レシユエミニSS 4部



どれくらいの時間が経ったのか、それは分からなかったけど、唇を先に離したのはミニスの方だった。
「〜っぷあ…っ。」
レシィが大きく息を吐く。
ほんの少し口元に垂れていた涎を拭くと、ミニスの方に顔を向ける。
「…一体どういうつもりなんですか?」
いつもの彼らしくない深く沈んだ声―彼が怒ってるときに出す声だ―に、ユエルがびくっと身をすくませる。
反面、ミニスはぽつりと呟く。
「―だって………だから。」
「はい?」
次の言葉は、叫びだった。
「私だって…レシィが好きなんだからっ…!!」
「えぇっ!?」
大声を上げたのはユエルで、レシィは黙ったままミニスを見ている。
今は顔を真っ赤にしたミニス独白が、ただ響く。
「ずっと好きだったんだから…あなたの事。優しくて、本当に好きなのに…。
あなたはユエルしか見てなくて…っ。
本当に仲良くて、あんな事するくらい仲良くてっ…。
それでもいいと思ったけど…だけどっ。」
―あの光景を見たときから、心に亀裂は入っていたのだろう。
封じ込めてたものを吐き出す引き金も同じように。
身勝手だ、と冷静な自分が告げる。
相手に一方的に迷惑をかけて、こんな風に感情を醜く吐き出して、好きなんていう権利なんて無い、とも。
だけど…。
一筋の涙が、頬を伝う。
「―少しは…私の気持ちにも応えてよぉっ、レシィーっ!!」
ほんの少しでよかった。
報われさえ…すれば―。

言葉は反響して、何度も白靄がただよう部屋に響き渡った。
言い切って、それから。
「ふ…ふぇっ…ううっ…ひっく…。」
また襲ってきたどうしようもない自己嫌悪と情けなさに、ミニスは泣き出してしまう。
ユエルがおろおろとして、向かい合った二人を交互に見やる。
レシィは、やはり黙っていた。怒ったような、困ったような…無表情とも取れる表情を、浮かべて。
やがて。
「―ごめんなさい。」
ぽつりと降りたのは謝罪の言葉。
ミニスは、その言葉が持ってる意味に身をすくませる。
だけど、彼が言った言葉は、全く違う意味の言葉だった。
華奢な、でも不思議と力強い手が、裸の肩にそっと乗せられる、驚いて顔を上げるとレシィは笑っていた。
ただし、困ったような―自嘲も混じった―そんな笑顔だったが。
「…ごめんなさい、ミニスさん。そんな風に、想っててくれたなんて―。
親友とか言っちゃって…気付いてあげられないなんて、笑っちゃいますね。」
「レシィ…。」
「ほんと、すみません。」
そう言って、彼は目を逸らす。
「そんなこと、無いよ。私の方こそごめん…あんな事しちゃって。」
「いいんですよ、それよりも…」
謝るミニスに、レシィはまた微笑みを向ける。
ちょっとの沈黙、その後に、彼は告げた。
「―ちょっとだけ、目を瞑っててもらえますか?」
「え?」
「すぐ済みますから。」
「う…うん?」
半信半疑ながら、ミニスは言われたとおりに目を瞑る。
暗闇が落ちた世界で、さわりと自分の髪が彼の手でかきあげられる。
ミニスは少し体を硬くするが、おでこに感じたのは柔らかく甘い、唇の感触だった。

「っ…レシィ?」
意外なことに呆けて、ミニスはレシィを見やる。
「応えてあげきれないから…その、お詫びみたいなものです。
ありがとうございます…僕みたいなのを好きになって下さって。」
そう言ってからにこっとレシィは満面の笑顔を見せる。
その笑顔は本当にとろけるくらい優しくて、自分の中に渦巻いてた黒い何かを、消し去っていくようで―。
不思議と笑顔になってしまう。
「…ありがと、レシィ。」
何だか気恥ずかしくて、いつもより小さく、でもいつもよりずっと素直に、ミニスは感謝の気持ちを告げた。
「よかったねっ、ミニス。」
ユエルもまた、からっと笑ってミニスを見る、彼女もまた頷く。
「うん。」
レシィが、ちょっとだけ複雑な表情をしてたのは気付かないで。
と、これでめでたしめでたし…
と行けばいいのだが―。
くん、とユエルの鼻がひくついた。
「―あれ?」
きょろきょろと不思議そうに辺りを見回し、ちょっとばかり首をかしげる。
「どうかしたんですか?ユエルさん。」
「う、うん…たいしたことじゃないんだけど。」
言っていいものか、と彼女は一瞬ためらったようだったが、やがてミニスの方を見るとぽつりと、一言言った。
「ええっと…ミニス…もしかしてここで一人でしちゃってたり…する?」
「っ!」
「ええっ!?」
レシィがぎょっとなって目を丸くする。まさか、と思いミニスを見やるが
当のミニスは真っ赤になっていて、正解だと告げているようなものだった。
『そういえば何となくユエルさんが興奮してるときに似てる匂いが…。』
亜人の男にはちょっと抗いがたいような、甘い匂い。
さっきまで諸々ありすぎて気付かなかったのだろう、それにしても黙っててもいいだろうに…
レシィはちょっとだけユエルの天然さを呪ってしまう。

そんな彼には気付かないでユエルは、ぽえぽえと聞く。
「やっぱり、レシィのこと考えながら?」
「―…うん。」
何となく後ろめたさもあるのだろう、否定することも無くミニスはこくん、と頷く。すると、ユエルがレシィの方を向いて言う。
「ねぇ、レシィ、いいの?」
「何がですか?」
「ミニス…発情期かも。」
―ぶっ!!
その発言にレシィとミニス、二人が二人して噴出してしまう。片方はあまりの可笑しさに、片方はシャレにならないといった風に。
ちなみに前者は笑いをこらえ切れない、といった風に震えながら床に突っ伏してしまう。
「はっ、発情期ぃ!?」
「そうだよ、違うの?」
思わず叫んだミニスに、当たり前のようにユエルは返事を返す。
まぁ確かにメイトルパの住民にとっては発情期とか当然のように訪れるわけだが…。
「あ、あのねぇ…私まだ15よ?発情とかそんな事って…。」
大体、人間なんだから。とこれは二人に失礼なのでミニスは言わないが。
「でも、ユエルはもっと前だったよ?」
「ううっ。」
「…ミニス、無理しなくても…。」
「な、何よっ?私はそんなこと無いんだからねっ!!?」
がばぁっ、とミニスが立ち上がる。だが、それがまずかった。
「あ。」
「え…?」
今までミニスは浴槽の中に入っていたので上半身しか見えてなかったわけだが、
こうやって立ち上がってしまうと、まぁ洗い場と浴槽の段差とかで下半身まで露わになってしまうわけで―。
「濡れてる、よ…?」
「―――――っ!!」
ざぶん、と湯船につかる音が盛大にして、それからミニスが顔を耳まで赤くしてうつむく。
「やっぱり、ミニス…」
「あーもうっ!!そ・ん・な・こ・と・ないんだってばぁ!」
ムキになって怒ると怪しいですよね…とか何とか、さっきから傍観してるレシィは面白半分に見てたりしてたが

「でもでもっ…今は平気でもすぐに辛くなっちゃうよっ…そうだ!レシィ、ミニス楽にしてあげて?」
「ふえぇっ!?」
ユエルの爆弾発言に流石のレシィも声を上げて青くなってしまう。
ええとつまり、楽にしてあげるということはつまりそういう事をするわけで―。
多分ユエルもそういう事をさしていっているのであろうと容易に察することが出来るわけで。
「レシィ…が?」
「ってちょっとそこのミニスさぁん!?なんでまんざらでもないって顔なんですかぁ!!?」
流石に洒落にならない。
いくら一夫多妻制のメトラル出身とはいえ
―男は生まれたときから年中発情期とか、そういう性交に関してはあまり良くない噂が飛び交う族の男とは言え―
自分が生涯でこの手に抱くと決めていたのはユエルただ一人なのだ。
それを本人にほかの人としろ、なんて言われて目を白黒しない男がどこにようか、いやいない(反語
―もっとも、ユエルは別に抱けとまで言ってるわけではないのだろうがそこまで想像が及ぶわけも無く―
「だって、レシィ上手だし。」
「上手とかそういう問題じゃあなくって…僕は絶対にしませんからねっ!?」
とうとう拗ねてしまい、レシィがぷいっとそっぽを向く。
「そっか…それじゃあユエルが、楽にしてあげるね?」
「ちょっ!なんでそうなるの?」
「大丈夫だって、すぐ楽になるから、それっ。」
「きゃあああああっ!!?」
ざぶーん。
ミニスの悲鳴と同時にユエルが風呂に飛び込む音が響く、直後にレシィに思いっきり水がかかる。
それでも彼は振り向かない、もう意地だ。
そんな頑なな意思を決め込んだ背中に、甘い声が響く。

「ちょっと、ユエル、ホントに大丈夫だからやめっ…はふぅっ!」
「そんなこと言っててユエルも大変なことになりかけたんだから…ほら、力抜いて…。」
―絶対に…絶対に…やらないんですから。
「やだ…舐めないで…ほんとに…きゃううっ…。」
「恥ずかしがらなくていいよ?ユエルはミニスの事良く知ってるもん…。」
「で、でもぉっ…あっ!…あぅ…ん…ふぁあ…。」
―絶対に…絶対に…
「気持ちいいでしょ…ミニス?」
「う、そんなことぉ…っ、ひゃぁんっ!」
「へへ、そんなコトって?ミニスのここ…ヒクヒクしてるよ?」
「ダメだよ…ゆえるぅ…。」
―絶対に…
「あ、うああっ…だ、だめっ?いれないでっ!」
「感じやすいんだね…、まだ一本しかはいってないよ?」
「…ふえええぇ、それいじょうはだめだってばぁあ…ぁぅ…。」
―ぜっ…たい…に…
「ねぇ…ミニス…こうしながらレシィにいれられて…とか考えてたりするの…?」
「あふっ…そんな…んんっ!ことなぁっ…ぃ…くぅ…。」
「でも、レシィのこと考えながら一人でしてたんでしょ…?」
「そっ…ふぁんっ!そうだけどぉ…あ、ああっ!?」
「”今も”そうなんでしょ?ねぇ?ミ・ニ・ス♪」
「ああっ…あああああっ…。」
―ぷ つ ん

「っだああッ!もうぅぅぅっ!!」
「わっ!?」
「れ…れしィ?」
いきなり上げられた大声にユエルの耳が驚きにピンと跳ね上がる。
振り向くと肩で息をついていたレシィが、そこにいた。
わなわなと拳を震わせて、こちらをにらんでいる。
「さっきから…黙って聞いてればッ…。」
「あ、レシィ…怒ってる?」
「怒るっていうか…もうっ…―。」
レシィは男なのだ。
可愛い女の子二人がそれこそ自分をネタにあんなコトやそんなコトをしていて黙ってられるはずがない。
さっきから腰に巻いたタオルの下から男の象徴が、それこそ痛いくらいに自己主張してるのだ。
「もうっ…、限界ッ…ですっ!」
―ああ、村の守り神様、エルゴ様、ご主人様ごめんなさい。
僕は…誘惑に負けてしまうダメなメトラルです…っ!―
それでも添え膳食わぬは男の恥とか何とやら…。
「―ユエルさん…ミニスさん、たっ…ぷり相手してあげますから覚悟してください…!」
タオルを取り払って、堂々と半ば自棄に、レシィは宣言したのであった。

―10 分 後 
「はぁっ…はぁっ…。」
浴槽の壁にもたれかかって肩で息をついているレシィが、そこにはいた。
息も荒々しく、相当疲れている風である。
「レシィ…大丈夫?」
彼の隣に座っているユエルが心配そうに覗き込んでくる。
「…ええ、まぁ…何とか生きて…ます…。」
あの後、宣言どおり二人をきっちりとお相手したレシィはほとんど体力の限界であった。
絶え絶えに言う様子にユエルとは反対の方向に座っているミニスが、くすくすと笑う。
「無理にしなくても良かったのに。」
「一辺きちゃったら自制効かないんですよ…情けないけど。」
言ってからレシィは呆けて天井を見上げる、穏やかに揺らめいているランプの火が目に優しい。
ミニスもユエルもつられて見上げて、しばらく黙り込む。

「ねぇ?」
「何ですか。」
「なんかユエル達すごい事しちゃってたよね。」
「え〜と…すっごい今更ですよ、それって。」
呆れた声、そのあまりにも投げやりっぷりにとうとうミニスは笑い転げてしまう。
そんな彼女に顔を向けてレシィが呟く。
「…すいません…初めてだったのに…。」
「ん、謝らなくていいよ…―レシィなら。」
「なら、いいんですけど。」
ふっと、表情を緩めると、ミニスも笑いでたまった涙を拭いて笑顔を返す。
「…でもこれでますます皆に言えなくなっちゃったね?」
「ああ…そういえばそうですよね。」
天然ゆえのユエルの発言に、妙に現実を感じてしまってレシィは大きくため息をついてしまう。
けれどミニスは、あっけらかんと言い放つ。
「いいんじゃない?こういう秘密があっても。」
「そうだね、仲良し仲良し♪」
ユエルも同意して、ねぇ?と二人で言い合う。
挟まれていたレシィは勘弁、といった風に疲れた表情を見せる。
『まぁ、でも…』
―正直、この二人が納得してるのならいいかな、と思ってしまう自分がいる。
なら、案外それでもいいのかもしれない、これも一つの仲良し三人組の形って…コトで。
ワリを食ってしまってるのが自分なのは、まぁいつもの事で。
変わりようがないのが、自分達なのかもしれない、と。
「はぁ…もう。」
ため息をついた彼に、ミニスとユエルが二人して覗き込む。
そんな二人に、レシィはいつもの笑顔を見せた。
「こうなったら、とことん付き合ってあげますよ。」
困ったような、呆れたような、そんな、笑顔を。


―と。
そんな三人を見ている人が一人、いた。
「あれ?アメル、どうかしたのか?」
背中から声をかけられて、その人―アメルの肩が跳ね上がる。
「あ…マグナ…。」
「どうかしたの?顔…赤いぞ?」
「あ、い、いえっ…あの…そのっ…。」
言いかけて、それから。
ぽすん、とアメルの体が、マグナの腕の中に納まる。
「あ、アメルっ!?」
顔を真っ赤にするマグナに、上気した顔のアメルが、言う。
「マグナ…抱いて、くれませんか?」

夜はまだ、終わりそうに無い。


< 終 わ っ て し ま え >

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