一周目リシェルENDクリア記念 8 ライ×リシェル



 二人で恥ずかしがりながらアレコレと試して、その都度ドギマギとさせられた。
 結局、気づかされたのは自分達はまだまだ子供だということだった。
 大人の真似事をしては慌てふためく子供。けれど戯れの時間は過ぎてしまった。
 後に残るのは営みの時間。二人で確かなものを築いていく。子供から大人への入り口。




 そこにあるのは二つの剥き出しの身体だけだった。そして深く色付いたお互いへの想い。
 下準備は終わった。後は繋がるだけ。お互いの心と身体を一つにして。
「…………ひっく………」
 リシェルの身体が震える。小刻みに。目も口も閉じて。待ち受けるのは未知。自分達の知らない世界。
 やはり不安は募る。素直に口にする。今、この場においては自分の気持ちを何一つ着飾る必要がないのだから。
「やっぱり……怖いよ……自分が自分でなくなっちゃうような気がして……すごく怖い……」
 眼に涙を溜めて呟く。偽らざる自分の気持ち。これを為し終えたとき、自分達はもう完全にこれまでの自分達ではなくなる。
 これまでずっとすがり続けた居心地の良い場所。それが無くなってしまう。そのことがたまらなく怖い。
「おかしいよね……ほとんどあたしから誘ったようなもんなのにさ……ここまで来て……」
 いざとなったらまた臆病の虫がぶり返してきた。変化を望んだのは自分だというのに、それを望まない自分も確かにいる。
 そんな矛盾した気持ちがリシェルの心の中でドロドロに混ざり合っていた。リシェルの瞳から涙の粒が零れる。
 ライはそれを手で拭ってやると息を吐いてから言う。
「オレだって怖いよ。正直に言うと」
 ふと思い出したのはコーラルが至竜を継承したときのことだった。それまで駄々一つこねたことのないコーラルが
 『大人になんかなりたくない』、『ずっとお父さんの子供でいたい』と泣きついたときのことを。
 自分がこれまでの自分でなくなってしまうことへの不安。程度の大小はあれど誰にでもある。
 時には誰かに支えられながら、そういったものを乗り越えることで、誰もが大人になっていくのだろう。だから……
「もうちょっとだけ頑張ろうぜリシェル。オレとオマエの…その…二人で・・・・・・」
「……うん……」
 自分にも言い聞かせるようにライはそう言う。リシェルもそれに頷く。抱え込んだ不安は小さくない。
 これまでの只の幼馴染の関係が終わることが寂しくないと言えば嘘になる。でもリシェルと二人でならきっと乗り越えられる気がした。
 これまで以上に素晴らしい関係だって築けるはずだ。だって自分達はこんなにもお互いのことが大好きなのだから。
 そして決心が鈍らないうちに動く。さわり。ライの手がリシェルの胸に触れる。
「……あっ……くん……」
 手にひらにすんなりと収まるほのかな膨らみ。その柔らかさがなんとも言えなかった。軽くさするようにこね回す。リシェルの口から声が漏れる。
「……………っ〜〜〜〜〜」
 ゆっくり、ゆっくりと自分の切っ先をリシェルの割れ目にライは近づける。リシェルの身体が強張る。その震えがライにも伝わる。
 本当に怖いのだろう。精神的な意味でも肉体的な意味でも。それでもリシェルは健気にも自分を受け入れようとしてくれている。
 ライは胸が詰まる。リシェルのことがたまらなく愛しい。ふいにギュッときつく抱きしめてしまいたくなるほどに。
「最初は……ゆっくり……お願い……あたし……初めてだから……」
 涙目でそうねだってくる。初めてのときは女性はそうとうに痛いらしいと聞きかじったことはある。無論、個体差はあるのだろうが。
「ああ、でも痛くさせちまったら……そのときはごめんな」
「……いいわよ……今日だけは許してあげる……」
 そんなやりとりをしている内に、先端は秘部と触れ合うところまで来ていた。息を呑む。もう後戻りはできない。
「いくぞ」
 そう短く告げてライは自身をゆっくりとリシェルの中に沈めてゆく。


 互いに十分な前戯を施したので潤滑油にはことかかなかった。滲み出た愛液で濡れるリシェルの膣口。
 それはライの亀頭と触れ合うとずるりとその頭を飲み込む。
「……っ……っく……」
 亀頭が滑り込んだ時点でリシェルは顔をしかめる。まだ性交で慣らされていない膣内。
 自分の指などとはやはり太さからして違う。膣肉を引っ張られる痛みがリシェルにはしる。
「んっ……くぅ……っか……かふっ……はぁ…はぁ…」
 先端部が埋没し全体の三分の一程度が入ったか否かといったところで息遣いが荒くなる。
 奥に進めば進むほど膣内の抵抗もます。侵入してくる異物を逆に押しのけようとする反作用。
 潜り込んだ亀頭部は僅かに上下に動く。その都度、ぴくんと反応するリシェル。ライは心配そうに顔を覗き込む。
「……はぁ……ふぅ……うっ……いいわよ……このまま……しちゃって……」
 目にいっぱいの涙を溜め込んでリシェルは痛みにこらえていた。まだ全体の半分が入った程度だ。
 そんなリシェルを気遣ってライの腰は止まっていた。けれどもリシェルは健気にライを促す。
「大丈夫なんだな?」
 問いかける。リシェルはこくんと頷いて返す。
「痛かったらちゃんとオレに言えよ。分かったな」
 そう言うとリシェルはまた頭を縦に振る。声を出すのも辛いのだろう。
「我慢すんなよ。痛かったり苦しかったりしたなら遠慮なくオレを引っ掻くなりどつくなりしていいんだからな」
「……う……ん……」
 今度は鼻声でリシェルは返す。トクン。胸がふいに詰まった。痛みにも負けずこんなに懸命に頑張ってくれるリシェル。
 可愛かった。愛しかった。それに嬉しかった。リシェルがこんなにも自分のことを好きでいてくれて。
(ありがとうな。リシェル。オレのことを好きになってくれて)
 そして自分はそんなリシェルのことが大好きなのだ。もう好きで好きでたまらない。自分の正直な気持ちにライは気づく。
 このまま続ければリシェルにもっと痛い思いをさせてしまうかもしれない。けれど、途中で止めるつもりはなかった。
 それはあまりにも失礼だから。こんなにも一途に自分のことを想ってくれるリシェルに対して。
 圧力を強める。膣肉の抵抗は増す。ヒダのようなものが先端の侵入を阻む。
「……っく……かふっ……っく……ぅ……」
 リシェルの表情に険しさが増す。がしっと肩を掴まれる。爪が食い込んでちょっと痛かった。
 けれどリシェルがいま感じている痛みはこの程度ではないのだろう。
「……大丈夫……大丈夫だから……」
 ぴくぴくと強張りながらリシェルは囁いてくる。背中をさする。少しでもリシェルの苦痛が和らぐように。
「あともうちょっとだからな。頑張れ」
 声をかける。苦痛に歪むリシェルの顔が少しだけほころんだ気がした。そのまま一気に貫いた。
 自身をリシェルの膣奥まで深く突き入れて。
「〜〜〜!!痛いっ!痛い、痛いっ!!やっ…っあ……ぐぅぅ!」
 リシェルは悲鳴をあげる。処女喪失。かつてない痛みがリシェルを襲う。
「痛い……痛いぃっ!うっ…ぐぅぅ…あうっ……んっ!むぐっ」
 痛みに喘ぐ。そんなリシェルにライは唇を重ねる。そのまましばらく吸い合った。
 心と身体で結ばれた確かな絆。それをライもリシェルも、二人ともしっかりと感じていた。
 とても温かで、そして柔らかだった。自分を包み込んでくれているリシェルの優しい感触。
 キュッと肉根を締め付けてくれる膣肉。ぴったりと密着していて自分のとの相性は良好なのだろう。
 抱きしめる。リシェルの身体。とてもいい匂いがした。このままずっとこうしていたかった。
「あっ……ぐぅ…っぐ…ひっく…痛い……痛いよぉ……」
 すすり泣きながらリシェルは必死でしがみついている。少しでも破瓜の痛みを紛らわすために。
「くぅぅ……痛い……けど……っぐ……一つになれたんだ……あたし……あんたと一つに……」
「ああ、よく頑張ったな。リシェル」
「……うん……痛い……けど…嬉しいよ……ライ……ひっぐ……あたし……今すごく…嬉しい……」
 ライの特別になることができた。その達成感がリシェルにとって何よりの癒しだった。
「ちょっとだけ……待ってて……そうしたら……あたし……」
「いくらでも待つさ。オマエがいいって言うまでな」
 リシェルの膣奥に突き入れたまま、そのままの体勢でライは待つ。別に動かなくても十分だった。
 このままでも十分にリシェルの温もりを感じていられる。むしろ、そうしていたい。
「はぁ……はぁ……ふぅ……っく……ふぅ……」
 呼吸を整えるリシェル。吐く息が顔にあたる。
「もう大丈夫……動いていいよ……あんたの好きなように……」
 また強がってそういうことを言う。なら、その強がりに付き合ってやろう。
 ライはゆっくりと腰を動かす。挿入した男根をリシェルの胎内で上下させる。
「っ!!かふっ……くふっ……んっ……くぅぅ!!」
 またボロボロに涙を零してリシェルはこらえる。性交に見慣れな膣肉。引きちぎられるような痛みが襲う。
 入れられているだけでもかなりのものなのに、加えて突き動かされてはさながら肉を抉られているようなものだ。
「んっ……っく…かふっ……うっく…っは……あくぅぅ」
 けれどそんな苦痛に耐えながらもライを受け入れているということ。その事実がリシェルにとって何より大切だった。
 言葉だけでは成り立たない絆。心の繋がり。身体の繋がり。どちらも大切だ。どちらも欠かせない。
 こうすることでライともっと深く分かり合える気がする。目が合うだけでお互いの言いたいことが分かるような。
(どうかな……あたし……ちゃんとあんたのこと気持ちよくしてあげられてるのかな……)
 言葉にはせず視線で尋ねる。すぐに返事が来た。ライは何か言葉を発したわけではないけれど、それでも確かに聞こえた。
『そんなこと聞くまでもないだろ。バカ』
 そう言われたような気がする。よかった。ちゃんと満足させてあげてるみたいだ。
 ライはゆっくりとしたペースで腰を動かす。ときに背中をさすり、ときにはまた優しくキスしてくれた。
(あたし……あんたに大事にされてるんだ……)
 気持ちを受け入れてくれる一方で、さりげなく気遣っていてくれてる。嬉しかった。だから好きなのだ。
 こうして絆を結ぶことで、ライのことが前よりもずっとずっと大好きになった。それはライの方も同じ。
「リシェルっ……あっ……リシェルっ!」
 名前を呼んで求めてくる。抱きしめてくる腕の力がちょっと強い。胎内に感じるゆっくりな、それでいて力強い律動。
 なれたんだ。ライにとって特別な存在に。彼の一番になれた。もう他に望むものなんてない。
「ライっ……っ……ライっ……ライっ!!」
 こちらも名を叫ぶ。既に頭の中からは痛みなど何処かへ行っていた。必死にしがみつく。もっとぴったりと。
 密着しあった肌と肌。擦れあう粘膜同士。そして溶け合う心と心が揺るぎない力をくれる。
 ビクン。脈動を感じた。この営みも終わりが近い。それを悟ってリシェルは叫ぶ。
「いいよっ!きてぇっ!あたしの中にきてぇっ!」
「あっ……くぅ……あっ……リシェルっ!」
 もう一度、ライがリシェルの名を叫ぶとその瞬間、おなかの中で何かがはぜた。
 ビュクン。ビュクン。のぼってくる。なにか熱い塊が。おなかの中が熱でいっぱいになる。
「あっ…あ……でてるぅ!ライのがいっぱい出てるよぉ……あたしの中で……」
 射精はしばらく続いた。ほとばしる奔流をリシェルはその子宮で受け止める。暖かい。すごく幸せな気持ちになれる。
「いっぱいだよぉ……あたしの中……ライでいっぱいだよぉ……嬉しいよぉ……んっ…んむっ…んっ…」
 最後にもう一度、キスをした。そして深く繋がったままの状態で。ライとリシェル。二人の時間は緩やかに流れていった。
 
 
「ひっく…ひっく…ぐすっ…うぅ…まだヒリヒリする……」
 鈍痛は行為の最中よりもむしろ終わってからの方が響く。ジリジリと残る痛みにリシェルは涙を滲ます。
「わりぃ……オマエに痛い思いさせちまって……」
 ポリポリと頭を掻きながら済まなさそうにライは言う。リシェルは涙を手で拭ってから答える。
「あんたが謝る必要なんてないわよ……言ったでしょ?今日だけは許してあげるって……」
 ことに及ぶ前に交わした約束。それを思い返す。
「それでさ……どうだった?あたし……あんたからみて……」
 照れくさそうに顔を伏せながら尋ねてみる。聞かなくても答えは想像できる。
 けれどライの口から直接聞きたくてしょうがなかった。
「あっ…そうだな……」
 ライは顔を赤くして少し口ごもる。あっちも同じように照れているのが見て取れる。
「……可愛かった。さっきのオマエ……すっごく。それにすんげぇ気持ちよかった。なんかもう最高に幸せっていうか……」
 視線はそらしながらライは言う。それを聞いてリシェルも満足気になる。
「当然よ。感謝しなさいよね。こんなに可愛くて才能も溢れるこのあたしがあんたのことなんかを好きでいてあげてるんだからさ」
「なんか久しぶりだな。そんな調子のオマエ」
 くくくっと声をあげて笑う。なぜか妙に安心した。一線を越えてしまってもこれまで築いたものの何もかもが変わってしまったわけではなくて。
「でもそうだな。本当に感謝してるよ。ありがとな、リシェル。オレのこと好きになってくれて」
 微笑かけながらそう言う。その笑顔がすごく眩しかった。
「べ、別にあたしが勝手に好きになったんだから……お礼なんて言われても……」
 改めて面と向かって言われるとやっぱり気恥ずかしい。いつもの照れ隠しが出てくる。
「いや、でも本当に嬉しいんだ。オマエの気持ちがすごく。だからオレもオマエのこと好きになった。前よりもずっと」
「…………言わないでよぉ……そんなこと言われたら……あたし……」
 ポロポロ涙が零れてきてしまう。どうやら人間、嬉しいときにも涙が出るようにできているようだ。
 がしっとライの身体にはみつく。彼の胸を借りてまた泣く。
「うっ……ぐすっ…責任とんなさいよぉ……あたしをこんなに泣かせてる責任……ちゃんと……」
「わかってるって……オレは永遠にオマエの家来……そうだったよな?」
「……うん……えっへへへ♪」
 いつか言った一方的なプロポーズの言葉。あのときには気づいてもらえなかったけど、今はちゃんと気づいて思い出してもらえた。
「明日、休みなんでしょ。どっか連れて行きなさいよ。少しは気を利かせて」
「わかったよ。……っていうかオマエまともに歩けるのか?しばらく足腰たたないだろ」
「……うっさいわね!だったらおんぶしてでも連れてってくれればいいじゃない!ほんと、気が利かないんだから」
「流石にそれは勘弁……」
 たわいもないやり取り。そんなことを何度も繰り返した。そして朝が来るまで、
 ピッタリとくっつきあった状態で二人は一緒の時間を過ごした。


「店主殿、本日の仕込みはこれでよろしき哉」
「ああ、それでOKだ。リビエル。そっちの方は終わったか?」
「勿論ですわ。本日分の仕入れの伝票。整理終わってますわよ。後でちゃんと目を通しておいてくださいな」
「わかった。ちゃんと後で目を通しとく。っとそろそろアロエリが戻ってくる時間か」
「もう戻ってきている。ほれ、今日の分の食材だ。しっかり励めよ」
「いつもすまない。あ、コーラル。フロアーのほうの準備頼む」
「既に準備万端かと……」
 忘れじの面影亭は今日も戦場だった。だが、コーラルの頼みで御使い達が手伝いにきてくれるため、深刻な人手不足も緩和された。
「お邪魔します。今日もおじょうさまの代わりにお手伝いに参りました」
「ポムニットさん。助かるよいつもいつも」
 こうして今日も忙しい一日が始まる。激戦のランチタイムが。


「ふひぃぃ……みんなご苦労さまだったな」
 盛り時を終えてようやくに一息をつく。手伝ってくれたみんなの労をライはねぎらう。
「今日も忙しかったですねえ。それでも御使いのみなさんがいらっしゃるおかげで前よりはずっと楽ですけど」
「ハッハッハ。御子様の頼みとあらば我ら御使い一同手伝わぬわけにはいかぬだろうて」
「それに以前の借りもあるしな。こんなことで返せるのなら安いものだ」
「手が欲しいときにはいつでも声をかけてくださいね」
「ほんとうにありがとうな。みんな」
 たくさんの仲間に自分は支えられている。ライはそれを実感する。本当にありがたい。
「そういえばリシェルはどうした。ここ数日、姿を見ていないが」
「おじょうさまのほうも色々とお忙しくて。それでわたくしが代わりに来ているんですけどね」
 アロエリの疑問にポムニットが答える。リシェルも派閥の方がまた忙しくなったので店になかなか顔を出せなくなっていた。
「ですが、噂をすれば影と昔からよく申しますけどね。ふふふ」
 ポムニットがそう微笑みながら言うと、店の入り口の戸が開く。ガシャン。カラカラ。
「ハイ。いらっしゃいませ……ってリシェル!」
 ポムニットの予言の通り、そこに現れたのはリシェルだった。急いで駆けつけたのか息を切らして。
「はぁ……はぁ…やっぱもう終わっちゃてたか……これでも勉強会終わって。すぐに全速力で来たんだけどなぁ……」
「オマエ……」
 どうやら手伝うつもりで来たらしい。けれどランチタイムが既に終わっていたのでがっくり肩を落とす。
「いや、来てくれて嬉しいよ。そこに座れよ。今、何かつくるから」
「水の方、先にお願い…もう喉……カラカラ……」
「はい、どうぞ。おじょうさま」
 すっとポムニットが給仕する。そうこうしているうちに賄いが運ばれリシェルも他のみんなと一緒に食べることになる。


「ああ、今日は間に合うって思ったんだけどなあ。ここ最近ずっとポムニットに任せ切り出し」
「仕方ねえよ。オマエだって急がしいんだし。こうして顔見せてくれるだけでオレは満足なんだから」
 同じ皿をつつきあいながら言葉を交わす。こうするのも結構久しぶりだ。ほんと、ここ最近は二人ともに忙しすぎて。
「そういえばライさん。今日は夜の営業はお休みでしたね」
 すると思いついたようにポムニットが言う。非常にわざとらしい。それにそんな予定はない。
「たまには外の空気でも吸ってきたらどうだ。気晴らしは必要だぞ」
 これはアロエリ。続けて言う。
「あっはっはっは。留守中は心配めされるな店主殿よ。我らがいるかぎりそうそうヘマはいたさん」
「会計なんかはいっそ私一人に任せてくれた方が無駄がなくていいですわ。本当に」
 オマエら顔が笑ってるぞ。まったくどいつもこいつも。
「逢引……たまには必要かと」
 コーラル、直球すぎだ。それはさておき、リシェルのほうをライは見る。すると何かを期待するような様子であった。
「しゃあないな。そうまで言うなら甘えさせて貰うぞ。いくぞ、リシェル」
 ハァと溜息をはいてライは出入り口のほうへ駆け出す。
「うん!」
 弾けるような笑顔でリシェルもそれに続く。なにやら後ろでクスクスと笑い声がたつのを聞きながら。


「ここに来るのも久しぶりよねえ」
 星見の丘。かつてリシェルに誘われてきて、自分たちがコーラルを拾った場所。
 すべての始まりの場所であり二人にとっても大切な思い出の場所だった。
「なんかまたさあ……妙なものでも落ちてたりしたら笑っちゃわない?」
「それ、洒落になんねえって。まったく」
 あの騒動は自分たちに掛け替えのない仲間と大切な思い出をくれた。
 かといってただでさえ忙しい身の上。また厄介ごとを背負い込むのは死んでもごめんだが。
「しっかし、毎日毎日、勉強勉強でほんとヤになっちゃうわよ。まあ自分で決めたことだから仕方ないんだけど」
 自分の選んだ道とはいえそれで一緒にいられる時間が削られるのはやっぱり辛い。それはライにしても同じであるが。
「それに成績落とすわけにはいかないもんね。あんたとの仲をパパに公認して貰うためにはさ」
 するとこちらを見つめてそんなことをリシェルは言ってくる。
「そうだな。オレの方ももっと頑張らないとな」
 あれから、リシェルの父親のテイラーに二人できちんと言うことにした。
 自分たちは本気で好き合っていると。できれば、ずっと一緒にいたいのだと。
 すぐに認めてもらえるとは思っていなかった。また『使用人風情が少しは立場をわきまえろ』と言われる覚悟もしていた。
 けれど認めてもらえるようになるまでは何度でも粘るつもりでいた。だが、それを聞いたテイラーの返答は予想とは違った。
『そんな下らん報告をする暇があるならもっと自分を磨くことを考えろ。
 そんなことではいつまでたっても我が家の身内として他人に紹介できん!』
 用は一緒になりたかったらもっと精進しろということだった。見事なまでのツンデレ親父ぶりである。
「ほんと素直じゃないよな、あの人。オマエによく似て……」
「あーっ!またそういうことを言う!」
 そして他愛もないやり取り。多忙な毎日の中でこんな時間がなによりも愛しかった。
 互いを感じていられる。そんな時間が。
「ふぁぁ……なんか眠くなっちまったな。ちょっと横になる」
 陽気に誘われてか、ふいに眠気に襲われる。働きづめの身体だ。たまには休息も必要だろう。
 するとずしりと重みがのしかかる。リシェルだ。本当にこいつは……
「ずっと傍にいたげるから……あんたの傍にずっと一緒にいてあげるから……」
 耳元でそんな……
「だからあんたもあたしのこと、こうしてずっとくっついていさせてね。途中だヤダって言っても駄目だからね」
 可愛いことを囁きやがって……まったく……
「大好きだよ」
 その呟きを聞いた後に、唇になにか優しいものが触れるのをライは感じた。久しぶりの二人だけの穏やかな時間。
 そんな時間をライは、リシェルと一緒に存分に満喫することにした。


 〜 fin 〜

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