妖姫新妻(未定)奮闘記 1



「という事なんですの、アマリエさま」
「あらあら、サッパリ解からなかったわシュガレットちゃん」
 …私のお話はスッパリとアマリエさまに切られてしまいました。むぅ。
 私としては懇切丁寧、大盤振る舞いで説明したつもりだったのですが、残念ながらアマリエさまには理解して頂けなかった様でした。
 当然ながら私のお話の大部分は、偉大で素敵で世界一カッコイイ私の御主人様で在らせられる、ワイスタァン史上最年少にして鍛聖の位にご就任なされたクリュウさまのお話で占められています。

 美しい白銀の髪、真っ直ぐで真摯で、星空も凌駕する魂の輝き、それを証明するかの様な真っ直ぐ向けられる麗しの眼差し。ああ……

 はっ…いけないいけない、アマリエさまにご説明しなければいけません。
 ちょっと前まではクリュウさまのお父上にして前任の『黒鉄の鍛聖』、シンテツさまを私から奪った人として見ていましたから見るのも聞くのも近寄るのも御免でしたが、現在は言わば私のお義母さま(予定)です。
 この方がいらっしゃらなければ愛しいクリュウさまはお生まれにならなかった訳で、私はお会いする事叶わずワイスタァンはおろかリィンバウムにすら戻る事もなく、霊界サプレスで漂っているだけだったでしょう。

 でも、今は愛しのクリュウさまと一緒。
 邪魔なブロンさんの眼のある銀の匠合に割り当てられた部屋ではなく、海上都市第二階層に一軒家を頂き二人っきりのラブラブ生活です。
 あ、申し送れました。私の名前はシュガレット。霊界サプレス生まれのクリュウさま専用護衛獣。

 そしてクリュウさまの妻(自称)です♪


「そこの糞餓鬼、待ちな」
 濁声を蹴っ飛ばした毒声を吐いて呼び止める男が二人。
 ここ剣の都ワイスタァンは武器を求める人間でいつもごった返している。傭兵から召喚師、果ては召喚獣までが武器を求めに来訪するからだ。
 この街には下手な戦士の能力を凌駕する鍛冶師達の頂点、“鍛聖”と呼ばれる存在があった。
 武器を産出する代わりに軍事力を持たない。その代わりに鍛冶師達が街を守る為に戦う。だから鍛冶師は並の戦士等足元にも及ばない能力を身に着けている。否、身に着けねばならなかった。
 現在はかなり数を減らしたものの、七人の鍛聖が戦に介入するだけで各国の軍事バランスが崩壊してしまうというのだから、その強さの程も知れるというもの。
 現に『黒鉄の鍛聖』を選び出す大会の折、何故か軍事帝国デグレアが軍艦で攻めて来たのだが、病を理由に引退していた『翡翠の鍛聖』ルマリが、“ほぼ一人で”鎮圧してしまったぐらいなのだ。
“魔人槍のルマリ”の二つ名は伊達ではないという事だろう。

 そして今、この街に若き鍛聖が誕生していた。

 その名はクリュウ。
前『黒鉄の鍛聖』シンテツの実の息子にして、海上都市史上最年少の鍛聖である。尤もまだ見習いの身であり、正式に鍛聖になってはいない。無論、街の者達は未熟とは言い難いその実力を大いに認めているのであるが…

「待てっつってるだろうが!」
 街の人間ではない男達には知る由も無かった。
「…あれ? ボクの事ですか?」
 と、やっと振り返った少年。その腰には大きなホルダーがぶら下がり、幾本もの武器が入っている。美しい装飾を施された大振りな剣や、棘の付いた炎の気配がする斧等があり、まさかこの少年が鍛えたものであるとは誰も思うまい。

 だが、“この街の人間”であれば誰でも知っている。

 この年齢がやっと十四に届いた彼こそが都市を護る新たなる柱の一つ、新生『黒鉄の鍛聖』、クリュウその人である。

「違いますわ、クリュウさま」
 そう言って彼の肩にそっと手を置く少女。ふわふわと身体を浮かせ、常に彼に付き従い、常に彼を護る為に霊界サプレスからこの世界に呼び出された護衛獣──水の妖姫にしてクリュウの妻(自称)。名をシュガレットと言う。

「そうなの?」
「ハイ♪」

彼の事は全てにおいて優先される(というか“優先している”)為、彼に真っ直ぐ見つめられるだけで幸せになる。

「クリュウさまは立派な殿方です。少なくとも“餓鬼”等という呼称で扱われていい存在では決してありません」

「でも、年齢的にいえばボクはまだまだ子供だよ?」
「ケノンさまはあのお歳で奥様もお子様もいらっしゃいますよ」
 ケノンというのはクリュウのいた銀の匠合とは別の、金の匠合所属の当時十六歳だった鍛冶師だ。クリュウが御前試合で二回戦目に武器を交えた相手である。
 鍛冶師としての技量は並のものだが、戦士としてのそれは高く、 まだナイフ位しかまともに作れなかった駆け出しのクリュウは必死になって秘伝を覚え、何とか作り出したアイアンセイバーで苦戦の末に勝利したものである。

 その彼も実は妻子持ちである。十五にして二つ年上の伴侶を得た。尤も、その位の年齢で結婚するのはここではさして珍しい話でもないが。

「それはそうだけどさあ」
「それでですね、一人前のオトナとして皆様に見て頂く為に…妻帯する、というのはどうでしょう?」
 ポッと頬を染めてうにうにと彼ににじり寄るシュガレット。
「え? あの、シュガレットさん?」
「イヤですそんな他人行儀な、シュガレットはクリュウさまの妻なんですから、……何時もの様に、“ボクのシュガレット”とお呼びください」
 …………空気が死んだ。彼女の桃色爆弾に彼は未だ慣れない。
「い、いやボクはそんな事言った事ないし」
「やだ、クリュウさまったら照れちゃって…可愛い♪」
「わ、わぁっ こんな所で抱きつかないでよ」
「ここじゃなければいいんですね? じゃあ早く帰りましょう、私達のスゥイートルームへ♪」

 街の者からすれば見慣れたものであり、何時もの事だ。
 妙に軽いこの街の老人達にとっては「今日こそ年貢の納め時に20バームじゃ」「いやいや、今日も逃げ切るに25バーム」と賭けの対象になっていたりもする。
 だが、“余所者”がそんな事を知る由も無い。

「っざけんなボケがぁ!」
「俺達をほったらかしにするんじゃねぇっ!」

 何気にイジケ気味の怒鳴り声であるが、クリュウとシュガレットを驚かせるには十分だ。尤もシュガレットにしてみれば、「私達のストロベリィな時間に割り込んでこないでください」というところであろうが、そんな都合は知った事ではないのである。
「手前みたいな餓鬼が鍛冶師気取りってのがムカつくんだよ」
「俺達が本物の力ってのを見せてやるからありがたく思うんだな」

「「…はぁ?」」
 行き成りの展開に訳が解からない二人。それは当然の反応だろう。ハッキリ言っていいがかり以下なのだから。言葉も小悪党のそれだ。だが、この男達が何をしようとしているかは何となく理解できた。
 要は鍛聖達の中ではパッと見弱そうなクリュウと戦って勝利し、“鍛聖に勝った”という名声を得ようとしているのである。

 この街の人間であればそんな戯けた事は絶対にしない。

腕試しだと言い勝負を申し込む輩はいないでもないが、それにしてもクリュウが強い事を知っているからこそ申し込むのである。

 当然ながら見た目が弱そうなだけでクリュウのその身体は凄まじい程鍛えられているのだ。
 剣の使い方に関しても、現『紅玉の鍛聖』コウレンのお墨付きだ。

「クリュウくんは私の想像より遥かに強くなっているわ、そういう意味では嬉しい誤算だけどね」
「そんな、ボクはまだまだですよ。まだまだ知識も足りないし、目標の父さんの位置にしたってまだ見えてもいないんですから」
「うん、謙虚になって男ぶりも上がってきたわね…フフ」

「ちょっと姉さん、何やってるの」
「チ…」

 何気にクリュウは男ぶりを上げているのであるが、そのせいかコウレンにそのケが芽生えたらしく、以前とは別の意味で姉妹の仲が悪い。

 ともあれ剣の使い手たる姉妹から見ても、彼の剣の腕は大したものなのだ。この街で“大したもの”という事は、世間に出れば途轍もないレベルという事である。ハッキリ言って実力を知らないとはいえ、少年相手にムキになっている時点で男達の力量も知れるというもの。クリュウの相手等ちゃんちゃらおかしい戯言である。

「どうした小僧、その護衛獣に庇って貰えなきゃ何にも出来ないってか?」
「怖いなら不戦敗でも良いんだぜ?俺達は大人だから寛大だぜ」

 殊更煽っているのはクリュウがキレて飛び掛ってくるのを待っているからであるが、彼は眉を顰めるだけだった。

 男達の持っている武器はデグレア兵も愛用の鉄斬刀と雷のエレメントが宿っているグラディスパークだ。そして今自分の持っている“マトモ”な武器は…

 使い込んだセイントブレードと、火のエレメントを用いて打ち鍛えた幻魔の斧。

 ハッキリ言って、あの二人に使うと殺しかねない代物である。さりとて“アレ”を使うのは可哀相過ぎるし、どうしたものか。と男達の事を心配していると、横に立つ(というかふよふよ浮いている)シュガレットが、クリュウが助言を求めて視線を向ける前に口を開いてこう言った。

「もうサクっと殺っちゃいましょう凸(―щ―メ)」
「え、ええぇ〜〜〜っ?!」

 ものごっつ男二人を見下して屠る事を薦める同居人兼パートナー。その際の表情は飽く迄も微笑みなのであるが、男達に向けている笑みは間違いなく憤怒の表情で、シルターン文化の一つ、『能』の般若の如し。

「あんなクソくだらない理由で私達の甘美な時間の邪魔をしたのですよ? その行為は賠死に値します。ですからサクサクっと殺っちゃって、とっとと二人っきりで武器の材料を探しに参りましょう」
「あ、あのねぇ…仮にも相手は“この街の武器”を持ってるんだよ? そこそこ強いと思うんだけれど……」

「ハッキリ申しまして、あのお二人の力量は一年前の御前試合初戦にて戦われたチェベスさま程度です。クリュウさまが負けようと努力されないかぎり負けたり出来ません」
「さり気無く…というか直球でボロカスに言ってない?」
「事実を申しているだけです」

 チェベスというのは、やはり金の匠合所属の鍛冶師の一人である。彼の作った大振りで無骨な剣からも解かる通り、戦法は力押しで不器用で小回りが利かない。体格はクリュウが同年代と気付かない程立派だが。
 クリュウが最初に鍛え上げたラグズナイフで勝てたりしたのだから、その力量も申し訳程度なものだ。ナイフという素早く攻撃できる得物を持っている利もあった事は間違いないが。

 訳が解からずとも、男達は馬鹿にされている事は何となく理解できた。

「ふ…ざけるなぁっ! 俺達を馬鹿にしやがって、手前召喚獣の分際で生意気だぞ!」

 鞘からシュ…と剣を抜いて喚き倒す男。状況を面白そうに見守っていた街の住人達(クリュウが負けるとは毛ほども思っていない)は、
「…75点」
「いや、ありゃ50点だろう?」
「作ったのは金の方か?」
「ったり前でしょ? 完全に外部売り出し用の数打ちモノよ? アレ」
「だよな、ブロンの方であんなの売りに出したら半殺しだぜ」
お気楽に武器の品評会だ。それが余計に男達をイラつかせる。

「女の…それも召喚獣の分際で人間様の話にしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ! すっこんでろ霊精が!」
 言動がどう聞いても八つ当たりな男。ピキッとシュガレットの額に青筋が浮かび上がり、こうなったら自分が魔法でカタつけちゃると自分が最も得意とする魔法、ラピッズバーストの水流で押し潰してやろうとする。だが、

 すっ

と、そのシュガレットの前に手が出されて詠唱が中断された。
「駄目だよシュガレット」
「…クリュウさま?」
 止めたのは自分が愛する少年だった。
 無論、この少年が男達に同意するとはスライムの体毛程も思わないが、止めるという事は彼がやるという事だろうか?見習いとはいえ鍛聖となったあの日から、他人との争いは出来る限り避けてきた彼である。そんな彼が自分から戦おうとするとは思えなかった。しかし…


「シュガレットが術なんか使う事ない、あの二人はボクで“たくさん”だよ」


To be continued.




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