ルチル様のお店 前編



小さなテントの中、甘い喘ぎとともに揺れ動く女の姿がそこにあった。
その紫色の肌や黒い翼は、彼女が明らかに人間ではないことを証明している。
彼女は――紛れもなく『悪魔』なのだ。
しかし人々の間で恐れられる悪魔という存在とはうって変わって、その姿は若くも愛らしい。
「はぁっ、あん……!ふ、んぅっ」
切ない声を上げる彼女の下には、一人の男の体。
体を揺さぶるたびに聞こえる音は、粘着質な水音のみ。
暗い肌とは対照的なほどに鮮やかなピンク色の秘肉が、男の肉塊を受け入れる音だった。
「おおっ……!いい、凄いぞっ……!!」
竿を擦る膣肉の快楽に、男が上擦った声を上げる。
彼女は、男の言葉に口元を緩めた。
「そんなにイイんだ?それじゃあ、もっと……」
更に激しく腰を揺さぶり、彼女は湧き上がる男の快楽を高めていく。
――悪魔の中には、こうして男を誘惑し、その精気を糧として生きる者もいるという。
ならば、この女も同様に男に抱かれ、精気と生命を奪い取る存在なのだろうか。
「いいぞっ!もっと、もっと締め付けてくれっ!」
溶けるような肉の心地よさに、我を忘れて腰を突き上げる男。
その姿がおかしくて堪らないという風に笑みを浮かべ、彼女は更に足を開いた。
「我慢しないでよっ……アタシの中に、思いっきり出してっ」
彼女の叩きつけるような激しいピストンと、肉塊に絡みつく膣肉の具合を前にしては、男の持久力などまったく歯が立たないのだろう。
むさぼるように彼女を求めていた男の表情は、既に限界近いというふうに歪んでいた。
「ぐっ……!」
ぶるっ、と男の体が震える。
びゅくびゅくとほとばしる精液を膣内に受け止め、彼女の顔に恍惚の表情が浮かんだ。
(今回は……けっこう搾り取れたかもしんない)
目の前の男は、ぐったりと目を閉じたまま無言のままだ。
やはり、彼女は男の命を奪い取ったのか――と思った瞬間。

「ほぉーらっ!お客さん!いつまでもここで寝てちゃ困るんだけどっ?」

「んっ?ああ、悪いなルチルちゃん」
ルチルと呼ばれた彼女に頬をペチペチと叩かれ、男はようやく目を開いた。
眼前の光景は、彼女のピンク色の秘所から出して間もない精液が滴り落ちているという、何とも淫靡なものだ。
「うぉ……」
男が思わず感嘆の声を漏らす。
だが、再び頭を持ち上げた男性器にまっさきに反応を示したのはルチルのほうだった。
「なに?もっかいお買い上げといきますか?」
「い、いやいや。これ以上体力を消耗するわけにもいかんだろ。今日はこの辺にしておくよ」
「ふーん。あっそ」
心の中で舌打ちしつつも、ルチルは満面の笑みを浮かべると立ち上がる。
その姿は先ほどまで激しく乱れていたことなど、寸分も感じ取ることができない。
情事後の疲労感さえもうかがえない彼女の顔は、むしろつやつやと輝いているようにさえ見えた。
「んじゃっ、この次もよろしく頼むからね?」
営業スマイルでウインクをすると、男はその愛らしさに顔を緩ませながら頷く。
どこの世界でも男の扱いなんてちょろいものだ――と心の中でルチルはほくそ笑む。
そして去っていく客の背中に手を振りながら、彼女はお決まりのセリフを口にするのであった。

「まいどありぃーっ♪」


エグゼナの一件で、この世界の危機から逃れるために一度はサプレスに戻ったルチル。
そんな彼女であったが、レオンたちがそれを倒したという噂を聞きつけるなり、速攻で戻ってきたことはいうまでもなかった。
しかし、今までの商売方法では『強欲の貴婦人』に満足な献上もできはしない。
そういうわけで、彼女はこのたび新たな経営方法を取り入れることを思いついたのだった。
その方法とは――。

「『欲望でのお支払い方法始めました』……?」
「らっしゃーい♪」
「うわっ……!?」
テントを覗き込んだ客に向けてひょっこり顔を出すと、その人物は思わず悲鳴とともにのけぞる。
「……ってアンタ、レオンじゃない。久しぶり」
引きつった顔でルチルを見る青年は、以前この店の常連客であるレオンだった。
狼狽するその姿にどこか違和感を覚えるが、商売の前には客の事情などどうでもいいことだ。
「いや〜、アンタたちが騒動を解決してくれたおかげで、アタシももう一度ここで商売できるようになったのよ。感謝してるんだから」
「へ、へぇ、よかったじゃないか。……うん」
「もちろん新商品も揃えてるから買ってってね……ってコラ、どこ行くのよ!?」

――ルチルの声とともに、後ずさりで逃げようとする彼の頭めがけてムガが飛びかかっていた。

「で?なんでアタシの顔を見た途端逃げようとしたわけ?」
悪魔コンビの見事な連携によって連れ戻されたレオンに、ルチルは胡坐をかいて睨みかかっていた。
悪魔という立場上あまりいい目で見られた経験も少ないが、こうも露骨な態度をとられてはさすがに気分が悪い。
レオンはいまだ苦い表情でうつむいていたが、やがて渋々口を開いた。
「最近この辺にいろんな道具や薬を売ってる店ができたって聞いたんだよ。ちょっと興味がわいて見に行ってみたら……お前がいたから」
「ルチル様の店じゃ買い物はしたくないっての?ひどいっ……散々求めて利用しておいて今さらっ……!ねぇムガムガ!?」
「ムガガッ!」
「って、変な言い方はよせ!」
威勢のいいツッコミもつかの間、深くため息をつくと、レオンは髪をくしゃりとかいた。
いつも元気はつらつというわけではなかったが、今の辛気臭さ溢れる彼の姿はどうにも違和感がある。
「……なんか悩みでもあんの?そのために何かを求めて、この店を覗いたんでしょ?」
「あんまり顔見知りに打ち明けるようなものじゃないからだよ。……もちろんお前にも」
ずいぶんと思い悩んでいる様子の彼に、ルチルは腕組みをして思考をめぐらせた。
レオンとエイナは店の売り上げを何度も助けてくれた、感謝すべき上客だ。
噂によると、彼は今後エイナとともに導き手を目指して旅立つつもりでいるとか。
それならこれからも旅先で、自分の店を利用してもらわない手はない。
つまり今、彼の悩みを解決に導いてやれば――。
(恩を売りつつ、好感度アップ!更に今後の来店率の上昇は間違いなし!!)
「水臭いわねーアンタ!このルチル様にできることなら何でも協力してあげるわよ!もち、秘密厳守!!」
背中を叩きながら満面の笑顔で迫るルチルに、疑わしい視線でレオンは眉を寄せた。
しかしその瞳に向けて、ルチルは更に自信たっぷりに口の端をつり上げてみせる。
「……じゃあ」
彼女の熱意に観念したのか、レオンはおもむろに口を開いた。

「――はぁ〜。お熱いことねー。青春まっただなかねー」
「ムガ〜……」
「な、なんだよお前ら!その目は!?」
ようやくレオンが告白した悩みの詳細に、ルチルとムガは薄ら笑いを浮かべてため息をついた。
今まで幾度も過酷な試練を乗り越えてきた彼が、一体どれほどの苦悩を抱えているのかと思えば。
悪魔の彼女にしてみれば、その内容は甘ったるすぎて吐き気さえ覚える。
「『初エッチで、愛しい彼女がナニをブチ込む時に痛がっちゃって上手くいかないんです〜』って。ハッ」
「わざわざ反復するな!」
頬を紅潮させながら叫ぶレオンの表情は必死だ。
きょろきょろと周囲を見回しながら、再びルチルの耳元へと寄る。
「だ……だから、エイナに痛い思いをさせずに抱けるような、そういう道具や薬とかは扱ってないのか?」
彼の人一倍エイナを心配するところは、以前からまったく変わっていないのか。
内容はともかく、誰かのために恥を忍んで密かに行動にうつるその人間性には、さすがのルチルも感心してしまう。
ふと彼の手元を見ると、お金が入っているらしき大きな袋を大事そうに持っていた。
(いくら入ってんのよ……。それをエイナのために散財しちゃう気?このバカ)
本来なら、こんな客が来れば待っていたとばかりに金額をふっかけるものだ。
しかし――。
(こんな真っ直ぐなバカから金を騙し取るほど、アタシは腐っちゃいないからね)
苦笑を浮かべると、ルチルはテントの奥から二つの小瓶を持ち出してきた。
「これ、どっちも三万バーム。ちょっと値が張るんだけど、効果は抜群よ」
「三万……か。わかった」

「男のアレが二分の一になる薬と、女のアレが二倍に広がる薬。どっちがいい?」

「どっちもいらんわっ!!」
ツッコミが板についてきたのか、レオンのリアクションは妙にノリがいい。
両方買えば五万バーム、と言いたいところだったが、これ以上彼の機嫌を損なうことは商売上よろしくないだろう。
「もっと……ほら、ベタな薬はないのか?強烈な媚薬とか、痛みを快感に変える魔法の薬とか」
「アンタも結構マニアックな発想の持ち主ね」
「うるさいなっ!俺だって必死なんだよ」
盛りのついた年頃の童貞が彼女を想うその姿は、ある意味滑稽に映ってしまうのが何とも物悲しい。
ルチルは二つの小瓶を片付けながら、その視線を一番奥の頑丈な鉄の箱へと向けた。
「……アンタの言った後者の薬。あることにはあるんだけどね」
「本当か!?じゃあそれを――」
「でもそれ、五十万バームなんだよね」
――瞬間、吹き抜ける風とともに沈黙が空間を支配した。
「ごっ……!?」
想像を絶する金額に、レオンの体が硬直する。
彼の手にしたお金の袋も、その金額を前にしてはポスンとむなしく落ちるだけであった。
「到底払える金額じゃないでしょ?諦めて、さっきの薬を買うか、帰るかしなさいよ」
「それは無理だっ!いや、でも俺は……前に進まなきゃいけないんだ!」
「ムチャ言うんじゃないって。金を払うアテだってないんでしょ?」
彼の悩みを聞くとはいったものの、こちらの商品を購入できないというのであれば、それ以上の助力はルチルにもできない。
彼女はあくまで商売人として、この世界に来ているのだ。
いくら親しい間柄といっても、ひいきをする事などできはしない。
多少の罪悪感にかられながらも、ルチルは力なく肩を落とすレオンに視線を向ける。
――その時、ひとつの案が脳裏をよぎった。
「……そーだっ」
エイナという恋人を持つ手前、彼には提案しなかった方法がひとつあった。
それは、お金を受け取るという以外の方法で、この世界の人々から魂のカケラを頂く方法。
それを用いることで、強欲の貴婦人への献上も上々となった行為だ。
あれならば、彼から大金を受け取ることなく、薬を与えてやれる。
「――ねえ、レオン」
艶っぽい声が、ルチルの唇からこぼれる。
「……なんだよ?」
悩みの解決の糸口を見失ったレオンの声は、くぐもっていた。
甲斐性のない自身への絶望と、安易な慰めの言葉への拒否だ。
しかしルチルは、彼の返事に言葉を繋ぐことはなかった。
思い沈黙が、レオンを余計に苛立たせる。
やがて落胆したレオンの顔は、彼女に向けてゆっくりと上げられた。
……のだが。

「うわあぁっ!!?」

「そんじゃあさ、こっちの『お支払い』で買ってみない?」
絶叫したレオンの視線の先には。
――腰に交差させたベルトを持ち上げ、恥じらいもなく秘所をさらけ出したルチルの姿。
一体ナニをやってるんだコイツは。
常識を逸脱した彼女の行動に、興奮を覚える間もなくレオンは口を半開きにしていた。
「ち、痴女だったのかお前……」
「違うっての!ほら、アタシの今までの魂の奪い方、知ってるでしょ?」
悪魔であるルチルは、上司にあたる『強欲の貴婦人』に魂を献上する役目がある。
しかし強引なやり方を好まない彼女は、この世界で品物を売り『お金』という形で、少しずつ魂のカケラを集めていたのだ。
「でもさ、そのやり方じゃあ満足な量の魂が集まんないのよねえ。そこでルチル様が新提案!『体のお支払い始めました』!!」
「…………」
顔を引きつらせたまま尻もちをつくレオンに、ルチルは言葉を続ける。
「相手の欲望をこの身に受け入れることで、アタシたち悪魔の大好きな、ドロドロした感情のこもった魂のカケラが思いのほか手に入っちゃうのよね。しかもお金を貰う方法よりもずっと沢山!あ、言っとくけど命に別状のない程度だからね」
……欲望を、この身に受け入れる。
彼女の言葉の意味をレオンが理解するのに、そう時間はかからなかった。
そもそも、目の前で堂々とノーパン姿で立ちはだかるイカレた女悪魔を目の前にして、それ以外のことを思いつけというほうが無理かもしれない。
「それは……つまり」
あまりにも唐突な状況にも関わらず、レオンの喉がその言葉に上下する。
ルチルのいたずらじみた笑みが、悪魔としての妖艶なものへと変化していた。
「ぶっちゃけた話、アタシと目一杯楽しんで、その魂をほんのちょこっと貰いたいわけよ。悪い話じゃないでしょ?」
言葉を続けながら、ルチルの細い指は露わにされた下半身の、茂みの中へと進んでいく。
ふっくらとした陰唇を二本の指で押し広げると、鮮やかなピンク色の秘肉が顔を覗かせた。
青みがかった紫の肌と、鮮やかなピンクの見事なコントラスト。
思わず釘付けになる視線を必死に戻そうとしながら、レオンは慌てて首を横に振った。
「ちょ、ちょっと待てよっ。いくら金がないからって、こんな方法は……」
「あっそ。嫌ならアタシは全然構わないんだけどね」
突き放すようなルチルの言葉に、レオンは悔しげに唇を噛む。
条件を受け入れるか、このまま諦めるか。
選択肢は二つに一つ。
「ニシシシッ♪ほら、どうすんのォ?」
苦悩する人間の感情とは、なんて甘美な味なのだろう。
固く目を伏せるレオンを前に、ルチルは満足げに微笑んでみせた。
「――さあ、買わないと損しちゃうよ?」


つづく

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※後編Aは、ウホッ!な展開を含みます。苦手な方はご注意ください。

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