ギアン×フェア 3



何とか意識を保とうと入らない力を必死に掻き集めて耐えようとする。
だが衝撃は来ない。ボトッと何かが落ちる音が聞こえて目を開けてみる。
「え?」
拳を振り下ろした男は自分の身に何が起きたのか信じられなく、素っ頓狂な声を上げる。
真下に振り下ろした自分の腕の肘から下が無くなっているのだ。少し横に自分の腕だったモノが転がっている。
そこでようやく気付く。自分以外の影がある事に。
だがそれを確認する間もなく両足を斬られ、崩れ落ちた所の顔面に仮面が粉々になるほどの蹴りをくらい吹き飛んだ。
目の前の状況にもう一人の男が放心していると、更にその上にも影が落ちる。
異常な事態に思考は追いつかず、ただ本能のまま顔をあげればそこには竜が口からチロチロと炎を出しながら佇んでいる。
「…吼えろ、ワイヴァーン」
怒りに満ちた声の主がそう命令した瞬間、男は炎に包まれる。
それを一部始終見ていたフェアが嬉しさと安心から涙を流す。
「あ……ああぁ…!」
一先ずの脅威を薙ぎ払い、ギアンはほっとした優しげな表情で愛する者を抱きかかえる。
「ごめん…ごめんよ、フェア?君を一人にして本当に…済まない…!」
力強くフェアの無事を喜び、謝罪の言葉を紡ぎながら、回復の召喚術―ジュラフィムで傷を癒していく。
「ギアン…ギアンっ!遅いよ、ばかぁ…」
心地よい光に包まれながら、フェアもギアンを抱き締める。
一番頼りにしている人が自分の危機に駆けつけてくれる。女性としてこれほど嬉しいことはない。
だがのんびり出来る状況ではない。敵はまだ残っており、フェアがいち早く異変に気付く。
「ギアン!?あいつら、また召喚術を――」
「…遅い。詠唱は終わった」
ギアンに呼びかけようとしたが敵の召喚師の行動のほうが早い。
だが敵はまだ気付いていない。この青年に並みの召喚術など何の役にも立たない事を。
「邪魔を……するなぁーっ!!」
ギアンの角がその力を顕現するだけで召喚されたものは強制的に押し戻される。
そして回復の終わったフェアの体を優しく降ろし、振り向きざまに召喚師に飛刀を投げる。
投げられた飛刀は狙い違わずその四肢を射抜く。
倒れる召喚師を見て、リーダー格の男はあまりの手際の良さに戦慄する。そしてようやく理解する。
「ギアン…クラストフ…!貴様、生きていたのかっ…!」
「あぁそうさ。お前達のような奴らを止めるためなら生きてやるさ。だがな…今だけは別だ。フェアを傷つけた分はただで済むと思うなよ…!」
怒りに満ちたその瞳を見ただけで未来が分かってしまう。このまま戦えば間違いなく倒される。
そう判断できるだけ優秀なのだろう。脱兎の如く姿を消していった。
「ああっ、逃げたぁ!?部下も見捨てて逃げ出した!」
「いいさ、フェア。あいつはもう二度と僕達の前に姿を現そうなどとは考えないさ。…今は君が無事なだけでいいよ」
「むぅーっ、やられっぱなしは悔しいんだけど……あれ?なに…これ?」
フェアがここではないどこか、しかしそう遠くない場所から強大な魔力を感じ取る。
「…君も気付いたか。なんだ、これは…?生半可な魔力じゃないぞ…」
「そういえばあいつら『標的は別』だの言ってた…。これ、ひょっとしたら誰かが襲われてるんだよ!」
今さっきまで危険な状況に置かれていたというのに、もう今では見知らぬ誰かの心配をしている。
それがフェアの美点であるのだが――ギアンは半ば呆れながらも一応は尋ねてみる。
「やっぱり行くのかい?」
「当たり前でしょ!見捨ててなんかおけないよ!……一緒に、来てくれる、よね?」
「君を一人で行かせるものか。当たり前だろ?」
だがこういうのも今では嫌ではない。二人で魔力を感じ取った場所へ向かう。
「ああっ!?ギアン、ちょっと待って!」
首に巻いたマフラーを後ろからおもいっきり引かれる。
「げふっ!?い、いきなりなんだいフェ――」
チュッ
振り向きざまに唇にキスをされる。らしくないように呆然としているとフェアは満面の笑顔で言葉を出す。
「さっき駆け付けてくれた時凄く嬉しかったよ?あと、とっても格好よかった!ありがとね、ギアン!」


「あーっ、もう、うっとおしい!一体どれだけいるのよ!?」
男女の二人組みが大勢の無色の兵相手に襲われている。
「そんなにあたしの召喚術喰らいたいの?…それ、もっかいツヴァイレライ〜」
だが女性はどこにも悲愴さなど感じさせず、むしろ楽しげに強力な召喚術を放っていく。
無色の者達もこの二人と相対する為に対召喚術用の装備をしてきたのだがそれすら意に介さない。
「むぅ?まだ立ってられるの?しつこいなぁ…じゃあ次はレヴァティーンでも…」
「カシス、いくらなんでも後先ぐらい考えてくれ!?ここにいる奴らだけじゃないかもしれないんだぞ!」
一方、男のほうは慎重に戦いの先を見据え、少しは自粛するように女性を諌める。
その声にカシスと呼ばれた女性は、そうかそうかと納得したように男の傍に寄って行く。
「それじゃハヤトもそんなチマチマした戦い方しないでパパッとやっちゃってよ。いつもみたいにドカンと派手な一発かましてさ」
「オレってそんなに暴君みたいなイメージなのか!?はぁ…まぁやるよ、やりますよ」
ハヤトと呼ばれた男はカシスと戦いの場にはふさわしくない会話をしながら、一歩前に出て無色の兵に向き合う。
「さて…来てくれ、シャインセイバー」
ハヤトの台詞に兵達は怒り心頭になる。強力な召喚術にも耐え切った自分達に今更そんな初級の召喚術で相手をしようなどとは。
その尊大な余裕をすぐさま地に堕としてやる!そう身構えて、しかしそれが余裕などではないことにすぐに気付く。
光の剣は何十本も存在し、すぐに敵に向かうのではなくハヤトの周りを護るように飛んでいる。
誰もが絶句し、同じ思いを抱く。こんなシャインセイバーなど見た事がない、と。
「それじゃ…いくぜ!」
多数の剣を引き連れて敵の群れの中へ飛び込んでいく。
自らの大剣で打ち倒しては、またハヤトの意志に従うように光の剣も敵を無力化していく。
こんな召喚術の常識を無視した非常識の嵐の前では無色の兵の力など赤子にも等しい。なす術もなく薙ぎ払われていく。
「相変わらず無茶苦茶だよねぇ。流石は誓や…んもぅ、こっちにもいるじゃん」
別の方向からも敵が姿を現す。
「それじゃ今度は少し節約してパラ・ダリオでも…」
向かってくる敵にカウンターで放とうかと思ったが、その時別の魔力が無色を捉える。
全く予想だにしない方向からの攻撃に無色の兵は混乱し、その隙を一つの影が打ち倒していく。
「ふぅ、危ない危ない。ねぇー、そこの人、大丈夫ーっ?」
自分よりも歳若そうな少女がこちらの安全を確認してくる。
「敵…じゃないみたいだね。あのまま来られても大丈夫だったんだけどなぁ。ま、ここは素直にお礼を言っておこうか」
少女と、遅れて先程召喚術を放ったのであろう青年が近付いてくる。
「よかったぁ、まだ無事だったみたいで。怪我はない?」
「あぁうん、大丈夫。あたしらもあんな奴らにやられはしないけど、でも助けてくれてありがとっ!」
「あたし『ら』…?っ!?な、なんだあれは…!?」
青年がハヤトの戦い方を見て絶句する。
(まぁ、誰だって驚くよね)
「説明は後でするわ。ちゃんとしたお礼と一緒にね。ま、折角助けに来てくれたみたいだし、手伝ってね。このうっとうしい連中…サクッと片付けちゃおう!」


「ふぅっ、楽勝楽勝!あたしらを捕まえようなんて百年早いっての!」
「そういう割りにはめちゃめちゃ召喚術ぶっ放してたよな、カシス。あ〜、こんなに地形変えちまって…」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく無色の兵達を笑顔で見送るカシスと一帯の惨状に呆れるハヤト。
「細かい事は気にしない!終わりよければ全て良しってね」
「お前が言える台詞かよ…」
ハヤトの背中をパンパンと叩きながらあっけらかんと言い放つ。
「あはは…、なんかわたし達がいなくても何とかなったみたいだよね…」
戦いの最中のこの二人の様子を見ては乾いた笑いしか浮かんでこない。
見た事もない召喚術の使い方と力任せではあるが強力無比なハヤトの剣技。そして強力な召喚術を疲れた様子を見せる事もなく連発するカシス。
加えて連携の絶妙さはこの二人が信頼し合い、共闘し慣れている証拠である。
「さてっと、改めてありがとね。ホントにしつこい奴らだったからいい時に来てくれたわ」
「オレからも礼を言わせてもらうよ。あのまま二人きりだったらこの辺、動物が住めなくなるとこだったぜ」
「ハヤト…それ皮肉?」
「オレは真実を言ったまでだぞ?カシスも自覚してるなら少しは自粛してくれよ…」
「あはは…えっとハヤトさんとカシスさんでいいのかな?何はともあれ無事で良かったよ」
じゃれあう二人に苦笑いしながらフェアはとりあえず無事だった事に喜ぶ。
「それにしてもあんた達、あいつらが何者か分かってて手助けに来たの? 分かってないんならヤバイけど、分かってたんなら相当の物好きよねぇ」
「無色の兵でしょ?まぁ…わたし達も色々あってね。全く無関係ってわけじゃないんだ」
「そうか…いや、本当にありがとな?えっと……」
「あ、わたし達の名前まだだったっけ。わたしはフェア。この近くのトレイユに住んでるの。それでこっちがえっと…その、こ、恋人のギアン。よろしくね」
「フェアにギアンか。なるほどお宅らも揃って強いんだな。ほらカシスも………おい、カシス?」
人懐っこい笑顔で接するハヤトだったが、その隣でカシスは難しい顔に変わる。
「ギアン…?…どこかで聞いた気が…ギアン……ギアン…あぁっ!?ハヤト、そこから離れて!!」
何かを思い出したあと、先程とは打って変わって真剣な顔つきになり、迷わず召喚術をぶつけにかかる。
「行けぇっ!パラ・ダリオ!!」
サプレスの瘴気を司る召喚獣がフェアとギアンに襲い掛かる。だが――
「うそっ、不発!?…ううん、送還術ね!」
いち早くギアンがフェアを抱え、その術を打ち消し、一足飛びに後ろに下がる。
ハヤトとフェアが慌てた表情を浮かべるが、一方のカシスとギアンは敵に対する時の表情になる。
「危ないとこだったわ…助けた振りをして近付いてくるとはね。でもあたしが貴方の名前を知らないとでも思った? ギアン・クラストフ…魔獣調教師の異名を持つクラストフ家の当主。父様が危険人物の一人に挙げていたもの。貴方が今回の黒幕だったのね…!」
「…僕も君の名前には聞き覚えがある。数年前の無色の乱…そのきっかけとなった魔王召喚実験。その実験の責任者の名がカシス。部下を潜り込ませていたからこれは確かだ。そうだろう、カシス・セルボルト? あの狂人オルドレイクの令嬢がこんな所で何をやっている?」
一触即発の空気をかもし出し、二人は己の魔力を高めていく。
「さっき送還術をやったわよね?パラ・ダリオぐらいなら一瞬で出来るでしょうけどこれはどうかしら?」
魔力を顕現させると一瞬で辺りが死霊の声に満ち溢れ、生ある者を引きずりこもうと哭き叫ぶ。
「くっ、砂棺の王か…!全く親娘揃って狂った召喚術を使う…!」
「はぁっ、はぁっ!あんまりこれは使いたくないんだけどね…!でもね…ハヤトの為なら…ハヤトを護る為ならあたしは何だってするわよっ!!」
強力な召喚術を連発しても疲れを見せなかったカシスがただこれを呼び出しただけで顔色が悪くなる。
従わせきれてないこの召喚獣は彼女の生気までも奪っていく。
だが必死なまでの決意がカシスを現世に引き留めている。
「僕もフェアを護る為なら何でもするさ。愚かな僕を叱って、殴って、受け入れてくれた彼女の為ならば!」
そしてギアンも己の持つ最大の召喚獣を呼び出す。
「ははっ、レミエスですって?魔獣を弄んできたクラストフらしい召喚獣ね…!あとはお互いの魔力勝負ね…!」
二人の術が完成に近付く。二人の譲れない信念がぶつかろうとしていた――


――のだが。
バゴオォンッ!!
「はぁ……それ行けプニム」
何とも爽快な衝撃音とあきれ果てたハヤトの声によって止められてしまった。
ギアンは後頭部への衝撃に苦悶の表情を浮かべながら頭を抱えてしゃがみこんでいる。
「ぐおぉ……フェア…頭へのフライパンアタックは危険すぎやしないか…?」
「ギアンが落ち着けばこんな事しないよ!ちょっとは冷静になってよ!……あ〜、でも力入れすぎたかな?」
いつの間に取り出したのか、常に持ち歩いている料理器具セットの中からフライパン片手に清々しい笑顔で見下ろしている。
とっさの衝撃に召喚術が暴走しないように気を付けた為、頭の中がまだガンガンと鳴り響いている。
そこでようやく相手の召喚術がどうなったのか思い出してそちらを見てみれば――
「あひゃひゃっ!ちょっ、やめっ、ハヤト、やめ、うひゃひゃひゃ!そんな一杯しかけ、あっひゃっひゃっ!!」
プニムの大群にその身を覆われているカシスがいた。
どうやら服の中にまでは潜り込んでいないようだが、何ともいえない感触のプニムに襲われてはくすぐったさしか感じられない。
プニムの愛らしい鳴き声が聞こえる中、カシスの苦しそうな笑い声が響く。
「…少しは落ち着けっての。問答無用であんなもん撃とうとしやがって。抑えるのも苦労するんだぜ?」
プニムをけしかけた本人は呆れた表情と声で、しかしその手に輝く剣で召喚される寸前だった砂棺の王を大人しくさせていた。
激痛に苦悶する青年とプニムに襲われている女性を置いて、ハヤトとフェアは話をしようと近付く。
「わりぃな、相棒が無茶して。まぁでもお互い色々と事情があるみたいだし、どこかでちゃんと話をしないか?」
「じゃあ、家においでよ!宿屋だからゆっくり休めるし、誤解はきちんと解いておきたいしね」


所変わって舞台は再び忘れじの面影亭――
「なーんだ、じゃああの時、空でボカスカやってたのアンタ達だったんだ? 二人とも響界種で、フェアの愛の説得で今はもう無色の派閥とは関係ない、と…。早く言ってよね〜」
「あ、愛の説得…ま、まぁそういう事になるのかな…?」
「そしてあの時のトレイユを包んだ強力な結界は君達がやってくれたのか…」
先程のまでの険悪な雰囲気はどこへやら、三人はお茶を飲みながらお互いの説明をする。
「まぁほとんどハヤトの力なんだけどね。あたしはちょっと手伝っただけ。あたしらもうまい事こっち方面に来てただけだしね」
「そうだったのか…済まない。恩人にあのような暴言を吐いてしまって…許してくれ」
「いいよ、いいよー。あたしもけっこう酷い事言っちゃったし。お互いさまってことで、ね?」
ギアンが立ち上がり非礼を詫びると、カシスも申し訳なさそうに謝る。
「それにしてもエルゴの王…誓約者かぁ。まさか本当にいるとは思わなかったよ」
「大っぴらに言える事じゃないしね。それに…あれをエルゴの王だなんて普通は信じられないでしょ」
三人が話題に持ち上がった当人を見れば――
「うめぇ、うめぇ!いや、こっちの世界でこんなもんが食えるとは思ってなかったぜ!あ〜、感激だ! リプレがラーメン完成させた時にゃ涙が出たけど、こんな所でギョーザに出くわすとは! 神様ありがとう!オレ生きてて良かったぜ!………んぁ?どうした、みんなそんな呆れた顔して」
ここに着いてから何の気なしに開いたメニューに驚愕し、無理を言って作ってもらったものをかきこむハヤトがいた。
「あはは…そんなに喜んでもらえるなんて。でも料理人としては嬉しいかな」
「アンタねぇ…人が大切な話してるのにのんきに食べてるなんて…。そんなにいいものなの?」
「当たり前だ!オレがいくらこれを待ち望んでいたか!あぁ…学校帰りによく食ったよなぁ…。ラーメンライスにギョーザのセット。このゴールデントリオに敵う定食なんてないんだぞ!? これがあれば生きていける…。カシス、オレこの町に定住するぜ!」
これほどまでに人は生き生きと輝けるのか。そう思わせるハヤトの熱弁だった。
「はいはい…全部片付いたらねー。ハヤト…アンタ、らーめんと無色の派閥の件、どっちが大事か分かってるの?」
「そりゃ勿論ラーメンに決ま――」
言いかけてカシスの鋭い眼光に射抜かれてあわてて言い直す。
「ゴホン!嫌だなぁ、勿論無色の派閥の件に決まってるじゃないですかぁ。うんうん、あいつらを放ってはおけないぜ! ………ちくしょう、ごめんよラーメンライスにギョーザのセット」
名残惜しそうに最後のギョーザを食べ、スープを飲み干す。
そこではたと気付いたフェアが疑問を口に出す。
「でもハヤトさんがエルゴの王なら、軍隊とか引き連れて一掃!とかしたほうが早くない?」
だがギアンがすぐさまそれは不可能だと答える。
「今の時代じゃどこの国もそれだけでは従わないさ。特に聖王国の王族なんかはエルゴの王の末裔を名乗っている。王族でもないエルゴの王など…決して認めたりはしないだろうな。『巡りの大樹』自由騎士団の設立ですら渋々認めたようなものだからな」
そして更に突っ込んだ質問をする。
「しかし君達も無色をどうにかしようと思っているのか。しかもたった二人で。仲間がいるのならその人たちにも協力してもらうべきではないか?」
「駄目、それは出来ない」
カシスの顔から笑顔が消え真剣な、いやいたたまれない顔つきになる。
「みんなを巻き込むなんて出来ないよ…。だってこれはあたしの罪滅ぼしみたいなものなんだから…」
「おい、カシスやめろって」
「ううん、本当ならハヤトも巻き込むべきじゃないの。あたしが一人でやらなきゃいけないの! あたし達の勝手でハヤトを呼び出して、挙句には大きな力まで背負わせちゃった…。あたしにこれ以上の罪は背負いきれないよ…」
顔をうつむかせ、肌が白くなるほど拳を強く握る。自分してきた行為、罪の大きさ――その苦しさ、痛みはギアンにもよくわかる。いかに平和に暮らしていようともそれからは逃げられない。
押し潰されそうなそれに耐える術は一つしかない。
「…まったく、何度言わせりゃ気が済むんだか。…プニム」
「あっひゃっひゃっ!?ちょ、ちょっとハヤト!あたしは真面目に――」
顔を上げたカシスの頭を抱き締める。
「オレも一緒に背負ってやるって言っただろ?…オレはこっちに来れて幸せなんだぞ? そりゃ最初は戸惑ったりもしたけど、今はこうやってお前と一緒にいられる。あっちにいちゃあ手に入らなかったもんだ。オレにこんなに幸せで充実した毎日をくれたのはカシス…お前なんだぜ?」
「ハヤト…ハヤトぉ!!」
涙を流しながらその体を抱き締める。
「ホント、世話のかかる奴だぜ。…わりぃ、フェア、今日はここに泊まらせてくれないか? ちょっとこいつを落ち着かせてやりたいしな」
「あ、うん、いいよ。ちょっと待ってて、今部屋の鍵持ってくる!」
そう言ってフェアは奥に姿を消す。残ったのは泣きじゃくるカシスとそれをなだめるハヤト。
そしてカシスと同じ思いに囚われているギアン。それを見透かしたようにハヤトはギアンに語りかける。
「アンタもだぜ?あんないい子を泣かすなよ?」
「っ!?僕は別に…」
「本気であの子と生きたいなら隠し事なんかしないほうがいいぜ?アンタもこいつと一緒だ。潰されそうなくせにやせ我慢して一人で何もかもやろうとする。相手がそんなの嬉しがると思うか?
 使い古された言葉だけどな…『人が誰かを本気で理解出来るのは一人だけ』。しかもずっと一緒に過ごして死ぬときになってようやくなんだぜ?
 …だからあの子の思いに報いたいのなら、なにもかも打ち明けたほうがいいぜ? 無色を潰そうが、穏やかに暮らしていこうが一人じゃ何にも出来ないんだからよ」


時間も過ぎ、夜も更けた頃――ギアンは自分の部屋で一人考え込む。
  「一人じゃ何にも出来ないんだからよ」
その言葉が頭を離れない。確かにその通りだった。隠し事をしていたからこそ危険な目に合わせてしまった。
自分のしてきた事が裏目に出て、最終的にはフェア自身も感づいてしまっただろう。
それでいいのか?それとも全て打ち明けるべきか?
答えが出てきそうで出てこない。
「ギアン、入るよ?」
唐突にその本人がやってくる。突然の事態に普段の冷静さは見る影もない。
「フェ、フェア?ちょ、ちょっと待って――」
「だめー、入りまーす。………もぅ、やっぱり暗い顔してる」
今の自分はそんなにも顔に感情が出易くなっているのか。それがいい事なのか悪い事なのか。
「それで…どうしたの?わたしに何か言う事あるんじゃない?」
ニヤリと笑いながら問い掛けてくる。
「…もう君もわかってるんじゃないのか?」
分かってはいても答えづらい。ついつい顔を背けてしまう。
「あのねぇ、ギアン。いくらわたしでも心は読めないよ。前も言ったよね、『言葉にしてくれなきゃわからない』って。…ギアンが今悩んでいるのはわかるよ?それぐらい短くても一緒にいるんだもん、分かっちゃうよ。でもね、やっぱり心までは言葉にしてくれなきゃ理解出来ない。理解のしようもない」
そこでハッと気付く。自分の求めていた答えはフェアに協力してもらわなければ出てこないのだ。
「…そうか、そうだよな。ははは…僕は本当に馬鹿だ。…やっぱり君には敵わないなぁ」
「ふふん、今頃気付いたの?わたしに勝とうなんて甘い甘い!」

「なーるほどね、今朝の変な様子はそれだったのね」
全てを打ち明けるのにもう迷いはない。全て包み隠さず自分の考えを述べる。
「わたしを巻き込みたくない、か。ま、ギアンらしいったららしいかも。でももう悩む必要ないよ? わたしもギアンのそれに付き合うから」
「だが――」
「今更断れると思ってる?……それにわたしもギアンの事が心配なんだよ?」
また小さな体で抱き締められる。
「目の届かない所で心配するより、一緒にいて、一緒に心配しあうほうが断然気が楽になるでしょ?」
これが答えなのか。少々強引に持っていかれた気もするが、不思議と心は落ち着いている。
「そう…だな。何もかも決め付けていたらどうにもならなくなる。なら君といたほうが…安心できるな」
どちらからという事もなく唇が合わさる。
「でしょ?じゃあこれでこの問題は解決だね!…まぁそれはそれとして、やっぱり隠し事をされてたのは気に喰わないんだよね〜」
華やかな笑顔から一転、何かを思いついた黒い笑顔になる。
だがそれに気付いたところでもう遅かった。
「う…あ…?体が、思うように動かな…?フェ、フェアがやったのか!?」
「せ〜いか〜い、ふふ、ギアンは耐性があるから効きにくいけど、無防備な瞬間ならどうとでもなるよねぇ」
そう言って体の後ろからドリアードが姿を現す。
「これで今のギアンはわたしの許可なしには動けないよ。さて隠し事してたことのお仕置きと、今まで先手取られてたことのお返し…たっぷり味合わせてあげるよ…?」
両手をワキワキと動かし、いやらしい笑みを浮かべる。
やばい、まずい。このままではされるがままだ。
えっへっへっ、と普段からは考えられない笑い声で、ズボンを脱がされる。
「あれあれ?ギアン、もう膨らみかけてるよ?どんな事されるか期待してるのかな?」
いじりがいのあるおもちゃをみつけたかのようにワクワクしながら下着も下ろされる。
「ふふっ、ご開帳〜…とは言わないか。さーて、攻撃開始〜!」
少し冷えた手でペニスをさすっていく。最初は柔らかかったそれも何度かさするだけで硬く、熱を持ってくる。
「うあっ!?フェア、やめ――」
拒否の声を聞き流し、天を衝くようになったペニスを包むように上下にしごく。
ガチガチに硬くなったペニスはもっと刺激をくれと言わんばかりに暴れ始める。
「きゃん!もー、こんなに硬くして節操ないんだからぁ。でも…こんなのはどうかな?」
口から唾液を垂らし潤滑油としながらしごく速度を上げる。
ジュルッ、ジュルッとわざと音を立てながら興奮の増加を促していく。
現にギアンは時折声を上げるだけでもう拒絶の姿勢は見えない。そしてさらに止めを刺しにいく。
「ねぇ…ギアン、これだけでいいの?もっと…してほしくない…?」
手の動きを続けながら、見せ付けるように舌で舐める素振りを見せる。
「フェア……頼む…やって…」
「ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ?どこで、なにを、どうしてほしいの?」
今までの鬱憤を晴らすためか、日頃は思いつかないような口調と艶やかな声でギアンを堕とそうとしていく。
「うぁ…フェアの、口と…手で、ぼ、僕のペニスを…な、舐めてほしい…うぐぅあぁ!?」
「はい、よく出来ました。…んっ、はむぅ…」
情けない声を上げるギアンにゾクゾクしながら、舌で竿を舐め取っていく。
そして口に咥えては全体をしごくように、また舌先で亀頭をもてあそぶのもやめない。
手の動きは竿をしごくだけではなく、丹念に玉袋も揉んでいく。
「んんっ、んぐっ…ぷはっ、凄い…もう、こんなに汁が出てきたよ…?ギアンの…おいしい…」
うっとりとブルブル震えるペニスを見つめ、また奉仕に没頭する。
先走りの汁を口に含んでは飲み、唾液と混じらせては局部を濡らしていく。
「ひゃうっ!んもぅ…こんなに暴れさせて。もう出したいの?もう…我慢できないの?」
「フェア…早く…出させて…!もう、我慢できな…うぁがぁっ!?」
フェアの淫靡な責めに、早く楽にさせてくれと懇願したのだが、逆に悲鳴を上げてしまう。
手が動きをやめて、ギュッと力強く締め付ける。
「ふふっ、まだだ〜め。もっとしゃぶって、咥えて…わたしが満足するまで出させてあげない。
 もっと…ギアンのを味わってからじゃないと……だ〜めだよ?」
そこに少女の笑みはない。あるのは男を手玉に取る娼婦の妖艶な微笑みだった。

何度射精を我慢させられたのか。イキたいのにイケない。
もどかしいなどという生易しい表現ではすまないほど、絶妙のタイミングでフェアは奉仕を止める。
淫らに艶めかしく動く口と舌は弾けそうなペニスをもてあそぶ。そして更には――
「あうんっ、ひゃんっ、ふああっ!はぁ…はぁ…またイッちゃった…だめ、とまらないよぉ…」
フェアは自らを慰め続けている。しかもギアンに見せ付けるように。
己一人が絶頂に達する様を、焚きつけるようにあられもなく晒している。
「ねぇ…ギアンもイキたい…?もうこんなにパンパンになってるもんね。またお願いしたら出させてあげる…。わたしにかけたい?わたしに飲ませたい?ちゃんと言ったら出させてあ・げ・る…」
チロチロと舌先で亀頭をつつきながら、楽しそうに言う。
だがここまで蔑まれても今のギアンは卑屈になど感じない。
今はただひたすらに、射精したい、という思いしか存在しない。
「飲んで…!ぼ、僕から出る精液…フェアの口の中で出して…飲んでくださいっ!!」
「はい、よくできました〜。じゃあ…溜まった分、いっぱい出してね?」
竿を口に含み、口をすぼませ全体に絡みつかせる。顔と手を前後に動かし、絶頂に導く。
ギアンの体が一度、震えた後、
「んんんん〜〜〜〜っ!?」
リードしていたフェアですら驚くような勢いと、大量の精液が流し込まれていく。
今までにも何回か口でしていた事はあるが、これまでの比ではない。
喉を鳴らして飲み込んでいくが間に合わず息苦しさから離してしまう。
それでもギアンのペニスは震えてフェアの顔を、髪を、頭から汚していく。
「んぐっ…んぐっ……すご…こんな沢山…わたし、浴びせられてる…」
どこか恍惚とした表情で、ただかけられているだけなのに感じてしまっているみたいだ。
そしてビクッ、ビクッと射精し終わったペニスから全部搾りつくそうと精液に塗れた顔でまたも吸い付く。
好物を前にした獣のように一心不乱に咥え、吸い取る。
だから気付けなかった。荒い息をつきながらも、両手を動かし、フェアがしたようにギアンがニヤリと笑ったことに。

体は疲れてはいるが動かせないというほどではない。
自分の事ながら凄まじい量の射精だとは思ったが、耐えに耐えさせられてはああもなるというもの。
少々お仕置きとしては厳しい面もあったが、まぁそれは甘んじて受けたつもりだ。
ならばここから先はお返しという訳ではないが、自分の好きにさせてもらおう。
ペニスに吸い付くフェアの体を離し、素早く抱きかかえてベッドにまで運んでいく。
「あれ?あれ?」
きょとんと不思議な顔をしながらも、されるがままにされ、ベッドの上で四つん這いにさせられる。
「え、えっと…もう、術が解けちゃったのかな…?あははは…」
ここから先の未来が分かったのだろう。どこかたどたどしい笑いになる。
「耐性がある僕にそう長く効果は持続しないよ。どうやらお仕置きはあれで終わりみたいだから、ここからは僕が君を好きにさせてもらうよ…!」
「あうぅ!顔が怖いよ、ギアン!そ、それにまたされたんならお仕置きの意味がなくなっ…ひゃうんっ!?」
言葉を最後まで聞かずに指を挿入する。自分で慰めイッていたからか指をすんなりと奥まで飲み込む。
「これだけ濡れているならこれ以上の愛撫はいらないね。いきなりいかせてもらうよ?」
「ちょ、ちょっと待って!心の準備ってものが…んああっ!そんな…いきなり、おくまで…ふあんっ!」
遠慮はなしにペニスを埋没させ、律動を繰り返す。一度射精したから今回は少し激しくても長持ちはするだろう。
「あはぁ…おくに、ひびいて…ひゃうんっ、あんっ、すごいっ…!」
フェアはフェアで思う存分嬌声を上げてくれている。だが言っただろう?お仕置きのお返しだと。
「ふあっ、はぅん!……あれ?ギアン…ゆびがへんなところにぃ…はっ!?ちょっと待って!?そこは違うって!?」
やっと気付いたか。しかし遅いよ?
「ダメダメ、無理無理!やめてやめ…ひぐぅっ!?あ……は……はいっちゃ…た…?ひいぃっ!?」
指をアナルに差し込む。一本だけだというのにキュウキュウと締め付けが凄い。
そしてその締め付けは膣のほうにも連鎖して、ペニスをも締め付ける。
「これは…また凄い…!さらにきつくなったか…!」
「ギア…ン…だめって…言ったのにぃ…ひうっ!?ふあっ、あぐぅっ、うああっ!?ほんとに、えぐられてっ!?」
出し入れをするだけで刺激はそうとうなものなのだろう。声色がいつもと違う。
だがそれでも甘い声は混じっているし、何よりも愛液の分泌が多くなりシーツに溜まりを作っていく。
「でも少しは気持ちいいんだろう?濡れ方がいつもより激しいよ。ほらすくっただけでこんなに糸を引く」
「ふああっ!?や、やだっ、みせないでよぉ!ひんっ、だめっ、おしりにたらさないで…きゃうんっ!」
ニチャニチャと見せつけ、そしてその液体をアナルに垂らし滑りをよくする。
指をもう一本増やして、さらに広く奥へと突き入れる。
「あうあっ!?だめ…おしりにも、ギアンのがはいってるみたい…だよぉ…ふああっ!」
この様子からするとフェアはこちらのほうも感度良しのようだ。
今後はより多くを楽しめそうだが…さて今日の所はどうしたものか。
いきなりペニスを挿入というのは流石に無理だし可愛そうだ。
それでもこれぐらいの責めで終わるのも味気ない…そう思った時、先程のフェアの言葉を思い出す。
「そうだな…言葉にしなければ、わからないものだよな。さて君はどんな反応を見せてくれるのかな?」
ギアンの逆襲はまだ続く――

「ひうっ、ふあっ、ひゃうんっ…だめ…おかしくなっちゃう…やんっ!」
最初でこそ痛みの割合が多かったのだが、いくらか続けるうちに頭が麻痺したように快楽ばかりが襲ってくる。
それはそれで見ていてとても喜ばしいことなのだが、まだ試してみたい事はある。
「本当にいやらしい子だ。気持ちよければそれだけでいいんじゃないか?」
「やだっ、ひゃんっ、そんなこと…いわない、で…ひゅぐっ!」
「今日のあの無色の兵達も君をいやらしい目で見ていたな。もし僕が遅れていたら今頃君はどうなっていたのかな?」
ぼんやりとしながらも今日の事を思い出す。
あの男は『女として生まれてきた事を後悔させてやる』と言っていた。それならば――
「今頃君は大勢の無色の兵達に犯されていたのかな?」
犯されて――そんな言葉を聞くだけで体が震えてしまう。
「多くの男が君の胸をまさぐり、秘部をいじり、ペニスを君の中に捻じ込む」
「んやぁっ!いやっ、いやっ、そんなのやだよぉ!」
その様子を想像したのか、また中がキュッと締まる。
「何度も何度もこんな風に二つの穴に巨大なモノを差し込まれるんだ」
「ひいぃっ!また…おくまでぇ…!ひろが…っちゃう…ひゃああっ!?」
「君のその可憐な唇にも男のものを入れさせられ、臭い精液をたくさん飲まされるのかな?」
「うあぁ…やだ、やだ…こわいよ、ギアン以外のなんていやぁっ!」
まるで言葉が魔力を持っているようで、考えたくもないのに頭に浮かんでしまう。
下品な笑いを浮かべ、怯える自分を存分にいたぶり尽くす様を。
「何度も何度も中に出され、飲まされて、いつしかお腹の中が精液だけになるかもね。吐き気を催しても白い液体しか出なく、膣を掻き出されてはゴブリと水溜りができる程注がれるんだ」
「やだやだやだっ!やだよぉ、助けてギアン!怖い…怖いよ、わたしを一人にしないでぇ!!」
大粒の涙を零し、その瞳は恐怖に満ちている。これは少しやりすぎたか、と後悔してしまう。
「…大丈夫、僕はここにいるよ?いつも君の傍にいる、誰にも君を触れさせない。君を抱けるのは僕だけだ。他の奴に触れさせるなど…許すものか…!」
四つん這いのフェアの後ろからその耳に言葉を吹きかけ、体に手を回す。
それで安心したのか、体の震えは止まり、嬉しそうにギアンのほうを振り向く。
「ギアン…ここにいたっ…!いっしょに、いてよ?もうさびしいのは、いやなんだから…!」
「それは僕も同じだよ。君がいない世界など…考えたくもない」
お互いが唇を近づけ、その口内をむさぼる。自らの想いを、匂いを染み込ませるように。
「…ふはぁ…ひゃんっ、また、うごいて…ふあっ、あんっ、あ、は…また…イッちゃう…!」
「僕も…また出そうだ…!フェア、一緒に…!」
「あっ、あっ、あっ、ギアン…ギアン…!も、だめ……っ!?ふああぁぁああぁーーっ!!!」
ドクッ…ドクッ…とまたも先程と変わらぬ量の精液がフェアの中に注ぎ込まれる。
中に収まりきらなかった分が、結合している隙間からブピュッと妙な音を立てて零れ、シーツを濡らしていく。
絶頂の余韻から先に抜け出したフェアが口を開く。
「あぁ…またいっぱいでたね…?なかで、たぷたぷいってる…ギアンの…いっぱいだよぉ…」
頭をガツンと殴られたかのような衝撃が走る。どうしてフェアはこうなのだ、どうしてこうも可愛らしい事を言ってくれるのだ。
「ひあっ、やだっ…また、中で硬くなって…ギ、ギアン!?」
「フェアがいけないんだよ…そんな男を悦ばすような事を言うから、治まりがつかなくなるじゃないか。
 ふふ…決めた。今夜は君がドロドロになるまで寝かしてあげないからな」
「ドロドロっ!?あはは…嘘でしょーーっ!?」
叫び声はギアンの体に包まれると同時に聞こえなくなる。
お仕置きのお返しには、とんでもないしっぺ返しがくる事を、今夜フェアはその身に覚えこまされていった――


「あいたたた…う〜む、どうにも張り切りすぎたか。こ、腰が…」
フェアのドロドロに精液に塗れた体を拭き、疲労困憊なのか今はスヤスヤと寝ているフェアを抱き空いている部屋に入る。
あの後もまた若干暴走してしまったようで、体が痛くなるほどフェアを抱き続けた。
ようやく冷静になり、我に返れば自分のベッドは精液と愛液と汗でグショグショ。
シーツだけでなく下の寝藁のほうまで染みこんでしまっては当分は使えない。
まずは濡れたタオルでフェアの体に付いた液体を拭き落として、途中股間から溢れ出る精液に興奮もしたが本能を押さえ込み、ゆっくり休めるよう空き部屋のベッドに寝かせた。
「これは明日は二時間説教かな…?まぁ半分は自業自得だものな、仕方ないか…」
余程疲れさせてしまったのか、それでも安らかな寝顔を浮かべるフェアに思わず微笑んでしまう。
「あの二人には聞こえてないよな?一応こちらも気を使って離れた部屋にはしたが…ま、まぁその時はその時だな」
その二人がどんな夜を過ごしたかはまた別のお話――
横たわるフェアの傍に腰を下ろし、今は下ろされた白い髪をすく。
「んんっ……ギアン……」
くすぐったかったのか体を揺らし、寝言で最愛の人の名を呟く。
それはとても嬉しい事で、その頬にそっと口付けをする。
君は今どんな夢をみてるんだ?君の夢の中でも僕はちゃんと必要とされてるんだな?
自分を狂った夢から引きずりだしてくれた少女。素直に心を傾けられるようにしてくれた少女。
「父さん…母さん…貴方達もこんな気持ちで愛し合っていたのですか?」
かつては憎んでいて、だが今ではかけがえのないものになった顕現していない角を触る。
その問いに応えるようにボウッ…と薄く光る。
そろそろ目が霞んできた。何もかも余韻に浸れるのはここまでのようだ。
フェアの隣に横になり、その身を優しく包む。
「お休み…フェア。また明日からも…がんばろう…な…」
日はまた昇る。二人で笑いながら暮らしていく明日がまた来る。どんなに罪を犯しても。
だから生きていこう、彼女と二人で。その罪を少しずつでいいから償いながら。
フェアと暮らしてから落ち着いて眠れるようになった穏やかな安らぎに意識は落ちていった――


<完>

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