制裁編〜橋本夏美〜その2



「えへへ。綾先輩。お久しぶりです。」
にこやかに微笑みながら絵美は綾に挨拶する。綾はただ立ち尽くしていて、夏美もまた状況が飲み込めず呆然としていた。
「絵美ちゃん…本当に絵美ちゃん…なの?」
「綾せんぱ〜〜い〜〜!!」
聞き返す綾の胸の中に絵美は飛び込む。そして甘えるようにして頭を擦り付ける。
「綾先輩。絵美、先輩にずっと会いたかったです。よかった綾先輩だぁ。」
絵美は感激のあまり涙まで零しながら綾にすがりつく。予想だにしなかった展開に夏美は面食らっていた。
(何?…いったい何?どういうこと???)
頭が混乱しているので整理してみる。突然現れ綾にじゃれ付いている少女。名前は絵美。綾の後輩だ。たしか自分たちよりも先にあの連中に拉致されたと綾から聞いた。その絵美がどうして今ここにいるのか?わけも分からず成り行きを見守るしかなかった。
「綾先輩!絵美、寂しかったんです。こんなところに連れてこられてずっと一人で。良かった。これからは綾先輩も一緒なんだ。」
そう無邪気にすりつく絵美。だが綾も夏美もあることに思い至り硬直する、そう、思い出したのだ。思い返すのも忌まわしいあの日。二人が見た絵美の姿を。
「綾先輩♪………?綾先輩?」
猫なで声でより縋っていた絵美だったが気づく。自分の身体が綾の腕にがっしり抱きしめられていることに。そしてその綾の腕がわななくように打ち震えていることに。
「うっ…っく…ごめんなさい…ごめんなさい…絵美ちゃん……」
見やると綾はすすり泣きながら絵美を抱きしめて謝罪してきた。その様子に絵美はキョトンとする。
「うっ…ぐぅ…絵美ちゃんが…絵美ちゃんが…あんな酷い目にあっているのに…わたし何もできませんでした…ごめんな…さい…許して……」
縋りつくようにして絵美に謝る綾。その心は絵美への呵責で埋められている。自分が受けた陵辱。それ以上の苦痛を絵美は受け続けたのだ。それなのに自分は夏美に甘えて、自分のことだけで精一杯で絵美のことも忘れて。心底、絵美にすまなく思いすがりつく。
「ごめんなさい…本当にごめんなさい。絵美ちゃん。」
「綾先輩ぃっ!!」
互いを慰めあうように綾と絵美はがっしりと抱擁を交わしていた。その光景を見つめて夏美は思い返す。あの日、無惨に変わり果てた絵美の姿を見たときのことを。

それは見るも無惨な姿だった。とても生きた人間の姿とは思えない。ただ性欲の捌け口として酷使された肉人形の残骸だけが残されていた。
『あ…ああぁ…あぅ……』
震えるような音。それは綾の口から発せられたものだった。顔を蒼白に引きつらした綾の顔。目の前の現実を認めたくないかのような。だがその意識も次第に引き戻されていく。
『うぅぅぅ…うぁぁぁぁぁぁ!!!あ……あああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』
白濁の液汁で塗りたくられた絵美の身体。それを目の前にして響き渡る綾の慟哭を夏美は確かに聞いた。

(………っ!!!)
思い返しハッとなる夏美。違和感を覚える。今。綾と抱き合っている絵美。確かに見たはずだ。あの絵美の惨たらしい姿を。肌は精液で汚されつくし、秘肉は赤く充血し、身体中の穴という穴から注がれたスペルマを垂れ流す。その瞳には一片の生気も感じられなかった。今ここにいる少女はあのときの娘なのだ。
(変だよ…何か変だ……)
あんな人格が破壊される仕打ちを受けた少女。それが夏美たちの目の前に現れて明るく人懐っこく振舞っている。どう考えてもおかしい。だいたい絵美をここに来させたのは誰なのか?そうだ。彼らしか考えられない。諸悪の根源たるあの二人だけ。
「綾っ!!………っ!?」
思い至って夏美は綾に注意を引き戻す。慌てて声をかけ見やるが途端に絶句する。
「えへ…えへへへへ…綾…先輩……」
「え……絵美ちゃん……?」
夏美が視線を向けたその先。そこでは綾を押し倒して組み敷く絵美の姿があった。

「ちょっ!!何やってんのよ!あんたぁっ!!」
絵美の突然の行動に面食らった夏美は大声をあげる。すると絵美は締まりのない笑顔を見せて言ってくる。
「絵美は綾先輩と一緒に遊ぶんですよぉぉ。綾せんぱ〜い♪絵美と遊びましょうよぉ♪」
(絵美ちゃん…まさか……)
絵美の異様な言動に綾は思い出す。あれは綾が絵美と再会した日のこと。あのとき絵美はあの少年、ソルに操られておかしくなっていた。そしてそのとき絵美が取った行動は。
「遊ぶって…冗談にも程があるでしょっ!!ほら、綾だってビックリしちゃってるからさっさとどいて…」
そう夏美は絵美の腕を掴んで綾から離れるように促す。その瞬間、夏美は自分の身体が浮くような感覚を覚える。片手で思いっきり突き飛ばされていたのだ。絵美に。
「夏美さんっ!!」
「っ!!……つぅぅ……痛ぁ………」
突き飛ばされ腰から床にぶつかり夏美は痛みによろめく。すぐに体勢を立て直そうとするも痛打した腰に響く。
「何すんのよっ!!」
いきなり突き飛ばされて夏美は目を剥いて反駁する。すると絵美は冷たい目で夏美を見下ろしてから呟く。
「邪魔しないでください。」
「絵美ちゃんっ!!」
叱責するように綾も声を上げたが遮られた。部屋中の空気が震え上がるような絵美の叫び声に。
「絵美はこれから先輩と一緒に遊ぶんです!!邪魔しないでくださいっ!!」
肺から一気にその言葉を吐き出す絵美。その目は血走り明らかに正気を保った顔ではなかった。

「なに考えてんのよっ!あんたはっ!!」
怒鳴り散らす絵美に対し夏美も叫び返す。いきなり綾を押し倒したばかりか静止しようとした自分を突き飛ばした。絵美が何を考えているのか夏美にはわからない。何故このように絵美が豹変したのか皆目見当もつかない。
「待ってください夏美さん!!絵美ちゃん、あの人たちに操られているんです。だから…」
夏美と絵美の間に流れる険悪な気配を察知して綾が止めに入る。綾は知っている。絵美が尋常の状態ではないことを。このような絵美の姿を綾は前にも見たことがある。自分が捕まった日のこと。おかしな術をかけられ正気を失った絵美に綾は襲われた。そして辱めを受けた。絵美の手によって。
「あいつ等っ!!」
夏美は唇を噛んでここにいない二人を憎む。絵美がここに来た理由。こんな手を使って自分たちを嬲り者にしようというのだ。絵美が綾の後輩であることをいいことに。
「せんぱ〜い。酷いですよぉぉ。絵美は正気ですよぉぉ。」
拗ねたような顔を見せる絵美。甘ったるい声を上げて綾の方に向き直る。
「あんな人はほっといて絵美と一緒に遊びましょうよぉぉ。」
「………ひっ!」
正気を失った瞳で綾の胸元に手をかける絵美。ふいに綾の脳裏に陵辱の記憶が蘇る。耐えかねて悲鳴を上げかけるが。
「させるかぁぁぁぁっ!!!」
すると、駆け込んできた夏美が絵美をさっきのお返しとばかりに叩き倒していた。呆然とする綾を夏美は抱き起こして絵美から距離をとる。
「いい加減にしなさいよっ!!綾が怖がってるじゃないっ!!」
綾を庇うように前に身体をつきだして夏美は言う。そのまま倒れた絵美を睨む。絵美はすぐにむっくりと起き上がってくる。
「どうして絵美の邪魔をするんですかっ!!あなた一体、綾先輩の何なんですかっ!!」
殺気さえ篭らせた形相で絵美は夏美を見据えて吼える。
「何って………」
絵美に問い詰められて夏美は詰まる。友達と切り返そうかとも思ったが綾とはまだそんなに長い付き合いではない。ここに閉じ込められてからの数日間の付き合いでしかないのだ。
「待って!絵美ちゃん!」
夏美が戸惑っている間に綾が夏美の背後から出てきて絵美に向き直る。
「夏美さんはわたしたちの味方なの。わたしの大事な友達なの。だから落ち着いて。」
(綾………)
絵美をなだめるために言った言葉だが夏美は嬉しかった。これだけ躊躇いもなく自分のことを大事な友達といって貰えるなんて。躊躇した自分のほうが恥ずかしくなる。
「絵美ちゃん。お願いだから落ち着いて。わたしたち一緒に協力すればこんなところから逃げられるかもしれない。だから喧嘩は止めて。」
祈るように絵美に哀願する綾。少しでも絵美が正気を取り戻してくれることを信じて。あんな辛い陵辱の後でこうしてようやく絵美と再会できたのだ。それなのにこんなことに。悲しかった。一緒に手を携えたい。夏美が綾にしてくれたように絵美の苦しみを自分が分かち合ってあげたいのに。
「逃げられるなんて…逃げられるはずなんてあるわけないじゃないですかぁっ!!」
なだめようとする綾の言葉に絵美は烈火のように怒り来るって反発する。その態度に綾はおののいて思わず後ずさる。
「奴隷なんですよ……絵美も先輩も一生奴隷なんですよぉ!!逃げられるわけなんてないっ!!一生御主人様たちの肉便器として飽きて使い捨てられるまで奉仕するしかないんですよぉぉっ!!えへ…えヘへへ…えへへへへ………」
「絵美ちゃんっ!!」
絵美の台詞に綾はショックを受ける。絵美の顔。その瞳から涙を零しながら壊れた笑みを浮かべる。それは絵美が絶望の果てに辿り着いた姿だった。肉奴隷としての自分を受け入れ壊れた人形のように笑う。綾の心が痛む。絵美は操られているわけではないのかもしれない。変えてしまったのだ。辛い過酷な陵辱生活が絵美の精神を。
(絵美ちゃん…なんて…ことなの………)
身体だけでなく精神まで変わり果てた絵美に綾は涙する。絵美がこんな風になるのを自分は止められなかった。助けてあげることが出来なかった。それを悔やんで。

「奴隷なんですよ…先輩…肉奴隷なんです…えへへ……」
「絵美ちゃん………」
笑いながら告げる絵美に綾は涙する。絵美の一言、一言が心にも響く。
「えへへ…先輩もご主人様に…お尻を可愛がってもらったって…えへへ…最初は痛かったですよね。」
「っ!!」
突然切り出された話題に綾は押し黙る。同時に蘇ってくる。あの日の記憶が。
「あはは…だいじょうぶですよぉ…すぐに慣れますよぉぉ…絵美も最初のころは痛いだけだったですけど今じゃ気持ちよくなっちゃいましたし…」
「止めてぇぇぇっ!!そんなこと聞きたくないっ!!」
耳を押さえる綾。その脳裏には次々と浮かぶ。あの忌まわしい陵辱劇が。
「でも…絵美が先輩のこと…可愛がってあげます。絵美が先輩を立派な肉奴隷にしてあげますぅぅ。そうすれば先輩も…」
「嫌ぁぁぁぁ!!嫌ぁぁぁぁ!!」
綾はとうとう叫ぶ。陵辱の記憶に耐えかねて。すると綾の脇からすっと人影が前に出る。そしてその人影は絵美の前に現れて彼女の頬っぺたを思いっきりひっぱたく。
「夏美さんっ!!」
呆気にとられる絵美の前で打ち震えるその相手の名を綾は叫ぶ。
「止めなさいよっ!!さっきから聞いてみれば何よっ!!」
哀しみにくれる綾とは裏腹に夏美は絵美に怒りを感じていた。綾に対する絵美の言動。それを許すことができなかった。いくら絵美がどんな辛い目にあったとしても。
「そりゃそんな風に思うぐらい辛い目にあったとは思うわよ。だからって綾にそんなこということないじゃない!綾、あんたのことずっと心配してたんだよっ!それなのに。それなのにあんたはっ!!」
一気にまくし立てる。熱に浮かされるように。絵美のことをどれだけ綾が思っていのか夏美は知っている。あの無惨に陵辱された絵美を前にしたときの綾の慟哭。今も覚えている。あのときの綾の気持ちは夏美にはよくわかる。それは綾が目の前で犯されたとき夏美も感じたものだから。そんな綾の心を絵美は傷つけた。許せなかった。自分の大切な友達を傷つけた絵美が許せなかった。


つづく

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