれた、場違いな答えに思わず顔を上げると、それはもう幸せそうな――っていうかなんか、ヤバげな目の色をしたレシィが居た。
(…あ、やば…) 「…レ、レシィ?」
彼女の脳裏に昨日の記憶が……それはそれはとんでもない昨日の記憶が蘇る。
蘇って、それらを元に彼女の野性の第六感が警告を発する。
発するついでに、さっきまでの理性的な自分がほんの少しだけ戻って来て、言う。

――だから言ったじゃん、逃げないと『取られちゃうよ』、って。
――昨日は運が良かったけど、今日もそうとは限らないよ、って。…むしろ……――…今日こそ『全部』『根こそぎ』『もってかれちゃう』かもしれないよ、って。

「……ちょ、レシィ、落ち着…「「可愛いで〜す♪」」…ひゃああぅっ!?」
ぼす、っと彼女の後ろ髪に、レシィが顔半分ごと鼻を突っ込んだ。
しかもグリグリと鼻で髪をかき分けて来る感触に、何事かとユエルが思った時。
「す〜〜〜っ」って鼻から目一杯息を吸い込む音が聞こえて、「え? え?」直後に、「はふ〜〜〜」っと生暖かい息が彼女の首筋に掛かり、「ぁ……っ」
ついでに「ユエルさんの髪いい匂い……♪」 「…………」

…………だ、

「…だっ、だから匂い嗅いじゃ駄目だって――――――っあああぅっ!?」
驚きと焦りに上げた絶叫が、けれどぎゅむ、と握られ、しかもころころと転がされた弾力のある胸でもってして塞がれる。もちろん顔も髪に突っ込まれたまま。

「…なんで? なんで駄目なんですか!? いい匂いって言ってるじゃないですかっ! 大体いつもユエルさんはずるいんですよ、僕の匂いは好き勝手に嗅いでくる癖にっ! 僕だってユエルさんの匂い嗅ぎたいんですよ! お腹一杯嗅ぎまくりたいんですよっ!」
「えっ、ええっ!? で、でも…っ、…あっ…ん……ふぁっ……ひぅっ!?」

首筋に荒い鼻息が掛かり、垂れたレシィの前髪がうなじをくすぐる感触に、変にときめいてしまったユエルが、そんな自分に二重にときめきを感じている最中にも。
愛撫を再開したレシィの両手が彼女の胸の膨らみと股間の小粒を弄り、おまけにしばらく遠ざけられていた彼の股間の熱く滾った感触が、これでもかというくらいに彼女の柔らかな臀部にぐいぐいと押し付けられた。

まだレシィは一切服を脱いでいなかったものの、それでもユエルが半ズボンと下着を脱いだ分、先程よりもよりくっきりと。
布越しでもその形が判るくらい、それはそれはもう強く強く押し付けられてるわけであって。
しかも、そのままカクカクと腰を動かして擦り付けてくるというのだから、…まあ、アレだ。

…思いっきり、ケダモノである。

……でも彼らの場合、片方のみがケダモノってわけではないのが、せめてもの救い。

(…ぁ…、…わぅ……ん)
お尻に当たってくる硬くて熱いモノに、首筋にかかる生暖かい吹き付けに。
耳を塞いでも聞こえてきそうな至近距離からのハァハァという呼吸に。
胸やあそこを弄くられるのと同じか、それ以上に強く感じてしまっている。
…ぞくっと、あそこの奥、体の中心に、何かが渦巻いて集まっていくのを感じる。

「…あ…はっ、やだ…ぁっ、レシィ……来ちゃう、…ま、真っ白なのっ、来ちゃうよぉっ…」
もう立ってるのも危うく、レシィに支えてもらって辛うじて立てている身体で、弱々しくレシィの腕を揺するが、そんな事で彼がこの行為を中断するわけなど、勿論無い。

「あははっ、ユエルさん、もうイっちゃいそうなんですか!? 良かった、昨日よりもずっと感じやすくなってますね?」
一層強くぎゅうっとユエルに抱きついてくるレシィの後ろで、彼のポワポワした緑色の尻尾がべしべし壁を叩いてるのが視界の端に映った。
…ユエルと違って常識派の亜人であるレシィが、こういう風にポジティブな感情を、しかも無意識に尻尾で表すだなんて、滅多にない光景である。
…そんなにレシィ嬉しいんだ、と思うと、けれどますますゾクゾクが強まり。

――それが彼女は怖かった。
「くっ…ふ、あっ、や、やだぁっ、これ、ユッ、ユエル、おかしいっ、おかしいよぉぉっ!!」
残念だが、事ここに至っては認めざるを得ない。
(…ど…、どうしよ……。…ユエル、昨日より、昨日よりずっと……)

昨日はただ単に抱き合っただけでは、こんなに気持ちよくはならなかった。
それなのに今日は、レシィの温もり全てが愛おしく、そうしているだけで甘い疼きが走る。
昨日の彼女の秘所には、辛うじて外に溢れ出す程度の潤いと、程良い火照りしかなかった。
だが今日のそこは燃えるように熱く、太腿を雫が滴り落ちるのが自分自身でも判る程。

快感の激しさはほとんど変わっていないのだが……その分、『深み』が増したというか。
強過ぎる刺激からトゲトゲしさが抜けて、その分角が丸くなったような印象を受ける。
緊張する事無く落ち着いて、ゆっくりそれに心を傾ける余裕が出来た途端、昨日は感じ取る暇の無かった様々なものが、次々と彼女に暖かく甘い物を与えて来て。

「…やっ? ひっ、うぁっ、うっ、あっ、い、いやぁ、いやああぁっ、あっ、あっ」
現に、今や僅かに粘り気と白みを帯び始めた体液を再びレシィの指に掬い取られて、まるで見せ付けられるみたいにそれをお腹に擦りつけられるのを、――もしその点を指摘されたならば、彼女は全力でそれを否定しただろうが――ユエルは口では嫌がりながらも、うっとりとした目でそれを眺めていた。

昨日の『恐怖』が消えて、代わりに『期待』が生まれ、『拒絶』が消えて、代わりに『渇望』が生まれた事に、彼女はまだ気がついていない。
昨夜心の鎧を取り除かれて、剥き出しの本心を曝け出された際に、過去のトラウマの上から、レシィに何か別な物を上書きされてた事についても、同様だ。

…だが、今の彼女にとってはそんな事どうでもいい、二の次の話題だった。
左右交互に乳首を指で転がされ、皮を剥かれた紅珠をくいくい突かれ、足の震えが大きくなり、毛の逆立ったしっぽがぶんぶんと大きく振れる。
……限界が近かった。
「あっ、ひぁっ? う、わ、わぅ、わぅうぅっ、れ、レシィッ、ユエル、ユエルぅっ、…も、もうだめ、だめなのぉっ! だかっ、らぁっ、…だからあああぁっ!」
「……だから?」

ようやく髪の毛に埋めた頭を持ち上げたレシィの声は、だけど冷たかった。
冷たくて、でも反面、そう言いながら彼女の耳に吹き込んできた息は生温かかったので、彼女は我慢できず、「ひいぃぃんっ」と情けない声を上げてしまう。
「…だっ、だからぁ…っ、…お願い、お願いぃ…、お願いいぃ……っ!」
「…お願いって、何を?」
判ってて知らないふりしているのを隠そうともしないレシィに、泣きそうに歪むユエルの顔。

今ではレシィではなく、彼女の方が腰をカクカクさせていた。
カクカクさせて、自分からお尻をレシィの硬くて熱いものに何度も何度も擦りつけていた。
自分のそこがそうな様に、おそらく彼の体で、一番熱く熱を持った部分。
入れて貰うと、とても気持ちよくなれるモノ、おかしくなっちゃうくらい気持ちよくなれるモノ。
そう考えるだけで、自分の体の奥からまた新しく熱く粘った液体が染み出してくるのが判ってしまう。…そこが熱くて熱くて、もう気が狂いそうだ。

「いっ、いやああぁっ……あっ、あっ、ぁっ、ぁっ…。…やめ、てぇっ、やめっ、てよぉ…っ。…は…はっ、はっ、ぃ、いじ、わるっ、しない、で、よぉっ。…しない、でぇ……ぇ…っ」
入れて欲しい。寂しい。何か足りない。何か違う。何か正しくない。
一人でいきたくない。ちゃんと中にレシィを感じていきたい。
……なのに、レシィは手を止めてはくれない。

「や、やだっ。き、来ちゃうっ、来ちゃう来ちゃう来ちゃうっ。や、やめっ、レシッ、ほ、ほんとに、ほんとにきちゃ……っああああああっ!?!?」
ずぶっ、と、レシィのほっそりとした指が自分の中に潜り込むのを感じた。
ぐりぐりとのたうちながら潜り込んでくるそれに背筋が弓なりに反り、もう秒読みが始まってしまったのを感じながら、濁った目で真横のレシィの顔を見ると。

…やっぱり、あの目をしているのだ。
ライオンが瀕死の鼠をオモチャにして、いたぶって遊ぶ時のような目。
絶対的に優位な立場にいる者が、劣位にある者を透かし見るように眺める眼。
蔑みと愛情、相反する二つの思いが同時に存在する、どこか妖しい瞳。

…普通は嫌がるべきなのだと、怒るべきなのだと思う。
本来なら、そんな宜しくない目を誰かから向けられたら不快に感じるべきなのだと、オルフルとしての、いや彼女個人の女の子としてのプライドにかけて、
怒りを露にそれを跳ね除け否定して見せるべきなのだと思う。……でも……

……でも、それは彼女に、最後のトドメとなる最大級のゾクゾクしかもたらさなかった。

「…あ……め……だめ…だめ、だめ、だめっ、だめっ、だめえぇっ、だめえええぇっ! 来ちゃうぅっ、来ちゃうううぅっ、来ちっ――――――――――っ、っ、っ、っ!!!」

瞬間、膨らみに膨らんだキモチイイの塊が爆発した。
太陽を直視してしまった時みたいに、目の前で真っ白なストロボがチカチカ、全ての音が遠ざかって、耳と尻尾はピィンと音がするほど天に突き立ちヒクヒクする。
腰から上はビクビク痙攣、腰から下はガクガク震え、自分の秘裂に突っ込まれたレシィの腕を止めようと、咄嗟にそれを掴んだ両手にあらん限りの力が篭った。
視覚と聴覚が奪われた世界で、胸に回されたもう片方のレシィの腕が欲張りにも彼女の双房を一度に味わい、快感の下降に断続的にブレーキが掛かるのを知る。

「……んっ、ん、あ、あっ、あぁっ、はっ、はっ、は……」
やがて激しすぎる快感が、暴れるだけ暴れて全身を通り抜けて行った後。
一瞬遠のいた意識が――というのは彼女の主観で、実際には数秒だったが――戻ってくると、自分の喉から嗚咽に似た喘ぎが漏れているのに気づくユエル。
続いて強く噛み締めた奥歯の横から唾液が零れ、根元まで差し込まれたレシィの指を伝った愛液と一緒にポタ、ポタと地面に落ちているのを認識するが、まるで鉛みたいに脳と身体が重く、あまり恥ずかしいという気持ちが沸いて来ない。

「…はっ、はうぅぅぅ…、ぁっ、ぁぅ、わぅ…、わぅウぅゥっ、わゥウウウゥん…っ」
……いや、どうやら床に滴り落ちているのはその二種類だけではなく。
滲んでぼやける視界とそこから頬に流れる温かいものから察するに、「嗚咽に似た喘ぎ」ではなく、どうやら自分は本当に、泣いてしまっているようだった。

単に気持ちが昂って感極まってしまったからか、はたまた快感が強すぎたのか。
…理由は様々に考えられたが、いずれにせよ確かなのは、懸命に歯を食いしばり、でも泣いてしまっている彼女の可愛らしさだけである。

…が、勿論それだけでお終いなわけではない。
ふいに、くいくいっと彼女の内部に潜り込んだレシィの指が左右に動く。
「いっ!? ひぅっ…!」
絶頂を迎えたばかりのこの体に、休憩無しで与えられるその刺激は酷だった。
降りたばかりの今は、同時にまた昇りやすい瞬間でもあるのだから。

「ほら、ユエルさんしっかりして。…まだ序の口なんですからね?」
泣きべそをかいたユエルの全身に震えが走るのを確認しつつも、根元まで潜り込ませた中指を、わざと盛大に音が立つよう好き放題に暴れさせ、にこやかに笑ってプラス胸への愛撫まで再開するレシィ。…鬼だ。

「やめ、あ…っ、止めてよレシィぃ…。あっ、ぃっ、…ユ、ユエル、また……き、気持ち良く…なっちゃう、からぁっ…。…ん……んっ……」
「でも女の人の方が気持ち良くなれば気持ち良くなる程、赤ちゃん出来る確率も高くなるっていいますし…」
当然、慌てて(でも幾分諦め気味に)弱々しくレシィの腕を掴むユエルだが、やはりレシィはどこ吹く風で、さらりと爆弾発言まで吐いてる始末。

それでも股に差し込まれた彼の指引っこ抜きたさに、必死にレシィの腕を掴んでうんうん引っ張る彼女だが、もう半分も力の入らない両手でそんな事した所で、深く深くねじ込まれたそれが抜けてくれるわけも無い。
むしろ逆に振動が伝わって墓穴掘るだけだと悟ってしまい、なんかまた泣きそうに。

「…それに、ユエルさんの身体は嫌がってないみたいですけど?」
「……ふぅっ……ん…?」
そんなユエルをもっといじめたくて、彼女の顔横にそっと耳打ちすると、「ほら」、と器用に頭で彼女の後頭部を前方へと押しやり、同時によく見えるよう彼女のお腹と自分の腕の間に隙間を作って見せてあげた。
…カクンと前に垂れた頭が、そこを覗き込む形になる。

「……あっ……うあ、あ……ぁ……」
予想以上の凄い有様に、彼女の瞳が恥辱に染まった。
秘裂から溢れ出した液体は今や粘りを増して白く泡立ち、それが股間だけでなく太腿、引いては彼女のロングソックスの上端までをもベトベトに濡らし張り付かせている。
そんな中心で、レシィの中指がじゅぷじゅぷといやらしい音を立てながら埋まっていた。
(…も、もう入らないよぉ……入らないってばあ……)
付け根の所まで潜り込んでいるのに、それでもまだぐいぐいと彼女の中に押し入ろうとしてくるその貪欲さに、ユエルは羞恥と陶酔の綯い交ぜになった気持ちを感じ、そして、それが中でどういう風に暴れているのか、彼女はしっかり判ってしまうのだ。

狭い空間の中で空気と液体が混ざる、誤魔化し様の無い大きな音。
こじ開けられた隙間から指を伝う濁り蜜は、プチプチと小さく泡立ってさえいて。
時折飛ぶ細い飛沫がソックスや恥毛を濡らす様は、彼女には酷く汚く見えるのに。

「ね? こんなにエッチなお汁出しちゃって。…やらしいけど、すごく綺麗で。まるでルシャナの花みたいですよね?」
レシィはそう言って、手の平の部分で彼女の肉芽を包皮の上から強く撫ぜる。
「…そ…そんな事…ない、…ユエル…汚い……、…きれい、なんかじゃっ……」
彼の手に絡まった蜜がぬちゃぬちゃという音を立てるのに耐えかね、ユエルは懸命に目を逸らすのだが。
「汚くなんかないです」
胸を揉んでいた方の腕を伸ばして、そんなユエルの薄白蜜を指に一掬い、わざわざ顔を反らした彼女と目線を合わせて、ペロリと口に含んでみせた。
いつもと変わらない、どこか他人を安心させる穏やかな表情。
ただ、その瞳だけが。彼女にさえそう見えるほどに、淫靡だ。

そして秘所を中心に広がる、白みを帯びた透明のぬめりは、青白い月明かりに輝いて、確かにあの水晶のような花弁を持つ花に似ていて。
…少なくともレシィにはそう見えたし、こんな幼い、男の味とは無縁に思えるこの少女が、こんな花を大輪に咲かせている様は、酷く妖艶で美しく見えた。
だが、そんなものすごい台詞を平然と口に出し、普段の彼からは考えられもしない大胆な行動を取る自分を、レシィは少しも恥ずかしいとは思わなかったが、…代わりに自分の『おとこ』としての本性を、これでもかとばかりに軽蔑していた。

弱気なユエルや、泣きそうなユエル、必死で喘ぎ声を堪えているユエルを見ると、頭の中が真っ白になって、羞恥心や倫理観を司る心が全部吹っ飛んでしまう。
普段の元気一杯で強気なユエルもレシィは勿論好きだったが、
そんな平素とのギャップもあって、今の彼女はいつにも増して可愛らしく、しかしどこか硝子の様に儚げで、どうしようもない庇護欲と劣情を彼の裡に喚起する。

…まさか、ここまで酷いとは。…正直思っていなかったのだ。
征服欲とか、支配欲とか、独占欲とか。
そんなの自分には縁の無いものだと、少し前までは本気で信じていたのに。

現にほら、今彼は、彼女に隷属の証を立てることを強要している。
「すごいですねぇ、…これならもう一回くらい、指だけでイっちゃえるかもしれませんね」
本当は痛いくらい勃起してて、今すぐにでも彼女の股座にねじ込みたいのを我慢して、そ知らぬ振りしてわざと彼女にそう言った。
さっきから自分のモノにしきりにユエルのお尻が擦り付けられて来ている事や、指を咥えたあそこが切なげに擦り合わされるのを知っていて、だ。

「…っ、ああっ、……も……もうやだ、もうやだあぁっ!」
一際強い腕の力で胸を押し潰されながら、とうとう耐え切れなくなって彼女が叫ぶ。
昨日よりもずっとずっと、壊れやすくなっているのが判る。

「入れてっ! 入れてよぉっ! …もうユエル…ひとりで気持ちよくなるの…やだ…ぁっ。レシィと、一緒に…気持ちよく…なりたい、の…、気持ちよくなって…欲しいのぉ…っ!」
…でも、僕ももう十分気持ちよくなれてるんですよ、とは教えてあげない。

「そんなに一人でいくの、嫌なんですか?」
「……ウン…イヤ…嫌なの…っぅ、ん、ふっ、レ…レシィの、ないと…寂しいんだよぉ…」
情けない話、彼も下穿きが先走りに濡れ濡れで。
本当は冗談抜きで、このままじゃ入れない内にズボンの中に出しちゃいそうだったが。
…そこは、ぐっと堪えて我慢する。

「…へぇー、そうですか」
男だったら判るだろう。
やっぱりこういう事に不慣れな女の子の前では、自分の方が余裕なように見せたい。
馬鹿みたいだと言われても、それでも頼もしく、手馴れてるように見せたいのだ。

「じゃあユエルさん、そんなに僕のおちんちん、あそこに入れて欲しいんだ」
『おちんちん』だなんていう幼稚な言葉に、過剰なくらいビクッと反応するユエルが可愛い。
なにせペニスどころかセックスという言葉の意味さえ知らない彼女だ、そりゃ、あのニブチンさも、『一緒に寝よう』発言その他の大胆不敵さも頷ける。

…でも、だったら、『判るように』言ってあげれば良いだけの話で。
「自分のおしっこする所に、もう僕の指こんなに突っ込まれちゃってるのに、物足りなくて。もっと太くて大きくてあっついので、ドロドロになっちゃったそこ、かき回して欲しいんだ」
「…や…あ……ぅ…」
これ以上ないというくらい直接的な言葉に、乾きかけたユエルの目尻に水滴が滲む。
――楽しい。

「グチャグチャのズルズルにされて、おかしくなっちゃうくらいゴリゴリゴツゴツされて、オルフルじゃない男の子の赤ちゃんの素、一杯奥まで出されちゃいたいんだ、へぇ〜」
「……う…あぅ……うふっ…うっ、あ…あ……」
蔑むような彼の口調に、ぎゅっと閉じられた彼女の瞳の端から、水滴が滑り落ちる。
――楽しい。楽しい。楽しい楽しい楽しい。

「あはははははっ、まるで盛りのついた雌犬さんですね、知ってますか!? ユエルさん位の歳でもう赤ちゃん欲しいって思うのって、すごく普通じゃない事なんですよ? そんな事考えるだなんて、普通じゃない位エッチな女の子だっていう証拠なんですよ!?」

そして、そんな彼女と開き直って、この歳で子作りに励もうとしてる自分はサイテーの、どうしようもないケダモノヤローだと。
彼女をいじめて泣かし、いつも自分を振り回す側だった彼女を組み敷いている事に、彼の太陽だった彼女を汚している事に興奮してしまっているゲスヤローなのだとは思うけど。

――でも、それがなんだと言うのか?
「でも判ってます、僕だけですよね? 僕が相手だからそう思っちゃうんですよね?!」
仕方が無いじゃないか、好きなんだから。
自分は真面目君でも、淡白でも、聖人君子でもない、ごくごく普通の男の子である。
征服欲があって、独占欲があって、サイテーなケダモノで、何が悪いのか。
それだけ彼女の事を好きなんだから、愛してるんだから、仕方ないじゃないか。

「…大好きですユエルさん。世界で一番愛してますっ、僕の大事な大事なお嫁さん!」
単純な話、好きだと言っても伝わらないから、愛してるという言葉を使う。
彼女が鈍く、そう言ってあげないと伝わらないから、そうするだけ。
「誰にも渡さない、絶対誰にも渡しません。ずっと僕だけのものですっ!」
遥か昔に忘れていたものが戻ってきたような気がし、自分に何か欠けていたものが、ピッタリと嵌まったような錯覚を覚え、……そして彼女が、とてもか弱くて、守らなければいけない存在に思えてくる。

オルフルである彼女に対し、メトラルである自分がそう思うのも、おかしな話だが。
…でも昨日、彼は知ってしまったのだ、今まで知らなかった事を何もかも。
ずっと自分より強いと思っていた彼女が、実は自分よりもずっと弱かった事を。

彼女が可哀想だった。
産毛に包まれた耳にかぶりついて、甘噛みしながらくちゅくちゅと啜ってあげると、綺麗なソプラノの悲鳴を上げて、彼の指と絡み合った秘裂から
ぴゅっ、ぴゅっと細い霧雨を飛ばすユエル。

そんな自分に、おそらく本能や誇りから来るのであろう、生理的な羞恥心を感じ、同時に発情期を迎えて、すっかりおかしくなってしまった肉体にたじろぐ彼女の。
恋愛小説の一つも読んだ事がなく、閨房の所作を知らないどころか、『セックスって何?』と真顔で聞いてくるような彼女の、一体何が強いというのか。

彼女のほっそりとした手を手に取れば、それが恐ろしく白く華奢で……けれど指先に小さな、硬く、鋭く、分厚い爪を持っているのが判る。
三大戦闘部族の名に恥じない、鉄爪よりも硬く鋭いオルフルの爪。
本来ならば自分なんて、やろうと思えばいくらでも殺せるはずの、強力な武器だ。

…でも彼女がこの爪をあまり好いていない事を、レシィは実は知っている。
あれほど健康的な彼女の両手が、こんなに白く日に焼けていないのは、彼女が普段、ほとんど爪隠しの為の手袋を外さないから。
本来なら楽々彼の喉を掻っ切れるはずのそれが、せいぜいきつく握り締めた時に食い込む程度の威力しかないのは、毎日彼女がヤスリをかけて丸めているから。

…何度か朝早く、彼女が金やすりで必死に爪を丸めているのを見た事がある。
そんな時の彼女は普段とは別人の、何かに追い立てられるみたいな鬼気迫る表情で…………その度にレシィは声をかけようとし、でも結局いつも出来なかった。

騙されていたとは言え、それでも彼女は両手に余るだけの数の人間を殺めている。
いくら『貴女は悪くなかった』と言われても、彼女はそうやって割り切れるほど賢くもないし、変えられない過去だと忘れられるほど現実主義者でもない。
……自分なんかが気安い慰めの言葉を掛けるのも躊躇われて、何も言えなかったのだ。

(…強い? はっ、そんな女の子がですか?)
可哀想、というよりは、怒りに似た感情を覚えながらレシィは思う。
そんな彼女を強いと思って憧れていた自分や、そんな彼女を強いと褒め称える人々に。

突出した部分があれば、その分劣る部分もある。
驚異的な瞬発力と、鋭い爪と牙、『命を狩る事』に関してはずば抜けて突出した彼女は、おかげで裁縫や洗濯など、細かな手先を使う仕事に四苦八苦しなければならない。
なにより自ら昂ぶりを慰める事すら、普通の人間と比べたら満足に出来ない。
彼が今してあげているように、深々と指を差し込んで激しく動かすなんて、不可能なのだ。

それが判ってしまった瞬間、レシィもう、彼女を『強い』とは見れなくなったのを感じた。
自分の腕の下で力無くすすり泣く事しかできない彼女を見た時、何かが壊れた。
『子供の作り方』は本能で判っても、『愛し合い方』は全く判らない彼女を見て…………温厚な彼にしては、らしくないのかもしれないが、でも腹が立って仕方がなかった。

(…ユエルさんは、道具じゃないです……!)
よく切れる刃物でも、ただ漫然と生きて子供を産んで死んでいくだけの存在でもない。
…戦闘部族のオルフルだからって、ほんの少し生き物を狩る事が得意だからって、他は自分と何も変わらない、悲しんで、悩んで、恋する事だって出来る女の子なのだ。
そんな彼女の、一体どこが自分より『強い』というのだろう。

(……認めるもんか、そんな強さぁっ!)
たまたま戦いの得意な身体に生まれて来たせいで、故郷や仲間と引き剥がされ、散々利用されて、悲しい目にあって、幼い身体に陵辱まで受けて。
…そんな彼女が、自分より強かったりしちゃダメなのである。
もう強くならなくていいんですよと、言ってあげたかった。代わりに自分が強くなるからと。

…そう思ったら、後は口も身体も勝手に動いた。
普段絶対言えないような恥ずかしい台詞だって、すんなり言えた。

戦いは得意な彼女でも、性の分野に関しては年齢未満の拙い知識しかない。
自分も決して経験豊富とは言えないが…、でも彼女は、それ以下だ。
だったら、今こそ自分が彼女の手を引いてリードしてやるべきだと、そう思ったのだ。

「…きゃっ、…く……ふ……」

ちゅぽんっ、とコルク栓を抜いたような音と共に指が引き抜かれ、結果的に支えを失ったユエルの体はそのまま前につんのめりそうになる。
だが片手を掴んだレシィがそれを引っ張り上げて抱えなおすと、指を抜かれたばかりの泉の中心に、つぷっ、と、何か熱いモノが触れるのが判った。
(…ぁ……はぅ……)
ぼんやりとした視界の端に、いつの間にかズボンを脱ぎ捨てたレシィが、足に引っかかったそれを乱暴に蹴っ飛ばして放るのが見える。
普段着衣を脱ぐ時は、几帳面と言ってもいいくらい必ず畳んで重ねる彼が、まるで自分みたいな荒っぽい服の脱ぎ方をするのが、妙に印象に残った。

(…これ……欲しい…)
入り口に当たる、指よりもずっと熱くて太いモノの感触だけで、背中に寒気に似た感覚が走り、あそこが一層じゅん…っと熱く熱を帯びる。
あれだけ湧き出しておきながらまだ奥から溢れて来ようとする蜜も、自分の背中と彼との間で物欲しげに踊るはしたない尻尾も、もうどうでもいい。
すぐにでも腰を落としてそれを奥深く迎え入れたい衝動に駆られる。
…いや、仮に彼女がそれを望まなくても、もうすっかりガタガタになってしまった彼女の腰だ、支えるレシィの手さえなければ、とっくにそこに沈んでいただろう。

でもレシィはユエルの腰を両手でしっかり掴むと、接するだけの状態を保ったまま、例によって実に愉快そうに、ねめつけるように彼女を眺める。
そしてそのまま……先っちょの部分の半分だけを、ユエルの中に出し入れし始めた。

(…ひぁ……)
クチュクチュと、出入り口の部分だけを何か熱くて質量の大きな物が動く感触。
極限状態で迎えた、これまでにない最悪のじらし方に、もうユエルは。

「…ふ…ぁ……や、やらぁ…やらああぁぁ……」
口に溜まった唾液を上手く飲み込めないまま、哀願するようにレシィを見る。
それだけだったが、でもレシィにとっては、それで十分だった。
そこにはもう、オルフルとしての誇りも、彼女個人としての尊厳も無い。
「…いい子ですね、ユエルさんは」
その瞬間、彼女が完璧なまでに『堕ちた』のを確認して。

「――――――ッあんんんんん!!」
「……っ」

ずるん、と思いのほか一気に入ってしまったそれに、顔を上に向け仰け反ったユエルが息の詰まった嬌声を上げた。上への突き上げと下への自重の両方が重なったせいで、彼の熱くて固い物が膣壁を擦り上げながら勢い良く入ってくる。
待ち望んでいた、レシィのモノで自分の中が強く押し広げられる感触に。
強烈な刺激への悲鳴の内に半分、抑えようのない歓喜の声が入り混じった。

それはレシィの方も同じであって、昨日のキツいというよりは全ての侵入者を拒むかのような閉塞感が頭にあるだけに、この顔パスぶりには意表を突かれた。
押し殺し切れなくてちょっと呻き声を上げてしまったのがユエルに聞こえなかった事を祈りつつ、ずるずると後ろ背の壁に沿って座り込む。

(……はは、…ちょっと…時間、かけすぎちゃいました……)
前戯に時間を掛けすぎて、入れた途端に辛抱堪らず、なんてなったらお笑いだ。
奥まできっちり入ったのを確認し、込み上げる射精感を抑える為呼吸を整える。
今動いたら、数往復もせず達してしまうだろう。…それはちょっと避けたかった。

「…ん……んふっ、んくぅぅん……れしぃ…れしいぃ……」
ちょうど彼を座椅子にするような格好で、鼻を鳴らしながら体を擦り付けて来るユエルの頭を撫ぜる。二人の間で窮屈そうになったユエルの尻尾がもぞもぞと動き、着たままの彼の上着に甘えるようにばふばふと絡まっていて、他方、彼の尻尾は未だにベシベシと硬く逆立ちながら、床を叩くのを止めようとしない。
(……そんなに僕…、いきり立ってるんですかねぇ…)
ふわふわと高揚した気持ちでそれを見つめて、レシィはユエルの体を強く抱きしめた。

「……そんなに、……いいんですか…?」
「うんっ、いい、いいのっ」
開き直った、というよりむしろ、度重なり加えられた容量限界以上の恥辱と快楽に、それらを感じる部分のヒューズが飛んでしまった、というのが正しいのだと思う。
いいよお、と繰り返しながら身体を自分に擦りつけ、実に淫らに蕩けた顔で荒い息を繰り返す彼女は、喩えではなしに、まるっきり盛りのついた雌犬そのものだ。
……いや、実際『盛って』はいるのだが。

「……ユエルの中…レシィの形にぴっちり広げられちゃってて…、
レシィの熱いの、いっぱい入ってるの判るから、嬉しいの……」
汗ばんだ肌をほんのりと桜色に染めて、とろんとした眼で自分を見てくるユエル。
そんな彼女を、本当に美しい生き物だとレシィは思う。
幼くも穢れを知らなかった彼女に、この若さで男に抱かれる悦びを教えてしまったのはアレだと思うけど、でもそれをしてしまったのが自分だと思えば、嬉しさは隠せなかった。

植えつけられた恐怖を拭い去られたせいなのだろう、
昨日はどこか硬さと強張りがあり、かすかな痛みを感じるほどだった肉筒の窮屈さが、今日はより一層の温度と潤度を増し、強く吸い付くような、絡みつくような、それでいて出入り口部分はぎちぎちと締め付けが強く、気持ちいいのに射精感が遠のき。

「……誰にも、渡すもんか……」
「…ひゃぅっ!?」
うわ言じみた熱っぽい声と共に、ちゅむ、と自分の耳が温かいものに包まれて、ユエルは貫かれたままの身体をわずかに丸く竦ませる。
「…あ……はう…あぁぁ……や……っ」
先程同様肉厚の薄い先端部分を、ちゅくちゅくと音がするくらいに啜り弄られる。
甘噛みされて、舌で産毛に唾液を絡められ、時折それが尽きて、自分のそれと同じザラザラとした感触が当たったかと思うと、しっとりと濡れた所で、強く強く啜られる。

…ほんと言えば、ユエルは耳や尻尾を触られるのが、あまり好きではない。
彼女じゃなくても、全ての亜人にとってそれは同じだ。彼らはぬいぐるみじゃない。
ただでさえそこは細く薄く、たくさん血管が集まってる場所なんだから、強く握られたり引っ張られればとても痛いし、乱暴にされれば激痛も走る。
何よりそこを気軽に触られるのは、お尻を撫でられたり胸を触られたりするのとほとんど同じに捉えられている。…つまりは、『せくしゃるはらすめんと』、なのだ。
だが、愛する人にされるんだったら、それはまた別の話で……

――『アイスルヒト』?

「…一生、僕のだ…!」
寸暇、口を離して強い調子でそう言うと、こんどはもっと大きくかぶりつく。
「ひぃぃんっ!!」
噛み締めようとした奥歯が緩んで、大きすぎる声が出る。
全身を走る粟立った感覚に、それでもどこかに飛んでしまうような不安感がないのは、今は縋りつく為の楔を、強い安心感の源を足の間に得ている為であって。

――『アイスルヒト』?

今度は確かな錨を得たユエルの思考が、その一点で歩みを止める。
…『大好き!』ならいくらでも気軽に言えるのに、『愛してる』は気恥ずかしくて言えない、ユエルという少女は、つまりは典型的なそういうタイプの女の子だ。
恐ろしく幼稚で鈍感だが、だからこそ恋に恋する女の子、将来の夢は『お嫁さん』。
…だけど『大好き』と『愛』、『likeverymuch』と『love』の違いがまだよく判っていない、そういうお年頃の女の子なのだ。――いや、だった。今の瞬間までは。

優秀不断だし、引っ込み思案だし、気弱で押しに弱いし、怖がりだし、泳げないし、心配性で、物事を深刻に考えすぎる癖があって、喧嘩や暴力沙汰は大の苦手で、すぐ泣く、なんとも情けない、女の子みたいに可愛らしい容姿をした男の子だが。
……でもとても優しい、優しすぎるくらい優しい男の子。
それがユエルの、レシィに対して、これまでに持っていた印象だ。

知り合いの男の子の中では、歳も近いし、同郷という事で親近感も沸く『お友達』。
性格も嫌いじゃなくて好ましい……どころか、かなり好きだけれど、でもその程度。
もしも将来結婚するならレシィがいいなあと願いはするし、もしも嫌われたら、軽蔑されて一生口聞いてもらえなくなったら、きっと自分は耐えられないだろうと思いもするけれど、それでもやっぱりその程度。
…要するに彼女がレシィに抱いていたのは、実を言うならそんな『子供の好き』、おこちゃまの好きだったわけである。――つい昨日までは、だが。

まあ、しかし別に、それは咎められるような事でもない。
『ものすごく相性も仲も良い一生物の異性の親友』と、『愛する人』の違いは何か、パッと聞かれて即座に答えられる人間は、大人にだって少ないだろう。
ましてやユエルみたいな未だ精神の幼い、それでなくてもこういう性格の女の子に、その違いを正確に把握しろというだに、無理がある。…全く未知の領分なのだから。

ユエルはレシィの事が大好きで、優しいのが嬉しくて、時々それに泣きそうになるくらい嬉しくて、とても彼の事が大好きだったけど、でもその程度だった、それだけだ。
――ほんの、24時間前までは。

「…それじゃ、動きますから…」
高熱に浮かされているみたいな――レシィってこんな顔も出来たんだとユエルが驚くくらい――色っぽい表情で彼がそういう声に、彼女の心が重く震える。
独特の掠れた声に耳元で囁かれるせいで、なんか耳がピリピリして、脳が痺れる。

「…苦しいなら、好きなだけ鳴いて。…どうせ僕しか聞いてないから」
あの普段のぽけらっとした顔を、どう動かせばそこまでの表情に変えれるんだ、という位いやらしい表情を浮かべて嗤うが、それでもそんな下卑てるはずの表情まで、氷の彫刻みたいに綺麗なのは、反則だ。
…もうドキッとするどころじゃない、心臓が破裂しそうで、眩暈までした。

「…うっ、ああっ!? ふあっ…、あはぁぅっ! ぅあっ、はっ…、ぃっ、ぃっ!」
ぐっ…と腰を引かれると、途端にもの凄い感覚が全身を走り抜けた。
あまりの心地良さにすっかり忘れていたけど、レシィは入れる時よりも抜こうとする時の方が何倍も凄い。…傘みたいな形で、硬く、とっかかりがものすごく、ゴリゴリって音がしそうなくらい擦れて、ぐりぐり押し広げられながら下がっていく。
その度にあそこ周辺の筋肉が痙攣し、声を抑えるどころの騒ぎではない。
男の子の『ここ』の形状は亜人内でも部族によって若干違い、長かったり、太かったり、硬かったり、曲がってたりするのだと、レシィが言っていたのをぼんやり思い出した。
そして曰く、自分達のを端的に表現するなら、『女泣かせ』『陰険』の一言だと。

「やああぁぁぁ…、熱い…熱いぃっ! 熱いよぉっ! …んっ、あはっ、くぅ…っ!」
前には比較的軽く進む癖に、後ろに引き抜かれる時にもの凄い抵抗がかかるから、ついつい怖くて前に逃げる。前に逃げるからますますぴったりくっつく羽目になり、ぴったりくっつくからますます深く繋がる羽目になる。そうなってしまうのが判ってても気持ちいいのが強すぎて、それをもっと柔らかな物にしようと腰が勝手に前に動く。
気がつけば自分から、一番奥に彼のものを押し付けてる。逃げられない。逃げれない。
苦しくない苦しさ。…例えるなら、身体を押さえつけられて『くすぐりの刑』をされる時のあの感覚を、快感に変えたらこんな感じだろうか。…死んじゃいそうな位、気持ちいい。

「あうぅぅぅぅんっ! いい、いいっ、いいよぉっ! あっ、来ちゃう、また来ちゃうぅっ!」
ふいに思い出して、ありったけの声でユエルは吼え、叫んだ。
お腹の中や胸に溜まったぐるぐるのもやもやを、全部吐き出してしまうかのように。
そうする事で、彼女の中で暴れ回っていたものがずっと大人しくなり、反発していた物同士がこなれて、角が取れ、落ち着いていくのがよく判る。

「おっきぃの来ちゃうよぉっ! …あはっ、ぁっ、ぅ、わ、わうぅぅんっ、わうぅぅうぅううん♪」
…何て事ない、必死に歯を食いしばって、声を押し殺そうとしてたから辛かったのだと気がつき、喜び、尾を振る彼女の頭の中には、もうどうして今まで彼女がそういう風に耐えてこなければいけなかったのか、その理由を考える余裕は残っていなかった。

そんな自分を、まるでいけない子でも見るような、蔑みの目で見つめるレシィの眼差しすら、今は心地良い。今にも食べられちゃいそうな。…否、全身で自分の事を食べようとしてるのが判る、まるで肉食獣みたいな、獲物を狙う獣の目だったけれど。
…そんな強く鋭い目で見られるのが嬉しく、素敵で、心臓のドキドキが止まらない。

彼女が抵抗したり逃げたり出来ないよう、両膝と腰を使って
ユエルの腰をガッチリ挟んで押さえつけて来る彼に、うっとりしてしまう。
(…あ、やだ……やめてよレシィ、そんな目でみないでよ……)
自分の赤ちゃんの素を、一滴も漏らさず彼女の奥の所に注ぎ込もうとしてくるレシィと、それに為す術もなく、身動き取れない自分という構図に、全身に甘い何かが走る。
(…そんな目で見られたら…、そんなかっこいい目で見られたらユエル……)
この人の子供が欲しいと思う。他の誰でもない、この人の子供が。
いい男。若くて強く逞しい雄。結構な掘り出し物。誰にも渡さない、自分だけの彼。
(ユエル、レシィの事もっと、好きに、好きに、好きに……)

「きゃぅうぅぅ、きゃうウウンッ、きゃぃイイん、きゃぃいイイイインッ♪」
嬉しいと言葉で叫ぶよりももっと直接に、嬉しさを表す鳴き声が口から飛び出る。
長く強めのストロークが、あっという間に短く激しいものに変わりだす。

…と、レシィの腕が、懸命に彼の服の裾を握るユエルの手を乱暴に掴み、唐突に二人が繋がっているその部分へと導いた。
その動きに驚き、思わず一瞬レシィに目を合わせるユエルだったが、でもそれによってすぐにレシィが何を言いたいのかを理解する。

――自分に自信を持とうとしてくれないレシィが、彼女は嫌だった。
『とても仲の良い異性の親友』の位置に彼が留まり続けてたのもそれが理由だろう。
すごく優しく、優しすぎる程優しいが、でもどうにも卑屈で消極的で。
もっと胸を張っていいのに、怒ったっていいのに、強気になってもいいのに。
本当は強くて凄いのに、それを心の奥に押し込めてしまってる彼が。
ちっともその事に気がついておらず、認めようともしない彼が、嫌だったのだ。
…これで彼が、誰から見ても文句なしの『おとこのこ』だったらと、心の、どこかで。

あまりにも強過ぎて、角を切らなきゃ幼い体が持たなかったほどの獣魔。
彼が本当は自分よりもずっと強い力を持っている事を、同じ獣のサガを持つ者同士、詳しい事情は知らなくても、ユエルは潜在的なところで感じ取っていたのだろう。
それを彼女は、レシィがそれだけのものを持っていながら、事ある毎に自分を低く持っていきたがるのが気に入らず、本人がどれだけ必死にそれを忘れて眠らせようとしていたのかも知らないで、不用意に近づき、すり寄り、ペチペチ叩き、刺激して……

……『何もここまで強気ならなくても』、と思ったところで、もう手遅れだった。
もうちょっと控えめに強気になってくれるだけで良かったのになんて、今更言えもしない。

(……あ、で、でもどうしよう……ユエル……)
いつもとは逆に、完全にレシィのペースに巻き込まれて、押し流されて。
気圧されて、押さえつけられて、手足に力入んなくて、たくさん弄ばれちゃって。
いざ振り回す側から振り回される側になってみれば、それが悔しくて、でも嬉しくて。
強引さに、ちょっと乱暴なところに、ケダモノっぽいところにときめいちゃって。
レシィに服脱がされるのや、レシィの手で胸揉まれてるの見てドキドキしちゃって。

(…ユ…ユエル……もしかしなくても、レシィの事……)
レシィにだったら乱暴にされてもいいって……否、もっと乱暴にされたいと、思う。
恥ずかしい事、いっぱい言われてしまいたい。二人でもっと、恥ずかしくなってしまいたい。
もっともっと、凶暴で、獰猛で、エロエロで、だけど立派に『おとこのこ』な、レシィが見たい。
この人の傍にいたい。愛されたい。離れたくない。もっと、もっと近くに。
近づきたい。近づけるだけ近づきたい。くっつきたい。一つに、二度と離れなくて済む程。
そうやってドロドロに溶けてしまって、二人で、二人で、二人で、二人で。

(……レシィの事……あ、愛し…ちゃっ、て、る?)

「うぁ…っ、うあああああぁぁっ! レシィ、レシィ、レシィ、レシィっ、レシィぃっ!!」
ずちゅずちゅと、これ以上ないほどに激しく出入りを繰り返し行くレシィ自身と、自分でも驚く程に広がり、水滴を飛ばしつつそれを飲み込む自分自身を見つめながら、レシィの根元を両手で抱えるようにして、ユエルはその瞬間が来るのを待った。
くっついた二人に挟まれた彼女の尻尾が、狭さに満足に振れる事が出来ず、左右に暴れる。
「すきぃ…、レシィ、すきなの…、レシィぃっ! だいすき、だいすきいぃっ♪」
もうじゅぷじゅぷという音も、飛び散る飛沫が自分の靴下とレシィの上着を汚すのも、これから来る高みが怖い位に大きい物みたいだという事も、最早どうでもよかった。
ただただ今と、そしてこれから来る一瞬をより強く受け止める事だけが全てで。
…レシィが何か叫んだのが判ったが、もう耳に聞こえても頭が理解できない。

「あはっ、あっ、ユっ、ユエル、ユエルもうっ、もうダメ、もうダメえぇっ、おねがいっ、きて、きて、きてぇっ、きてええぇーー――――っっ!!」

その瞬間、ピィンと音がする程ユエルの尻尾がまっすぐに突き立つ。
ぐぃっと太腿の裏を抱きかかえられるようにして強く腰を引き寄せられると、自分の両足が虚しく宙を掻く感触、半分持ち上げられるような格好にされ。
そうやって一気に、一番奥まで一度に押し込まれて、ユエルは絶頂に達した。
……いや、達し始めたというのが正しいだろうか。

(ひっ…?)
白い無音の世界の幕開けの中、ぎゅぅっと締まる自分の下で、ふいに手の下、レシィの付け根がビクンと震え――

「んぁっ!?」
至近距離から、勢いよく水鉄砲を食らったような感触だった。
ばちゅん、と、何か熱いものが一番奥で爆ぜる感覚に、限界まで仰け反っていると思われていたユエルの身体が、更にもう一段階向こうに仰け反る。
何か自分の体温よりも温かい、熱くてドロッとしたものが身体の奥にぶつかってはじけ、そこの所にべったりと、引っ付いてしまったような感覚があり。

「あっ? あっ!」
回を負うごとに弱くなりはしたけれど、似たような感覚が彼女の最奥を襲う。
レシィのビクビクに反応して、自分のあそこも面白いように締まるから、よく判った。
彼の熱いドロドロが次々に吐き出され、勢い良く自分の奥にぶつかって爆ぜるのが。
比重の軽い自分の蜜が、痙攣の度に押し出され、ぴちゃぴちゃ音を立てて跳ねるのが。
……そうしてその度に、もう十分なくらいの高みに達してるはずなのに、ますます高い所に、小刻みに押し上げられてしまう自分がいる。

「…あっ、あっ…、あっ……、…あはっ……」

彼女はそれが好きだった。
今までの数度の経験から、どちらか片方だけが気持ち良くなるよりも、一緒に気持ち良くなる方が、ずっといいと。
その方がお互いのヒクヒクを二人同時に感じられるし、それが何倍にも気持ちいいのを増幅すると、気がつき始めていたからだ。

何よりもそうする事で、より強く彼を受け止めていると、彼が自分の中に入って来ていると、感じれるのが大きかったと言える。

「………ぁっ……は、…はぅ……はぅぅ……はぅウゥゥぅ……」

もうだいぶ弱くなったレシィの痙攣と共に、でもまだ少しずつ、じんわり広がるもの。
水飴みたいにベタベタドロドロした、熱くて、暖かくて、密度も濃いもの。
(……これ……好きぃ……。…レシィの……暖かいの……)
それで自分の中が満たされる感触が、ユエルは好きだった。
…だってそれは、要するに彼の一部を、自分の中に流し込まれてるという事で。
そう思う事が、どうしようもなく彼女を幸福な気分にしたのである。

すごく汚い事でも、レシィとするんだったらちっとも汚く無さそうに思えた。
仮に汚いのだとしても、他の相手ならともかく、レシィにだったら汚されてもいいと、今の彼女は思う事が出来き…、…むしろレシィにだけに汚して貰いたくて。
早くレシィ一色で塗り潰されてしまいたくて、堪らなかった。
…そうなったらきっとすごく幸せだろうと、何となくだったが思えたのだ。

「…………すき………すきぃ………」
いつの間にか正調を取り戻した視界に、ペタンと床に降ろされる自分の足が映る。
汗だくで抱き合ってても、二人の腰の間に粘液のぬるぬるした感触があっても。
自分の股の間に、何かゼリーみたいなどろっとするものが挟まってる感覚があっても。
嫌悪感を感じるどころか、むしろその相手の体液の一滴一滴が、愛おしい。

「……すきなの……レシィ………アイシテルの………」
うわ言みたいに呟いた言葉に、レシィが彼女の肩にかぷりと噛み付く。
柔らかく甘噛みされるその感触が、彼の返事代わりならしかった。

肩で息をする二人の下で、きっちり塞がれた二人の結合部から、ようやくマシュマロ色の雫が一筋、染み出すみたいに滲んで零れ落ちる。
前髪から滴る汗が、今更みたいにつややかな床を汚していた。


【 続 】

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