セクター改造 1



 これはどういうことかと私は訝しがる。私塾の講義を終えて、一息つく私を待ち受けていたのは因縁深きあの男の姿だった。
「久しいな。セクターよ」
「ゲック。貴様、なんのつもりでここに来た」
 そこにいたのは私をこの忌むべき身体に造り替えた張本人。
 ゲック・ドワイド。その人であった。
 過去への復讐に囚われぬことを誓った私ではあるが、やはり、そう見ていて愉快な顔というわけではない。
「そう、構えるでない。ここには遣り残したことがあってきたのだ。そう、他ならぬお主の身体についてだ」
「俺の身体だと。何を今更。だいたい修復は既に済んだはずではないのか?」
「左様。じゃが所詮、アレはその場の間に合わせ程度。ワシはこの修復を成し遂げるまでは死ねん」
 嘗てゲックは過去の贖罪のために朽ちかけた私の身体を修復した。それを感謝するつもりなどない。
「償いなら他所でしろ。貴様は自分の娘達でも可愛がってやれ」
「お主のためだけではない。これはお主の愛する者にも関わることなのだ」
「俺の愛する者だと」
 不意に浮かんだのは草花を愛するあの優しき女(ひと)のことだった。
 ミントさん。彼女はこんな私に好意を抱いてくれた。私も彼女のことを愛している。
 しかし、だからこそ彼女の想いに私は応えるわけにはいかない。こんな忌まわしい身体を持つ私では。
「話だけでも聞いてはもらえまいか。詳しい説明は研究所(ラボ)の方でしよう」
 そうゲックは提案する。拒むのは容易い。だが……
「わかった。話だけでも聞いてやろう」


「さて、話とやらを聞かせてもらおうじゃないか」
 私はゲックに招かれるままに奴の研究所(ラボ)へと赴いた。
 つまらぬ話を聞かせるようであれば即刻、帰らせてもらう。
「うむ、先だって行なった修復でお主は日常生活、並びに戦闘に支障のない程度にその機能を回復させた」
 ゲックは重々しくその口を開く。
「じゃが、肝心な機能の修復をワシは忘れておったのだ。情けないことに」
「その機能とは?」
 問われてゲックは一瞬だけ黙する。そして口を開いてこう言った。
「セクター。お主の性的機能の修復じゃよ」
 私は耳を疑った。この男、痴呆でもはじまったのか?私は憤って怒鳴りつける。
「ふざけるなっ!!貴様、ここで俺に殺されたいのか!」
 人を愚弄するのにも程がある。やはりゲックは所詮はゲックか。私は失望しそのまま奴に背を向け帰ろうとすると。
「お待ちなさい。教授の話は終わっていません」
 と例のごとく機械人形姉妹の長女が邪魔をする。名はローレットといったか。
「退け。今の俺はすこぶる機嫌が悪い。貴様らをクズ鉄に変えても収まらんぐらいにな」
「いいえ、引きません。教授のお話も途中で帰ることはわたし達が許しません」
 見ると緑色とオレンジ色の奴もやってきた。グランバルドもだ。ゲックを含め流石に1対5では分が悪いか?
「セクターよ。お主、本当に今のままでよいと思っておるのか。自分を愛する者に応えられぬ身体のままで」
「何をほざくか。俺をこんな身体にした張本人が!これ以上、俺を刺激するな」
「お主はよい。じゃが、お主を好いておるあの娘の想いはどうなる。不憫には思わぬのか」
 その言葉に私は思わずハッとなる。ミントさん。私に貴女を愛することのできる身体さえあればその想いに応じることができるのに。
「何を今更。どうしようもないことではないか」
 そうだ。この身体になって人としての私の生は終えた。今の私はここにいる機械人形どもと変わらぬ。生身の誰かを愛する資格などありはしないのだ。
「それを何とかする方法が見つかったのだ。セクターよ。もう一度だけこの老いぼれを信じてくれ。お主のためではない。お主の愛するあの娘のために」
「ミントさんのため……」
 私の中に迷いが生じる。愚にもつかぬ絵空事ではあった。しかし、どうせ駄目元。試す価値はあるやもしれぬ。
「勘違いするな。貴様を信じたわけではないぞ。気まぐれに戯言に付き合う気になっただけだ」
「それでよい」
 私はゲックの誘いに乗ることにした。


つづく

目次 | 次へ

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル