コーラル×ライ 1



「ありがとうございましたーっ!」
ドアベルの音と共に宿屋を後にする団体客の背にライは声をかけた。
今のが、夜の部の最後の客。
ドアが閉められ、ここならではの夜の静けさが訪れると、ライは大きく息を吐き、カウンターに突っ伏す。
「ああ、終わったぁー…。」
いつもの事だが、一日の終わりはこんな感じである。
それでも安堵と同時に充足感があるのは、自分がこの仕事を楽しんでることに他ならないのだけど。
「おつかれさま、お父さん。」
不意に、いや、いつものように、頭の上から声をかけられて、ライは顔を上げた。
「おう、コーラルもな。大変だったろ。」
そこには、相変わらずの眠そうな顔で、自分を見ているコーラルがいた。
ライがねぎらいの言葉をかけると、コーラルは首をふるふると振った。
「大丈夫、貴方に比べれば、たいしたことないかと。」
肩をすくめ、うつむき、そして頬を染めて、微笑む。
「…お、おう、そうか?」
なんだか気恥ずかしくて、ライは視線をそらす。そんな彼をみて、コーラルは首をかしげる。
「?、お父さん?」
「…なんでもねぇって。」
「そう?それなら、外のランプ、消してくるね?」
「あ、あぁ、頼む。」
不思議そうな顔をしたまま、コーラルはぽてぽてと外に出て行く。
その後姿を見送って、先ほどと同じようにドアが閉められたあとに、ライは大きくため息をついた。
「はぁ…なんだってんだ俺。」
上げていた顔をまたカウンターに預ける。冷えた感触が心地いい。
「…。」

さっきの仕草。不覚にも、ドキリとしてしまった。
いや、今日に限ったことではない。あの戦いの後から、そういうことが、多くなった。
ライも年頃の少年。異性にどきりとしたりするのは別に珍しいことではない。
だが相手がコーラルとなると話は別だ。
父親と子供。現状、というかことの始まりからライとコーラルはそういう関係にある。
ライ自身もそれが当たり前な環境なので、コーラルをそういう目で見てしまうのは、絶対やめたいところなのだが…。
「大体、俺あいつの性別しらねぇもんなぁ…。」
さらに根本的なことに気づき、ライはなんともいえない表情になる。竜の状態は当然ながら、人状態でもわかるものではない。
親子ならお風呂くらい、と言われそうだが、コーラルはそこら辺しっかりしているというか、一人ではいって一人で上がってきてしまう。
でも、なんだろうー。
「ただいま。」
カランカラン、とドアベルが鳴り、ライを悩ませている人は帰ってくる。
「おう、お帰り。」
そういいながら、ドアをしめるコーラルの後姿を見る。
(腰あたり…とか、なんかちょっと…。)
女っぽいというか、なってきたというか。
「何?」
「あ、いや、なんでもない!」
視線に気づかれて、ライはあわててごまかす。
(だぁーっ!何みてんだ俺!)
「…?」
やはりさっきと同じように、コーラルは首を傾げるばかりであった。
廊下には、淡い橙色の光がぽつぽつと灯る。
少ないながらも一応いる客を起こさないように、ライとコーラルはゆっくり自分たちの部屋へと向かう。
「明日休み…。」
「お、そういやそうだな。忙しくて忘れてた。」
「…働きすぎ、過労で倒れないか心配。」
コーラルは呆れるがライは別にそんな気もない、むしろまだまだ大丈夫といった感じである。
明日の休みは、一週間前、待遇の改善を要求してテイラーの書斎で座り込み大会をしたリシェル、コーラルの行動の成果の休みである。
ギリギリまでとめようとして、一番とばっちりを食らったルシアン曰く、
町外れの農園の暴動のほうがまだ可愛かったよ、とのことであったが。
(そういや、黒煙上がってたよな…。)
「…?」
「いや、お前は思ったよりも大胆だなってこと。」
自室のドアを開き、コーラルを先に入れる。振り向いたコーラルはライを見上げ、顔で疑問をあらわす。
「一週間前のリシェルんちでの騒ぎのことだよ。」
「あ…うん。」
言葉を濁した、コーラルの背中を押し、ライも部屋にはいり、ドアを静かに閉める。
「…たまには、貴方と二人きりになりたいし。」

どくん

「…………――え?」

不意打ちだった。言葉の意味を理解するのに一拍、その一拍が過ぎた後は、あっという間に心臓が早鐘を打ちだす。

「…え?」
間抜けにも、もう一度聞き返してしまう。
コーラルは、いつものように不思議そうな――顔を、してなかった。
「ライ?」
名前で呼ばれ、ゾクリと背筋に嫌なものが走る。
悪寒、やばい、なんかやばい。なにか企んでる。すごく、よくないこと。
後ろ手にドアノブを取ろうとして…できなかった。
――体が動かない。
「ッ…!!!!????」
「…せいこう。」

くすり、とコーラルは微笑む、小悪魔。そういう形容がしっくりするその笑み。
まだランプもついていない部屋の中で、瞳だけが猫のように爛々と輝いていた。
――竜眼。
瞳に魔力を込めて、相手の神経を麻痺させる能力…。
ライは、それをまともに食らってしまっていた。
「コーラル…おまっ…それ…。」
声すらまともに出ない、なんとか首から上は動くが、それでどうにかなるものではない。
能力のうちなのか、視線をそらそうとしても、無駄であった。
力を入れることのできない体が、閉められたドアにぶつかり、ずるずるとずり下がる。
その様子を見て、コーラルは眉をひそめる。
「ちょっと効きすぎ…。」
そういうと、少しだけ拘束が緩む、体は相変わらずびくともしないが、声だけは何とか出るようになる。
「何の真似…!んっ!」
そして、抗議しようとして、その口を塞がれる――唇で。
「ッ…!」
今までに感じたことのない距離とその感触に、ライは息を詰まらせる。
吐息がかかるとかそういう生易しいものではない、本当に、目の前にいる。
まぶたは閉じられて、表情は読めない。
ただ、ほんのり紅く染まった頬と、やわらかく甘い感触。そしてほのかな香りに眩暈がする。
(―ってそうじゃねぇだろ俺!)
正気に戻り、ばたばたと足掻く。実際にできないが、気配は察したようで、コーラルは、ようやく、体ごと、唇を離した。
ものすごく、不満そうな顔で。

「往生際悪い かと…。」
「ぷはっ…あったり前だぁッ!」
「舌くらい、いれてくれると…。」
「自分の、子供にそんなことできるか!大体なんでこんな…うぐっ!?」

また拘束が強くなって、ライは二の句を継げなくなる。
コーラルは、そんな彼を見て、ひどく冷ややかな視線を向ける。
怒りとも侮蔑ともつかないような、そんな瞳。
「子供…?」
じり、じり、とコーラルはライへと寄る。
「う、う…!」
「貴方はそういう言葉でごまかすんだ…?」
近づくかれるたびに拘束は強まり、息が詰まる。
金の瞳には何もかも見透かされているようで、恐れが頭をもたげる。
「やめ…ッ…!」
「ボク、知ってるんだよ…?…ねぇ、ライ?」
「く…ぁ…!」
息がかかる距離。満足そうに目を細めるコーラルはその細い指でライの頬をなでる。



「貴方、ボクに欲情してるんでしょう?」



「ッ…!」
暴かれた。
いや、気付かれていた。
耳元で紡がれた断定の意味を込めた問いかけ。
ささやかだった気持ちを、暴力的な言葉で蹂躙され、上書きされ、汚された感覚。
何より、冷ややかなその声色に、心が黒くなる。
「お父さんって、変態…。」
「ちが…!」
「違わないよ?」
だってほら。
そう言ってコーラルは、ライの腹部にかけていた手を下にへとずらす。
「ここ、こんなに硬くなってる…。」
「う、ぁ…ぅ」
ライの顔が羞恥で赤くなる。コーラルが布越しになでる其処は、すでに見てわかるほどに、大きくなっていた。
「こんなにされて、まだこうなるなんて…やっぱり変態、かと。」
くす くす くす
いつもは和やかな気分になる笑みがこんなにも怖い。
「…心配しなくてもいいよ?ライ。」
ライのズボンをずらしながら、コーラルは再び、耳元でささやく。
「貴方がしたいこと、ボクがたっぷりしてあげるから…。」


つづく

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