ハヤト×黒クラレット



俺は最近になって気付いたことがある。


―………………………………ト……―


今まで気付かなかった…というと実はそうでもなかったりする


―……っ、……ぃ………ヤト………―


まぁ、なんだ。クラレットのことなんだが、


―……っと……てる…で…ハ……ト…―


あいつ結構、


―…ヤ………もぅ……げ…にし…ヤト……て………―


その、なんて言うかさ……あれだ、


―もう……げんに…き………下さい………ハヤト!―






黒かったんだよな






―それなら、こちらにも“手”はありますよ―






世界が開けた




耳に流れてきた詩-ことば-は目の前にあるものを認識するよりも早く、数日前のある出来事を引っ張りだしてきた。

魔王召喚の阻止、オルドレイクの討伐から半年が経ち、サイジェントは平穏に満ちていた(まだオプテュスの残党との小競り合いもあるが、以前に比べたら遥かに小さいものだ)。
そんな中、フラットには少しずつ変化があった。

その中心にいるのは、自分のよく知っているあの少女だ。
目があって、自然と口が動く。

「クラレット」

無色の派閥の一員として、彼の血を引くものとして生きてきた彼女には、笑顔はなく、口数も少なかった。人付き合いだって駄目駄目だった。そんな彼女がどうだ、今は笑って応えてくれる。

「なんですか、ハヤト。」

この生活の中で心を開いてくれた彼女は、初々しい人間性を見せてきてくれた。それはとても嬉しかった。
だが、悲しいかな、彼女の本質も段々と露になってきた。


それはある日の夕暮れ。俺が釣りをしていたときのこと。その日は魚の食い付きが悪く、三時間ほどしていたのだが、釣れたのは下半身は魚、上半身は猫という、いろんな意味で食べづらい魚だけだった。一言で言えばゲテモノだ。
これはマズイ。この展開は非常にマズイ。
「このままだと…」

「ハヤトに食べてもらうしかないですね」

聴こえてきたのは柔らかくて、透き通った声。自分が一番よく聞いている声。
見上げると、夕陽に赤く照らされた少女がいた。自然に心が和んでくる。ともう一つ、

「クラレット…今、何て…?」
「釣ったのはハヤトなんですから、ハヤトが責任もって下さいね」
「…うっ…ぐ…」

またしても聴こえてきたのは容赦のない言葉
これはマズイ。時間切れまでになんとかまともなのを…

「リプレが、もう帰ってくるように!だそうですよ」


たいむ いず おーばー


泣きたくなってくる。まさか、こいつが夕飯になろうとは。いや、こいつを食うくらいなら!


ポチャ


夕焼け空に悲しい音が一つ。達者でな。
その音につられて、ふふっ、と背中から笑い声。その声の主に向きなおると、楽しそうな笑顔があった。とりあえず文句でも言ってやろうか。そうだな、そうしよう。

「で、でもクラレットがリプレみたいなこと言わなければ、すぐに一匹くらい釣れてたさ」
「………」

一瞬の間、彼女の表情が見えなくなって、
次に見えたのは見たことのないどこか妖しい、強気な瞳だった。

「私はリプレとは違いますよ…」

さっきの言葉といい、何か引っ掛かる。ハヤトはそう直感した。よくは分からないが、何かモヤモヤとした、そう、暗い何かが伝わってくる。声がでない。何か言うことがあるはずなのに、何故?

ハヤトが困惑していると、いつの間にか彼女の顔が目の前にあった。どこか虚ろな瞳、熱っぽい吐息、熟れた唇。その全てがハヤトの頭を埋め尽していく。頬に手を添えられ、そして、その唇が揺れた。

「ハヤト」と。瞬間、体がこわばる。己の唇、頬にあてられた手と背中に回された腕、そして密着した四肢から、彼女の熱が流れ込んでくる。ハヤトはもうパニックに陥っていた。

(あぁ、俺のファーストキスが…。いや、クラレットとなら凄く嬉しいんだけど、何か違う!)

突然、彼女の眼が開きこっちを覗きこんできた。僅かに微笑んだのか、眼差しが暖かくなった気がした。ハヤトもぎくしゃくしながらも見つめかえすと、彼女はそのままゆっくり目を閉じ、


ヌルリ


未知の感触。

それが身体の中に入り込んでくる。一体何が!?

答えは知っていた。後輩がよくこういった本を持ち掛けていたから。ただ、突然の彼女の行動信じられなかったのだ。いや、信じたくなかった。
こういった事とは全く無縁だと思っていたから。だから、夢だと信じこませようとしていた。


ニュ…クチャ…クチュ……チュル…


無理だった。「ハァ…」彼女の息が漏れる。そしてもう一度。

(うわっ!…なんなんだよ、これ)

次第にハヤトのからだから力が抜けていき、クラレットが軽く舌を絡めとったとき、

「はぁ…はぁ……はふっ……っん…」

ハヤトは彼女に抱きとめられていた。必死に状況を把握しようとしているハヤトに思いもよらぬ言葉がかけられた。

「これが私です」

ただ驚くだけだった。現実だと認めるしかなかった。それが精一杯だった。
見上げた彼女の瞳には力強い光があった。それが何を意味するのか今のハヤトに分かるはずもなかったが、濃厚なキスの余韻も冷め、そこにハヤトは悪感を感じた---恐怖。
突然の痴態に対するものなのか、それとも愛する人への幻滅なのか。


気が付いたら、そこはフラットだった。
どうやってあの場から逃げ出したのかもクラレットがどうなったのかも、どれだけ時間が過ぎたのかすら覚えてなかった。ただ、何故か自然とフラットに入ることは出来た。
と、足音が近付いてくる。まさか、ハヤトは身構える。

「ハヤト〜?帰ってきたの?」

足音の正体はリプレだった。固まっている自分を不思議そうに見ていたのに気付いてか、なんとか取り繕うとする。

「…あ〜…あ、あぁ悪いな。あ、その…全然釣れなくて。いやぁ、俺も頑張ったんだけどさ!ん、まぁ時間も時間だしな!」
「それは別にいいんだけど……」

ハヤトにまくしたてられて、会話が曖昧なうちにに進んでいく。そのうちハヤトが、
「あの!おれちょっと疲れたから寝るよ。夕飯は後でいいや。」
そう言い残し、早歩きで自分の部屋に入っていく。

そこでリプレが思い出したかのように言った。

「ちょっとハヤト!?クラレット見なかった?さっき出かけていったから、ハヤトのとこだと思ったんだけど?」
「………」

返事はなかった。そのうちリプレがははぁ〜ん、と頷いた。

「もしかしてまた喧嘩なの?まったくもう。それでこんなに早く帰って来たのね」


からだが自然とベッドに向かう。重力に逆らうことなくそのまま沈み込んでいく。…頭が痛い。そう思いながらも先程の記憶を思い返していく。段々と、そう段々と…

「うぅ…何だったんだよ、アレは…」

彼女の瞳、触れ合った体温、唇の感触。思い返していくうちに、指が唇に、まだあの柔らかさが残る唇に近付いていく。触ってみるとほんのりと暖かさがある。自分の熱なのか、それとも彼女の熱なのか。しばらく触れては、はっと我に帰って赤くなる。

「あぁ〜!駄目だ駄目だ、こんな…こと………夢じゃないんだよ…な…?」
「えぇ」

ガタンっ!ドスっ!

ドアの向こうから聴こえてきたのは、こんなにも自分を惑わせてる張本人。クラレットだ。
突然のことに、ベッドからころげ落ちたハヤトは尻餅をついたまま動けなかった。
今の音にリプレが飛んでくるかもしれない。むしろその方がいいのだろうが、ハヤトにしてみればそれどころじゃなかった。クラレットがすぐそこにいるのだ。あのクラレットが。

「どうしたんですか、ハヤト!?」

彼女の慌てた声が聴こえてくる。何か返さなくちゃいけない。そうは思うものの、ドアの向こうに彼女がいるというだけで、言葉がでなくなる。
頭にはもう先程の痴態しか浮かんでこない。と、ドアに触れた音がした。ハヤトは感じた、来る!と。

「ハヤト、入りますよ?…ハヤト?」

今は駄目だ。本能がそう伝える。なんとか、今は避けておかないと!そう判断したハヤトは、

「な、何でもないよ。平気平気!あ〜、あのさ、俺疲れたからちょっと寝るな。」
「……そうですか。…リプレにそう伝えておきますね」

クラレットはそう言って、静かに遠ざかっていった。


つづく

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