レシユエミニSS 2部



涙を流すと人間落ち着く、というのは本当で。
さっきまで気分は絶望のどん底、世界の不幸を一度に受けた。
…そんな気分も少しは楽になる。
ミニスは、しゃくる呼吸をおちつけると立ち上がって、洗面台の鏡に向き直った。
涙やら鼻水やらでぐじょぐじょになった顔に乾いた笑顔が張り付いていて、何と可笑しな顔だろうと思う。
少し目尻に残った涙を拭くと、鏡の自分に向かってまた笑いかける。
今度はちょっと自嘲が混じった顔。
しばらくそれを眺めてから、思い出したようにつぶやいた。
「…お風呂入ろう。」
顔も相当な物だったが、服の方も知らず知らずのうちにかいてた汗でぐしょぐしょになっている。
それだけならまだしも―袖にいたっては泣いてたときに顔に押し付けていたので、鼻水やら涙やら…。
流石にこのまま寝る気にはならない。
寝巻きである服を脱ぎ、少しばかり乱暴にカゴのなかに放り込んだ。
風呂場の明かりはつける気にならなかった。
天井付近にある大きな曇りガラスからやたらと明るい月明かりが差し込んで、湯がゆらゆらと光を反射して綺麗だったから。

あんまり気にしないで張ったので、湯は少しばかり熱かった。
でも、ちょっと気だるい今の体にはこれくらいが丁度いい。
足まで思いっきり伸ばすと、思わず気の抜けた声が漏れてしまう。
肩、ついでに顎までつかってぶくぶくぶくーなんてやって見たり…。
で。
人間、リラックスすると余計なことを考えてしまうのは常のようで―。
ふっと、頭の中をあのときの光景がよぎった。

やっぱり脳内でフィルタがかかってるのか、さっきみたいに嫌悪にも似た感情が沸くことはなかった。
ただ、別の物が頭をもたげてきてしまう。
「ユエル…大人っぽかったなぁ…。」
声が響いてしまうが、どうせ聞く人もいないのでそのまま呟く。視界を落とすとそこには、波に揺れる自分の体があった。
…もちろんミニスだってユエルと出会った時の頃の様につるぺたすとん、なわけではない。
胸は(申し訳程度だが)洗濯板ではないし、親譲りのほっそりとした、そして白い肢体は少しばかり「女らしく」は、なってきている。
だけど、あの時見た彼女の肢体―白くて、しなやかで、そしてミニスの知っている快活さが嘘のように艶めかしい…―。
それに比べたら、それこそ逆立ちしても勝てないような気がした。
『やっぱりレシィにしてもらってるからあんな風になるのかなぁ…。』
ミニスはふとそんなことを思う。
恋をすると女は綺麗になるとか、そういう話を良く聞くがユエルはそうなんじゃないだろうか。
ぼんやりと考えて、それから慌てて頭を振る。
何を考えてるんだ、と。
それじゃ何だか自分がレシィにしてもらいたいとか、そう思ってるみたいじゃないか。
ふっと頭の中に出てきた妄想を振り払おうと、もう一度ぶんぶんと頭を振るうが
―嗚呼でもちょっとでも隙を作ってしまうと悪魔はそこにつけ込んできてしまって―
『も…もしかしたら、もしかしたらの話だからね!?』
必死に肯定してる滑稽な自分が頭の中に出てくるのはそう時間がかかることではなかった。
そう…もしかしたら…だ。
手が知らず知らずのうちに下に伸びる。
もし、レシィに抱いてもらえたら、ああいう風になれるんだろうか…―
それはあまりにも突拍子もない考えで、自分の冷静な部分が呆れているのは、分かる。
だけど何となくそうだったらいいな…と思ってしまう自分もいて―
「んぅッ…!?」
突然、じゅっ、と股間を襲った不思議な感覚にミニスは呻き声をもらす。
一瞬だけ冷静になって見た先には秘所に差し込まれた自分自身の指。
「ぁ…。」
―例えば、その手が…レシィのそれだったりしたら。
囁く様にあふれてきた誘惑の言葉に、意識の何処かが砕けるような音がした。

「ふ…ぁ…っ…」
水の中、ということもあってか指ははじめての割には抵抗など殆どなく、するりと奥まで入ってしまう。
『レシィは…どうしてたっけ?』
少しだけだったが、鮮明に頭の中に焼き付けられたさっきの情事、そのさなかのレシィの動きをミニスは思い出す。
確か、こうやって―。
指は、拙くそれを再現していく。
「やっ…あぁ…ぅ…はっ…ぁ…。」
ぴり、ぴり、と体の中を僅かに走る、電流にも似た感触。
ここでも響かないようなひそやかな喘ぎ声。
自分にだけには届くそれに、ますますと、快楽の渦は勢いを増していく。
やがて湯船の内壁に背を預けると、今度は空いていたもう一本の手を使って…胸に。
小さな突起…それに今まで無かったしこり。
それをちょい、といじる。
「くぁあんっ…!」
グラフが突然大きな幅を見せるように、体の中を奔った感覚に、思わず大きな声が出てしまう。
声は少しばかり響いて、ミニスの耳に届く。
「はぁ…うぅ…。」
甘い吐息が、口から漏れる。
胸を締め付けるような、言いようの無い切なさ、それにまた感じってしまう自分がいた。
くちゅり…と秘所がいやらしい音を立てる。粘っこい何かが、自分の指に絡み付いてるのが分かった。
そう、音を立ててるのは自分の指で、この体を這うのも…自分の指で。
決して―誰かの物なんかじゃなくて―。
「…レシぃっ…やぁっ…」
思わず名前が出る。
それを知ってか知らずか、指は、一層にはやく自分の中を、外をかき回していく。
意識が白くなって、秘めていた物まで曝け出していく。
よぎるのは、小さな回想。

―多分最初に、レシィを好きになったのは自分で。
「友達」を探す時、みんなの後ろで落ち込んだ自分を見て、そっと励ましてくれた彼。
その頼りないけど、優しい瞳に惹かれるのに、そう時間はかからなった。
何かと世話を焼いた。
リィンバウムの事が分からずに右往左往している彼に、主人とはまた違った視点で、世界を見せてあげた。
自分より年上の癖に、何だか弟を思わせて、時に本当に兄を思わせて―。
だけどそれが本当に形になる前に、彼女がやってきて…そしてレシィは、彼女に惹かれた。
恋敗れたとか、そういう気持ちになるほど成熟した想いでもなかったし
ユエルもまた彼女にとって手間のかかる、可愛い存在だったし
淡い片思い、自分も分からないほどのそんな小さな想い、そうやって気付かぬうちに封じ込めた。
レシィが好きなのは、自分じゃない。
その手に抱くのも、自分じゃない。
だけどやっぱり、自分が好きなのは―レシィなのであって…それはどうしようもなくて。
だから自分はこうやって彼に抱かれてると錯覚しようと、自分を慰めてる。
心の中だけでも、彼に好かれてるって、思いたくて―。

言い表しようの無い背徳感。親友を裏切るような思い。
嘲笑うような声が聞こえたような気がする、でも欲望には止め処が無かった。
「ッ…あぁぁぁっ!」
やがて訪れた。胸の中で波が弾ける様な感覚にミニスの体が仰け反る。
それが治まり、広がっていく…また一つ、深い甘い息が漏れた。
くったりと、体を石張りの浴槽に預ける。

「ん…?誰かいるの?」
不意に、脱衣場から声が聞こえた。
聞き覚えのあるそれに冷水を浴びせられたような錯覚に陥って、ミニスははっと我に返る。
見ると、明かりが点るそこに、二つの人影。見紛うはずも無い。
尻尾のある特徴的なそのシルエットはミニスがいちばん良く知っていた。
そして、がちゃりと扉が開かれる。
驚きの視線と、動揺を含んだ視線が交わる。
「ミニス?」
「ミニスさんっ!?」
「…ユエ…ル?レシィ…?」
口々にお互いを名を呼ぶ三人。
呆けたような、またはどうして?という問いかけを含んだような。
ミニス、そしてレシィとユエルは暗がりの浴室で、呆然と互いを見つめていた。




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