妖姫新妻(未定)奮闘記 2



 彼は怒っていた。蒼炎が静かに燃える如く。

 男達はシュガレットを愚弄した。自分ならまだしも彼女をだ。どこか子供っぽさの抜けない童顔のクリュウであるが、芯はちゃんとオトコノコしているのだ。大切なパートナーの侮辱は許しておけなかった。
「いやん☆ クリュウさまぁ〜〜ん♪」
 当然、シュガレットの瞳はハート型だ。クリュウ至上主義者であり、(自称)愛妻の彼女である。メロメロになるのは然るべくして起こる実情であった。
「…後悔しませんか?」
「ざけるなっ!」
「手前みたいな餓鬼に負ける訳がねーだろが!」

 毒を吐いて吠える男達。だが街の者から見れば滑稽な見世物以外の何物でもない。

「父ちゃん、何であのおっさん達ってクリュウ兄ちゃんに怒ってるの?」
「そりゃ馬鹿だからだろ」
「クリュウちゃん優しいからねえ、喧嘩は好きじゃないのに」
「女の子の為に戦うってのが坊主らしいじゃねぇか」
「だよな、おい何分に賭ける? 俺は二人だから二分だな」
「う〜ん……じゃあ三分。普通に戦わないと思うしな」
「あ、じゃあじゃあアタシは二分三十秒で」

 ブロンの求婚が成功する確率程もクリュウが負けるとは思っていない住民は、早速賭けの対象にしていた。当然クリュウが勝つのにどれ位の時間を掛けるか、だ。

 そんな皆の声が聞こえているのかいないのか、クリュウはホルダーに手を伸ばし、“アレ”を引き抜いた。
 流石に男達にこれを使うのは躊躇われていたのであるが、自分のパートナーを侮辱するのなら話は別だ。

 シュラ………

 彼が持つ武器の中で一番使い込み、且つ手に馴染みきっているそれ。ありとあらゆる攻撃を受け止めきる恐るべき硬度、手に馴染みきっているせいかナイフより軽く感じるそれ、数多の挑戦者達にとって具現化した悪夢そのもの。

 “アレ”とは如何なる物か?

「「お、おたまぁ?!」」

「「「「「「「出たっ!」」」」」」」

 前者は男二人、後者は街の住人達の言葉。

 そう、“おたま”。彼が握り締めているのは紛れも無く、台所でお馴染みの救い…もとい、掬いの武器「おたま」である。
 だが、只のおたまと侮る無かれ。その「おたま」は赤銅の熱気を放ち、自ら輝いているではないか。赤鉱石、青鉱石、緑鉱石、黄鉱石を50づつ消費し、尚且つ魔鉱石まで足さねば生み出せないなんとも贅沢な一品。

 名を「鉄人のおたま」という。体が剣で出来た弓兵も真っ青の代物だ。

「ば、ばばば……」
「……馬鹿にしやがってぇっ!」
 見た目が見た目であるから挑発効果もバツグンだ。これに敗れた時の敗北感も凄まじいに尽きるのだが。
 視覚的挑発にうっかり乗ってしまう男の片割れ。大上段からクリュウに襲い掛からんと踏み込んで飛び上がる。

 振り上げられたグラディスパーク。雷のエレメント付加の品であるからか、バリバリと電撃を纏った大上段からの一撃だ。並みの人間が食らえば男と剣の重みに両断され、斬り口が焼け付くであろう。

 ガチン

「な……?!」

 当然の如く、軽々と受け止められた雷の刃。それも“おたま”で。弾かれた際の感触にしてもとてもじゃないが“おたま”とは思えない程、重い。

 ガッ                         …ズザザッ

 今度は思いっきり殴られる男。何とか剣で防いだものの、熊に殴られたのかと錯覚する途轍もなく重い一撃は男の身体を浮かせて背後に飛ばしてしまった。

「ぐぅ…っ」
 だがそれで終わらせては貰えなかった。


 がんがんがん、がんがんがん、がんがんがん、がんがんがん、がんがんがん、がんがんがんっ!

 三連撃が何度も男を襲う。間隙を狙おうにもその感覚が小さすぎて、防御を解けない。そして信じ難い事であるが、男の持つグラディスパークの刃が悲鳴を上げ、徐々に刃毀れしていく。この調子だと折れるだろう。

「畜生っ」

 遅れてもう一人がクリュウの背後から鉄斬刀で斬りかかってくる。だが、クリュウから見れば余りにも遅い。

 すっ

 男の眼前からクリュウが消え、代わりに足の痺れと剣の衝撃で動けない片割れが視界に入った。まさかこの少年が“あの”ルマリやコウレンに教えを請い、修業をつけて貰っている事など知る筈が無い。

『クリュウくん、ちょっとお稽古休憩しようか』
『あ、はい。 なんですかルマリさん?』
『うん。…踏み込みはまだまだ甘いけど、病気にでもなっていない限りデグレアの黒騎士団程度だったら一人で戦っても負けないんじゃない?』

 等とルマリから言われているのも知っている訳がない。

ドガッ                         べしゃっ

 空を駆け男の背後に着地していたクリュウが、“鉄人のおたま”で男を力の限りぶん殴った。声も出さず……否、出す事も出来ずに地面すれすれを吹っ飛んで、グラディスパークを持つ男を巻き込み動かなくなる。

「ぐ…ぐぉ……な、なんだそれは……」

 身体を何とか起こすと、鉄斬刀を持っていた男がずり落ちる。完全に伸びているようだ。
「“鉄人のおたま”です。耐久度200以上の一品で、長く使える便利な調理器具です」
「んなぁっ?! た、耐久度200ぅ??!」
 驚くのも無理はない。彼らが所持していた武器を二つ合わせても尚、耐久度が及ばないのだ。

「ごめんなさい、これしか手加減出来る武器がありませんでしたから。もしこっちを使ってたら……」

 おたまを収め、次に引き抜いたもの。美しき白亜の剣がそこにあった。彼は利き手とは逆の手で転がっているグラディスパークを拾い上げると、ヒョイと宙に投げた。何気ない動作であったが、上の階層に突き刺さるが如く舞い上がり、真っ直ぐ降りてきたそれを…

かつんと、叩き斬った。

「な……っ???!!!」
 二つになって転がる剣だったモノ。斬り口からして素晴らしい斬れ味と技を窺い知れる。男は今更ながらクリュウの幼い顔を見直し、傭兵達や騎士達の間で言われ続けている言葉を思い出していた。

───戦に勝ちたきゃワイスタァンの武器を手にしろ
     勝ち続けたいのなら這ってでも手にしろ
     …その代わり、鍛聖には手を出すな
     “勝利”を産み出すモノに逆らうと敗北しかない

 そう、見た目は子供でも彼は鍛聖なのだ。至高の武器を産み出す街で、最強の証を有する一人。

 『黒鉄の鍛聖』。それが彼、クリュウなのである。



 残っている紅茶を喉に流し込みながら、それでも微笑を絶やさない アマリエさま。言ってはなんですが傍目には、『話なんか聞いてません でした。テヘ☆』な感じにしか見えません。ですが、この方を甘く見ては なりません。何と言ってもアマリエ様は“あの”シンテツさまの奥様です。 腹で何を…あ、いえ、とても思考の広い方ですから油断が出来ないのです。

「それで、」
ホラ来た。私は心の中で身構えます。
「それでシュガレットちゃんは何が言いたかったのかしら?何度聞いても クリュウのお惚気にしか聞こえないわよ?」

 へ? …あ、ああ確かにそうでした。やはり一見ぽややん中身ガッチリ のアマリエさまです。よくぞお気付きになられました。考えてみれば本題 に入っていませんでした、これは私の失敗です。

「えとですね…」
 兎に角、姿勢を正して私は本題に入らせていただきました。
「クリュウさまは確かにまだ鍛聖見習いですけれど、ご立派なお方です。 自分の目標にひた走り、シンテツさまに少しでも追いつこうと武器や農具 の研究は元より、武器貿易や鉱石採掘場に関しての書類に眼を通されて、 “鍛聖”という仕事には手を一切抜かれておりません」
「そうねぇ、ちょっと頑張り過ぎという衒いもあるけど、クリュウは頑張ってるわね」
「そうなんです! だというのに今言ったような輩が恐れ多くもクリュウさまに対して無礼な振る舞いを…そんな事はあってはならない事なのです!」
 私はテーブルをだんっと叩き身を乗り出させ、『ココがポイント』と無礼な振る舞いという箇所を強調して説明いたしました。

「でも確かその二人組の傭兵さんてその後、コウレンさんやブロンさんに物凄く説教されたんじゃなかったかしら?」
「それはそうですけれど…」
アマリエさまの仰られる通り、あのショタ女…おっと、コウレンさまと ブロンさんは、『街中でクリュウにイチャモンつけて攻撃してきた』 というならず者を石の板の上に重石を抱かせて無理矢理座らせ、二日間ガッチリ説教なさったそうです。
 ブロンさんは大切なお友達だったシンテツさまと、今だ懲りもせず 諦めていないアマリエさまの一人息子であるクリュウさまにたいしての 暴行未遂に激怒し、コウレンさまは…どう見ても理不尽な事で文句を 言っていましたが、ガッチリお怒りになられて延々と交代制で説教を 垂れておられました。なんだかあのならず者のお二人にウッカリ同情 してしまいそうでした。因みに、やっと説教を終わらせてもらった二人に 与えられた次の試練は、ルマリさまの槍付き説教だったそうで、解放 された時には幼児退行なさってました。

 ま、それは割とどうでもいいんですが。

「つまりシュガレットちゃんは、『クリュウがもっと皆に一人前の男として認知して貰いたい』のね?」
「え? あ、ああ、ハイ。そうなんです」
 行き成り核心を衝かれて戸惑ってしまいました。やはりアマリエさま。奥が深い…
「そろそろ必要だと思ってたから用意してて良かったわ」
 そう仰りアマリエさまは台所の戸棚から陶器の壷を取り出し、 持ってこられました。私の両の掌にスッポリと納まる程度の、小さな白い 陶器の壷です。どちらかと言うと茶葉でも入っていそうな容貌の代物 でした。
「これは何ですか?」
「これ? 催淫香よ」
 ………………………………………はい? 催淫香? 催眠じゃなくて?
「そろそろ奥手過ぎるクリュウもちゃんと女の子知っておかないと いけないんじゃないかって思うの。男の子がオトコに羽化したら、 誰だってあの子を認めるに違いないわ。でも全然知らない女の子や “商売”やってる娘に初モノもっていかれたらヤでしょ? それに シュガレットちゃんはクリュウの許婚だし、そろそろ赤ちゃん作ってもいいかなぁって」

左手の指で輪っかを作って、右手の人差し指をズボズボ出し入れなさるアマリエさま。
「あ、あの…」
「シュガレットちゃんは本妻なんだから、早めに唾つけて先手を打っておかないと鳶に油揚げ攫われちゃうわよ?」
 油揚げって何ですか? というか何故性行為を勧めますかぁ―――っ?!

 そ、そりゃあ確かに私とてオンナですから、クリュウさまに無理矢理 押し倒されて無理矢理大人にされて、無理矢理孕まされる…なんて夢の 様な幸せゾッコンらぶらぶ生活を想像しないでもありません。でも、 親公認と言うものはなんだか気恥ずかしいものが…///

「あ、そういえばサナレちゃんもクリュウを狙ってたわね」
 ぴく
「ラジィちゃんなんていつも言ってるらしいじゃない、『ボクはアニキのお嫁さんになるんだ』って」
 ぴくぴく
「ナニかサクロさんも時々頬を染めてクリュウを見てる気がしない?」
 ぶちぶちぶちぶち
「ここは一つ、覚悟完了して孕んじゃわない?だったら私も全面的にバックアップしてあげられるんだけど」
 右手を握り締め、人差し指と中指の間から親指を出してピコピコと動かしていらっしゃるアマリエさま。
 ぷっちん♪

 とーとつに腹が決ま…いえ、覚悟が完了しました。当方に“蹂躙”の用意有りです。

「ぅわっかりましたぁ! 不束、このシュガレット! 見事、宇宙一大切で宇宙一カッコよくて宇宙一愛しく、ブロンさんの人権の56兆8000億倍重要なクリュウさまをコマされっ!! 押し倒されっ!! 中田氏…じゃない、中出しされまくって孕ませていただきますっ!!」
 私はビシっと敬礼し、アマリエさまに覚悟を告げました。
 何故かアマリエさまはテーブルの上に肘をつき、顔の前で手をお組みになって、ニヤリと微笑まれました。

「……問題ない」

 スーパーにイカスセリフを頂き、意気揚々とスゥイートなルームに帰宅する私。当然ながら私の手中には例の催淫香があります。今宵にでもコレを使って…うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……

 ぁあん クリュウさまぁん うしろの方はダメですぅ〜♪

 ごっつ幸せな妄想の中を漂いながら空中をスキップして第二階層に向かう私。いやん、内側から熱いのぶっかけされちゃう夜は近いのね♪

 顔をぽっぽぽっぽ桃色に染めながら、私はニューレコードを叩き出すハイスピードで愛の巣に急ぐのでした。

「んん〜〜…クリュウごめんね〜」
何となく上の階層…以前はサクロが住んでおり、現在はクリュウの家となっている辺りを下から見上げながら、満面の笑みを浮かべてアマリエは一人ごちていた。

「私ね、おばぁちゃんって呼ばれるのは御免被りたいけど、三十代の内に孫を抱くのが夢なのよ。だから私の夢の礎になってね〜〜♪」

碌でもない勝手な家族愛をほざきつつ、可愛い息子ともう直デキるであろう愛らしい孫の事を想い、アマリエは夕日が沈みゆく海に反射する光に全身を赤く染めたまま何時までも見つめ続けるのであった───

To be continued.




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