制裁編〜橋本夏美〜その3



頬を叩かれうつむいた絵美を夏美はじっと睨む。夏美だって絵美が受けた苦しみは分かっている。あの絵美の無惨な姿。この世の終わりかとも思える光景。あんなことをされてまともな意識を保てる方がおかしい。それでも綾に言った暴言だけは許せなかった。いや認めることが出来なかった。あの言葉を肯定することだけは。
「待ってください!夏美さん!!」
すると綾が夏美を止めるように後ろからしがみつく。
「絵美ちゃんが悪いんじゃないんです。絵美ちゃんが悪いわけじゃ…だから止めて……」
「綾………」
背中越しに綾がすすり泣く声が夏美にも分かる。そうだ絵美が悪いわけじゃない。彼女は被害者だ。それも一番惨めな。夏美や綾が受けた苦痛など絵美の比ではない。本当に悪いのはあの二人だ。キールとソル。夏美たちを拉致監禁し、絵美や綾を陵辱したあの少年達だ。そんなことは分かっている。けれども黙って入られなかった。目の前で綾が傷つき悲しむ姿を見せられては。
「お願いだからさ…そんなこと言わないでよ…一生奴隷…だなんて…ねえ…」
絵美の肩に手を置いて夏美はやさしめの口調で話しかける。本当はこの娘が一番辛いんだ。こんな風に自暴自棄になるのも理解できる。自分が絵美の立場だった同じだったかもしれない。けれども絵美の言った奴隷となるしかない結末なんて夏美には絶対に許容できない。本当は夏美も不安だった。鬼畜共の魔の手がいつ来るかと怯えて過ごす毎日。また綾を守れない。今度は夏美自身が犯される。そんなことを思うと気が狂う。そんな脆く壊れそうな心を突かれて反応してしまったのだろう。
「あたしも…綾も…力になるからさ…ねえ……っ!?……っ!!っぎぃぃぃぃ!!!」
するとそのときだった。肩に置かれた夏美の腕を絵美は掴む。そしてそれを力いっぱいに握りつぶす。腕全体を走る電流のような鋭い刺激が夏美の脳を貫く。
「痛いっ!痛いぁぁぁっ!!」
「あなたなんかに………」
ドスの効いた調子で呻く絵美。握る手に更に力を込める。軋むような嫌な音が聞こえる。
「あなたなんかにっ!何が分かるっていうんですかっ!絵美がっ!絵美がどんな目にあってきたか知らないくせにぃぃぃぃっ!!」
激昂した絵美は夏美をそのまま力任せに投げ飛ばす。宙を舞った夏美の身体は背中から思いっきり床に激突し強打する。
「がっ…はっ…あぁ…あ……あぎぃぃぃ!!ぎゃひぃぃぃぃ!!」
背中から叩きつけられ衝撃に意識が飛びかける。そのまま気絶してしまいそうになるがそれも許されない。仰向けに倒れた夏美を絵美は踏み抜く。
「何も知らないくせに…知らないくせにぃぃぃ!!」
「あぐぅぅ!!や…やめ…いぎぃぃぃぃ!!」
ドスドスと体重をかけて絵美は夏美を踏みつける。襲い掛かる負荷と想像を絶する苦痛に悶える夏美。悲鳴が響く。
「あなたなんか…あなたなんかぁっ!!」
「止めてぇっ!!絵美ちゃんっ!!」
更に追い討ちをかけようとする絵美を綾は後ろから押さえつけて静止する。必死の思いでしがみつくように。
「もう…止めて絵美ちゃんっ!夏美さんに…夏美さんにそれ以上酷いことしないでぇっ!!」
哀願する。可愛がってた後輩による大切な友人への暴行。こんな凶行を見ていられなくて。どうしてこんなことにと哀しみにくれる綾。大粒の涙がポロポロこぼれだす。
「…うっ…お願い…絵美ちゃん…うぅ………」
そのまま絵美の背中ですすり泣く。嗚咽が響く。そんな綾に絵美は振り返る。
「綾…先輩………」
泣き出しそうな顔を絵美は綾に向けた。そしてそのまま告げる。
「この人と……この人と絵美、どっちが先輩にとって大切なんですかっ!!」
叫ぶ絵美の表情は既に涙で崩れていた。

「答えてください先輩っ!どっちなんですかっ!!」
「どっちって…そんなこと………」
絵美の問いかけに綾は戸惑う。夏美と絵美。どちらかなんて選べるわけがない。付き合いは絵美の方が遥かに長い。だが夏美も今の綾にとってはかけがえのない存在になっている。順番などつけられるはずもない。
「あの人ですねっ!!あの人のほうがいいんですねっ!!先輩はっ!!」
「絵美ちゃん!違っ………」
「どうして…どうして…絵美には…絵美にはもう先輩しかいないのに……」
「話を聞いてっ!絵美ちゃ……っ!!」
返答を待たずに絵美は一人で暴走する。綾に詰め寄りすがりつく姿勢で押し倒す。ドスンと綾は尻餅をつきそこへ絵美に圧し掛かられる。
「うっ…うぐっ…うっ……」
「絵美ちゃん………」
自分の胸に頭を埋めすすり泣く絵美を見つめる綾。母親に泣きつく子供のような絵美の姿が目に入る。そしてそのまま絵美は訴えかける。自分の思いを。
「先輩…絵美…こんなところで…こんなところで…ずっと…一人で………」
走馬灯のように辛い調教の日々が駆け巡る。それだけで発狂してしまいそうになるほどに。
「辛かったですよぉぉっ!!苦しかったですよぉぉ!!でもどうしようもないじゃないですかぁぁぁっ!!」
それは絵美の心からの叫びだった。拷問のような過酷な陵辱。抜け出せない苦痛の連鎖。いつしか絶望と諦観に支配されるような日々を過ごした絵美の。
「自分のこと…奴隷だって…玩具だって…思い込めば…そう思い込めば…少し…楽になれました。そうしたら…嫌だったことも少しずつなんだか…気持ちよくなって…それで…」
肉奴隷であることを受け入れる。それだけが絵美に残された選択肢だった。自分などただの肉便器にすぎない。死ぬまで精液を吐き出されるものでしかないんだ。そう必死で思い込むことによって救われた。辛かった陵辱も快楽に変わった。もう肉の刺激を受けねば生きてはいけぬほどに。
「それでも…それでも一人は嫌なんですっ!!絵美一人だけは嫌なんですぅぅっ!!」
見知らぬ場所で見知らぬモノたちに玩具とされる日々。溺れるような肉の快楽もその孤独までは埋め合わせてはくれなかった。ただ一人孤独に犯され続ける苦痛。それは絵美のような少女に到底は耐えられるものではない。
「綾先輩が…綾先輩が一緒にいてくれるなら…絵美と一緒に肉奴隷になってくれるなら…それで……絵美は……」
そのまましゃくり上げる。嗚咽をひくひく繰り返す絵美。
「なのに…なのに先輩は絵美よりその人を選ぶんですかっ!そんな……ひどい……」
そのまま絵美は泣き出してしまった。わんわん声を上げて泣きじゃくる。孤独な陵辱生活を続けてきた絵美。その絵美にとって先輩である綾の存在は大きかった。綾が側にいてくれればこんな孤独も感じずにすむ。一緒に堕ちるところまで堕ちてしまおう。そうすればこんな地獄も天国に変わってくれる。そう信じていた。そう信じていたのにそれを裏切られて。
(絵美ちゃん…………)
綾は絵美を見つめて涙ぐむ。絵美の気持ちが辛い記憶が綾に響く。綾は身を持って思い知らされた。陵辱の苦痛を。それ以上の苦しみを絵美はずっと受け続けてきた。自分とは違い癒してくれる相手もなく。
「絵美ちゃん…ごめんなさいね…ごめんなさい………」
「うっ…えぐっ……綾…先輩…」
「もう…一人じゃないから…わたしが絵美ちゃんについててあげるから………」
泣きじゃくる絵美を抱きしめ綾は絵美の背中をさする。
「だから…もう…やめて…こんなことは……もう…お願い……」
「ひっぐ…うぇぇ…えへっ…えへへ…綾先輩ぃぃ。」
綾に抱きしめられながら絵美の顔に明るさが増す。すると艶っぽい眼差しで綾を見つめてくる。何かをねだるように。先程押し倒されたときのように。
(絵美ちゃん………)
目を見ただけで綾にはわかってしまう。絵美が何を求めているのかを。傷つき壊れた絵美の心が綾に何を求めているのかを。躊躇わない。もう絵美の心を癒すにはそれしかないから。夏美をこれ以上傷つけさせないためにはそうするしかないから。
「絵美ちゃん…わたしのこと…絵美ちゃんの好きにしていいです…だから…だから…夏美さんをもう…傷つけ…ないで……」
震える声音で綾は絵美に告げる。自分の決意を。

「ダメぇっ!!そんなのダメだよ綾ぁっ!!」
綾の言葉に夏美は反射的に叫んでいた。蹴られた腹が痛む。叩きつけられた背中は悲鳴を上げている。握りつぶされた腕は骨にひびでも入ったのだろうか。
「止めてよ…そんなの…そんなの止めてよぉっ!!」
だが傷ついた身体を押しても叫ばすに入られない。自分の身を救うために綾が犠牲になる。それはあのときの再現ではないか。夏美への見せしめに綾が犯されたときの。
「夏美…さん………」
そんな夏美を見つめ綾は胸を打たれる。あんな目にあったのに自分の身を心配してくれる夏美。本当に優しい人だ。そんな夏美を傷つけさせてしまった。そのことを悔やんで。
「ごめんなさい…夏美さん…でも…絵美ちゃんのこと…許してください……」
震えながら夏美に綾は言う。気を抜けばそのまま泣き崩れそうになるのをこらえて。
「絵美ちゃんが悪いんじゃないんです…悪いのは…わたし……」
「違うぅっ!!綾が悪いわけないじゃないっ!!」
自責にかられる綾に夏美は叫ぶ。短い付き合いだが夏美にも分かる。綾がどれだけ優しくて心の強い娘であることを。あの時、陵辱された時もその後も。綾は一言だって夏美を責めたりしなかった。ともすれば折れそうな心を何度も一緒に支えてくれた。そんな綾が悪いわけなんてない。
「やだぁっ!あたし、綾がまたあんな目にあうなんて嫌だっ!そんなの見たくないっ!!」
綾が自分のために身を差し出そうとする。それは夏美には絶対に許容できないことだった。綾を守る。そう誓ったあのときから。それだけがこんな絶望に包まれる監禁生活の中で夏美に与えられる唯一の希望。唯一つの心のよりどころ。それが壊される。
「いいんです…夏美さん。」
必死に訴えかける夏美に綾は悲しそうに微笑んで呟く。その続きを紡ぐ。
「それで…絵美ちゃんが…少しでも…癒されてくれるなら…わたしは……」
言葉に詰まる。涙声が混じる。喉の奥がつかえそうだ。
「だって…わたしには…夏美さんがいてくれたのに…絵美ちゃんには…誰も……」
そこまで言いかけてこらえきれず綾はしゃくり上げる。鼻をすする。
「それに…わたしも…嫌なんです…わたしのために…夏美さんが傷つくのは…だって…夏美さんは…わたしの…大切な友達…だから……」
言い終わると綾は泣き崩れそうな顔を引きつらせながら精一杯の笑顔を作る。夏美を心配させまいと。綾の笑顔を見て夏美の胸に熱いものがこみ上げてくる。そして笑顔のまま綾は夏美に言う。
「悲しまないで下さい…夏美さん…夏美さんが悲しむと…わたしも悲しいから…お願い…です……」
最後まで綾は笑顔を崩さなかった。少しでも夏美の心の負荷にはなるまいと。
「う…うぅ……綾……綾ぁぁっ!!」
どこまでも優しい親友の哀しい笑顔を見つめて夏美は彼女の名を呼びながらむせび泣く。自分の無力に打ちひしがれて。


つづく

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