制裁編〜橋本夏美〜完結



意識する間もなくその音は耳を通り抜けた。後からひりひりとやってくる痛み。思わず叩かれた頬を押さえて絵美は相手を仰ぎ見る。怒りの色をその瞳に宿す綾の姿を。
「う…うぁぁぁぁぁぁっ!!」
するとその拍子に綾が猛る。叫び声をあげて絵美に詰め寄る。衝撃。また叩かれた。今度は反対側の頬を。絵美の頭がぐらつくかと思えばすぐにまたその反対側を叩く。
「うぁぁぁっ!あぁっ!!あぁぁっ!!」
迫る綾の勢いに絵美は完全に気圧されていた。力のまま押し倒される。後頭部に硬い衝撃がはしる。意識がぶれる。それを叩き起こすされるようにまた殴打される。目を血走らせ必死の形相で綾は絵美を叩き続ける。丁度金縛りが解ける頃合であった。だがそんなことは綾の意識には微塵もない。ただ目の前にいる絵美に自分の感情の限りの暴を振るう。夏美を嬲り者にして辱めた絵美。自分が陵辱して壊した夏美を鼻先で嘲り笑った絵美。いやこれは絵美じゃない。自分の可愛い後輩の姿を借りた悪魔だ。でなければあんなことができるはずがない。この悪魔は自分の大切なものを奪った。自分の何よりも大切な人を無惨な形で傷つけた。可愛い後輩の姿をつかって。許せなかった。許せるはずがなかった。叩く。相手は抵抗する気配がない。それでも叩く。
「よくも…よくも夏美さんをっ!!おぉぉっ!!」
まさに修羅の形相だ。折檻されながら絵美は綾の様子にただ呆然としていた。自分はこんな綾の姿を知らない。こんなに感情に任せて怒りをぶつけてくる綾を。自分にはいつも優しかった綾。その彼女が怒り狂いながら絵美に襲い掛かる。絵美には理解できない。綾がなぜこんなに激しているのか。どうして自分を殴るのか。
(どうして…どうして絵美を殴るんですか綾先輩…どうして…)
ひどく哀しい目をして絵美は馬乗りになる綾の殴打を受け続ける。

「…はぁ…はぁ………うっ…うぐぅぅぅぅ!!」
何度か絵美を殴打してから綾の手はピタリと突然に止まった。そのまま泣き崩れる。そんな綾を絵美はただ虚ろに見つめる。
(綾先輩………)
すすり泣く綾。その姿に絵美は胸を刺されるような痛みを覚える。どうしたことだろう。何でこんな想いをするのだろう。ひどく哀しい。自分への怒りを剥き出しにして殴打してくる綾。そして今泣き崩れている綾。どちらの綾からも感じ取れるのは哀しみ。深い哀しみ。何故なのだろう。自分も哀しい。どうして哀しいのだろう。後悔しているのだろうか。今更。そう今更のことだ。今更のことなのに。
「うぅぅ…うっ…ぐっ………!」
すると泣いていた綾はくるりと向きを変える。絵美には背を向けて。綾の視線が指す方向。それがどこであるのか絵美には容易に察しがついた。その方向に綾は駆け出す。絵美の陵辱を受けて無惨な姿を晒す夏美の方へと。
「夏美さんっ!夏美さんっ!!」
脱兎の勢いで夏美の名を呼びながら駆け出す綾。その後姿を見送って絵美は切なさに包まれた。分かっていたことを再認識させられた。もう自分は綾の眼中にないことを。かつての絵美を知るただ一人の人物。失った日常との接点。それからそっぽを向かれたのだ。笑えてくる。救われようと思って暴走したあげくがただの自爆だ。綾には完全に嫌われただろう。あはははは。それでいい。それでいいじゃないか。それが望みだったはずだ。過去への未練。それを断ち切るために何もかも自分の手で壊そうとしたのだろう。これでいいじゃないか。最高の結果だ。何を哀しむ必要がある。あはは。滑稽でたまらない。
「あはは…はは…綾…先輩……」
綾に殴られて腫らした顔で絵美は力なく笑う。瞳から大粒の涙を零して。

「あ…あぁぁ…うぅぅ……」
それは見るも無惨な姿であった。度重なる暴力と陵辱を受け続けた夏美の身体。体中に残る青い痣は目に痛々しい。おかしな方向に捻じ曲がった腕。間違いなく骨が折れている。それ以外にも大小無数の傷が残る。引っかき傷。噛み傷。どの傷痕もまだ滲みだす血の色で汚れている。そんな満身創痍の夏美の身体を忌まわしい淫具が嬲り者にしていた。アナルに挿入されたバイブレーター。乳首とクリトリスに貼り付けられたローターが機械音を立てて震動し意識のない夏美を嬲っている。
「…あぁっ!はぁ…はぁ…うっ…くぅぅ……」
唇を噛み締めて綾はその汚らわしい玩具から夏美を解放する。バイブを引き抜き、ローターを取り外す。バイブを引き抜かれた夏美のアナル。その菊口には裂傷が刻まれていた。いびつな凶器でアナルバージンを抉り取られた傷痕。ぱっくり開いた傷口から破瓜を思わせるような出血をともなっている。長時間にわたって絵美の責めを受け続けた乳肉と秘肉も無惨の一言だ。唾液と愛液に覆われたその肉は赤く充血している。擦り切れそうなばかりなまで。発狂しそうな責め苦の連続に果てた夏美。顔からありったけの体液を垂れ流している様子はとても直視に耐えなかった。
「夏美さん…うぅ…夏美さん…うぅぅぅ…」
崩れ落ちる綾。その頭の中は夏美のことで溢れていた。自分と同様に拉致されて連れて来られた夏美。こんな場所で出来た大切な友人。落ち込む自分をいつも夏美は元気付けてくれた。支えてくれた。陵辱された日の夜。もう生きていることさえ苦痛な自分を抱きしめ慰めてくれた。それからずっと自分を守ろうとしてくれた。そんな夏美がいてくれたから自分はこうしていられる。それなのにその夏美が。
「あ…あぁぁ…うぁぁ…嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!ああああああああああああああっ!!!」
ズタボロの夏美に寄りすがって綾は慟哭する。それはあの日、陵辱されつくした絵美を発見したときにも勝る勢いである。こんな残酷な結果によって気づかされてしまう。綾の中で夏美がどれほど大きな存在になっていたのかということを。そしてそんな夏美をただ見殺しにするしかできなかったということも。

(綾先輩…泣いてますね…)
叫び続ける綾を見つめながらポツンと絵美は胸中で呟いた。
(絵美のことなんか…もう目に入らないんですよね…絵美のことなんか…)
自分を尻目に夏美に泣きすがる綾。その光景は絵美の心を何よりも痛ませる。もう綾にとって自分などどうでもいい存在なんだ。綾の一番大事なものは夏美。そう思い知らされる。自分で撒いた種だ。暴走を重ねた挙句の末路。道化だ。ただのピエロなのだ。自分は。
(もう…絵美…どうでもいいです…本当に…どうでも……)
こんなものを見せ付けられるくらいならあのまま綾に殴り殺された方がマシだった。今からでもそうして欲しい。でももう自分の存在なんて綾にとってはどうでもいいのだろう。綾の一番は夏美だ。分かっていたことじゃないか。それなのに。
(どうして涙が出るんですか…どうして…)
零れだす涙が抑えられない。どうして自分は泣いているのだろう。哀しみが溢れて止まらない。邪魔な感情だ。そうだ。ただ慰みものにされるだけの肉便器には。こんな邪魔な感情がいつも自分を苦しめてくれる。どうして消え去ってくれないのだろう。もうとっくの昔に諦めたはずなのに。
(楽に…なりたいです…絵美はもう…楽に…)
心からそう願う。だが望むものは何一つ手に入らない。純潔をレイプで失った。肉奴隷の調教を受け当たり前の日常を奪われた。大好きだった先輩を見知らぬ誰かに取られた。ほんのささやかな自分の望みさえ叶えられない。自分を無惨に強姦した二人相手に淫らに腰を振ってすがった望みさえ。
「あはは…ははは…あははは…ははははは…えへへ…えへへへへ…」
いつの間にか絵美は立ち上がっていた。壊れた笑い声をあげて。何かを求めて手をまさぐる。手頃な鈍器がある。丁度いい。
「えへへへ。綾先輩。」
鈍器を手に背後からゆっくりと絵美は綾に近づく。

(夏美さん…夏美さん…)
綾はただ打ちひしがれる。自分のせいだ。自分のために夏美はこんなことになってしまった。自分なんて最初からこの世にいなければ。そんな自虐的な想いにもとらわれる。
「夏美さん…う…うぅぅぅっ…」
そしてまた夏美にすがり付いて泣き出す。それが意味もないと知りながら。そんな状態の綾には分からなかった。背後から迫りくる影を。
「っ!!!」
刹那、目の前を火花が飛んだ。意識が飛ぶような衝撃。ガクリと首が折れる。そのまま顔を夏美の身体につける。後からガンガンと響く頭痛が襲う。
(………痛い…っぐ…痛い…何…いったい…)
後頭部を強打された衝撃。そのまま意識が飛びそうだったがなんとか堪えた。慌てて身を起こして振り返る。その先に何が待ち受けているとも知らずに。
「なっ!…っは…あっ…がぐぅぅぅ……」
振り返った拍子。いきなりに二本の腕が飛び込む。手は綾の首元をめがけて近づきがっしりと掴む。
「ぐぅぅ…んぐぐ…ぐぅぅ……」
その手を押しのけようと綾は抵抗するが力が入らない。先程の一撃が強烈だったのか身体が言うことを利いてくれない。そうこうしているうちに首にかかった手は力を強めてくる。綾を絞め殺すかのように。そしてそうしてくる相手の顔を綾は認識した。よく見知った。というよりも忘れることなどできる筈もない顔だ。
(…絵美ちゃん!!)
「死んでください…綾先輩……」
頬に涙を垂らしながら絵美は綾にそう呟く。綾の首にかけたその手に力を込めて。

(や…やめて…絵美ちゃ…んぐぅぅ!!)
首にかかった絵美の手の力はどんどん強まる。このままでは間違いなく絞め殺される。制止を呼びかけようにも声が出せない。どうしようもない状況で綾はただもがき苦しむ。
「先輩…死んでください…絵美からの最期のお願いです。」
悶える綾に対し絵美はそう囁きかける。
「もういいんです。先輩はもう絵美のものにはなってくれない。ただあの人たちの肉便器にされるだけなんです。死ぬまで。それならいっそのこと………」
絵美は涙声を震わす。ところどころの鼻づまりのような声が聞き取りにくい。
「あはは…なんでこんな簡単なこと…思いつかなかったんでしょう…先輩と一緒にあの世に行けば…先輩を独り占めにできる…誰にも邪魔されない…もうすぐに楽に……」
(やめて…お願いだから止めて…うぐぇぇぇぇ!)
迫りくる死に戦慄する綾。気道が押しつぶされる感触に悶える。脳から酸素が欠乏する。このままでは確実に死に至る。絵美の言葉通りに。
「先輩を殺したら…絵美もすぐに後を追います…だから…あはは……」
乾いた笑いが絵美にこみ上げる。こんな簡単なことで。そう簡単なことで本懐を遂げられる。何も手に入らないなら本当に壊してしまえばいい。単純な結論だ。どうせ生きていたとこでただ肉便器としてこき使われるだけなのだ。ならいっそのこと大好きな綾と一緒に心中してしまおう。それが最良の選択肢。
「先輩がいけないんですよっ!先輩が絵美のものになってくれないから!絵美のこと見てくれないからっ!だからっ!死んで…絵美と一緒に死んでくださいっ!綾先輩っ!!」
そうして想いの限りを絵美はぶちまける。後悔はない。これで自分は救われるのだ。永遠に。そして絵美は手に渾身の力を込める。綾の細い首を握り潰すように。

意識が薄れていた。このまま自分は死ぬのかと思うと走馬灯のように様々なものが駆け巡ってくる。そんな感覚を綾は受けていた。
(わたし…ここで死んでしまうんですね……)
なぜか不思議と落ち着いていた。というよりも時間の流れが恐ろしくスローに感じられる。だからであろうか。取りとめもないことが浮かんでくる。
(絵美ちゃん…ごめんなさい…貴女の気持ちを考えないで…わたし絵美ちゃんに酷いことをしました…本当に…)
殺されても仕方がない。そう思える。辛い陵辱を受け続け身も心もズタボロになった絵美。そんな絵美を自分は傷つけることしか出来なかったのだ。そのために夏美まで犠牲にしてしまった。全部自分のせいだ。それなのに夏美を陵辱した絵美を自分は殴り倒した。絵美を殴って憂さを晴らしていただけなのだ。ふがいない自分に対する。
(夏美さん…本当にごめんなさい…貴女をあんな目に……)
夏美のことを思うと胸が切なくなる。こんな辛い監禁生活でいつも自分を支え慰めてくれた夏美。愛おしささえ覚えていた。夏美を一人残して自分は死ぬ。そのことに深い罪悪を覚える。これから夏美に待ち受ける過酷な運命を思うと。
(すみません…本当にすみません…本当に……)
謝りながら綾は自分の気持ちに気づく。死にたくない。夏美を置いて死ぬことなんて出来ない。絵美に後を追わせる真似なんてさせたくない。それなのにどうしようもない。情けない。死の間際でさえ自分は情けない。本当に。いっそのこと最初から自分の存在などなければよかったのに。そう悔やむうちに目の前に光が開ける。あの世に辿り着いたのだろうか。目をしばかせる。それと同時に大きくむせ返った。ゲホゲホと締められていた首は痕が出来ている。息苦しさで悶える。何度かむせ返すうちに意識がはっきりしてくる。認識できる。死後の世界を。
「…っ!えっ?」
辿り着いたあの世。その光景に綾は目を丸くする。目に映るのは倒れた少女の姿。
「絵美ちゃん………」
気がつくと綾の目の前で絵美が倒れ付していた。

「どうして…これは……」
怪訝に思い綾はあたりを見回す。さっきまでと同じ部屋だ。見れば夏美の姿もある。ここはあの世ではない。まぎれもなく自分は生きている。
「危ないところだったな。アヤ。」
するといきなり声をかけられる。思わず身震いして見やる。そしてその姿に綾はおののく。ソル。綾たちを捕らえ陵辱した二人の兄弟の片割れである。
「まったく、ちょっと自由にさせたらこれだからな。ほんと困ったもんだ。」
そうため息まじりにソルは失神した絵美を足で小突く。困惑する綾にも事態が飲み込めてきた。つまりは助けられたのだ。絵美に絞め殺されそうになるのを。
「そっちの方はどうだ?兄さん。」
「大分ひどいね。まあこの程度なら傷痕を残すことなく治療できるよ。」
そうソルが呼びかけた先には彼の兄キールの姿もあった。ズタボロになった夏美の側でキールはその怪我の具合を検分し懐から紫の石を取り出す。呪文のようなものを唱えると天使のようなものが姿を現して光で夏美の身体を包み込んだ。
「これでよしと。まあ少々痛みは残るだろうけど心配はないよ。」
光がひくと夏美の身体は傷痕一つないキレイなものとなっていた。彼らの使う怪しげな力の一つだ。あの日、犯されて裂傷を生じた綾のアナルも同じ力で癒された。そのことを綾は覚えている。夏美ももう身体の怪我は心配は要らないだろう。心は別だが。
「まったく何もかも台無しにされるとこだったな。流石に冷や汗がでてくる。」
そう言ってため息混じりにソルは失神した絵美を見やる。そしてそのまま絵美を担ぎ出す。
「それじゃあまたな。アヤ。今日のところはこれで退散だ。」
「言いつけも守れないこの娘におしおきをしてあげないといけないからね。」
そう言い残して彼らは部屋を去ろうとする。その後姿に綾は動く。
「待ってください!絵美ちゃんを…絵美ちゃんをどうするつもりですかっ!!」
絵美を連れて立ち去ろうとする二人を綾ははっきりとした声で呼び止めた。
呼び止められて咄嗟にソルは振り向く。突き刺さる綾の視線。自分たちに対する憎悪がありありと見て取れる。めんどくさげに頭を掻いてから答える。
「どうするって…そりゃ……色々だ。」
何の返答にもなっていない。だがその顔が告げている。絵美に対して何を行うのかを。
「絵美ちゃんを放しなさいっ!貴方達なんかに…貴方達なんかに絵美ちゃんをっ!!」
綾は怒りに打ち震える。全部この二人が元凶だ。自分が陵辱されたことも。絵美が人格さえ変わり果ててしまったことも。夏美があんな無惨な姿にされたことも。憎い。彼らが。それこそ殺してやりたくてたまらないほどに。
「おいおい、アンタこいつに殺されるところだったんだぜ。それなのに人がいいというか。」
「全部貴方達のせいじゃないですかっ!!絵美ちゃんがあんなことをしたのも!夏美さんがあんな目にあったのも!みんな貴方達のせいじゃないですかっ!!」
噛み付くばかりの勢いで綾は言い寄る。もう何もかも忘れて飛び掛りたい衝動に駆られた。結果など知るものか。夏美を。絵美を。自分の大切なものをなにもかも壊して嘲り笑う彼らに対して。せめて一矢でもむくいようと。
「……ぁ……や……」
「っ!……!!!」
すると刹那後ろからかかるか細い声。思わず綾は振り向く。
「夏美さん……夏美さんっ!!」
つい気を取られて夏美を呼びかける。するとバタンと扉は閉じられた。錠を下ろす音とともに。慌てて綾が振り返るともうソル達の姿はなかった。
「あ…あぁぁ…っ!!…………夏美さんっ!!夏美さんっ!!」
絵美を連れて行かれて立ち尽くしそうになる。だがすぐにきびすを返して夏美のほうに綾は駆け寄る。自分を求める夏美の声。それを無視することなどできなくて。
「綾ぁ…痛いよ…痛いよぉぉ……」
「夏美さんっ!……大丈夫…もう大丈夫です…わたしがいますから…だからっ!!」
痛みを堪えきれず泣き出す夏美。そんな夏美の身体を綾はがっしりと抱きしめた。自分が側についている。そのことを夏美に対し示すようにして。

「まったく実に残念だよ。エミ。」
失望したような嘆きが絵美の耳に入る。
「もう一度躾けなおさないといけないからな。めんどくさい。」
溜息混じりの声だ。飽きれているのだろう。どうでもいいことだ。絵美にとっては。
「彼女達は大事な客人だ。たまたま拾った君とは違うのだよ。」
「そこんとこしっかり肝に銘じておくことだな。」
そういってバタリと扉を閉じて彼らは去っていった。あははは。笑えてくる。
「あはは…ははは…あははははははは」
けたたましい笑い声を絵美は上げる。耳障りなモーター音も気に留めない。ブルブルと震動が身体に伝わっている。なんだか気持ちいい。少し苦しいけど。
「えへへ…いひっ…あひっ…ふふふ…あふっ…へへへ…」
ブルブル震える強化ゴムの塊が絵美の膣肉とアナルで暴れだす。それと同時に性感帯に取り付けられたローターがキュウキュウと乳首と肉豆を締め付けてくれる。与えられるのは悦楽だ。オルガズムの波動。たぷんと腹の中にたまった液体の感触。気持ち悪い。絵美の子宮にも腸にも注がれた精液がたまっている。足腰立たなくなるまで両側から犯されて。栓をするようにバイブを両穴に差し込まれた。ブルブルブル。また震動。膣肉と腸壁がめくれる。気持ちいい。自分は肉奴隷だ。肉便器なのだ。こんな事をされて悦ぶ。死ぬまで精液を吐き出される器なのだ。
(先輩…絵美は…絵美は…ただの肉便器なんですよ……絵美だけが…)
死ぬ自由さえ与えられない。そして思い知らされる。ただの玩具としての肉便器は自分だけなのだと。望みなど最初から叶うはずがなかったのだ。綾も夏美も自分とは違うのだ。卑しい淫らな雌の自分とは。
(絵美…一人ぼっちですよ…ずっと一人ぼっちですよぉ……)
孤独が身を包む。こうして一人さびしく肉便器として一生を終えるのだ。一人さびしく。
(もう…どうでも…いいです…どうでも…いいんです……)
そう自分に強く言い聞かせる。だが頬を液体が伝う。涙だ。涙が溢れ出てくる。忌々しい。どうして悲しいなんて思ってしまうのだろう。崩壊という名の解放さえ与えられない。ただ嘆き哀しみ苦しみ悶え続ける肉便器。それが自分。どこまでも深い絶望に包まれながら絵美は今日も陵辱を受ける。おそらく明日もその次の日も。絵美が死ぬまで永遠に。


つづく

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