レックス×パッフェル・1



「後は島に帰るだけ…って思ったんだけどなぁ」
ベッドに寝転がって、レックスは今日の出来事を思いだす。
………思い出す必要も無いぐらい、強烈な出来事だったのだが…。


パッフェルがレックスに会うなり抱きつき、周りの女性陣が騒然となったのだ。
「レックス、誰なのその人!?」
「ひ、酷いです…レックスさん」
「ぶーぶー、先生から離れろー」
男性陣の方はというと…
「やっぱ先生はもてるねぇ」
「まったくです」
「んふふ、まぁ、それで苦労するのはセンセだけどね」
当のレックスは…正直何がなんだか、といった風情で頬を染め、動転している。
「ちょ、ちょっとあの、君、えと、その誰なのかな?」
首に縋り付くパッフェルを、冷や汗を流しつつ見る。
どこかで見覚えがあるような、そうでないような。
ただ、自分の胸板に当たるふくよかな感触のせいで、正常な判断が取れなくなってもいるようだ。
そんなレックスを見上げ、パッフェルは目を潤ませ何も言わない。
それどころかますます腕に力をこめ、てこでも放れないぞ!と主張している。
周りの目も気になるし、後でどんな目にあうかと考えると、正直鬱になるレックス。
そんなとき、今まで喋らずにしがみ付いていたパッフェルがポツリと呟く。
「………覚えて…くれてないんですか」
「え?」
それは、あまりに小さい声で、レックスは聞き返す。
「私はこんなに………思ってたのに…覚えてくれてないんですね」
「君、俺に会ったことがあるの?」
パッフェルは何も答えず、レックスにしがみ付いていた腕を放し、うな垂れる。
周囲の人々も、雰囲気に気圧され自然と黙る。
が………
「先生の昔の女、か?」
「いやしかし、先生は何年も島にいるのですから、おかしくありませんか」
「わからないわよう。ああ見えて、少女趣味なのかも」
この三人は、なにやら好き勝手言っているようだ。
流石にこのままってわけにもいかないよな〜と、レックスが考え始めた時、
「はーいはいはい、皆さんお久しぶり〜」
ぱんぱんと手を鳴らしつつ、チャイナの人が現れた。
「め、メイメイさん?」
「おひさしぶり、せーんせい」
あの頃と何一つ変わっていないメイメイを前にし、レックスもあーとか、うーとか唸る。
「あのね、その子はね、せんせいに会いたい一心で、ここまで来たのよ。それを何、『誰?』なぁんてリアクションする男がいるのよ」
「いや、けど、覚えがないというか…確かにどこかで会ったような気は、その………するんですけど」
レックスはメイメイに問い詰められ、たじたじとなる。
「そのこの名前はねぇ…」
「やめてください!」
先ほどまでうな垂れていたパッフェルが、突然大声を出した。
パッフェル自身が、そんな大きな声を出したことに驚いた顔をしている。
だが、またすぐにしゅんとなり、
「………やめてください、メイメイさん…」
そうパッフェルは俯く。
ふぅとメイメイは溜息をつくと、ぽりぽりと頭をかく。
誰に言うでもなく「仕方ないわねぇ」と呟くと、いきなりレックスの肩をバーーン!と叩く。
「それじゃ、この子の事よろしくね」
「よ、よろしくって!?」
「島に連れてってあげてよ、今帰りなんだけど」
「か、帰りって?」
「いーからいーから、島の皆ももう知ってるからさ」
「あ、ちょっとメイメイさん!」
じゃあねーんと、チャイナの人は向こう側の船に帰ってしまう。
その場には、唖然とするレックス、俯くパッフェル、そしてそんなレックスをじと目で睨むファリエル、アルディラ、ソノラ。
そして、やれやれと持ち場に戻るカイル達。


「あの後、皆の目が痛かったなぁ…」
昼間のことを思いだし、はぁーーっと溜息をつくレックス。
「でもあの子…どこかで見た気はするんだけど…」
天井を眺めながらぼんやりと考え込んでいたが、ドアをノックする音で思考は中断する。
「はい、開いてるけど」
扉の向こうからの答えは無い。
怪訝に思ったレックスが、ベッドから腰を挙げようとした時、その声は聞こえてきた。
「………あの…」
普段の彼女を知っているものからすれば、驚きに値するほど、その声は弱く儚い物だった。
少しだけドアが開き、そこからパッフェルはじっとレックスを見つめる。
「あ、ええと、どうぞ、入って」
あわあわと、しどろもどろになりながらも、レックスはパッフェルを招きいれた。
椅子を勧め、自分はベッドに腰掛けた姿勢のまま、レックスはパッフェルの表情を覗き見る。
が、レックスはパッフェルの顔を見ただけで、昼間抱き付かれた感触が蘇り、思わず赤面してしまう。
「あ、その、えっと、なんの用…かな?」
「用が無いと…きちゃ駄目ですか…」
「そ、そういうことじゃないけど」
うわー、っと脳内で頭を抱えるレックス。
それきり黙る二人。部屋を沈黙が支配する。
君の名前はなんていうの?と、聞こうと一瞬考えたが、次の瞬間にレックスはその考えを否定した。
『彼女は俺のことを知ってるんだ。それなのに俺は忘れてる。駄目だ、聞いたら! 思い出せ、俺!』
昼間の彼女の潤んだ瞳、彼女の泣き顔が、レックスの胸を締め付ける。

小一時間ほどもそうしていただろうか、レックスはどうにも思い出すことが出来ず、ずーっと黙ったまま。
パッフェルもまた、椅子に座ったまま…何も喋らなかった。
沈黙を破ったのは、パッフェルの方だった。
「ごめんなさい、帰りますね」
「あ、ちょっ…」
レックスは呼び止めようとするが、彼女の名前すら思い出せない自分にその資格があるのか、と手をぐっと握り締める。
「いいんです。ごめんなさい。昼間は…すいませんでした、それだけです」
そんなはずはない、彼女が自分に言いたいのはそんなことじゃないだろう、とレックスは内心叫ぶ。
背を向けたパッフェルが、レックスの方を一度だけ振り向く。
揺れる前髪に、濡れた瞳。それを見た瞬間、レックスは思いだす。
「ヘイゼル、ヘイゼルなのか?」
びくん!とパッフェルは肩を揺らす。
「そう、なのか。そうなんだ、そうなんだね!」
レックスは立ち上がり、パッフェルの肩を掴む。
それは確信に近い思いだったが、だからこそ、早く彼女にそうだ、と言ってほしかった。
パッフェルは震えたまま、搾り出すように呟いた。
「違い、ます…」
「………そ、そう、か…」
そうだよな、彼女がこんな少女のままのはずがないもんな、はははははと、レックスは内心の動揺を自分で誤魔化そうとした。
「パッフェル、です………」
「え?」
「ヘイゼルの…本当の名前。私の名前は…パッフェルです」
じ…とレックスを見上げる瞳からは涙が溢れている。
「じゃあ、やっぱり、君は…」
そのレックスの言葉は最後まで紡がれなかった。
昼間のように、レックスの首にしがみ付いたパッフェルが、唇を重ね合わせたから。




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