ツンドラとツンデレは似てるから気を付けろ



──汝、この扉をくぐる者は一切の下心を棄てよ。


──無理。



「どーしてこういう事になったのかしらねー」
大仰なため息を吐きながらぼすん、とベッドに体を投げ出す。
安物ベッドのスプリングがぎしぎしと軋む。
そりゃそうだ。二人乗ってりゃ仕方ない。
「さあ、なんでだろうな」
愛想無くつぶやくと、少女がきろりと睨みつける。
「ホント何ででしょーねー。どっかの誰かさんが出かけるたびにトラブル起こしてはここに連れて帰ってくるからー、とか。天然トラブルメーカーの女たらしは怖いわねー、とかあたしは思ってないから安心していいわよ」
「思いっきり口に出してるじゃ……って待て。トラブルメーカーってのはまだ我慢するとして、───女たらしってのは納得できないぞ」
反論すると今度は呆れたような目を向ける少女。
……自覚無いのだろうか。
リプレ、モナティ、アカネあたりは十分好意を持っているし、もっと単純に好感度という点で見ればこやつに会った女性はほぼ例外なく良い印象を持っているだろう。
「だいたい俺のせいばかりみたいに言ってるけど、誰かさんだって十分この事態の原因になってると思うけどな」
そうなのだ。
今日の昼下がり、スラム近辺にはぐれ召喚獣が近づいてきたので撃退に出たのだが誰かさんが「ちゃっちゃと片付けるわよー」とのたまって、本人曰くちょっぴり派手な術をかましたのだ。

『デヴィルクエイク』という術がある。
魔族を呼び出し、その強大な魔力を以てかなりの広範囲に破壊的な地震を起こすとても派手な術である。
その余波はフラットまで及び、崩壊には至らなかったものの天井や壁が崩れて半分ほどの部屋は使用不能に陥ったのだった。
「わかってるわよ! だから相部屋も甘んじて受け入れてるでしょ!」

──まあ要するに。
ハヤトは現在カシスの部屋に転がり込んでいるのだった。

「もういい……あたし寝るから」
頭半分ほどまで布団を引っ被るとおやすみとばかりに背を向けてしまう。
……ベッドの真ん中で。
「あの……カシスさん?」
「なによ」
そっぽ向いたままでやる気無い返事が。少しはこっち向いてくれないか。
「そんなド真ん中に寝られると俺はどうすればいいのかな」
「床で寝れば?」
冷たい。
「……この季節の変わり目で冷え込んでくる夜中に床で寝ろと。せめて毛布の一枚でも渡してくれるのが優しさってもんじゃ」
「あたし寒いの苦手なの。廊下に出ろって言わないだけマシでしょ」
心が寒い。あたかもシベリアのように。行ったことないけど。
「イヤなら別の人の部屋行けば。キミが頼めば多分断らないから」
そーですね。例外が目の前にいるだけで。
「わかった。んじゃリプレにでも頼んでみるか」
くるりときびすを返したところに声が飛んでくる。
「ちょっと!何でリプレなのよ!」
何で最初に挙がる名前が年頃の女性なのか。ええいこのスケベめ。
「いや、チビ達がガゼルの部屋で話してたまま寝ちまったらしくて空いてないんだ。他に広いベッドがあるのってチビ達と寝てるリプレの部屋くらいだしさ」
当のガゼルはベッドを追われ、床で寝てるらしいがそれは気にしない方向で。

(マズい……。非常にマズいわ……)
彼女がこの天然男に好意を持ってることなど周知の事実だ。
そんな中、一晩一緒に過ごしたという事実は実際に何もなかったとしても大きい。
いやむしろ!

『部屋を追い出されちゃってさ。悪いけど、ベッド半分借りれないかな』
するとリプレはすっとベッドを半分空け、軽くシーツをめくり上げる。
『ふふっ、いいわよ。子供達がいなくてベッドが冷たかったの』
そして彼を迎え入れると、あんなペタンコのちんちくりんには見切りを付けて私を暖めて、などと──

「──ダメっ!」
高速思考というか妄想が真ピンクになってきたので強制終了。
声を上げたのはハヤトがドアノブを掴んだあたりだった。
「ん?」
振り向いてみると知らずに声が出てしまったのか、カシスは口元を手で覆っておろおろしている。
「何がダメなんだよ」
尋ねても返事が返ってこず、おろおろしたり、あーうーうなったり。
何か面白いので三分ほど眺めてると、ようやく落ち着いたのか半分ほどベッドを空けてぽんぽんと叩いてみせる。
「……入っていいのか?」
「ちょ、ちょっとベッドが冷たかっただけよ! 明日はちゃんと片付けて自分の部屋に戻りなさいよ!」
いきなり態度が変わった理由はよくわからないが、ここは遠慮無く使わせてもらうことにする。
「いや良かった良かった。さすがにリプレに一緒に寝て良いかって頼むのは気が引けたからさ」
(……あたしならいいんかい)
ハヤトが空けてくれたスペースに寝転がると、ギリギリ体が触れない程度の余裕は確保できた。
「何とか入れたみたいね。良かったわねー、あたしと同じくらいの大きさで」
「ああ、そうだな。お前も俺と同じような体型で助かったよ」

がすっ

なぜこういう時、男の方だけ殴られなきゃならないのだろうか。

「じゃ、灯り消すけど……触ったらぶん殴るからね」
「……了解」
ふっ、とランプの灯が消え、天窓から差し込む月の光だけになる。

・・
・・・
ごぎん!

ランプの灯りが点き、頭押さえたハヤトとカシスの姿が浮かび上がる。
「っててて……」
「触るなって言ったでしょ!」
「ちょっと当たっただけだろ……思いっきり殴らなくても……」
「二度目は無いからそのつもりでいるのよ」
再度灯りを消そうとして思いとどまり、ランプの灯を細く絞る。
少し明かりがある方が何となく安心感があるような気がするのだろう。

──それから30分ほど経ったが、カシスは寝付けないでいた。
(……眠れない)
何かしてきそうということより、やはり隣に人がいるということが気になって。
そのせいもあってかベッドに入ってからずっとハヤトに背を向けたままだ。
「ッ!!」
びくっと体がこわばる。
背後から腕が回ってきた。
まだ懲りてないのかこいつは。
はーやれやれ、とため息混じりに立て掛けてあったロッドを掴もうと手を伸ばす。

そうび
rア
ブラックロッド 『伸縮自在のロッド。使用者の魔力を使って驚異的な破壊力を生み出すぞ』

ロッドに手が触れる直前、ぐっとハヤトの腕に力が入る。
抱き寄せられたのだ。
単純な力では圧倒的にむこうに分があるため、抗ってもまるで意味をなさない。
思いっきり密着状態になった上、抱きつかれているので殴ろうにもまともに腕も振るえない。
それ以上に、その、何だ……当たってるのだ。おしりに何か。ええい、みなまで言うな。
さらに耳元に息かけられたりとかされると力抜ける抜ける。
こうなればもはや召喚術で一気に──
……ってちょっと待て。
頭の何とか冷静な部分が訴えてくる。

──ひょっとしてこれは本気なんじゃないのか──

回されてる腕もお腹のあたりにあり、まだ胸とか触ってるわけじゃないし。
触るほど無いとかいう説は無論黙殺する。
彼が自分に対して『好意』と分類できる程度の感情は持っているだろうとは思う。凄く自信のない推測だが。
二人きり、というこの状況下でそれが一気に噴出したのかもしれない。
もしそうならば、自分はどう対応すれば良いのか……
ふと、2〜3日前の出来事が思い出された。
買い物のついでに、たまにはと酒場に寄った時のことだ。
『相手が鈍いならこっちから動かないと進まないわよ。時間は待ってくれないんだから』
とは金髪女医の言だ。経験者はかく語りき。
こんな事態はそうそう無いであろうことを考えると、やはりここはこちらも歩み寄るべきか。

──よし。
カシスは意を決して大きく深呼吸すると
「……ね、ねぇ。あ、あたしも覚悟決めたから。
 キミが本当にあたしのこと想ってくれてるなら……その……い、いいよ?」
精一杯、自分ではエサ撒きすぎと思えるくらい頑張った。もう感動するくらいに。
そのまま1分。
──返事が、来ない。
いい加減苛立ちがつのり始めたので、そっと後ろに目をやってみる。
赤くなったり固まったりしてるのかと思いきや……

寝てた。

そりゃもうぐっすりと。
ああそうですか。
こっちがこれだけ葛藤して思い悩んで勇気を振り絞ったというのに、こいつと来たら。
人を抱き枕にしていただけですか。
もはや容赦無用。情け無用の残虐ファイトも辞さないのだ。
カシスは手探りで『何か』を探り当てると力の限り──

捻った。

「──っっっ!!!」
声にならない悲鳴を上げてハヤトの体が跳ねる。
「お、おまっ……なんつーことを……」
涙をにじませながら患部を押さえてごろごろと転がるハヤト。情けない姿だが痛いとかそういうレベルではないのだ。
「ふんだ。乙女の純情をもてあそんだバツよ」
「何の……ことだよっ……」
ぷいとそっぽ向いてにべもないカシス。
背を向けていても怒ってるオーラが見えるので迂闊なことを言えない。
事情もわからず泣き寝入りするしかないとは理不尽極まる。

(はぁ……。ホントにヤな夜になっちゃった……)
これでしばらく進展は無いだろうな、などと思うとさらに陰鬱な気分になってくる。
仕方ない。もう今夜は眠ってしまうしかないか。
と、目を閉じても背中からすんすんとすすり泣く声が聞こえてくる。
「……そんなに痛かった?」
「……めちゃくちゃ痛い」
弱々しい声。さすがにやりすぎたかと罪悪感を感じてきた。
体を起こしてハヤトに向き直り
「わかったわよ、謝る。ちゃんと治療するから」
と、紫色の石を取り出し……たところをひょいと取り上げられた。
「……そいつは却下」
「なんでよ」
「なんでもだ」
取り上げた石と契約されているのは天使を呼ぶ術。
いかに天使といえど、女性に「ナニを治して」などというのは避けたいのだ。
「じゃあどうしろってのよ」
……こういう時は、つまり、あれか。
太古の昔からケガした時はとりあえず『あれ』と決まっているだろう。
ちょいちょいと顔を近づけさせてぼそりと耳打ちする。
「ぶっ! ななな何言い出すのよ!」
「やっぱイヤか」
まあ仕方ない。彼女のキャラからすれば当然の反応だろうと。
「……だ、だって……あたしまだキスもしたこと無いのに……
 最初に口付けるのがアレってちょっと……」
顔真っ赤にしてぶつぶつ言いながら、シーツにくりくりとのの字を書くカシス。
あれ。何だか雲行きが変わってきましたよ。
「じゃ、先にキスから入ればいいのか?」
「うっ……べ、別にそういうわけじゃなくもないけど……いろいろムードとか……んむっ!?」
刹那。軽く顎を上げ、素早くターゲットに唇を重ねる。
およそ二秒。ゆっくりと離れていくと……対象は沈黙しているようです、サー。
というか呆けたように固まっている。
目の前で手をひらひらさせたりしてみると、次第に目の焦点が戻っていき──
はっと我に返ると赤かった顔がさらに真っ赤に染まる。トマトかお前は。
「なっ……なっ……」
口元を手で覆い、ふるふると震えるカシス。
いつものパターン──渾身のビンタが飛んでくるかと身を固くするハヤト。
「ばっ……バカ……。もう少しムードとか考えてよ……それにあんな一瞬じゃ……」
軽くうつむき、聞こえるかどうかといった声でつぶやく。
こんなリアクションは想定の範囲外ですよ。
「今の無し! ノーカウント! やり直しを要求するわ!」
今日は何からナニまで予想外だ。
「今度はあたしから、ね」
頬に手を添えられ、スローモーションに見えるほどゆっくりと唇を重ねてくる。
甘い。さっきは味わう時間がなかったが、何か頭の中をいろいろ溶かされるような感覚。
長い。一瞬かも知れない時間がやたら長く感じる。
「うん、これくらいならOK」
こっちはKOされそうですが。
「じゃ、じゃあ本題に移るわよ……」
ごくりと生唾を飲み、うってかわって険しい表情になるカシス。
パジャマのズボンとパンツを一緒に引っ張ると、『それ』が顔を出す。
びくっと一瞬引くカシス。
すみません。さっきのでちょっと元気になってしまいました。
「…………」
あの、まじまじと見られるとさすがに恥ずかしいんですが。
意を決したように近づいていき、小さい舌が申し訳程度に先端をかすめる。
「っ!!」
それである意味一線を越えたのか、あるいは何か吹っ切れたのか、舌をいっぱいに使ってなめ上げていく。
ごめんなさい。正直侮ってました。
ピンチです。とても危険です。
たまに垂れてくる髪をかき上げる仕草ですらやばいです。
そして全体をくまなく丁寧になめ上げると、小さく開いた口がそれを飲み込んでいく。
「お、おい! そこまでやんなくても……うっ!」
「んっ……んむ……」
上下に動くたび、ぬめるように舌が絡まり吸い上げられる。
他人にしてもらうというだけでなく、相手が相手なだけに快感倍増。
「んぐっ……ちゅ……んんっ……」
こりゃとても長くは持ちそうにない。
もうさっきから頭とろけっぱなしだ。
そんな気が抜けなくも腑抜けっぱなしな中、ひときわ強く吸い上げられ、あっさり限界到達してしまう。
「お、おい!ちょっと離れ──」
「え?」
ここを我慢するというのは相当無理があるわけで。
カシスが離れた刹那の後に思いっきり放出してしまった。
要するに顔面に。ブチ撒けて。
カシスは頬や鼻筋に白濁が垂れるまま、こちらをジト目で睨んでくる。
「あ、あの……これはだな……!」
言い訳不能。どう見ても精子です。本当にありがとうございました。
「……別に良いわよ。こーいうのが出るのは一応知ってるんだし。それに、その、あたしので気持ちよくなってくれたのはそれなりに嬉しいし……」
後半を聞こえない程度につぶやきながら顔をぬぐうカシス。
だが、あいにく耳はすこぶる良かったりするので丸聞こえだったり。


つづく

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