16歳の新星と姫君



 屋敷を出る。そうリシェルが告げた瞬間、ポムニットの目は大きく見開かれた。
「わたくしのことが嫌いになったんですか」
「そうじゃないわよ」
 今にも泣きそうな顔のポムニットの問いをリシェルは否定する。
「わたくしに至らないところがあれば直しますから。お料理だっておじょうさまが好きなものをもっと勉強してもっともっと上手くなります。ですからこのお屋敷を出て行くなんていわないでくださいまし!」
「そうじゃないのよ。ポムニット」
 必死の懇願。胸がつまる。そして。
「ライさんのことですか?それならわたくしは全然気に……」
「だからそうじゃないって!!それに……もう決まっちゃったことだし……」
 哀しげにリシェルは目を伏せる。これはもう前々から決まっていたことなのだ。今更、変更など聞かない。
「わたくしはおじょうさまのお世話をしていられればいいんです。おじょうさまのためにご飯をつくっておじょうさまのためにお洗濯をして……わたくしはおじょうさまにつくすことだけが生きがいなんです」
「だーかーらー」
 こめかみを押さえる。何を言っても通じそうにない。メイドは一人勝手に盛り上がる。
「お願いです!でていかないでださいまし!わたくしの前からいなくならないでくださいまし!おじょうさま!」
「………………………」
 うるうると涙を流してこっちの手を握り訴えてくる。リシェルは何も言わなかった。というか何を言っても無駄だ。
「おじょうさま……わたくし……おじょうさまのためでしたら……」
 そういってメイド服に手をかけて、ポムニットはおもむろに脱ぎだす。流石にリシェルも我慢の限界だった。
「派閥の研修で本部まで行って来るだけなのに、勝手に一人で盛り上がって暴走すんなっ!このアホメイドおぉ!!」
「えぅぅぅぅぅうううううう!!」
 ブロンクス邸。ここでは今日も愉快な主従漫才が繰り広げられていたのであった。




「まったく、もうポムニットのやつときたら……」
 帽子に手を当てながらリシェルは呻く。そんなリシェルにライは苦笑しながら言う。
「まあ、そう言うなって……そんだけポムニットさんがオマエのこと大事に思ってるってことなんだし」
「言われなくても分かってるわよ!そんなこと」
 予想通りの反応に失笑が漏れる。リシェルは憮然としながら続ける。
「ったく……今生の別れってわけじゃあるまいし……大げさになっちゃって……みっともないというか……なんというか……」
 そう膨れながらリシェルはブツブツ呟く。そんなリシェルを眺めながらライはふと思う。
(ようする寂しがってるんだよな。コイツ)
 金の派閥の本部のあるファナンは聖王国にある。帝国領の辺境であるトレイユからは遥かに遠い。往復するだけでそれなりの日数はかかるだろう。
 その上に研修となるとそうそう直ぐには戻ってはこられない。その間、生まれ育ったこの街とも、ライやポムニットとも離れ離れになる。
 ポムニットの過保護ぶりにリシェルがこうしてプリプリ怒るのは寂しさを誤魔化す照れ隠しなのだ。
(もうちょい素直に甘えてくれりゃいいのにな。甘えたがりのクセに……)
 付き合いはじめてから多少は素直になったと感じることもあったが、やはりこういうところはリシェルはリシェルだ。
 人間、そうそうに大きく変われるものでもない。そのことがむしろライにとっては微笑ましかった。
「なに一人でにやけてぶつぶつ言ってんのよ。聞いてる?」
「あ、ああ。悪い悪い」
 愚痴の相手の最中に気が他にいってたことを素直に詫びる。こうして愚痴の聞き手をしてやれるのも当分はお預けなのだ。
 ならば今日は気の済むまで相手をしてやろう。
「まったく……だいたい研修っても堅苦しい挨拶回りばっかだし……講義なんて大抵、家でも勉強できることばっかだし……」
 言いながらリシェルはちらちらとこちらの顔を伺ってくる。いかにも何かを言って欲しそうな目で。
 フッと息を吐く。やれやれしょうがない。いくつになってもコイツは手間のかかるお嬢様だ。
「帰ってきたらオマエの好物ばっか作ってやるから……」
 そうライが口にした途端、リシェルの顔が僅かにゆるむ。
「だから気をつけて行ってこいよ。オレ、ちゃんとオマエのこと待ってるからさ」
 ライが続けて言うと、リシェルの顔は真っ赤になった。ユデダコみたいに。
「と、当然じゃない!そんなのっ。あたしを待つのはあんたの権利であって、あんたを待たせるのはあたしの義務なんだかんね!」
「権利と義務が逆になってんぞ」
「うるさいっ、うるさい うるさあぁーいっ!」
 朱に染まる顔でリシェルはわめき散らす。そんなリシェルをライは笑みを浮かべながら眺めていた。





「……なんてこともあったわよねえ……ハァ……」
 出発前の出来事を思い返してリシェルは溜息を吐く。ここはファナン。金の派閥の本部が存在する聖王国、第二の都市である。
 研修でこの地に足を踏み入れたリシェルだが、気分は憂鬱だった。研修といっても大半は派閥のお偉方への挨拶回りである。
 窮屈なことこの上ない。派閥本部で行われる講習も退屈なものだった。そもそも金の派閥では召喚術の奥義はそれぞれの家の秘伝である。
 広く公開されるようなことなど言ってみれば召喚師なら誰でも知っているようなことばかりなのである。
 これなら家で秘伝書を齧り読みした方がマシだ。そんなこんなでリシェルの鬱憤はたまっていた。
(それに……やっぱ、ホームシックなのかなあ……あたし……)
 加えて距離というものを実感させられる。トレイユからは遥かに遠い。離れてみると余計に実感させられる。やはり寂しい。
 早く帰りたい。会いたい。顔を見たい。声が聞きたい。抱きしめて欲しい。遠くにいればいるほど恋しさはつのる。
(我ながら情けないわねえ。こんなのこれからよくあることなのに……)
 派閥に属する以上、こういったことは避けられない。頭では分かっている。けれども気持ちはすんなりと納得してくれない。
 そんなモヤモヤした気持ちを持て余しているときだった。
「ねえねえ。そこの貴女」
 ふいに声がかかる。一瞬、自分が呼ばれたとは気づかずにいると。
「そこの貴女よ。そこのなんか変ちくりんなウサギの帽子を被ってる貴女!」
 どうやら自分のことらしい。リシェルはようやく気づく。
「誰よ。いったい……」
 憮然としながら振り返る。するとそこにはリシェルと同じぐらいの年頃の少女の姿があった。
「やっほー♪」
 人懐っこい笑みを少女は見せる。知らない顔だった。この派閥本部の敷地内にいる以上、この娘も金の派閥の召喚師なのだろう。
 ジロリと観察するように少女を見る。少女は小柄だった。リシェル自身もどちらかといえば小柄な方だがその少女はそれ以上に。
 顔つきもどことなく幼く童顔である。なんというかチビジャリという言葉がよく似合う。そんな風体の娘であった。
「あー!!なんか失礼なこと考えてるでしょ!」
 こちらの考えていることを見透かされたのか、少女は少しむくれる。
「いったい何の用よ?人のこと呼び止めといて……」
 リシェルは尋ねる。感傷に水を差されたので内心あまり愉快ではない。
「別にぃ。なんか暇そうにしてたから声かけてあげただけよ。ねえねえ。せっかくだし一緒にお喋りでもしない?」
「なんだって……あたしが……あんたと……」
「いいじゃない。どうせ暇なんでしょう?」
「まあ、そりゃそうだけど……」
「わたしも暇してるの。ちょっと退屈しのぎにつきあってくれてもいいでしょう?」
 そう誘われてしばし考える。確かにこうして一人でウジウジしているよりかは誰かと話していたほうが健全かもしれない。
 少しは気晴らしになるかと思いリシェルはその少女につきあうことにした。



「で、あんた誰よ?話しかけてくるんなら自分から名乗りなさいよ」
 リシェルは少女に名を尋ねる。すると少女は悪戯っぽく微笑んでこう言う。
「う〜ん。教えてあげてもいいんだけど、貴女きっとビックリするわよ」
「何よそれ。別に驚きゃしないからもったいぶらずに名乗れっての!」
 少女の態度にリシェルはいら立つ。少女は含み笑いをして勿体をつけて、ようやく名乗る。
「わたしの名前はミニス。ミニス=マーン」
「ミニス=マーン?どこかで……聞いたような……って!!」
 少女の名乗った名。どこかで聞いたおぼえのあるその名を反芻してリシェルはハッと気づく。
「ミニス=マーンってあのミニス=マーン!?マーン議長の娘のっ!」
 リシェルは愕然とした。ミニス=マーン。金の派閥に所属するものならばその名を知らぬものはいないだろう。
 金の派閥のトップであるファミィ=マーン議長の一人娘で、自身もあの傀儡戦争を最前線で戦いぬいた英雄である。
「うふふ。やっぱり驚いたじゃない」
「そりゃ……まあ……」
 クスクスと笑うミニス。リシェルはまだショックから立ち直っていなかった。何せ自分の目の前に生きる伝説がそこにいるのだ。
 悪魔王メルギトスを倒した調律者一行の中においてもミニスの名は際立っていた。ファミィ議長の娘という生まれもあるのだろうがミニス自身、類稀なる強力な魔力を持った獣属性の召喚師である。伝え聞く噂によると消費MPたったの20でS級召喚術をぶっ放してMAPというMAPを焼き尽くしまくったのだとか。それが当時、弱冠十一歳の少女だったというのだからさらに驚きである。
 リシェルが同じ歳の頃はセクターの私塾で、ライと一緒によくバケツを持って廊下に立たされていたというのに。
 リシェルは呆然とする。そんなリシェルにミニスは声をかける。
「こっちが名乗ったんだからそっちも名乗るのが礼儀じゃないの?」
「……あ、ああ。そっか……そうよね……」
 言われてリシェルは気がつく。いまだ困惑から抜け出せずにはいるが名乗ろうとする。
「あたしは……」
「リシェル=ブロンクス。帝国領のトレイユから研修でここに来てるブロンクス家の長女。歳は確かわたしと同い年。でしょ?」
 名乗る前に先に言われてしまった。一本とられてリシェルが固まっているとミニスはまたクスクス笑い出す。
「ごめんなさいね。貴女のことはあらかじめ聞いてたの。フィズやユエルからね」
「……へ?あんた、あの二人と知り合いなの?」
 知り合いの名を唐突に出されてリシェルは目を丸くする。
「うん。二人ともわたしの親友だよ」
 にっこり微笑んで言うミニスにリシェルは思った。世間って意外と狭いものなのだと。




「へえ?界の狭間を越えちゃうなんて至竜ってやっぱ凄いのねえ。うちのシルヴァーナもいつかはそんな風になれるのかなあ?」
「さあ、少なくともあたしたちが生きてるうちは無理っぽくない?」
 当初は唐突なミニスに面食らっていたリシェルだったが、話をしてみればやはり同年代の少女同士、会話は弾む。
 ミニスはトレイユで起こった事件について聞いてきた。人づてに聞いて興味津々だったのだろう。
 ことの発端から顛末まで当事者であるリシェルはまさに渡りの船であった。受け答えしながらリシェルも尋ね返す。
 主に共通の知り合いのユエルやフィズ達についてである。どのようにして知り合ったのかその馴れ初め等を。
 そんな風に会話しているうちに話題はある方面へと移る。
「しかしフィズも不憫よねえ。アルバったら、そういうのちっとも気が利かないし」
「やっぱあの二人ってそういう関係なんだ?」
 いわゆる恋ばなというやつである。
「ん〜〜アルバはあの通り剣一筋でそういうの疎いんだけど、フィズの方は結構本気みたい。でも、あの娘も素直じゃないし」
「それってなんか可哀想……あたし、すっごく分かるなあ……その気持ち……」
 素直になれない娘とそれに気づいてくれない幼馴染。まるでどこかで見たような取り合わせだった。
 フィズが抱いているであろう切なさ。非常によく分かる。そうリシェルがフィズに同情していると。
「……なにニヤけた顔してんのよ」
「ん〜?にしし♪」
 ニヤニヤとミニスがリシェルの顔を覗き込んでいた。ニシシと笑いながらミニスは口を開く。
「そういう貴女の方はどうなのかな〜と思って。シルターン自治区に一緒にいった男の子いるんでしょ。フィズから聞いてるわよ」
「なっ!」
「一人は貴女の弟さんみたいだけど、もう一人は幼馴染なんですって?その歳で一緒に旅行だなんて随分と仲がいいのね」
「うっ……ぐぅぅ……」
 まさか自分に話題を振られるとは思っていなかったのでリシェルはぐうの音もでなくなる。そんなうちにミニスが問い詰めてくる。
「わたし、そっちのお話の方がもっと興味があるなあ。ねえ、どうなの?どうなの?」
「どうなのって……そんなの……」
 ただの幼馴染。そういって誤魔化そうかとも思った。でもすぐにそれを否定する。もう只の幼馴染なんかじゃないから。
「つ……付き合ってる……一応……」
「きゃあ♪熱いわねえ。ひゅーひゅー。ねえねえ、何処までいったの?キスは済ませた?ひょっとしてエッチなこととかもしっかりやってるの?」
「いちいち答えられるわけないじゃない!そんなの!」
「うふふ。差し詰めさっきは彼氏恋しさに黄昏てたわけねえ。いいわねえ青春」
「うっさいわねえ。ほっとけっての!」
「寂しいわよねえ。ラブラブな彼氏と遠く離れて……色々と持て余してるんじゃないの?」
「余計なお世話よ!」
 囃したててくるミニスにリシェルは顔を真っ赤に染めて怒鳴り散らす。
 しかし火に油だった。ミニスはますます目を輝かせる。
「うふふふ。そんな貴女にうってつけのストレス解消……教えてあげようかしら?」
「な、なによ……いったい……」
 妖しく微笑むミニスにリシェルはなにか嫌な予感を感じた。
「それはね……にししし♪えい、ラブミーバースト!」
「へ?」
 予感的中。ミニスが突如放った召喚術をリシェルはまともに受けた。



 放たれた威力25の中範囲召喚術。リシェルはまともにすっころぶ。
「な、なにすんのよっ!いきなり……って……あれ……あっ…」
 ローブを着用しているのでダメージ自体はそれほどでもない。しかしリシェルは自分の身体の異変に気づく。
「なに……これ……ふぁっ……」
 もぞもぞとむず痒いものが湧き上がる。身体が火照るように熱気を帯びている。意識が甘く蕩けかける。
 明らかな状態異常。この症状はおそらく。
「察しのとおり魅了の追加効果つきよ♪この子のは特別制だからねえ♪」
 そう微笑みながら答えるミニス。彼女の隣には先ほどの術を放った少し風変わりなドライアードがいた。
「とある年増から引き出物に貰ったこの石。一度、効果を試してみたかったのよねえ。さてと、うふふ♪」
 ミニスの顔が邪悪な笑みに歪む。リシェルの背筋に悪寒がはしる。
「いやあ、わたしって同じ派閥の中だとあんまし友達いなくてね。だからこっちにいるときは結構暇なのよ」
 いけいけしゃあしゃあと小悪魔は語りだす。 
「それでさ、なんでも帝国の方からわたしと同い年の娘が来るっていうじゃない。それでピンときたの」
(この娘……まさか!?)
 既視感を覚える。なんというか身内にすごく似たようなのがいる気がする。 
「イ・ロ・イ・ロな意味で仲良しになりたいなあってね♪てへっ」
 舌をペロッと出して笑うミニス。リシェルは絶望にさいなまれる。
(やっぱしぃぃぃい!!この娘、ポムニットの同類だぁああ!!)
 なんということだ。金の派閥のモラルは一体どうなっているのだろうか。よりによって将来の議長候補筆頭がこっちの趣味とは。
 幻獣界の姫君の持つ毒牙。それは哀れな子ウサギリシェルへと向けられる。
「さあ、彼氏と離れて持て余している貴女のその身体、このわたしがみっちりと慰めてあげるわ!」
「やだぁ……らめ……やめてぇ……」
 必死でリシェルは抵抗を試みるも身体に力が入らない。意識もぽーっとする。気を抜くと今にでも落ちてしまいそうなほどに。
「んふふ♪怖がらなくてもいいの。フィズやユエルも最初はそうやって嫌がってたけど今じゃ従順なものよ♪」
(あの二人にもしてんのかいっ!!)
 逃れようとジタバタともがく。しかし衣服の隙間にミニスの手がもぐりこんだとき、リシェルの身体はビクンと震える。
「ひぁんっ!」
「んふふ♪いい声……」
 子どものような小さなミニスの手。それがリシェルの発達途上の身体を嬲る。脇の辺りから侵入した片手がほのかな乳肉を弄る。
 ワキワキとした手つきで。突起を探しあてると、指先で軽く摘みコリッと押しつぶす。
「ひあぁぁぁああ!やあぁぁぁあ!」
 ひときわ大きくリシェルは嬌声をあげる。ダメだ。抗えなかった。このままなし崩しにこの小悪魔に玩具にされてしまうのだろうか。
(やだぁ!そんなのやだぁぁぁあああ!!)
 たまにポムニットに襲われることもあったりもするがリシェル自身は至ってノーマルである。喜んで同性に嬲られる趣味はない。
 けれど哀しいかな。身体は感じてしまっている。
「ふふ。どうやら貴女。彼氏とは結構しっぽりやってるみたいじゃない。こんなに簡単に濡らしちゃって」
「やぁぁ!そんなとこ……嫌ぁぁあああ!!」
 二本重ねた指。それが愛蜜の滲むリシェルの秘肉をなぞる。ゾクッとした刺激がはしる。
 指先は重なったままリシェルの膣肉をプニプニ突きながら奥まで入ろうとする。第二間接。その辺りまで入り込んでくちゅくちゅと軽くかき回す。
「やぁ……ひやぁぁ……らめへぇ……ゆるひてぇ……」
 耐え難い恥辱を受けてリシェルは涙を滲ます。
「ふふふ♪安心して。もっと気楽に楽しみましょうよ。なんなら彼氏からわたしに乗り換えてくれてもOKよ♪」
(誰が乗り換えるかぁぁぁ!!)
 舌はもう呂律が回らないので心の中でリシェルは突っ込みをいれる。だが、そんなリシェルに構わずにミニスは愛撫を続ける。
 愛蜜の絡んだ指先は膣内の敏感な箇所を適確に責めてくる。胸元に差し込まれた手は乳頭を嬲りながらほのかな膨らみをこね回す。
 首筋にぴちゃりと濡れたものが触れる。舌だ。リシェルの首筋をミニスの舌が這う。
(やだっ……あたし……このまま……)
 初対面の相手にいいように嬲られ堕ちてしまうのだろうか。そんなことは願い下げだが現状、こうして抗えずにいる。
(助けてぇぇ……誰かっ!ライッ!ポムニットっ!!)
 呼びかける。けれど遠くにいるライ達がリシェルを助けにこれる筈もなく。
 哀れ。リシェルはミニスの手によってこのままあっちの道へと。そうなるかと思われた矢先である。



 ゴロゴロゴロゴロ ドッカーン
「ぎゃぴっ」
「……ふぇ?」
 突如、文字通りの意味で雷がミニスに落ち、感電ショックでミニスが倒れる。
 なにが起こったのかワケもわからずリシェルが呆然としていると、そこには一人の女性が立っていた。
 ミニスとよく似た容姿のそれでいて穏やかな物腰の女性が。にこやかな微笑みをたたえていた。
「あらあら。ミニスちゃん。ダメでしょう。よそ様の娘さんにおいたをしたら」
「お、お母様っ!!!」
 女性を見つめるミニスの顔が恐怖に引きつる。そう彼女こそミニスにとってこの世で唯一逆らうことのできない絶対的な存在。
 金の派閥議長にしてミニスの母、ファミィ=マーンその人である。
「ごめんなさいね。リシェルちゃん。うちのミニスちゃんがご迷惑をおかけして」
 丁寧にお辞儀をしてファミィは仰向けのままのリシェルに謝罪する。ミニスはこの隙にそろそろと逃げようとするが。
「ぎゃぴぃぃぃ!」
 ファミィの使役する雷精は容赦なく電撃でミニスを打ち据える。
「ミニスちゃんには私の方からきちんとお仕置きをしておきますからどうか許してくださいね」
 娘の方には目もくれずファミィはリシェルに謝罪を続ける。狼藉を働いた娘の方はというと。
「嫌ぁぁぁあああ!!ビリビリは嫌ぁぁぁあああ!!ぴぎぃぃぃいいいいい!!」
 ゲレゲレサンダーの雨あられにうたれていた。小さな身体が何度も弾んで床に打ち付けられる。
 身体中が焦げ付いてプスプスいってる。感電のショックでなんか骨が透けて見えてきそうだった。
 そんなミニスの惨状にリシェルはただ呆然とする。
「こんな娘ですけれどよかったら仲良くしてあげてくださいね。リシェルちゃん」
 穏やかな表情を一つも崩さずにファミィはそう言う。この人にだけは逆らってはいけない。生物としての本能がリシェルに働く。
「あ……ああっ!…は、はいぃっ!……あ、あたしでよかったら……」
 そう頷き返すしかなかった。なんか膝が笑っていた。優しそうな笑顔で実娘を容赦なく折檻するこの母に心底戦慄を覚えていた。
 この世には決して怒らせてはいけないないものが存在する。リシェルはそれを学んだ。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ゴロゴロは嫌ぁぁぁぁぁあああ!!」
 電撃の絨毯爆撃で黒焦げのミニスの悲鳴がとどろく。ファミィはあらあらうふふとにこやかな笑顔で更に追い討ちをかける。
「ぐらぐらぐらぐら……どっかーん♪」
「どっかーん嫌ぁぁぁあ!!ひぎゃぴぃぃいいい!!」
 放たれる大範囲のデビルスクエイクは建物の一区画ごとミニスを地割れに飲み込む。
 それをファミィはただただにこやかに見つめていた。
(なんなのよ……この親子……大丈夫なの?……うちの派閥……)
 金の派閥。その頂点に君臨する母娘のあり様にリシェルはただ唖然とする。
 ファナン・金の派閥本部。そこでのリシェルの研修初日はこうして過ぎてゆくのだった。


つづく

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