ハヤト×黒クラレット 2



重い瞼をやっとのことで開けると、目の前で鮮やかな紫色が揺れていた。
胸元から下半身にまで及ぶ、柔らかくて温もりのある何か。それと共に手首に感じる微かな痛覚。
暗い部屋を、自分の眼を射す薄い光と鼻をくすぐる仄かな香。まだ覚醒してない五感をそれぞれに刺激する非日常の空間。しかし、ここが自分の部屋であることは、机に置かれたコートが目に入ってわかった。
重いからだを起こそうと、息を吸い込み瞼を閉じた瞬間、手首に先程よりも強い力が働き、そこで一気に夢の世界とお別れした。

「あ、起きましたか」

完全に目の覚めた今--そうでなくとも--聞こえた声の主を間違えることはなかった。

「え?あれ?…クラレット、か…ああぁ!?」

草食動物のように広い視野を持っているわけではではないのだが、この空間の、自分のおかれている状況を一目で理解した。

まず、今は夜。深夜なのだろう、物音はなく、開け放たれたカーテンから半分の月が寂しく部屋を照らしていた。そして自分はベッドに仰向けに寝ていて、自分の上にのっていた温かいものは布団ではなく、一つ屋根の下で暮らしている少女だった。

こんな状況で笑っている彼女を見て、心を許していたハヤトは今まで忘れてしまっていたが、突然彼女の顔が近付いてきたときにあの夕方の出来事をフラッシュバックさせてしまった。

「あっ!ってちょっ、ちょっと待っ…!?」

とりあえず彼女を止めようとしたのたが、自分が狭い箱の中にいるように感じた。
それもそのはずだ。両手を後ろ手にされ、縄--感触からすると毛糸なのだろうか--できつく縛られてあったのだ。手首に感じたのはこれだったのだ。

そんなハヤトを見て、クラレットは楽しそうに笑っていた。間違いなく彼女がやったのだろう。

「可愛いですよ、ハヤト」

こんなことを言うくらいだ。確信犯だ。
未だに困惑しているハヤトの頬を綺麗な両手で挟みこみ、互いの額と額をくっつけて彼女は口を開いた。

「呼んでも全然起きなかったので、強攻手段に出させてもらいました。」

熱暴走しかけている頭の中を巡らすと、確かにそんな言葉を聞いた気がする。それにしても、いくらなんでも強攻すぎる。

「心配したんですよ。目覚めのキスでも起きなかったんですから。」

(そういえば、なんだか唇が潤っ……!?)

『目覚めのキス』という言葉に、シンデレラだったっけ?それとも不思議の国のアリス?などと考えていたハヤトは、突然の言葉に頭を横殴りにされ、自分がキスされているイメージを思い浮かべ、そのまま絶句した。
キス。目覚めのキス。クラレットとキス。ハヤトは耳の先まで真っ赤にして、固まっていた。頭から煙が出てるが気にしない。
そのうちに頬に置いた手を、顔を、頭を撫でるように動かし、首の後ろで組むようにすると、そのまま胸に抱き寄せた。

(うわっ!ちょっと、ちょっとっ!!)

慌てているハヤトを知ってか、楽しそうに笑いながら腕に力を籠めていく。

ハヤトは思わず目を瞑り、次に来る感触を待った。そうするしかないとはいえ、流石に恥ずかしい。

まず頬に当たる布の温かさ。それが本当は肌の温かさだと気付いたときにはもう、次の弾力が伝わってくる。
それを感じとった場所から熱が生まれ、ハヤトはただただ顔を真っ赤に染め、感触を味わっているのか、
ただ単に緊張しているのか固まったまま動けなかった。

それはほんの数秒。
こんなときは大抵スローに感じるというが、そんなに状況をしっかり理解出来るほど余裕が無いからかもしれない。
それとは逆に、押し潰された胸の形が変わってしまいそうなほどほど長い時間、クラレットの胸のなかに顔を埋めさせられていた。

しかし、クラレットはハヤトの顔が埋まるほど抱いてもまだ力を緩めず引き寄せる。
ただでさえ緊張しているのに、こうまでされると色々な意味で苦しくなる。

とりあえず小さめ身じろぎをし、口と鼻を装動員してなんとか外から空気を取り入れたものの、
吸い込んだそれがシャンプーのやたら清潔感のある香りと、甘ったるい彼女の芳香で、逆に頭がくらくらしてくる。

そのうえ、その行為がクラレットに愉しそうな笑みと更なる抱擁と、微かな快楽を与えてしまい、
抜け出すどころか、ますます深みにはまってしまっていた。

「……ふふっ…ハヤト……」

耳元で囁かれる。普段に比べ心地よい声色。ハヤトもその声に抵抗できず、さらにはこの部屋の流れを一握にした。

いつもは安らぎを与えてくれるはずなのに、今は体を縛りつけるその声。
いや、本当に縛りつけられているのは心なのだろうか。
段々とその心の中に感情が刻みつけられていく。畏怖と言うべきものか。けれど、それともう一つ…

「ハヤト…ハヤト、ハヤトハヤトハヤト……」

困惑しているハヤトは、熱の籠った声で名前を連呼され更に困惑し、次の言葉を待った。
しかし、『次』は態度であらわされた。

いつも以上に優しい笑みでじっと見つめられたかと思うと、無言のまま彼女の手がハヤトを開放し、
首をつたい服のボタンにたどり着く。

これにはハヤトも本気で驚き、パニックに陥ったせいで、動かせない両手の代わりに体全体を使い彼女を振り払った。

「きゃっ!」

彼女を振り払った反動で倒れた体を慌てて起こし、自分を襲った彼女の安否を確かめる。

クラレットは両手で体を支えていて、ベッドから落ちてはいなかった。
つい安堵の声が出てくる。

「はぁ…良かったぁ…」

思わず口に出た言葉を聞いたのか、こちらを見て茫然として、一度視線を自分の体を支えている手に移してから、もう一度こちらを見た。

先程と違い真剣な眼で。

その眼を見て、ハヤトは自分のしたことの重さを知った。
彼女が本気にしろ遊びにしろ--恐らく本気だろう--自分に好意をもってくれていた。
それなのに自分はそれを拒否したのだ。彼女を傷付けはしなかったが、心に傷を負ってしまったかもしれない。
段々と募ってくる申し訳なさをどうしても伝えたくてとりあえず言葉にしたのに、

「ごめん、クラレット……本当にごめっ!?」

二度目の、いや三度…もしかしたらもっと多いかもしれないキスで、全てを言えずにハヤトは、また困惑する。

そのまま彼女の右手を顎にそえられたとき、いつかのときのように、彼女の舌が入り込んでくる。
その動きは以前とは違い、怒りを体現するかのように荒々しかった。

本気ともいえる動きは一片の隙もなく、ハヤトの口内をくまなく舐めつくし、ハヤトの舌に襲いかかった。
突然のことに抵抗できず、成すがままに蹂躙され、そのままハヤトは押し倒される。

責める側のクラレットと違い、休む暇なく責められハヤトはまたも呼吸危機に陥ったが、
恐ろしいほどの速さで舌を使うクラレットに敵うはずもなく、ただうめくことしか出来なかった。

それを感じとったクラレットが一旦口を離すと、二人の間に銀に輝く橋が出来た。
その橋を恥ずかしそうに見ながら、ハヤトがなんとか一息ついたところでクラレットは、舌でその橋を絡めとりながらまた舌をさし込んでいく。

「…んむっ…っはぁ……んっ、んんんん……」

ディープキスの感触に慣れないハヤトは舌を動かし、参ってしまう前になんとか避けようと試みるが、
クラレットがそれを許すはずもなく、ハヤトの舌を執拗に追い回し、絡めとり、なぶり尽す。

その間にクラレットの左手は、彼女とは思えないような--それこそ、別の生き物のよう--淫らで巧みな手付きでハヤトの服を脱がせていく。

(待って、止めっ……うわっ…あぁぁ………)
クラレットが今度は自分の舌をハヤトのそれに絡ませたまま、彼の口内の空気や液体を全て吸い取るが如く吸引を始めた。

新たなその強烈な感覚にハヤトは体をこわばらせていた力を解放させ、体を震えさせはじめた。
チュル、チュ〜と、官能的な音と感覚を一身に廻らせ、段々と思考力を奪われていった。

あまりに強烈な吸いとられ方のために、ハヤトは眼をきつく閉じ、口を開け、舌だけ伸ばしていた。
その舌にまるで蛸の吸盤に吸い付き、吸いとり、
キュ〜…ポンッ!…と、大きな音を立ててようやくキスを終えた。

虚ろな眼をしてだらしなく口を開け、体で大きく息をしているハヤトと対照的に、
クラレットは目を閉じ、ハヤトとのキスを満足そうに口の中で味わっていた。

クラレットは目を閉じたまま、横たわっているハヤトの体に体を預けると、いかにも満足したという息をして瞼を開いた。

「いっ!……ク、クラレ…ット……?」

その眼は狂ったようにハヤトの眼を射るように強い意志を持ったものだった。いや、ハヤトに狂っているのだ。

ハヤトとはというと、Yシャツは縛られた両手のところに絡まっていて、ズボンも膝下まで下ろされていて、
我慢できなくなった欲望の象徴が、トランクスを大きく持ち上げ、その頂点を濃く濡らしていた。

ハヤトの眼を見つめたままクラレットは体を後ろにずらしていく。
ハヤトもその先は予想できた。それを思ったときに今までと違い、彼女にして欲しくない、とは思わなかった。
ただこれからのことに………。


つづく

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