セイロン×フェア 2



「そなたは、我が男だという事を忘れてはいまいか」
ベッドのスプリングが軋んだ音をたて、僅かに沈んだ。
磔にされるようにして押し倒されたフェアは、目を丸くして硬直している。
「せ、セイロン?」
「逃げるのなら今だぞ、店主殿」
確かに振り切る事が出来るだろう事は、フェアにもわかっていた。
しかし、頭の中は疑問符で一杯で、体を動かす所まで思考がとどかない。
「逃げぬのなら、我はどうなろうと知らぬぞ」
「ちょっと、待ってよセイロン!」
普段は飄々としているとはいえ、一応は格闘のスペシャリスト。
そのうえ年上の男なのだから、いくら腕っ節が強いフェアだとしても抵抗は難しい。
セイロンが本気ならば、なのだが。
「冗談、だよね?だってわたし、なんか、その…」
「…我が冗談で、この様な事に及ぶほどのうつけだと?」
怒るわけではなく、諭すわけではなく、ましてやからかうわけでもない。
ただ淡々と、それでいて否定する事を許さないような、低音。
「本気、なの?」
その問いには答えることなく、セイロンは白い首筋に口付ける。
混乱しきっている所で与えられた、予期せぬ刺激にフェアの体が僅かに反応した。
「やめっ、ちょっ、なにするの!」
「言ったはずだぞ、どうなろうと知らぬと」
ぐるぐるとめぐる思考の中、とりあえず言葉を返そうと開いた口がふさがれる。
とっさに肩を押し返すが、腕に力が入らない。
アルコールではない、また別の熱が頭の芯を溶かしていく感覚。
色々な事を考えていたはずなのに、もう何も考えられない。

「ん、あっ、はぁ」
荒い息を吐き、ぼうっとした視界の中事の元凶を見る。
熱に溶けていってしまったけれど、疑問符は消えない。
「な、んで」
熱に浮かされたように、体の奥が熱い。
いつの間に脱がされたのだろうか、太腿が冷たい夜の空気になでられる。
「全然、女の子っぽくも、ないし、大人、っぽくも、ないし」
太腿を這う、少し骨ばった手が止まる。
「若道に走り、稚児に懸想するような者だと思うてか」
耳元に響いた低音に、思わず目を見開いた。
あらわにされた胸元に、ちくりとした刺激が走る。
「我は心から、そなたを美しいと思うておるよ。愛おしいとも、思っている」
涙を溜めた瞳で声の主を見やると、少し悲しそうに微笑んでいた。
「しかし、性急すぎたのだろうな」
いつの間にか頬を伝っていた涙が指でぬぐわれる。
「泣かせてしまうのは、本意ではないからな」
放れていこうとするセイロンを、フェアの手が阻んだ。
「べつに、嫌とか、そういうんじゃなくて」
「フェア?」
戸惑いがちに瞳を伏せ、耳まで赤くして、それでも服を離さない。
「その、怖くない、事は、ないんだけど」
「我でよいのか?そなたを泣かせた、甲斐性無しなのだが」
「そんなっ!」
伏せていた瞳を上げてみると、目の前の顔は笑っている。それはもう、楽しそうに。
かちりとあった目線を動かせぬまま、フェアの顔が紅く染まっていく。
「こ、こんなときまで、からかうなんて、もう、馬鹿っ」
「しかしそなたへの感情に、嘘偽りはないぞ」
そっぽを向いた顔を引き寄せられ、反論する事を阻まれる。
閉じられた太腿の間に、割り込むように手が滑り込んできた。
薄布越しの秘所を指でなで上げられ、細い体が跳ね上がる。
くぐもった声が塞がれたままの口から漏れ、恥ずかしそうに身をよじった。
その小さな抵抗も意味をなさず、太腿の中ほどまで下着を引き下げられる。
「ん、はぁっ、だ、めぇ」
塞がれていた唇を開放され荒い息を吐く。
かすかに耳元にとどく水音が、なんだか酷く恥ずかしかった。
「や、だぁ、はずかしっ、んあっ」
突然の異物感に、思わず声が裏返る。
「やぁっ、やっ、らぁっめぇ」
「慣らさぬと辛いのは、そなたなのだよ?」
ゾクゾクと背中に走る、不定期な快感に、体が痺れる。
こらえきれない波が、何度もフェアを攻めたてる。
「あっ、ふぁあっ」
小さく弓なりに体をそらせて、ふるふると痙攣させる。
電流が走ったかのような快感に、そのままくてっとベッドに寝そべる。
ぼんやりと意識が戻ってきたところで、脱力した体が持ち上げられた。
「セイロン、なに、するの?」
「少し辛いやも知れんが、耐えてくれよ。フェア」
先ほどよりも大きな圧迫感。思わず逃げようとする腰が掴まれる。
「いっつ…ん、んぅ」
首に腕を回し、背中に必死にしがみ付く。
「力を抜け。締め付けてばかりではそなたも辛いぞ」
力を抜け、といわれても、こればかりはどうしたらいいのか。
困惑してただしがみ付いていると、胸に暖かい感触。
「ちょ、なめ、な、んぁあ!」
一気に貫かれ、気を失いそうな痛みが走る。
ぐったりとしな垂れかかる体を抱きしめられて、なんとか意識を保った。
抱きついたまま、すっかり荒くなった息を整える。
「…痛い。それに、凄く熱い」
「あっはっは、やはり性急過ぎたやもしれぬな」
何でこんなに余裕なんだ。なんとなく理不尽な感じがする。
それはまぁ年の差とか、そういうものもあるのだろうけど。
「笑い事じゃないでしょっ、なぁ、あっ」
「動いても構わぬが、入ったままだという事を忘れずにな」
少し余裕が出来たからと、うかつに動いた事を後悔した。
しかし、それ以上に先ほどよりも大きな快感が、痛みを超えて上ってきた事に驚愕する。
「その反応ならば、動いても大丈夫そうだな」
フェアの返答を待たずに、セイロンがゆるゆると動き出す。
「やぁっ、ま、だぁ、あぁっ」
拒否の声も遅く、快感の波に抗う事を放棄してしまう。
「やはりまだ痛むか?」
「いた、っけどっ」
途切れ途切れに、それでも必死で言葉をつなぐ。
羞恥心が言葉を止めてしまえ、と忠告するが、今更そんな事関係ない。
「いい、よっ、きもち、いいっ」
「そうか、それならば良かった」
背筋を駆け上がる快感が、羞恥など消し去ってしまった。
行為の熱で、思考さえも溶けてしまったかのように、快感だけが押し寄せる。
「あぅっ、んぁあ、い、あぁん」
言葉にならない嬌声が、抑えられずに口から漏れる。
突き上げられるごとに大きくなる快感に、確実に絶頂は近づいていた。
「だめぇっ、おかし、変に、なるっ」
「案ずるな。どうなっても、我が責任をとってやる」
優しい声色に、張り詰めていたものがはじけていく。
ひときわ大きな快感の波に、そのまま全てをゆだねて上り詰める。
「あっ、んぁああっ、いんっぁああ」
頭の中で、火花が散るような感覚。あまりにも激しい快感。
自分が何を言っているのか、叫んでいるのかもわからないような絶頂。
あまりにもきつい締め付けに放れていこうとする、セイロンの動きを無意識にとどめる。
熱いものがどくどくと、体の中に注がれる感覚を受けながら、白んだ意識を手放してた。


「気分はどうかな?店主殿」
「いいわけ、ないじゃない」
頭はズキズキ痛いし、腰も痛い。そのうえドロドロでなんとも嫌な感じだ。
「何もなかったようにして、夢と思われても説明が面倒なのでな」
「…忘れないわよ」
出来れば忘れてしまいたいくらい、物凄く恥ずかしいけれど。
「風呂は沸かしておいたし、着替えも用意しておいた。なにより」
「なにより、なに?」
「そのままの格好でいるというなら、また我に襲われても知らぬよ」
その言葉でようやく意識する。布団とシーツに包まれているとはいえ、まだ裸なのだ。
「襲われたいというのなら、遠慮などしないのだが」
「そんなわけないでしょ。セイロンの馬鹿!」
顔を真っ赤にしながら、シーツを巻きつけた体であいたままの扉をくぐる。
今日ばかりは、泊り客のいないこの宿に感謝した。
「フェア」
「もうっ、今度は何!」
「何があってもこの責任は取る。愛するそなたを悲しませたりはせんよ」
煙が立つかのように赤くなった顔で、馬鹿とか知らないとか言いながら小走りで去っていく。
夜はもう明けて久しい、少し変化したいつも通りに日常が、まためぐってくるだろう。

願わくば、行方不明の龍姫が、なるべく長く行方をくらませてくれることを。


おわり

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